保育所と人事労務

アスベスト被害の賠償金を請求する方法

執筆者 金子 周平 弁護士

所属 栃木県弁護士会

法律は堅苦しいという印象はあるかと思います。しかし、そんなイメージに阻まれて、皆さんの問題や不安が解決されないのは残念でなりません。
私は、そんな法律の世界と皆さんを、柔和に橋渡ししたいと思っています。問題解決の第一歩は、相談から始まります。
皆様が勇気を振り絞ってご相談をしていただければ、後は私どもが皆様の緊張や不安を解消できるよう対応し、法的側面からのサポートができればと思います。敷居はバリアフリーです。あなたの不安を解消するために全力でサポート致します。

保育所内でも、一般企業同様に人事労務問題が生じえます。

例えば、昨今の保育士不足を解消するため雇い入れた保育士が保育所の運営方針に沿わない問題行動を繰り返す場合や、経歴を詐称して場合などにどのように対処すべきか問題となる場合もあります。

そして、その場合、就業規則で退職に関してどのように定めてあるかが重要になってきます。

もっとも、就業規則を作成する必要のない事業場もあります。

そこで、就業規則のルールとともに、保育所で生じがちな問題に沿って対処法を考えていきましょう。

1 就業規則とは

就業規則とは労働時間や賃金をはじめ、人事・服務規律など、労働者の労働条件や待遇の基準を定めるものです。

就業規則が労働者に周知されている場合、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとされます(労働契約法7条)。

2 就業規則の作成義務と周知義務

常時10人以上の労働者を使用する事業場においては、就業規則を作成する義務があります。

作成又は変更した就業規則は、労働基準監督署長に届出する必要があります。

作成した終業規則は、労働者に掲示することや書面で交付等して周知する必要、つまりいつでも確認できるようにしておく必要があります(労働基準法第106条第1項)。

3 問題への対処

【ケース①】

ある保育士が園児へ度々暴言を吐いていることが他の保育士から報告された場合、どのように対処すべきか。

証拠収集

問題の保育士に指導する場合、事実を否定される可能性は十分にあります。そこで、できる限り証拠を収集しておく必要があります。

もっとも、保育所内で暴言は、目撃証言以外の証拠を集めることは簡単ではないでしょう。

そこで、管理者自身が保育所内に目を配らせその場で注意することで、現場を押さえていくことも重要でしょう。

懲戒処分

保育士の暴言は、体罰にまで発展しかねない重大な問題です。

そのため、管理者としては、報告に基づき問題の保育士に事情を説明させ、指導を加えていくことが必要です。

指導

事実と判明し、就業規則の懲戒事由に該当すれば懲戒処分を命じることができます。

但し、就業規則がない場合や、懲戒規定がない場合は、懲戒処分は認められません。

解雇

懲戒解雇については、就業規則上の懲戒規定に従って、弁明の機会を与えるなど適切な手続と段階を経る必要があります。

懲戒規定がなければ懲戒解雇はできません。

普通解雇で対処する場合についても、就業規則上の普通解雇事由に該当することが必要です。

その上で、解雇権濫用(労働契約法16条)に当たらないことが必要です。

この解雇濫用法理とは、客観的に合理的な理由があり、解雇することが社会通念上相当であると認められる場合でないと、当該解雇は無効となる判例法理をいい、法律上明文化されています。

解雇権濫用による解雇無効とならないためは、暴言行為の証拠があること、これまで何度も繰り返し指導をしてきたこと、その指導が適切であること、指導したことの証拠があること(業務命令書や始末書、指導をしたことが分かるメールなど)などが重要となります。

就業規則がない場合や普通解雇の規定がない場合

この場合でも、民法627条に基づき普通解雇をすることができます。

期間の定めのない雇用の解約の申入れ

第627条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは,各当事者は,いつでも解約の申入れをすることができる。

この場合において,雇用は,解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。

2 期間によって報酬を定めた場合には,解約の申入れは,次期以後についてすることができる

ただし,その解約の申入れは,当期の前半にしなければならない。

3 6か月以上の期間によって報酬を定めた場合には,前項の解約の申入れは,3か月前にしなければならない

以上のとおり、まずは事実確認、そして適切な指導を行い、当該保育士に問題行動を改めさせます。問題行動がなくなれば懲戒や解雇の問題は避けられます。

しかしながら、どうしても改善しない場合には、上記のように、いくら注意しても改善しないことを客観的に積み上げていくことが必要です。

そして、懲戒処分を重ねていくか、普通解雇に該当する状況を作っていくのです。

就業規則の整備

もし、就業規則がない場合や不十分な場合は、早期に整備すべきでしょう。

但し、懲戒事由や解雇事由を追加することは、‘就業規則の不利益変更’に該当します。

この場合は、全労働者からの合意、それが得られない場合は変更について合理性がなければ当該変更は無効となります。

しかしながら、暴言を吐くことを懲戒事由に追加することやそれに対する指導に繰り返し従わないことを解雇事由と定めることは十分合理性があるでしょうから、変更に問題はないといえるでしょう。

【ケース②】

ある保育士を新しく雇い入れたが、経歴詐称が発覚したため離職してもらいたい場合、どう対処すべきか。

本採用拒否

まだ試用期間中に不正が発覚した場合は、就業規則に従い本採用を拒否していけばよいでしょう

但し、採用時、本採用前に試用期間があることも明示しておかなければなりません。

解雇

経歴詐称を理由に解雇とするには、単に経歴に偽りがあっただけではなく、重大な経歴を詐称したことが必要となると考えられます。

すなわち、その詐称を採用時に知っていれば採用はしなかったといえることが必要と考えられています。

そのため、その詐称がどれほど業務に影響を与えるか個別具体的に検討すべきです。

また、採用時には申告するよう求めてはいなかった事項の場合、単に開示していなかったことだけをもって解雇することは、内容によっては困難でしょう。

その他、経歴詐称が発覚するまでに長期間経ってしまった場合で、既にその保育士が業務を十分に果たしてきた場合は、経歴詐称の影響がなかったとして解雇が無効と判断される余地もあるでしょう。

執筆者 金子 周平 弁護士

所属 栃木県弁護士会

法律は堅苦しいという印象はあるかと思います。しかし、そんなイメージに阻まれて、皆さんの問題や不安が解決されないのは残念でなりません。
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