交通事故における鑑定を行う意義とは?工学鑑定と医療官邸について解説!

「鑑定」というと、刑事事件の血液鑑定や、親子関係の有無を調べるためのDNA鑑定などが思い浮かぶかもしれませんが、交通事故の事案においても、鑑定が利用される場合があります。

今回は、鑑定を行う意義や、交通事故事案で実際によく利用される工学鑑定・医療鑑定についてご説明します。

1.鑑定の意義

裁判では、当事者間において、ある事柄について争いがある場合に、裁判官は事実の認定や評価を行わなければなりませんが、時として、適切な判断を行うに当たって、高度な専門的知識が必要とされる場合もあります。

しかし、いくら頭の良い裁判官であっても、各分野の専門的知識をすべて身に付けているわけもないので、鑑定手続によって争点を判断するのに必要な専門的知識や経験則、意見などを、専門家から得ることによって、判断を下す参考とするのです。

裁判官が専門的知識に関して参考にし得るものとして、法律で定められた手続に則って行われる鑑定のほかに、当事者が証拠として提出する、専門分野を扱う機関が実施した鑑定の結果(私的鑑定)をまとめた意見書もあります。

裁判官は、裁判において提出された証拠(証人尋問の結果なども含む)を取り調べた結果を総合的に検討して、争点となった事柄についての判断を下すことになるので、上記のような鑑定の結果は、あくまでも証拠の1つであり、裁判を決定付けるものではありませんが、裁判官にとって重要な判断資料となることは間違いありません。

ただし、当事者が提出する私的鑑定の意見書は、提出した当事者寄りの意見が書かれていることが多いため、裁判官も、その点も加味したうえで慎重に検討するものと思われます。

なお、私的鑑定の結果をまとめた意見書などは、裁判に限らず、紛争の相手方との示談交渉や、各種審査請求手続への利用も考えられます。

2.工学鑑定

交通事故における工学鑑定は、事故に関する資料から、事故の状況を物理法則に従って割り出すものです。

交通事故では、当事者の事故態様の認識に食い違いがあり、過失割合について争いが生じる場合が非常に多いです。

ドライブレコーダーや防犯カメラなどの映像があれば、どのような事故だったかを容易に把握することができますが、そういった客観的な証拠がない場合は、事故の全容を把握することは困難です。

そこで、事故現場に残ったブレーキ痕や、事故車両の損傷の形状や程度、損傷箇所などの客観的な証拠をもとに工学鑑定を行い、衝突の仕方や衝突速度を算出して、その結果を記した意見書を、過失割合を確定させるための証拠とする方法があります。

また、交通事故の典型的な傷害であるむち打ち症は、骨折などと違い、目に見える異常に乏しいため、被害者と加害者の間で、傷害の発生の有無や程度、その治療に必要な期間が頻繁に争われます。

そのような場合、治療期間中の通院頻度や治療内容、自覚症状の経過等が考慮されますが、被害者が事故によって受けた衝撃の程度も1つの重要な考慮要素となります。

そこで、工学鑑定によって、車両の損傷の程度などから衝突速度を算出することで、衝撃の大きさを割り出し、それを一般人が日常的に受ける衝撃の類型と比較するなどした意見書を、被害者が傷害を負うかどうか、どの程度の傷害を負うかの判断の参考とするための証拠とする方法が考えられます。

このような意見書は通常、むち打ち症の発生を否定する主張を行う加害者側から提出されることが多いのですが、被害者側からも、反論をするための証拠として、私的鑑定を行うということもあり得るでしょう。

3.医療鑑定

交通事故において医療鑑定が多く利用されるのは、後遺障害の等級認定の際です。

交通事故によって生じた後遺症につき、後遺障害等級が認定されるために、最も重要なものの1つに、レントゲンやMRIなどの検査画像があります。

外部から見て判別できる後遺症(醜状障害、欠損障害)や、14級9号の神経症状、そもそも画像では判別できない後遺症を除き、検査画像に外傷性の異常所見が認められるか否かによって、等級認定がされるか否かが決まると言っても過言ではありません。

たとえば、受傷後の関節機能障害は、実際に自覚症状として関節の可動域に制限が生じていたとしても、レントゲン画像での骨折後の癒合不全や、MRI画像での腱板損傷などの異常所見が認められなければ、関節機能障害として後遺障害が認定されることはまずありません(14級9号の神経症状として認められる可能性はありますが)。

このように、後遺障害等級の認定においては、検査画像上、異常所見が認められるか否かが非常に重要なのですが、通院治療をしていたお医者さんが作成した後遺障害診断書に、異常所見が認められる、という記載があったにもかかわらず、実際に後遺障害等級認定申請をしたら、異常所見は認められないという理由で後遺障害が認定されなかった、という例は山ほどあります。

また、異常所見は認められるとしても、それは、外傷性、すなわち事故による傷害で生じたものではなく、経年性(年齢性)のものだという理由で、認定されない例もよく見られます。

後遺障害等級認定申請において、検査画像上、外傷性の異常所見が認められると認定されるハードルは相当程度高く、仮に検査画像に異常所見らしきものが写っていても、後遺障害等級を認定する自賠責保険の調査事務所の顧問医に外傷性の異常所見であると認めてもらえなければ、後遺障害等級の認定には結びつかないのです。

そのような場合に、検査画像を画像鑑定の専門医に医療鑑定してもらい、その結果をまとめた意見書を後遺障害等級認定申請や異議申立ての一資料とすることが考えられます。

もちろん、治療期間ずっと患者の治療経過を見てきた主治医の先生の意見書なども有用であることは間違いないのですが、医療鑑定では、なぜそれが外傷性の異常所見と診断できるのか、その異常所見は自覚症状に合致する所見なのかなどを、第三者の医師が客観的な視点から鑑定するものであり、主治医の先生とは別の第三者的な立場の医師が作成したものとして、後遺障害等級認定をする調査事務所の顧問医を説得する有用な材料といえます。

また、裁判において後遺障害について争いが生じた場合にも、同様の視点からの証拠となり得ます。

まとめ

以上のように、交通事故の事案において、鑑定は、利用すれば事案の解明等の点でとても有用なものとなり得ますが、当事者が私的鑑定を行う場合、その費用は数万円から数十万円に上ることもあります。

もっとも、加入されている任意保険に弁護士費用特約が付いていれば、弁護士が利用する鑑定の費用を保険会社に負担してもらえる場合が多いです。

もちろん、弁護士に依頼する費用も負担してもらえます。

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