契約締結段階における本部の情報提供②

以前、契約締結段階における本部の情報提供の義務について触れました。

今回は、それをもう少し具体的に見て生きたいと思います。

1.情報提供義務

フランチャイズ契約を締結する上で、本部が加盟店になろうとする者に対して行う事業や契約内容に関する説明は重要であることは前回でも述べたとおりです。

そのため、本部は加盟店に対して情報提供義務を負います。

そして、この情報提供義務に違反したとされた場合、原則として本部は加盟店に対して損害賠償義務を負うことになります。

2.提供すべき情報の分類

本部が提供すべき義務を負う、あるいは負う可能性のある情報には様々なものがありますが、それを大別すると次の3つに分類できます(西口元ほか編・[第3版]フランチャイズ契約の法律相談・青林書院・46頁参照)。

提供すべき情報の分類

  1. フランチャイズ契約を締結し加盟店になった者に生じる権利義務に関する情報
  2. 現に存在する事実に関する情報
  3. 加盟店として事業を行った場合に想定される損益予想に関する情報

(1)フランチャイズ契約を締結し加盟店になったものに生じる権利義務に関する情報

フランチャイズ契約自体の内容は主にこれに該当します。

また、契約内容そのものとまではいえないまでも、加盟店の権利や義務にかかわるものは、本部に情報提供義務があるとされる可能性が高いといえます。

たとえば、加盟店が店舗の賃貸料として支払うこととされている賃料が、売上の金額によって変動する場合であって、その売上の金額にかかわらず最低の賃料額が設定されているときは、この情報を伝えることが本部の情報提供義務の範囲に含まれる可能性があります。

(2) に存在する事実に関する情報

本部の規模、実績などがこれにあたると考えられます。

たとえば、店舗数や他の加盟店の数、閉店数、閉店の理由等が考えられます。

(3)加盟店として事業を行った場合に想定される損益予想に関する情報

加盟店がフランチャイズシステムによる事業を行った場合、どの程度の収益が見込めるかに関する情報です。

3.情報提供義務の程度

フランチャイズシステムは、様々な業種・業態が想定され、本部と加盟店の力関係も事案に応じて変わってきます。

そこで、本部が提供義務を負う情報の内容は、事業の性質、加盟店の能力、交渉の経緯、情報の種類、情報の取得・分析の難易度など諸々の事情を総合的に判断して決まります。

過去の裁判例には、従来の契約締結店舗数、閉店数、平均日販金額等の情報について情報提供義務がないとした事例がある一方で、旧店舗の閉店の理由や売り上げ実績、新店舗の売上予測と旧店舗の売り上げ実績との関係などの情報を提供すべき義務あったと認めた事例もあります。

4.提供する情報の内容(収益予想に関して)

収益予想はあくまで予想であって、そのとおりにならなかったとしても、直ちに本部が情報提供義務を負うことはありません。

フランチャイズ契約においては、加盟店もあくまで独立した事業者として扱われますから、予想された収益に達しないリスクを負うことも含めて加盟店の経営者としての判断に責任が伴います。

しかし、本部が提供する収益予想は、加盟店になろうとする者が、そのフランチャイズシステムに加盟するかしないかを判断する上で非常に重要な情報ですから、客観性や合理性が担保されていない資料に基づいて作成された収益予想が加盟店に提供された場合には、それを信用して損害を被った加盟店に対して情報提供義務違反による損害賠償請求義務を負う可能性が生じます。

つまり、本部は、加盟店に提供する収益予想についての情報を、客観的かつ合理的な資料に基づいて作成し、提供する義務を負っていることになります。

例えば、近隣の競合点についての調査を怠って、そもそも競合点の存在を伝えていなかったとか、競合店が収益に与える影響に対する評価を誤っていたなどの事情が情報提供義務に違反したとされた事例や、市場の調査を行った人材やその調査方法が不十分であったことから、その市場調査の結果に基づいて作成、提供された収益予想では情報提供義務を果たしたものとは認められないと判断された事例などがあります。

その他、現実の数値ではなく目標値といえるような売上金額や棚卸しロスを収益予想の前提にしていたとか、そもそも計算事態に明白な誤りがあったなどの場合にも、情報提供義務違反が認められたことがあります。

まとめ

本部が提供する情報提供義務について、特に収益予想については、“あくまで予想であって、実際の結果が予想と異なることになったとしても本部はその責任を負わない”旨を契約書や契約時の確認事項に定めているフランチャイズ契約も多いと思います。

しかし、すでにご紹介したとおり、裁判所における情報提供義務違反の有無の認定は、事業の性質、加盟店の能力、交渉の経緯、情報の種類、情報の取得・分析の難易度など諸々の事情が総合的に判断され、さらには提供する情報の基礎となる資料の収集・分析の方法やその程度や精度もこと細かく検討されることになります。

“契約時に確認して合意したのだから大丈夫”と考えていると思わぬ損害賠償義務を負うことになる可能性もあります。

加盟店になろうとしている者に対してフランチャイズシステムを提供している本部の方は、契約締結段階において提供している情報が、そのフランチャイズシステムにおいて、適切な方法によって収集・分析された客観的かつ合理的な資料に基づいて作成されているのかどうかを今一度確認されてみてはいかがでしょうか。