生活保護受給者が交通事故に遭った場合、賠償金はもらえるの?

生活保護の受給件数は年々増加しており、現在では受給世帯数は160万世帯を超えています。

このような状況では、交通事故被害に遭った方が生活保護受給者であった、ということも十分にあり得るでしょう。

また、事故時は稼働していたが、事故後に傷害の影響で仕事ができなくなり、生活保護を受給するようになる方もいるかもしれません。

このような場合、生活保護費と加害者からの賠償金の関係が問題となります。

1.費用返還義務とは

まず、前提として生活保護は、資力がない方に対する扶助です。

つまり、仕事ができないから給与がない、病院に行きたいけどお金がない、というような方々に、健康で文化的な最低限度の生活を営んでもらうために、保護が支給されているのです。

したがって、生活保護の受給を受けながら、交通事故を原因とした休業や治療の賠償金が加害者から支給されれば、被害者は二重の利得を得ていることになります。

したがって、このような場合には、生活保護受給者は受給を受けた金銭を一定の範囲で返還する義務が生じます。

このことは、生活保護法63条に以下のように規定されています。

生活保護法63条
被保護者が急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。

2.よくある勘違い

たまに、「加害者から損害賠償を受けても、全部行政に返さなければいけないんですか?」というご相談をいただきます。

これは、よくある勘違いで、行政側も誤まった説明をしていることもあります。

上記の条文にもあるように、返還する額は「受けた保護金品に相当する金額の範囲内において」です。

つまり、最大でも「受けた保護金品に相当する金額の範囲」までとなります。

例えば、交通事故が起きた後、月に10万円ずつ6ヶ月受給していたとします。

そして6ヵ月後に100万円を加害者から賠償を受けられたとします。

すると、「受けた保護金品に相当する金額」は10万円×6の60万円ですから、100万円との差額の40万円はそもそも返還の対象にはなりません。

また、具体的に返還する金額は「保護の実施機関の定める額」なので、60万円全額を返還しなければいけないかも、ケースバイケースです。

生活保護制度は、あくまで自立を援助するものですから、受給世帯を苦しめるような決定は考え難いと思われます。

実際には、返還する際の生活状況や、将来の自立助長の観点から、返還金額が決定されることとなります。

このあたりは、行政側に大幅な裁量が認められているため、個別事案によってさまざまです。

しかし、いずれにせよ「加害者から得た賠償金の全てを行政に返還しなければならない」という結論は、誤っています。

(1)保護が打ち切られることはあり得る

もっとも、交通事故賠償金として、ある程度のまとまったお金が入ってきた場合、これは有用の資力となります。

したがって、活用可能な資力があるということで、生活保護支給の要件を満たさなくなることはあり得ます。

このあたりも、返還をして残った賠償金がどの程度なのか、その他の債務等はあるのか等を総合的に判断されることになりますので、行政との交渉・調整によって、さまざまなケースが考えられます。

(2)懐が痛まないから請求しないということは正しいのか

生活保護受給者の中には、「どうせ賠償金をもらっても返還したり保護が打ち切られたりしていいことがない」「生活保護受給者は治療費がかからないから、別に請求しなくていい」などと仰る方々もいます。

しかし、私は、これは誤っていると思います。

大前提として、生活保護は国民の税金を原資としています。

したがって、加害者に賠償請求をしないというのは、本来加害者が負担すべき金員を、国民全体の負担に転嫁していることになります。

損害賠償の基本原則は「損害の公平な分担」です。

加害者は、損害を負担すべき義務があるのですから、これをきちんと負担させるべきではないでしょうか。

請求を放棄してしまう前に、一度弁護士にご相談ください。

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