代襲相続の開始要件や相続放棄申述の流れについて解説

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執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。

相続が発生した時に、既に本来の相続人が亡くなっている場合には、どの様に相続権が引き継がれるのでしょうか。

現在、高齢化社会が進み、自身の親が祖父母より先に亡くなるケースも珍しくありません。

既に本来の相続人が亡くなっている場合などには、本来の相続人の子が代わって相続の権利を引き継ぐ「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」が発生します。

この記事では、代襲相続の概要や、相続放棄が必要となるケースについて説明していきます。

相続放棄には手続きの期限があるため、期限内に完了する必要があります。

代襲相続は複雑なケースがあるため、必ず期限内に手続を終えるようにしましょう。

1.代襲相続について

(1)代襲相続とは

代襲相続とは、死亡等の理由で本来の相続人が相続権を失っている場合に、相続人に代わってその子どもが相続の権利を引き継ぐことを言います。

(2)代襲相続の開始要件

代襲相続が開始されるためには、以下の要件があります。

#1:被代襲者が被相続人の「子」または「兄弟姉妹」であること

被代襲者とは、本来の相続人であり、死亡等によって相続権を失った人を指します。

この被代襲者が、被相続人の子または兄弟姉妹にあたることが必要です。

#2:代襲原因があること

代襲相続は、次の「代襲原因」に該当する場合に発生します。

1.被相続人よりも先に相続人が死亡している

本来の相続人が、被相続人よりも先に死亡している場合には、相続人に代わってその子が相続人となります。

よくある例としては、本来相続人となるはずだった「子」が親よりも先に亡くなっている場合、親の財産を「子」に代わって「孫」が相続するケースが挙げられます。

被相続人に子がいなく、親も既に亡くなっている場合には、被相続人の「兄弟姉妹」が相続人となります。

相続人となるはずだった「兄弟姉妹」が先に亡くなっている場合は、その子である「甥や姪」が相続することとなります。

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2.相続人が欠格事由に該当している

本来の相続人が、犯罪行為や違法行為を行っており、相続権を失っている場合には、相続人に代わってその子が相続人となります。

また、相続人が詐欺や脅迫により自身が他の相続人よりも有利になる様に遺言書を作成・修正させた場合もこの「欠格事由」に該当します。

3.相続人が廃除を受けている

本来の相続人が、被相続人に対して虐待や重大な侮辱行為をしていた場合、被相続人の意向によって相続権をはく奪されているケースです。

※廃除は、被相続人が生前に家庭裁判所へ推定相続人廃除審判申立を行う方法と、遺言書に記載することで相続人を廃除する方法があります。

#3:相続開始時に被代襲者の直系卑属である子が現存していること

代襲相続が開始されるためには、相続開始時に被代襲者の直系卑属である「子」(代襲相続人)が現存している事が必要となります。

直系卑属(ちょっけいひぞく)とは、縦の血縁関係で、自分より下の世代の人物を指します。直系卑属に当たる血族としては、「子」「孫」「ひ孫」が挙げられます。

現存とは、相続開始時に生きていること、代襲相続する権利を失っていないことを指します。

(3)代襲相続人が既に死亡していた場合には、再代襲(さいだいしゅう)がある

代襲相続が発生した際に、代襲相続人に当たる人物も既に死亡している場合はどうなるのでしょうか。

この場合には、代襲相続人となるはずだった人物の「子」が相続をすることとなります。このような制度を「再代襲相続(さいだいしゅうそうぞく)」といいます。

本来の相続人が被相続人の「子」であり、代襲相続人が「孫」である場合、再代襲相続人は「ひ孫」となります。

ただし、再代襲相続人の範囲は直系卑属のみとなります。本来の相続人が被相続人の「兄弟姉妹」の場合には、代襲相続は「甥・姪」までとなり、再代襲は発生しません。

つまり、甥姪は代襲相続人となれますが、甥姪の子は再代襲相続人とはなれないのです。

2.相続放棄とは

相続放棄とは、家庭裁判所へ申立を行うことで、被相続人の財産・債務の相続を放棄することができる手続きです。

相続放棄には期限が定められており、「自己のために相続が開始したことを知ったとき」から3か月以内に判断と手続きを終わらせる必要があるとされています。

(1)相続放棄申述の流れ

相続放棄を行うための、必要な書類や手続きの流れについて説明いたします。

#1:相続放棄の申述先

被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ申立を行います。

#2:書類の準備

相続放棄の申立を行う人物と、死亡した方の関係性によって必要な書類が変わってきます。

本記事では代襲相続人に当たる方が相続放棄をする場合の必要書類等を説明していきます。

【全員共通で必要な書類】

  1. 相続放棄申述書
  2. 被相続人の住民票の除票(若しくは戸籍の附票)
  3. 申述人(相続放棄をする人)の戸籍謄本
  4. 申立郵券(申述先の家庭裁判所へ確認して、準備します。)
  5. 申立印紙(800円)

申述書の雛形は、裁判所のHPにデータがアップされていますので、活用しましょう。

前述の書類に加えて、申述人と被相続人との関係性によって、必要に応じた以下の書類を添付します。

【申述人が、被相続人の代襲者の場合】

  1. 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改正腹戸籍)謄本
  2. 申述人が代襲相続者(孫/ひ孫/甥姪等)の場合、被代襲者(本来の相続人)の死亡のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

書類一式を準備したら、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ提出します。

#3:提出後、裁判所から「照会書」が届く

申立書一式を裁判所へ提出すると、数日から2週間程度すると裁判所から照会書という書面が届きます。

今回の相続についていつ知ったか、相続放棄の申述のは自身の意思かなど、相続放棄を行う理由や、遺産の全部や一部を処分していないか等の質問が記載されていることが一般的です。

照会書については、質問内容をよく読んだ上で、事実通りありのままに記載していけば問題ありません。

ただし、相続放棄申述書の記載と、照会書の内容に食い違いが生じては問題となるため、申述書はあらかじめ写しをとっておくとよいでしょう。

記載した照会書を、家庭裁判所へ返送します。

#4:受理・不受理の審査

提出された照会書を踏まえて、相続放棄申述の受理・不受理の判断がされます。

#5:受理後相続放棄申述受理通知書が届く

相続放棄が無事に受理されると、「相続放棄申述受理通知書」が届きます。

相続放棄の証明書が必要な場合は、別途裁判所へ申請が必要です。

申述受理通知書と同封して、証明書の申請書式が送付されることが一般的です。

申請書を記入し、申述受理通知書の写し、手数料印紙(150円/1通)を添付して申請します。

※申述受理通知書は、必ず手元で保管をしましょう。

3.相続放棄と代襲相続が関連するケース

相続放棄と代襲相続が関連する例について、いくつか事例を紹介します。

(1)祖父が他界し父が相続放棄した場合の孫

祖父が他界し、その子である父が相続放棄をした場合には、孫に相続権は発生しません。

相続放棄を行った相続人は、最初から相続する権利を持たなかったということになります。

そのため、相続放棄を行った相続人の子(被相続人の孫にあたる人物)も相続人とはなりません。

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今回の場合には、被相続人の孫にあたる人物が祖父の相続について、改めて相続放棄を行う必要はないのです。

また、前述した通り、代襲相続の原因は「死亡」、「欠格事由」、「廃除」が理由となるため、相続放棄は代襲相続の原因とはならないのです。

(2)父が先に他界しており孫が相続放棄を実施後に祖父が亡くなり借金がある場合

祖父よりも先に父が他界している場合で、父に多額の借金があり、子が相続放棄の手続きをとったとします。

その後祖父も亡くなり、祖父にも多額の借金があることが判明しました。

この場合は、孫が代襲相続人となります。

相続放棄は、被相続人ごとに相続をするかしないかを判断する制度になります。

父が亡くなった時の相続放棄は、あくまでも「父の相続」に関するものであり、その後に発生した祖父の相続に関するものまでは含まないのです。

そのため、父の遺産について相続放棄をしていても、父の代襲相続をする権利については変わりがないのです。

今回の様な状況で、祖父の借金を背負いたくない場合には、改めて祖父の相続放棄手続が必要となるのです。

父の相続放棄をしたことで祖父の代襲相続権は無くなっていると誤解し、祖父の借金をそのまま孫が背負ってしまうことが無いように注意が必要です。

(3)父が他界時に相続放棄したのち、祖父の遺産がある場合は代襲相続可能

前述と同様の流れで、祖父に借金ではなくプラスの資産があったとします。

この場合も、代襲相続の権利は奪われていません。

そのため、孫は父に代わって祖父の資産を相続することが可能となります。

まとめ

代襲相続の概要や相続放棄を検討する代襲相続に関する代表的なケースをいくつかご説明しました。

代襲相続のケースは相続人の関係性が複雑になる場合もあり、相続放棄が必要になるか分かりづらいものです。

自身が代襲相続人に当たるかどうか、相続放棄を行った方が良いケースかについては弁護士へ相談しましょう。

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。