車両の評価損の算定方法や、評価損を認めた4つの裁判例を解説

1.車両の評価損とは

交通事故により車両が損傷を受けた場合、その損傷を修理することで事故車両が事故前の状態に戻るのであれば、修理費が賠償されることにより損害が填補されます。

通常は、修理代金が適切なものであれば、その見積もり内容で修理をし、修理工場に車を預けている間代車を借り、修理費用が保険会社から工場に支払われて終了です。

ところが、修理をしても、機能や外観に欠陥が残存したり、又は、事故歴があることにより、隠れた欠陥があるかもしれない、縁起が悪いなどの理由で中古車市場において価格が低下することがあります。

このような価格の低下により生じる損害を、評価損(または格落損)といいます。

すなわち、評価損とは、損害車両に対して十分な修理がなされた場合であっても、修理後の車両価格が、事故前の価格を下回ることをいいます。

評価損には、①技術上の評価損、②取引上の評価損の2種類があります。

評価損の種類

  1. 技術上の評価損
  2. 取引上の評価損

①技術上の評価損とは、機能や外観に欠陥が残存している場合に認められるものです。

ただし、外観に関しては、乗客の運送に用いられるタクシーやバス等の営業車や自家用車については認められることがありますが、貨物運送用のトラックなどは多少美観が損なわれたとしても価値が低下するとは限らないため評価損は認められにくいです。

②取引上の評価損とは、欠陥が残存しなくとも、商慣習上、事故歴・修理歴のある車両は、隠れた欠陥があるかもしれない、縁起が悪いと考えられることによる損害ですが、認められるかは考え方が分かれます。

修理によって原状回復され欠陥が残存していないのであるから客観的には価値の低下がないなどとして、評価損を否定する見解があります。

これに対して、現実に中古車市場では事故歴・修理歴のある車両は価格が低下する傾向があるなどの理由から、評価損を肯定する見解があります。

中古車市場において事故歴・修理歴のある車両の価格が低下することは公知の事実ということができるし、また、将来に生じる不利益(逸失利益など)も交通事故の時に発生していると擬制されることにより賠償の対象になっています。

したがって、実務上は、一般論としては取引上の評価損を肯定したうえで、具体的な事情に応じて、その有無・金額を判断しています。

2.車両の評価損の算定方法

評価損が認められるような場合は、一般的に損傷の程度が大きく、その場合、修理費は高額になり、車両の価値の低下も大きくなるといえるので、修理費の一定割合とする方法が採られることが多いです。

修理費の1割から3割と認定されることが多いです。

具体的には、事故車両の車種、走行距離、初度登録からの期間、損傷の部位・程度、修理の程度、事故当時の同型車の時価などの諸事情を総合的に考慮して判断されます。

財団法人日本自動車査定協会の事故減価額証明書における査定額も考慮される場合もありますが、金額の根拠及び妥当性が明らかでないとされることのほうが多いようです。

3.評価損の請求権者

評価損が認められるのは、高級車である場合が多いです。

ただ、高級車の購入方法として、ローンを組んで分割払いとすることが多いと思いますが、その際、完済するまで所有権を売主に留めるという内容で契約することがあります(所有権留保といいます)。

そうすると、ローンを完済する前は、所有権が販売会社に帰属していることになります。

そして、裁判例において、「評価損は、車両の交換価値の低下であり、車両の所有者に生じるもの」とされており、完済前の買主の請求権が否定されています(東京地裁平成15年3月12日判決参照)。

ですので、所有権が販売会社に留保されている場合は、車両の買主が評価損の請求をすることができないと判断される可能性があります。

任意交渉の場ではともかく、訴訟となる場合には、あらかじめ販売会社に協力を仰ぎ、評価損の請求権の帰属、弁済金の受領について合意をするなどの手当てをすることが必要になります。

4.評価損を認めた4つの裁判例

最後に評価損に関して具体的な事例をいくつか挙げます。

(1) 修理費の1割の評価損を認めた裁判例

<名古屋地裁平成22年7月9日判決>
・車種:トヨタアルファード(購入価格320万円)
・初度登録から約3年半
・損傷部位:基本的構造部分に及んでいる
⇒修理費用が192万7936円とされ、修理費の約1割の19万2794円を評価損として認めています。

(2)修理費の2割の評価損を認めた裁判例

<大阪地裁平成26年8月26日判決>
・車種:アウディ
・初度登録から約2年
・累積走行距離:3万9385km
⇒修理後に外観・機能上の不都合が残存しないとしても、事故歴に余って一定の取引価格下落が生ずるとして、修理費66万円の2割の13万2000円を評価損として認めています。

<神戸地裁平成26年12月19日判決>
・車種:ニッサンGTR
・初度登録から約3年
・損傷部位:骨格部であるリアフロア
⇒修理費197万円0598円の約2割である40万円の評価損を認めています。

(3)修理費の3割の評価損を認めた裁判例

<京都地裁平成18年9月22日判決>
・車種:メルセデスベンツCL600
・初度登録から約4年半
・累積走行距離:4万7741km
⇒車体骨格部分の損傷が存在すると認めることは困難だが、正規本体購入価格が1774万5000円の高級輸入車であり、中古車市場でも一定の高価値を有していることを考慮して、修理費の3割相当(51万7230円)を評価損として認めました。

<大阪地裁平成25年3月22日判決>
・車種:ロールスロイス・ファントム(購入価格3530万円)
・初度登録から約2年10月
・累積走行距離:3万1100km
⇒修理箇所は骨格部に及んでいないことなどを踏まえると、修理費348万7970円の約3割の105万円を評価損として認めました。

(4)修理費の5割の評価損を認めた裁判例

<横浜地裁平成24年10月29日判決>
・車種:トヨタヴェルファイア(購入価格515万1590円)
・納車から1週間
⇒新車として購入後間もない比較的高額の車両の評価損は、通常よりも大きいと考えられるとして、修理費57万4033円の5割である28万7016円を評価損として認めました。

まとめ

これらの裁判例からわかるように、外国車や高級国産車に対して評価損が認められやすいと言えます。

また、初度登録から5年以内であることや、骨格部に損傷が生じていることなどが評価損を認めやすい事情となっているようです。

とはいえ、評価損も事例によって様々です。数は少ないですが、国産小型車で評価損を認めた例もあるようです。

評価損についてお悩みであれば、是非当事務所にご相談ください。

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