交通事故による後遺症が残ったら?後遺障害等級の認定について解説

執筆者 野沢 大樹 弁護士

所属 栃木県弁護士会

私は、法律とは、人と人との間の紛争、個人に生じた問題を解決するために作られたツールの一つだと考えます。法律を使って紛争や問題を解決するお手伝いをさせていただければと思いますので、ぜひご相談ください。

「後遺症が残ったらどうやって証明するのだろう?」
「交通事故で後遺症が残ったから加害者に慰謝料を請求したい」

交通事故に遭ったことで、何らかの症状が残ってしまった方の中には、このような悩みなどをお持ちの方もいるでしょう。

交通事故によって後遺症が残ってしまった場合、まずは後遺障害等級の認定を受けましょう。

認定を受けることにより、等級に応じた賠償を受けることができます。

本記事では、後遺障害に対する賠償を受けるために必要な後遺障害等級認定の申請方法や慰謝料の相場について解説します。

1.交通事故で後遺症が残ったら慰謝料が支払われる?

交通事故で後遺症が残ったら慰謝料が支払われる?

交通事故で後遺症が残った場合、その症状の程度によって慰謝料を受け取れます。

入院や通院をした時に認められる入通院慰謝料もありますが、これとは別の慰謝料を請求できます。

慰謝料の支払を受けるためには、後遺症の等級認定を受けなければなりません。

等級認定を受けられる交通事故の後遺症には、以下のような症状が挙げられます。

  • 高次脳機能障害
  • 外貌醜状​​
  • 上肢機能障害
  • 下肢機能障害
  • 脊椎変形

後遺症が残ったとしても、症状が軽微であるなどの理由で等級認定を受けるには至らなかった場合には後遺障害についての賠償を受けることはできません。

(1)後遺障害等級ごとに慰謝料の基準額が異なる

交通事故で後遺症が残った場合、後遺障害等級の認定を受けられれば後遺障害慰謝料が請求できますが、後遺障害等級によって基準額が異なります

さらに、以下の三つの算定基準によっても基準額が変わります。

自賠責基準 加害者側自賠責保険会社から支払われる際に用いられる基準

被害者が受け取れる最低限の金額

任意保険基準 加害者側任意保険会社が示談交渉をする際に用いる基準

金額は保険会社によって異なり、非公開

弁護士基準(裁判所基準) 被害者側弁護士が示談交渉する際に用いる基準

過去の裁判例をもとにしたもの

以下は後遺障害等級と慰謝料の一覧です。

なお、自賠責基準の金額は2020年4月1日以降の事故に適用されるもので、それ以前の事故については金額が異なります。

等級 自賠責基準 弁護士基準(裁判所基準)
1級・要介護 1650万円 2800万円
2級・要介護 1203万円 2370万円
1級 1150万円 2800万円
2級 998万円 2370万円
3級 861万円 1990万円
4級 737万円 1670万円
5級 618万円 1400万円
6級 512万円 1180万円
7級 419万円 1000万円
8級 331万円 830万円
9級 249万円 690万円
10級 190万円 550万円
11級 136万円 420万円
12級 94万円 290万円
13級 57万円 180万円
14級 32万円 110万円

任意保険基準はどの保険会社も非公開のため掲載できませんが、自賠責基準の相場以上の額を請求できる場合もあります。

(2)むち打ち症による慰謝料請求は難しい

交通事故の後遺症になりやすい症状の一つであるむち打ち症(診断書には頚椎捻挫、頚部捻挫などと記載されることが多いです。)は、後遺障害等級の認定を受けられる割合が低いです。

むち打ち症の場合、損傷がレントゲンなどの画像に映りにくく、外観的所見に乏しいことが大きな理由となっています。

むち打ち症による後遺症について後遺障害等級の認定を受けるには、少なくとも以下のような事情が必要になるでしょう。

  • 事故直後から継続して整形外科での治療を続けている
  • 事故直後から症状が一貫して続いている
  • 車両の損傷等から、事故の衝撃が一定程度であると認められる
  • 治療期間が6か月以上である
  • CTやMRIなどの画像検査で症状の存在が証明できる(後遺障害12級13号認定の場合)
  • 神経学的検査で症状の存在を説明できる(後遺障害14級9号認定の場合)

ただし、上記の症状があったとしても、必ずしも認定を受けられるというわけではありませんので、むち打ちの後遺症が残った場合は少なくとも上記を確認したうえで申請をしましょう。

2.自賠責保険によって支払われる保険金の内訳

自賠責保険によって支払われる保険金の内訳

自賠責保険から支払われる保険金には、慰謝料だけではなく逸失利益も含まれます。

逸失利益とは、事故の後遺症によって労働能力が制限された場合に、減少する将来の収入のことをいいます。

逸失利益の額は、以下のように計算します。

基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に応じたライプニッツ係数

それぞれ以下の数字を当てはめます。

基礎収入 事故前の収入
労働能力喪失率 事故前と比べて低下した労働能力の程度
労働能力喪失期間に応じたライプニッツ係数 先取りになる分の利息

認定された等級によって、労働能力喪失率は変化します。

 

また、慰謝料や逸失利益を含めた自賠責保険の上限額は、等級ごとに異なります。

等級 自賠責基準
1級・要介護 4000万円
2級・要介護 3000万円
1級 3000万円
2級 2590万円
3級 2219万円
4級 1889万円
5級 1574万円
6級 1296万円
7級 1051万円
8級 819万円
9級 616万円
10級 461万円
11級 331万円
12級 224万円
13級 139万円
14級 75万円

3.後遺障害等級の認定の申請方法

後遺障害等級の認定の申請方法

後遺障害等級認定を受けるには、必要書類を提出して申請しなければなりません。

申請を行うと後遺障害診断書や交通事故証明書などの書類をもとに後遺障害等級が審査されます。

具体的な流れは以下のとおりです。

  1. 必要書類を集める
  2. 加害者側の自賠責保険会社または任意保険会社に書類を提出する
  3. 保険会社から調査事務所に書類が提出される
  4. 調査事務所において審査が行われる
  5. 被害者に審査結果が通知される

認定のためにかかる期間はケースバイケースです。

ほとんどのケースは2か月以内に結果が通知されますが、複雑な後遺障害であれば半年以上かかることもあります。

後遺障害等級認定の申請方法には、被害者請求と事前認定の二つの種類があります。

それぞれのメリット・デメリットを知って、どちらの方法で申請するか決めましょう。

(1)被害者請求のメリット・デメリット

被害者請求は、被害者側ですべての書類を集めて加害者側の自賠責保険会社に提出して申請する方法です。

この場合、以下のような書類を集める必要があります。

  • 後遺障害診断書
  • 自賠責様式の診断書・診療報酬明細書
  • 交通事故証明書

後遺障害が認定されると、結果通知と同時期に自賠責基準の保険金が支払われます。

残りの金額については加害者の任意保険会社との交渉により請求することになるでしょう。

メリットは、提出書類に工夫ができるため等級認定の可能性を上げられることです。

保険金を早く受け取ることも可能になります。

一方、書類集めに時間や手間がかかることがデメリットです。

弁護士に依頼することにより、書類の収集などを任せることができます。

また、以下の記事も参考になります。

後遺障害等級認定の被害者請求とは?メリット・デメリットと主な流れを解説

(2)事前認定のメリット・デメリット

事前認定とは、被害者は加害者側の任意保険会社に後遺障害診断書のみを提出して申請する方法です。

ほかの書類は任意保険会社が準備することになるため、被害者側での収集の手間が省けます。

自賠責の保険金は、任意保険会社との示談後、損害賠償額といっしょに支払われることになります。

メリットは、申請の準備の手間や時間を省けることです。

ただし、被害者請求に比べて、最低限の書類で申請されたり、酷いときには添付書類なしで申請されたりすることもあるようです。

これにより等級認定の可能性が下がりかねないのがデメリットになります。

事前認定を利用するのは、レントゲンやMRIの画像などで後遺症の存在や程度を確実に証明できるケースのみにとどめた方がよいでしょう。

また、以下の記事も参考になります。

後遺障害の事前認定とは?メリット・デメリットと主な流れについて解説

まとめ

交通事故で後遺症が残ってしまったら、適切な賠償を受けるために後遺障害の認定を受けましょう。

申請をしなかったり、申請に不備があったりして適切な等級認定が受けられないと、本来受けるべき賠償を受けられなくなってしまいます。

適切な等級認定を受けるために、専門知識を持った弁護士にサポートをしてもらうことをおすすめします。

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