トラブル事例とリスク対策(著作権等をめぐるトラブル)

弁護士法人みずきが交通事故対応におすすめの理由

よくあるトラブル事例を参考に、どのようにすればトラブルを事前に回避できるかをご紹介します。

 

 

(1)著作物性の有無(東京地判H28.09.29)

ライセンサは、ユーザーから委託を受けて、通販管理システムを機能させるプログラムを作成し、ユーザーはこれを利用していた。

ユーザーは、ライセンス契約の終了後も、プログラムの利用を継続した。そのため、ライセンサは、ユーザーに対して、プログラムの複製権侵害に基づき損害賠償請求した。

ユーザーは、ウェブ画面を表示するためのプログラムのHTMLに創作的表現はなく、著作物性はないと主張した。

裁判所は、「HTMLは、ブラウザの表示、装飾をするための言語であり、ウェブ画面のレイアウトと記載内容が定まっているときは、HTMLの表現もほぼ同様となり、誰が作成しても似たようなものになる」とした上で、本件HTMLにつき、他のプログラマーが作成してもほぼ同様の表現になるものというべきとして、著作物性を認めなかった。

リスク対策

本件のように、ユーザーが、HTMLの著作物性が争う場合、創作的表現が含まれるか、全体を通して総合的に判断がなされることになります。

本件では、ウェブ画面を表示するためのプログラムのHTMLに創作的表現はないと判断されましたが、単なるホームページが常に著作物性を有しないと判断されるわけではありません。

著作物性が争点になる場合、ライセンサ側は相当の立証活動を要することになります。

本件ようなトラブルを未然に防ぐべく、ライセンサは、ライセンス契約上、使用中止義務及び消去義務を明確に定め、期間満了による終了か、更新とするか、ユーザーと十分に協議する必要があります。

(2)著作物性の有無②~プログラム~(東京地判H15.01.31)

競合ライセンサ間におけるトラブルであり、「鉄道電気設計及び設備管理用の図面作成のためのコンピュータ支援設計製図プログラム」の用いられた記述が、実質的に同一である部分が存在しているとして、プログラムの複製権侵害、翻案権侵害が問題となった。

裁判所は、プログラムの創作性の有無について、プログラムの具体的記述が、誰が作成してもほぼ同一になるもの、簡単な内容をごく短い表記法によって記述したもの、または、極ありふれたものである場合は、創作性がないものとして、プログラムの複製権侵害、翻案権侵害を否定した。

リスク対策

著作権法は、プログラムの具体的表現を保護するものであり、プログラムの機能やアイディアを保護するものではありません。

そのため、競合ライセンサ間の各プログラムに、機能やアイディアを同一にする点があったとしても、複製権侵害、翻案権侵害の問題は生じません。

また、プログラムは記号と数字の羅列であるため、その記述が極くありふれたものである場合は著作権法上の保護に値しません。

リスク対策としては、プログラムの具体的表現の内、極くありふれたプログラムか、創作的な特徴をもつプログラムか、著作権法上の保護に値するか、社内において情報共有を図ることが有益です。

(3)著作物性の有無③~データベース~(東京地判H13.05.25)

競合ライセンサ間におけるトラブルであり、「自動車整備業用システム」中のデータベースの利用が複製にあたるとして、著作権侵害が問題となった。

裁判所は、データベースの著作物性について、対象となる自動車の選択、データ項目の選択、体系的構成について、いずれも創作性が認められないことから、データベースの著作物性を否定した。

リスク対策

客観的な事実やデータ自体は、「思想又は感情」が表現されたものではないため、著作権法上の保護の対象にはなりません。

しかし、客観的な事実やデータの集積物であっても、その選択、配列、体系的構成に創作性が認められるものは、編集著作物あるいはデータベースとして、著作物性が認められます。

データベースに求められる創作性は、創作者の個性が表れていること、ありふれたものではないことが必要ですので、自社の開発したソフトウェア中のデータベースにおいても、他社の著作物を用いていないか、確認作業を徹底することが有益です。

(4)著作物の特定(東京地判H28.10.27)

ソフトウェア及びデータベースのライセンサが、ユーザーのデータベースの無断改変を著作権(翻案権)侵害にあたると主張し、使用の差止めとソフトウェア及びデータベースが収納された記憶媒体の廃棄を求めた。

裁判所は、ライセンサが定義した、「ライセンサが収集したライセンサとつながりのある各小売業者の商品の仕入価格・販売価格に関する情報を体系的に構成したデータベース」につき、データベースの内容が特定されたとは到底いえないとして、ライセンサの主張を斥けた。

リスク対策

基本的なことにお感じになる方も多いとは思いますが、ソフトウェア中のデータベースの著作物の特定は、困難なケースが多いです。

ソフトウェア自体は、体系的に構成される創作的表現とみることは比較的容易です。

しかし、特定のデータベースに、創作的表現が再現されているといえるか判定する作業は容易ではありません。

そのため、ライセンサは、改変行為を禁じる契約条項を定める際に、様々な事態を想定して、ソフトウェアの全体の改変禁止のみならず、内部のデータベースに至るまで、詳細な改変禁止を定める必要があります。

(5)不法行為の成立(東京地判H13.05.25)

競合ライセンサ間におけるトラブルであり、「自動車整備業用システム」中のデータベースの利用が複製にあたるとして、著作権侵害が問題となった。

裁判所は、データベースの著作物性を否定したものの、不法行為の成立要件として、必ずしも厳密な法律上の具体的権利の侵害であることを要せず、法的保護に値する利益の侵害をもって足りるとして、不法行為の成立を肯定した。

リスク対策

競合ライセンサ間におけるデータベースの利用に関するトラブルは、著作権法に限られるわけではなく、民法にいう一般的な規定である不法行為に基づく損害賠償請求の規定も問題になります。

本件は、著作物にあたらないデータベースの利用であっても、不法行為に基づく損害賠償請求を認めることができるとした点で、画期的な裁判例となりました。

裁判所は、不法行為の成立を肯定する事情として、①情報収集への莫大な投資の存在、②データベースが営業上利用されるものであること、③販売地域の競合性の3点に言及しました。

そのため、リスク対策としては、著作物性にあたるか否かのみならず、上記①~③の観点から、不法行為に基づく損害賠償請求をする余地はあるか、また、受ける余地はあるかという検討が必要になります。

(6)類似性(知財高判H24.8.8)

競合ライサンサ間におけるトラブルであり、携帯電話機用の釣りゲームでの魚の引き寄せ画面の類似性から、翻案権等の侵害が問題となった。

裁判所は、類似性判断のポイントとして、瞬間的な画面表示それ自体でなく、全体としてまとまりのある著作物といえるかという観点から判断をするという指標を明らかにしました。

リスク対策

著作権法は、著作権の内容として、翻案権や二次的著作物の作成権、二次的著作物の利用権を認めていることから、著作権の効力は、既存の著作物と同一のもののみならず、類似のものにも及びます。

本件では、類似性を有するか否かの判断の際に、瞬間的、局地的な点に限ることなく、一定のまとまりのあるものを全体として評価するという手法を採ることが適切であるとしました。

(7)職務著作①(最判H15.04.11)

デザイナーは、アニメーション作品のキャラクターとして用いるための図面を作成した。

ライセンサとなる会社は、その図面を用いて、アニメーション作品を作成し上映した。

デザイナーは、自身の作成した図面に関する著作権及び著作者人格権に基づいて、ライセンサとなる会社に対し、アニメーション作品の頒布等の差止め、損害賠償を求めた。

本件では、著作者がデザイナーであるか、ライセンサとなる会社か問題となった。

裁判所は、デザイナーが「法人等の業務に従事する者」に該当すると認定し、著作者をライセンサとなる会社であるとした。

リスク対策

著作者が法人か個人かについて、著作権法15条1項は、「法人その他使用者の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。」と定め、一定の要件の下、法人が著作者となることを認めています。

本件は、一定の要件の内、デザイナーが、法人等の業務に従事する者に該当するか否か争われました。

裁判所は、雇用契約書の存在や、社会保険料、所得税等の控除の有無といった形式的な事由にとらわれることなく、「実質的にみたときに、法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを、業務態様、指揮監督の有無、対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して、判断すべきである」としています。

リスク対策としては、従業員との関係で、雇用契約の明確化を図ること、勤務時間や業務内容の画定等を行い指揮監督関係の維持を図ること、就業規則や職務発明規程の制定により、著作権の帰属を明確化することが必要です。

(8)職務著作②(知財高判H18.12.26)

元職員は、在職時に自ら創作したと主張する各プログラムについて、ライセンサとなる法人に対し、自身が著作権及び著作者人格権を有することの確認を求めた。

裁判所は、「法人その他使用者の発意」に基づき、「職務上作成する著作物」に該当するため、著作者をライセンサとなる法人であるとした。

リスク対策

本件では、著作権法15条1項上の、「法人その他使用者の発意に基づき」との要件、「職務上作成する著作物」との要件が問題となりました。

裁判所は、「発意」について、「法人等の具体的な指示あるいは承諾がなくとも、業務に従事する者が職務の遂行上、当該著作物の作成が予定又は予期される限り、」法人等の発意の要件を満たすとしています。

また、「職務上」との要件についても、「業務に従事する者の職務上、プログラムを作成することが予定又は予期される行為も含まれる。」としています。

リスク対策としては、従業員との関係で、予定又は予期できる程度に業務内容を画定し、就業規則、職務発明規程の制定により、著作権の帰属を明確化することが必要です。

(9)頒布権(最判H14.04.25)

家庭用テレビゲーム機用ソフトウェアの著作権者であるライセンサは、同ソフトウェアを中古品として販売するユーザーに対し、許諾を得ずにこれらの中古品を販売する行為はライセンサの頒布権を侵害するとして、頒布の差止め及び廃棄を求めた。

裁判所は、再譲渡を禁止すると、市場における商品の自由な流通が阻害され、著作権者に代償の二重利得を認める結果となる等の理由から、著作権の効力は、いったん適法に譲渡されたことにより、その目的を達成したものとして消尽し、再譲渡する行為に及ばないとした。

リスク対策

本件は、ゲームソフトの発売元と中古ゲームソフトの販売業者の紛争であり、複数の裁判所に同種の訴えが提起され、社会的にも大きな注目を集めました。

市場の流通との関係では、著作権法上、頒布権(26条)、譲渡権(26条の2)、貸与権(26条の3)が定められています。動画等の視聴覚的効果を生じさせる方法で表現される著作物は、本件のように頒布権(26条)の範疇に属しますが、それ以外の、例えば、プログラムの具体的記述自体は、譲渡権(26条の2)の範疇に属する可能性が高いです。

譲渡権(26条の2)の範疇に属する著作物であっても、市場に流通させる場合、著作権者の許諾の有無が問題となります。

本件は、著作権の効力が、いったん適法に譲渡されたことにより、その目的を達成したものとして消尽し、再譲渡する行為に及ばないとして、市場における商品の自由な流通が保護されたことに意義があります。

リスク対策としては、ソフトウェアの再譲渡は折り込み済みとして、最初に市場に流通させる時点での対価の回収を徹底する等、販売時の初動に留意するべきです。