使用許諾条件の整備

弁護士法人みずきが選ばれる4つの理由

ソフトウェアライセンス契約のうち、当事者双方の交渉により使用許諾条件が個別に定められることもありますが、より汎用性の高いソフトウェアとなると、ライセンサがあらかじめ定めた一律の使用許諾条件をユーザが承諾することによって、当事者間で使用許諾条件が定まります。
そのため、ライセンサは、クリック・オン契約等、契約の成立を可能にする環境の整備とともに、各ユーザにとって一律の使用許諾条件を整備する必要があります。
当事務所では、以下の各点に留意して、使用許諾条件の整備を行います。

 

ユーザの使用権の範囲と内容を規定します。

 

①使用権の範囲

PCの端末数に応じて使用権の範囲を定めます。特定のネットワークを経由して認証させるなど、技術的な制限の他、使用許諾条件上、ライセンス数/端末数を明記することで、法的に有効な抑制を規定します。

 

②譲渡・再許諾の禁止

使用権の譲渡・再許諾を制限し、ユーザの使用権の範囲を明確にします。

 

③使用目的の制限

使用目的の制限は、使用権の譲渡、再許諾の禁止と同様に、使用権の範囲を画するために効果的です。特に汎用性の高いソフトウェアであれば、ユーザが固有の顧客との間で、ソフトウェアを用い、あたかもライセンサと同業を営むことも可能となってしまいます。そのような事態を招かないよう、「ユーザの日常業務のうち、○○業務に限り」、「○○のサポート目的のため」などと、使用目的を制限する必要があります。

 

④「利用」の禁止

あくまでも「使用」権の許諾であること、「利用」は禁止されることを規定します。著作権法上、「利用」行為の禁止は規定されていますが(公衆送信23条)、改めて「利用」行為をしてはならないと明文化することで、抑止効果が期待できます。

 

対価

ライセンス料が不明確であると、当然トラブルになります。税込み価格かどうか、振込手数料の負担など細部まで記載します。対価の返還義務の免除も確認的に規定します。
対価の支払い方法に関して言えば、年一括前払い、毎月前払いとの条件がライセンサにとって適していますので、ソフトウェアの性質から、前払いとの条件が適しているか、また、すでに後払いとしている場合は前払いへ一律の条件変更をする時期を検討すべきでしょう。

 

保守サービスに関する定め

ライセンサはあくまでもソフトウェアの使用を許諾する立場にあり、保守サービスを行わない場合も多くあります。ユーザは、別途システム保守委託契約の締結が必要となります。
保守サービスに関し問い合わせ先もわからない状態が継続することは好ましくないため、不具合の場合の問い合わせ、修復に関する相談窓口が、ライセンサとは異なることを明記しましょう。

 

禁止行為

①ライセンサの事前の同意

ユーザの各行為を、「ライセンサの事前の同意なくしてできない。」と規定します。
著作権法上、一定の条件の下、デバックのために行う複製、翻訳等の「利用」行為を認めています。このような著作権法上の定めが、当事者間の合意に左右されるか、法律の解釈上争いがありますが、アフターサービス(保守)を、別途有償のシステム保守委託契約を締結する場合は、複製、翻訳を、可能な限り制限するべきでしょう。

②リバースエンジニアリングの禁止

製品を解体、分解して、仕組みや構成を分析する方法(リバースエンジニアリング)は、さまざまな製品について従来から採られますが、ソフトウェアの場合、機械語で記述されたプログラムを、ソースコードに戻す、逆コンパイルが行われます。
リバースエンジニアリングの過程でなされる複製は、著作権法上許される場合があるので、使用許諾条件にて明確に禁止する必要があります。

③他のソフトウェアへの組込みの禁止

他のソフトウェアへの組込みを許容してしまうと、ソフトウェアに予期せぬ不具合が生じます。このような場合に、別途システム保守委託契約上、免責規定を設けるのはもちろん、使用許諾条件上も明確に禁止する規定を設けることが望ましいです。

④知的財産権表示の削除、改変の禁止

著作権法上許容された「利用」行為(バックアップのための複製、ハードディスクへのインストール)にあたっても、知的財産権表示の削除や改変を禁止して、他の禁止される「利用」行為(多数の人にソフトウェアを提供すること、二次創作物の利用など)への発展を未然に防ぐ必要があります。

⑤その他

ライセンサにとって不測のユーザ行為を想定し、「原則として禁止行為に該当し、例外的に許諾する範囲でのみ禁止行為に該当しない。」という態度を明らかにする必要があります。

 

ユーザのソフトウェアの使用状況は、ライセンサにとって判然としない場合がほとんどであり、ユーザの自己申告に頼らざるを得ません。ライセンサがユーザの禁止行為、不正使用を明らかにすることは容易ではないため、ライセンサによる監査の規定を設けます。 ①監査権
ライセンサからユーザに対する監査権の存在を明確にします。

②ユーザの協力義務
ユーザは、ライセンサの監査に協力する義務があることを明示します。

③監査費用
監査の実施があるだけで、ユーザに不信感が生まれることもあります。そのため、監査費用は、ライセンサの負担とし、さらに、他のユーザとの公平性を保つために定期的に一律で実施する監査制度を設けることが望ましいです。
監査によって使用許諾条件違反が発覚した場合には、ユーザの負担とします。

④損害賠償額の予定
仮に、監査によって使用許諾条件違反が発覚した場合の損害賠償額を規定します。実損害を個別に算出することが困難である場合が多いため、ライセンス料の2倍~3倍を目安に定めることになります。
あまりに実損害からかけ離れている場合、本規定自体が無効となるおそれがありますので、注意が必要です。
また、監査によって使用許諾条件違反が明らかになった場合に限定することで、ユーザが使用許諾条件違反を自覚している場合、ユーザからの自己申告を促す効果が期待できます。

 

知的財産権侵害

①ライセンサへの知的財産権の帰属

多くの場合、ソフトウェア・システム開発委託契約の定めにより、ソフトウェアの知的財産権は、ライセンサに帰属します。もっとも、ソフトウェア・システム開発委託契約において、明確な定めを置かない場合、知的財産権はエンジニアに帰属すると判断される場合があります。その場合、エンジニアからユーザに対し、知的財産権侵害を主張されるケースが想定されます。
このようなケースを想定して、ソフトウェアライセンス契約において、ライセンサは、ユーザに対し、ソフトウェアの知的財産権(特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権)はライセンサに帰属し、第三者(エンジニア等)の知的財産権を侵害しないことを保証します。

②ライセンサへの通知義務

第三者(エンジニア等)から、ユーザに対し、知的財産権侵害の主張がなされた場合、ユーザは、ライセンサにその旨通知する義務を負うことを規定します。
ライセンサは、ユーザからの通知と端緒として、第三者との交渉、訴訟に対応することになります。

③ライセンサの損害賠償責任

第三者(エンジニア等)が、知的財産権侵害を主張する場合、第三者(エンジニア等)にとって、ライセンサとユーザ間の使用許諾条件が明らかにならず、交渉、訴訟をユーザが対応するケースも存在します。
ユーザが、第三者(エンジニア等)に対し、損害賠償債務を負担する結果に至った場合、ユーザが支払うべきとされた損害賠償債務は、ライセンサが負担します。もっとも、ユーザの禁止行為に該当する使用が認められる場合等、ユーザの責めに帰すべき行為によって生じた損害賠償債務は、ライセンサは責任を負わない旨の規定(免責規定)を設けるべきです。

④ライセンサからユーザへの代替措置止

ライセンサの責めに帰すべき事由によって、ユーザのソフトウェアの使用が不可能となった場合、知的財産権侵害のない他のソフトウェアの提供や、侵害部分の変更等の措置を講じることを定めます。

 

ソフトウェアの動作環境に応じて、ライセンサの動作保証の範囲を明確にします。例えば、「○○端末の仕様の限りで動作することを保証する。」、「他の端末・ハードウェアその他の動作環境での動作を保証するものではない。」(免責規定)と条件を定め、動作保証の範囲を明確化します。
さらに、バグなどを含め、ソフトウェアに存在する一切の不具合につき非保証とする場合、「現状有姿で提供し、ソフトウェアに関する瑕疵について、何ら責任を負わない。」と規定します。このような規定を設けたとしても、ライセンサが不具合の存在を知りながらこれを隠して契約を締結した場合、ライセンサは瑕疵担保責任を免れないため(民法572条)、注意が必要です。

 

契約が終了したときには、ユーザはソフトウェアの使用を中止しなければならないことを規定します。終了原因によって、ユーザの負担する義務が異なるため、可能な限り、終了原因ごとにユーザの負担する義務を規定するべきです。

 

①期間満了による終了

ユーザは、使用を中止する義務を負うものの、ソフトウェアを消去する義務までは当然には課せられません。そのため、使用中止義務のみならす、消去義務を規定する必要があります。

 

②解除による終了

ソフトウェアライセンス契約が解除により終了した場合、ライセンサ及びユーザは、契約のない状態に戻さなければならないため(原状回復・民法545条1項)、ユーザは、法律上当然に使用中止義務及び消去義務を負担することになります。

 

ライセンサからユーザに対しては、オブジェクトコードのみ提供され、ソースコードが提供されることはまずありません。ライセンサの倒産時等、不測の事態に備えて、ライセンサとユーザは、ソースコードを第三者(エスクロウ・エージェント)に預託し、一定の開示条件の下、ソースコードをユーザに開示する契約(エスクロウ契約)を結びます。
なお、エスクロウ・エージェントは、一般財団法人ソフトウェア情報センター(SOFTIC)とするのが一般的です。
ユーザがソースコードの開示を受けたとしても、適正なライセンス料の支払いがなされなければ、破産管財人により解除がなされる可能性があります(破産法53条)。しかし、これでは、ユーザはエスクロウ契約を締結した目的を達成できませんので、前項の契約終了時の規定に基づくユーザのソフトウェアの使用中止義務、消去義務は生じないと規定します。

当事務所では、ソフトウェアの性質、汎用性等にしたがって、可能な限り、一律に適用できる使用許諾条件の整備に取り組んでいますので、お気軽にご相談ください。