相続放棄をした場合でも生命保険を受け取ることは可能か?

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。

相続放棄とは、家庭裁判所へ申立を行うことで、被相続人のプラスの財産・マイナスの財産一切の相続の権利を放棄することです。

相続人の方が気になる点は、亡くなった被相続人が契約していた生命保険の死亡保険金も受け取れなくなってしまうのか、という点でしょう。

結論としては、相続放棄を行った場合でも、生命保険金を受け取ることは可能です。

本記事では、相続放棄後でも生命保険金を受け取れる理由、条件、注意点についてご説明します。

この記事を読んで相続放棄と生命保険金の受取りの関係を知っていただければ幸いです。

1.相続放棄をした場合でも生命保険金を受け取れる理由と条件

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相続放棄を行ったとしても、被相続人が契約していた生命保険の死亡保険金を受け取ることができます。

以下でその理由と条件についてご説明します。

(1)相続放棄後に生命保険金が受け取れる理由

相続放棄をしても生命保険金を受け取れる理由は、生命保険金が民法上で定める「相続財産」に該当しないためです。

民法上で定められている相続財産は「亡くなった人の財産に関する権利と義務」とされています。

生命保険金は、生命保険契約に基づいて受取人が保険会社から受け取るお金であり、「受取人固有の財産」となります。

そのため、相続放棄により相続できなくなるのは被相続人固有の財産・負債の権利であって、受取人固有の財産である生命保険金には影響がないということになります。

相続放棄をしても生命保険金は受け取れるのです。

(2)生命保険を受け取る際の条件

ただし、生命保険を受け取る際には、以下が条件となります。

#1:受取人が契約者本人ではない

生命保険の受取人が契約者本人に指定されている場合には、生命保険は亡くなった人の財産として扱われます。

そのため、この場合に相続放棄を行ってしまうと生命保険金は受け取れなくなってしまいます。

被相続人に生命保険契約がある場合には、保険の契約内容において、受取人が誰に指定されているかを必ず確認しましょう。

#2:入院給付金が出る生命保険ではない

被相続人が医療保険に加入している場合、入院給付金が発生する場合があります。

入院給付金についても、誰が受取人になっているかに注意が必要です。

被相続人が受取人となっている場合には、相続財産と判断されるため、相続放棄をすると入院給付金を受け取ることは出来ません。

一般的には、入院給付金は被相続人が受取人となっていることが多いです。

保険の契約内容はきちんと確認しましょう。

2.生命保険金の受取後に相続放棄をする場合

(1)遺族が受取人に指定されている

遺族が受取人に指定されている場合には、生命保険金は相続財産にはならず、各相続人が固有の保険金請求権をもつこととなります。

この場合には、保険金を受け取った後でも相続放棄をすることは可能です。

(2)亡くなった人が受取人にされている

被相続人が受取人に指定されている場合には、相続財産の一部となります。

この場合の保険金を相続人が受取り、使ってしまった場合、相続人が単純承認をしたものと見なされてしまいます。

その場合、相続放棄を行うことは出来なくなってしまいます。

(3)3か月以内である

相続放棄の期限は、「自己のために相続が開始したことを知ったとき」から3か月以内に判断と手続を終わらせる必要があるとされています。

この3か月という期間は、相続人に当たる人が、遺産を相続するか放棄するかを検討する「熟慮期間」と言われています。

この3か月の期間内で、被相続人の遺産や負債の額を調査して、相続するか放棄するかを判断することになります。

3.生命保険と相続税に関する注意点

生命保険金は、相続税の課税対象となります。

生命保険金と、相続税の関係、相続放棄を行う場合の注意点を説明していきます。

(1)非課税枠が利用できない

相続税法では「生命保険金は被相続人死亡後の相続人の生活の支えである」と考え、課税されない部分(非課税枠)を設けています。

非課税枠=法定相続人の数×500万円まで

例えば、保険金が5000万円あり、3人の受取人が指定されている場合には、3500万円(5000万円−1500万円)が課税対象となります。

ただし、相続放棄をして生命保険金を受け取った場合、この非課税枠は使えません。

非課税枠は、「相続財産を継承する相続人」にしか適用されないためです。

相続放棄をした場合は、初めから相続人では無かったという扱いとなるため、そもそも「相続人」に該当しなくなります。

そのため、相続放棄をした場合は、非課税枠は使用できなくなり、全額が相続税の課税対象となります。

(2)贈与税や所得税がかかる可能性がある

被保険者・生命保険料の負担者・保険受取人の関係性によっては、所得税や贈与税がかかる場合があります。

#1:相続税がかかるケース

被相続人が負担した生命保険料を、相続人が受け取る場合には「相続税」がかかります。

#2:所得税がかかるケース

相続人が被相続人の生命保険料を負担し、かつ保険金を受け取る場合には「相続税」がかかります。

#3:贈与税がかかるケース

相続人が被相続人の生命保険料を負担し、第三者が保険金を受け取る場合には「贈与税」がかかります。

(3)相続放棄をしても基礎控除は変わらない

相続税には、生命保険金の非課税枠の他に、相続税の基礎控除が設けられています。

相続税は、相続した財産の全てにかかる訳ではなく、一定の金額までは課税されません。

この一定の額を「基礎控除」と言います。

相続において生命保険金を受け取り、その後相続放棄をした場合、(1)で述べた非課税枠は使用できませんが、この基礎控除は使用することが可能です。

相続税計算の基礎控除額は、「3000万円+600万円×法定相続人の数」と定められています。

例えば、法定相続人が被相続人の配偶者と子2人の3名の場合、合計して4800万円が基礎控除の額なります。

仮に、子2人のうち1人が相続放棄をしても、基礎控除の金額は変わらず4800万円のままです。

相続放棄を行った相続人がいた際に、法定相続人の人数を減らさない様に注意しましょう。

4.まとめ

本記事では、相続放棄をした場合に生命保険金が受け取れる条件や課税に関する注意点をご紹介しました。

また、生命保険金を受け取った後に相続放棄をする際は、相続放棄ができない場合もありますのでご注意ください。

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

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