フランチャイズ契約書の作成

今回は、フランチャイズ契約書の作成の場面を題材に、作成に当たっての注意事項、法律問題、本部と加盟店との間で紛争化しやすい問題などを紹介します。

1.基本構成

本部と加盟店との契約をフランチャイズ契約足らしめるために必要な基本的事項は主に次のとおりです。フランチャイズ契約の根幹をなす条項といえます。

(1)フランチャイズの付与

本部が加盟店に対して自社のフランチャイズパッケージを提供することを約する条項です。

加盟店はこれに対してフランチャイズチェーンの統一的なイメージや評価を遵守する義務を負うことになるため、加盟店がこれを遵守すべき一般的な義務を併記するケースが多いです。

(2)当事者の独立

フランチャイズ契約は、加盟店が本部とは独立した事業者としての地位を有するのがその特徴のひとつです。

そのため、加盟店は自己の経営判断により事業を行い、これに伴う結果についても自己で責任を負うのが原則です(自己責任の原則)。

これを確認するための条項です。

加盟店に対して、自らが独立した経営者であるということを自覚させ、将来の紛争防止に役立つ効果が期待できます。

(3)ロイヤリティ(チャージ、フィー)

継続的なフランチャイズパッケージの付与に対して支払われる対価を決めるものです。

定額方式、売上総利益方式、売上歩合方式、純粋粗利方式などの決め方がありますが、中小小売商業振興法においては、ロイヤリティの性質等を書面において開示すべきことが定められていますので、その根拠や計算方法などは契約書に明確に記載しておくことが望ましいです。

2.その他の一般的な取り決め

基本構成で取り上げた事項が決められていれば、一応フランチャイズ契約の外観は供えた契約であるといえるでしょう。

仮にその他の取り決めがなかったとしても、民法や商法において決められている大原則に従うことで契約は成り立ちうるかもしれません。

しかし、これだけでは実際の取引関係を継続していく上では十分ではありません。

そこで、一般的には、以下のような事項についても契約書において取り決めをしておくことになります。

(1)前文

当該フランチャイズが目的とする事業、フランチャイズチェーンの理念や特徴を記載しておくものです。

それ自体内容は抽象的であるため、個別具体的な権利義務を生じさせるものではありませんが、個別の条項の解釈における指針となります。

(2)定義

当該フランチャイズシステムにおいて固有の文言、一般的とまではいえない表現等、後にその解釈や意味する範囲等が問題となりそうな文言を使用する場合には、その文言などの定義を明確にしておくことが大切です。

ちなみに、現在使われている様々な法律の冒頭にもこのような定義規定が置かれています。

これは後の紛争を防ぎ、また、紛争化した際の契約書の文言解釈の指針となるため、紛争予防、紛争への対策の観点からは非常に重要です。

(3)加盟金

フランチャイズ契約に必須ではありませんが、多くのフランチャイズ契約においては、加盟店が契約締結に際して本部にある程度の加盟金を支払うことが多いです。

フランチャイズシステムに加入するための対価と捉えられることになりますので、原則として、加盟店がそのフランチャイズシステムに加入した後、仮にすぐに契約を解約したとしても、加盟店が加盟金の返還を求めることは容易ではありません。

もっとも、高額過ぎる加盟金の定めは、法律上無効とされる可能性もあるため、本部側においても、後の紛争を予防するためには、加盟金の額をいくらに設定するかは慎重になる必要があります(※なお、この点に関連して、契約締結後・開業前の中途解約条項がおかれているケースがあり、その場合に、一定の条件を満たせば加盟金の返還を認める例もあります。フランチャイズシステムを展開していて、開業前の中途解約に至ってしまうケースが多いことでお悩みの方は、このような条項を定めることで紛争化を防ぐことも検討してみてはいかがでしょうか。)。

(4)加盟保証金

これもフランチャイズ契約に必須ではないものの、多くのフランチャイズ契約において取り決めがされています。

性質としては保証金(預託金)であり、賃貸借契約で言うところの「敷金」と同様の取扱いがされます。

すなわち、契約が終了した時点で加盟店が本部に支払うべき債務に充てられた後で、なお残額があれば本部から加盟店へ返還されます。

一般的には無利息とされることが多い傾向にあります。

(5)秘密保持義務

本部が自社のフランチャイズシステムを保護するためには必須の条項であり、ほとんどのフランチャイズ契約においては取り決めがされていると思われます。

実際の紛争においては、営業秘密の対象やその範囲が争われることが多いため、できる限り契約書に明記する形で具体的に特定しておくことが望ましいです。

また、実際の情報漏えいは、加盟店本人ではなく、加盟店に雇われている従業員などによってなされることが多いため、秘密保持義務は加盟店本人だけでなく、その従業員などにも範囲を広げておくことが必要です。

(6)競業避止義務

これもフランチャイズシステムの保護のため、秘密保持義務と並んで重要な条項です。

加盟店側では、これを回避するため、第三者を通じて実質的な潜脱行為を企図することも予想されるため、第三者を通じた競業行為も含めて禁止しておくべきといえます。

もっとも、実際のフランチャイズシステムの展開状況、営業秘密、ノウハウの内容によっては、あまりに広範、長期間の競業避止義務を課す条項は法律上無効とされることもありますので、本部においても、自社のフランチャイズシステムを保護するために、実態に即して必要十分な範囲に限定して義務を課すべきであるといえます。

(7)個人情報の管理

近年の個人情報保護に対する気運の向上、個人情報保護法の改正に伴い、個人情報の管理体制についても取り決めをしておくことが望ましいです。

例えば、本部から加盟店への顧客リストの提供、逆に、加盟店が取得した顧客情報の権利帰属、加盟店が顧客の個人情報を取得する際の利用目的の説明方法など、個人情報にかかわる問題は多岐にわたりますので、条項を定める際にも細かな注意を払う必要があります。

(8)契約期間

フランチャイズ契約は継続的な取引関係を構築する性質を有するため、契約の存続期間を定めるのが通常です。

その際に最も重視されるのは、投資回収にかかる期間です。

次の中途解約の条項にもかかわる問題ですが、契約期間満了前に加盟店が中途解約を申出た場合、違約金の支払い義務が生じる決まりとされているケースがほとんどであるため、採算が取れなくなって中途解約をしたくても違約金の支払いが高額になることから、中途解約ができない加盟店と本部との間で紛争が生じることも少なくありません。

特に契約期間が長期になればなるほど、そのような事態に発展するリスクも大きくなるため、契約期間については本部、加盟店双方が契約を締結するに際しては慎重に検討する必要があるといえます。

(9)中途解約

契約期間を定める場合、期間満了までは原則として解約ができなくなりますので、当事者の一方からの申出によって契約を終了させるためには中途解約の定めが必要となります。

加盟店から中途解約が申し出された場合、本部としては投資回収を図るために違約金を請求できることとすることが多いですが、加盟金と同様、高額すぎる違約金の定めは、法律上無効とされる場合もありますので、無用な紛争を避けるためには、金額を決める際には注意が必要です。

(10)契約解除

加盟店の債務不履行等があった場合に本部の契約解除権を定めることが一般的です。

反対に、加盟店は、民法の規定に基づいて契約を解除することが可能であるため、加盟店の契約解除権を定める例はほとんどありません。

もちろん本部も民法の規定に従って契約を解除できますが、それでも本部があらかじめ解除権を定めるのは、多くの加盟店に対して統一的で公平な対応をする必要があるためといえます。

(11)契約終了後の措置

契約終了後は、元加盟店に本部の商標やマニュアルなどが放置されてしまうことも少なくありません。

そして、一般消費者から見れば、当該元加盟店が既にフランチャイズシステムから離脱していることを知る術は通常ありません。

そのため、本部としてはノウハウの流出や、フランチャイズシステムに対する信用、ブランド力の低下を防ぐため、契約が終了した元加盟店に対して、本部の商標の入った看板等やマニュアル等の撤去、返還を義務付けておく必要があります。

そして、元加盟店がこれらの義務に従わない場合は、本部自らがこれらを行うことができることも同時に定めておきます。

例えば、放置された物について、元加盟店の所有権を放棄させる旨を定めておく場合もあります。

なお、加盟店から加盟保証金を預かっておけば、このためにかかる費用に充てることができます。

(12)裁判管轄

どんなに紛争予防に細心の注意を払っていても、紛争を完全に回避することは難しいでしょう。

避けられない紛争に備えて管轄裁判所を決めておくとは重要です。通常は、本部の本店所在地を管轄する裁判所を裁判管轄とすることが多いです。

裁判管轄とは、紛争が生じ、それが裁判所において争われることになった場合に、どこの裁判所で判断してもらうかという問題についての取り決めです。

契約上何も定めていない場合は、民事訴訟法に則り、本部が裁判を申し立てる場合には、加盟店の住所(加盟店が法人の場合は本店所在地。個人の場合は、当該個人の現住所)か、加盟店の店舗の所在地となるのが一般的です。

逆に、加盟店が裁判を申し立てる場合には、本部の本店所在地か加盟店店舗の所在地となります(この場合、加盟店は自己の店舗の所在地を管轄する裁判所を選択する可能性が高いといえます)。

限定された地域内でのみフランチャイズチェーンを展開している場合にはあまり不都合が生じることはないかもしれません。

しかし、全国展開しているような場合には、裁判管轄に対する不都合はより顕著になってきます。

例えば、裁判管轄を定めていなかったため、遠方であっても仕方なく個人である加盟店の住所を管轄する裁判所に裁判を申し立てたところ、その加盟店が行方をくらまして現在住所が不明となってしまっていた場合、加盟店に対して訴状を送達するだけでも相当の時間を必要とし、紛争解決が遅れてしまうことになります。

さらに、紛争となっている問題の中身とは別に、そもそもどこの裁判所で裁判を行うべきかというまったく別の問題が争いの対象となってしまうこともありえます。

このような問題に備えて決めておくのが裁判管轄です。

当事者間で、将来紛争が生じた場合にどこの裁判所で裁判を行うことにするかをあらかじめ決めておけば、その裁判所で裁判を進めることができます。

なお、「●●裁判書を管轄裁判所とする」とだけしか記載していない場合もありますが、このような場合、法律に基づく管轄裁判所のほかに●●裁判所でも裁判を行うことができる(競合的合意管轄)と解釈されてしまうこともありますので注意が必要です。

「●●裁判所を専属管轄裁判所とする」と定めておく必要があります。

3.個別の事情に応じて決めておくべき事項

以上に挙げた条項のほかにも、個別のフランチャイズシステムの特徴に応じて、以下のような条項を置くことが考えられます。

(1)売上保証に関する定め
(2)開業前の準備に関する定め
(3)テリトリー権に関する定め
(4)店舗の設置に関する定め
(5)従業員の雇用に関する定め
(6)研修(開業前、開業後)に関する定め
(7)経営指導(営業時間、販売価格)に関する定め
(8)商標・標章の使用に関する定め
(9)取引条件(仕入、物品供給、受発注)に関する定め
(10)コンピュータシステムの使用、その使用料に関する定め
(11)広告、広告費用の分担に関する定め
(12)地位の譲渡に関する定め
(13)保険加入
(14)連帯保証
(15)etc...

4まとめ

現在、契約書のひながたはインターネットなどでも多く出回っていることから、既存の契約書に多少の修正を加えれば、一応はそれらしい契約書を作成することはできます。

大手フランチャイズチェーンの契約書を入手して、ロイヤリティの金額などを修正して利用している本部の方もいるかもしれません。

しかし、契約書の作成は、個別のフランチャイズシステムに応じて必要性や適切性(妥当性)を吟味して組み上げていく必要があり、そのフランチャイズシステムに最も適した契約書は、そのフランチャイズシステムを熟知している本部において独自に作り上げなければならないものです。

契約書は、事業を行うに当たっての当事者の権利義務関係を画定するための非常に重要な書面であることから、その作成には細心の注意を払う必要があるといえるでしょう。

その手間を惜しむことで、却って、後々の紛争で大きな痛手を受けてしまう可能性も十分にあります。

これからフランチャイズ事業を展開しようと検討されている方や、フランチャイズ事業を展開中で現在お使いの契約書に不安をお持ちの本部の方は、自社で用いる契約書の内容について、法律の専門家にご相談してみてはいかがでしょうか。