IT法務 ~契約~

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契約は、双方当事者を拘束します。

そのため、そもそも契約が有効か、何が契約の内容になっているかは極めて重要です。

当然、これはIT法務においても同様です。

さらに、IT法務の場合、通常の売買契約などと異なる複雑な事象が多々あります。

これらに対応した契約書を作成できているか、これから作成していくにはどうしたらいいのかについて、ポイントをご紹介します。

1.事業者との契約

IT契約書の表題にはいろいろなパターンがあります。

しかし、契約の性質は表題に拘束されません。

あくまで契約書の実質的な内容に基づきます。

IT契約は、目的条項から始まり、定義、サービス内容、契約期間、価格、支払方法、解約、期限の利益喪失、契約の終了、損害賠償、納品、瑕疵担保責任、著作権、秘密保持、個人情報、免責、禁止行為、準拠法、裁判管轄などの条項から成り立つのが一般的です。

2.着目すべき条項:受注者側

価格が不明確であると、当然トラブルになり、報酬の受領が遅れる原因となります。

税込み価格かどうか、振込手数料の負担など細部まで記載しておくと良いでしょう。

(1)納期遅延の場合の延長手段

受注者としては、納期を遵守できない場合を考えると納期は積極的には明記したくないところですが、そうはいきません。

その代わり、納期遅延の場合の延長手段について明確にしておくことができれば、遅延のリスクを軽減できます。

もっとも、納期延長が認められるのは、通常、天災やテロ、ストライキ、その他不可抗力を原因とする場合、想定外のトラブル、追加注文の対応などを原因とする場合が一般的です。

単に受注者側の責任で遅れた場合に備えた延長手続を設けることは、発注者側に受け入れらないでしょう。

(2)著作権の帰属

受注者としては、受注者側に帰属するようにしたいところです。

著作権は、原則として受注者に帰属するので、移転をどこまでとするかの観点から検討してください。

特に、汎用性のあるプログラムなどの著作権は、以後の業務に支障が出ないよう注意する必要があります。受注者帰属の原則を明記することもトラブル予防となります。(「開発されたプログラムの権利の行方」も参照)

(3)再委託の定め

受注者としては、より専門的作業を行える業者等に再委託することで業務を効率化し、拡大することが可能となります。

そこで、受注者としては、受注者の裁量で再委託を可能とすることができれば有利です。

例)乙は、本件業の一部を第三者に再委託することができる。

(4)瑕疵担保責任

瑕疵担保責任を負うのは受注者側です。

この条項を避けて通ることは困難でしょうが、少なくともその内容が過剰ではないか確認すべきです。

例えば、検収完了後から3年間修正責任を負うなどの定めを提示されている場合、変更を申し入れるべきです。

また、有利にするためには、3ヶ月に限るなどとして、短期で定めるべきです。

(5)期限の利益喪失

これがないと、受注者は代金を回収し損ねてしまうかもしれません。

期限の利益喪失事由が発生すれば、支払期限を待たずに請求、解除することが出来ます。

受注者としては、その事由を幅広く指定できれば有利です。

例)甲について次の各号の事由が一つでも生じた場合には、乙からの通知催告等がなくても、甲は乙に対するいっさいの債務について当然期限の利益を失い、直ちに債務を弁済するものとする。Or 直ちに解除することができる。

(6)損害賠償

契約違反時のペナルティについての定めです。

受注者の損害賠償の限度を定めておく方法もあります。

例)乙の賠償額は、甲が乙に支払った報酬額を上限とする。

(7)検収条件

納品後、委託者において行われる検収の期間制限を設け、早期に点検を完了させることで、受託者は不安定な地位に長期間置かれることをさけることができます。

例)甲は、納品された本件ソフトウェアについて、10営業日以内に検査し、仕様書と合致するか否かを点検しなければならない。

(8)解除と報酬

受託者としては、途中で解除となった場合でも、進捗に応じた費用の支払を求めるべきです。

委託者としては、途中で契約解除に至った場合、費用負担を極力免れたいため、特に解除時の報酬の取り扱いについて触れられていないことがあります。

そこで、進捗に応じた開発費用の請求を可能とする条項を入れておくべきでしょう。

3.着目すべき条項:委託者側

(1)納期

委託者としては、納期が不明確であると非常に不利です。

必要な時期に成果物を利用できなくなった際に、その責任の所在でトラブルになります。

したがって、受託者から提示された契約書に記載が無い場合、納期はあいまいにせず、具体的な期限を明確に設けるようにしましょう。

(2)対価

価格が不明確であるとトラブルになり困ってしまうのは委託者も同様です。

税込価格かどうか、振込手数料の負担など細部まで記載しておきましょう。

(3)仕様書

委託者としては、成果物が自社の思い描いていたものと異なることを避けなければなりません。

システム開発は複雑で、抽象的に受託者に伝えるだけでは後に、報酬支払などの際のトラブルのもとになります。

そこで、契約書に別紙として仕様書を添付して、両者間で共通の認識を明確に持てるようにすることをお勧めします。

もっとも、開発途中で仕様書の変更が生じることも多々あります。その場合は、しっかりその旨を新たに書面で残しておくことを怠らないようにしましょう。

(4)瑕疵担保責任

瑕疵担保責任を負うのは受注者側です。つまり、納入物にバグなどの欠陥が見つかった場合、受注者側に修正責任を問うことが出来ます。

但し、この責任は半永久的なものではなく、1年などの期間制限をつけるのが通常です。

委託者としては、長い方が有利ですから、この期間が3か月など短期に提示された場合は、延長を提示するべきでしょう。

(5)著作権の帰属

著作権は、原則として受注者に帰属します。

しかし、著作権の移転を得られないとすると、委託者は成果物をもとにしたシステムを作ることが制限されるなど、将来的な不利益が生じ得ます。

費用を支払ったのにもかかわらず、このような制限を受けることは委託者としては避けたいところです。

そこで、成果物についての著作権は、委託者に帰属する条項を設ける必要があります。(「開発されたプログラムの権利の行方」も参照)

(6)損害賠償

受注者の責任で委託者に損害が生じた場合、委託者は受注者に損害賠償請求ができます。

しかし、多額の賠償義務を負うことを回避するため、受注者から損害賠償総額の上限を定める条項が提示されることがあります。

この場合、委託者にそれ以上の損害が生じていても請求することが出来なくなります。

上限はないほうがいいですし、当事者間の関係上、上限を設けざるを得ないとしても、その額はできるだけ多いほうがいいに越したことはありません。

(7)再委託の定め

委託者としては、情報流出のリスク削減のため、再委託を無制限に認めておくわけにはいきません。

そこで、受託者による再委託時には、委託者の事前承認を必要とする旨定めるなどして、再委託を制限すべきです。

また、再委託先で問題が起きたときに、受託者にも同様の責任を負わせるなどの対策も必要となります。

例)

  1. 乙は、書面にて甲の事前承諾をえなければ、本件業務の一部を第三者に再委託することができない。
  2. 乙は、再委託先の履行について甲セの席に帰すべき事由がある場合を除き、自ら業務を遂行した場合と同様の責任を負うものとする。

(8)保守業務

納品後の保守業務についても、保守業務仕様書を作成し添付することをお勧めします。

保守業務の対価を明確化しておくことはいうまでもありません。

4.着目すべき条項 ~その他~

合意管轄裁判所

仮に裁判になった際、どこの裁判所で裁判をするかについての合意を契約書に入れます。

自社の本店所在地とするのが一般的に有利です。