交通事故で失った身体機能を補う装具費の算定方法を裁判例を基に解説

交通事故で、身体の機能の一部を失ってしまった場合、それが後遺障害として認定されれば、その等級に応じて後遺障害慰謝料や逸失利益を請求することができます。

もっとも、できる限り支障のない日常生活を送るために、失った身体機能を補うための装具や器具を利用する必要がある場合も考えられます。

これらの購入費用についても、別途請求することができます。

今回は、このような装具や器具の購入費について、どのような範囲で認められるのかを説明し、具体的な裁判例もご紹介します。

1.装具・器具の購入の必要性とは

装具・器具の購入費を含め、交通事故が原因で支出した実費全般は、必要かつ相当な範囲のものと認められる場合に請求することができます。

裁判実務では、装具・器具の購入の必要性・相当性は、被害者の症状の内容や程度に応じて判断されることになります。

被害者としては、身体機能の喪失による日常生活等への支障の程度や、装具・器具の利用による失った身体機能をどの程度などを、被害者の生活状況に関する報告書や陳述書、医師の意見書などによって、立証していくことになります。

また、具体的な購入金額や、後述の装具・器具の耐用年数についても、装具・器具の領収書や見積書、カタログ等によって立証することが必要になります。

2.将来分の購入費の算定方法について

後遺障害は、基本的に将来にわたって回復する可能性がないものであるため、装具・器具は生涯にわたって必要になります。

もっとも、装具・器具は日常的に使用していれば当然消耗するので、定期的に買い替える必要があります。

そのため、将来の買い替え分も賠償してもらわなければ、適切な賠償を受けたことにはなりません。

示談や裁判においては、平均余命までの将来分の購入費も認められるのが通常です。

ただ、将来の購入費については、原則として、将来買い替える時期=装具・器具の耐用年数経過時期までに発生する利息を差し引いて(中間利息控除)計算することになります。

たとえば、5年ごとに交換が必要な、価格が50万円の義足が必要となった、平均余命が24年の被害者の場合、将来の義足の購入費は、以下のように計算することになります。

なお、括弧内の数字は、中間利息控除のために用いられるライプニッツ係数です(5年ごとの数値)。

将来分の購入費の算定方法

50万円×(0.7835(5年目)+0.6139(10年目)+0.4810(15年目)+0.3769(20年目))=112万7650円

3.実際にあった裁判例

以下では、実際の裁判例をいくつかご紹介します。

(1) 義足(福岡高裁平成17年8月9日判決)

【事案の概要】

左下腿部切断(後遺障害等級5級5号)、左大腿醜状痕(12級相当)等(併合4級)の34歳女性会社員が、なるべく自分の足と実感できる程度の外観を伴った義足の購入費用が損害と認められるべきとして、義足の購入費用は、美観目的費用71万円余りを含む145万余りとすべきであるとして、将来の義足購入費を請求した事案です。

【判決内容】

判決は、障害がある人にとっては、義足がその外観を含めて実際上果たす機能を前提にすると、美観目的の費用といえども、これを心の問題の解決するための費用として慰謝料の対象とするより、直接的に、財産的損害に含めるべきとして、3年に1度、16回分の義足の交換費用1919万円を認め、また、義足の交換費用が今後増大する蓋然性があることに鑑みて中間利息控除しませんでした。

(2)特注の婦人靴(東京地裁平成15年1月22日判決)

【事案の概要】

左足の剥離骨折等(関節機能障害については非該当)の63歳の女性が、骨折により左足の甲が高くなり、既製品の婦人靴が履けなくなったため、特注の靴を作製するための木型と、既製品と2万円の差額のある特注の婦人靴が必要になったとして、平均余命期間分の木型及び靴の作製費用を請求した事案です。

【判決内容】

判決は、被害者が請求する靴代等は、歩行を補助するために必要不可欠なものではないとしながらも、骨折等によって左足の幅が広がり、甲が高くなって、右足と大きさも違ってしまったため、既製品の靴と特注の靴との差額は、事故との間に相当因果関係がある損害とみるべきとして、3年に一足の割合で、7回分の特注の靴とその木型の作製費用合計86万円余りを認めました。

(3) 特殊な電動車椅子(東京地裁平成13年2月22日判決)

【事案の概要】

交通事故によって四肢体幹麻痺、知覚脱失、歩行不能(1級1号)となり、事故の6年後に死亡した被害者の親族が、医師の勧めによって購入した特殊電動システム(特殊なリクライニングシステム等)を搭載した280万円の電動車椅子の費用について請求した事案です。

【判決内容】

判決は、被害者が、生前、強度のある電動車椅子を使用していたことは必要かつ相当であり、そのために車椅子自体の価格がある程度高額になることはやむを得ないものの、車椅子に搭載されている特殊電動システムは、被害者の移動に役立つものではないことから、附属機器を含めた電動車椅子の価格は全体として高額すぎるとして、電動車椅子の購入費用のうち、事故と相当因果関係のある損害はその半分の140万円であるとしました。

まとめ

以上の3つの裁判例のうち、①及び②は、美観目的等のためにかかる費用も、事故との間に相当因果関係のある損害として認めています。

このように、裁判実務では、被害者の失われた身体機能の補完に直接関連しない費用であっても、被害者ができる限り事故以前と同様の生活状況に近づけられるようにするための費用については、これを認めることで被害者に配慮していることが窺えます。

他方で、③のように、たとえ器具の機能が被害者の生活に利便をもたらし、医師の勧めのあるものであっても、それが生活をしていくうえで必須ではなく、さらにその金額も不相当に高額となるものについては、相当因果関係のある費用とは認めておらず、あくまでも、必要性・相当性が認められると判断できるものに限定しています。

被害者にとって、事故で失った身体機能を補う装具・器具は、できる限り事故に遭う以前と同様に生活していくために必要なものであり、その購入費の賠償は、適切に行われるべきです。

そのため、保険会社との交渉で行き詰ったり、不安が生じるようなことがある場合には、まずは当事務所までご相談いただければと思います。

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