高次脳機能障害が後遺障害等級9~3級に認定された事例

高次脳機能障害における後遺障害には、「第1級1号」、「第2級1号」、「第3級3号」、「第5級2号」、「第7級4号」、「第9級10号」があります。

高次脳機能障害における後遺障害等級の判断基準については、「高次脳機能障害と後遺障害等級の判断基準」を参照ください。

では、裁判所において、高次脳機能障害の認定はどのように判断されるのでしょうか。

ここでは、高次脳機能障害における後遺障害等級3級、5級、7級、9級を認めた裁判例を紹介いたします。

(1)後遺障害等級9級10号:千葉地方裁判所平成22年1月29日判決

【事案の概要】

加害者Y(被告)は、自動車を運転し、片側2車線の高速道路を時速約120kmで進行中、先行する被害者X(原告・バリスタ)運転の自動二輪車に追突させ、路上に転倒させ、Xは脳挫傷等の傷害を受けた事案。

Yの主張
Yは、Xには脳外傷による高次脳機能障害特有の所見が認められないこと、事故当初より重篤な意識障害が認められないこと、記銘力に若干低下が見られたとされるものの、知的機能にはおおむね問題がない程度のものであること、バリスタ大会で優勝を含む優秀な成績を収め、講演会を開き、また、書物を執筆ないし監修した事実などの社会生活実態からすれば、Xの後遺障害等級は12級12号を超えるものではないと主張しました。

裁判所の判断

裁判所は以下のように判断し、Xに高次脳機能障害を認め、後遺障害等級9級10号を認定しました。

Yは、高次脳機能障害特有の脳室拡大・脳萎縮が見られないと主張し、証拠の中にはこれにそう部分も見られるが、上記所見には個人差があることが窺われ、びまん性軸索損傷が不可視であること、また、その正確な医学的検査による把握は現時の技術水準によれば困難が伴うものであることを考えると、その判断は慎重であるべきものと考えられるから、上記画像所見からただちに同損傷が存在しなとするのは相当でない。

Xは、事故直後、多少の意識障害があり、約1ヶ月間これが続いたとされ、また、外傷性健忘も存在し、約2週間ほどこれが残ったことが認められることから、相当期間の意識障害があったと認められる。

以上によれば、Xは、高次脳機能障害の後遺症を負っているとするのが妥当である。

Xは、ジャパンバリスタチャンピオンシップで優勝し、世界大会で10位に入賞したことが認められる。

しかし、同競技の正味時間は15分であり、Xの集中力が維持可能な範囲と考えられ、加えてXがこの方面の草分け的存在であって、後進を大きく引き離す存在であること、競技の内容自体、高度の精神作用を要するものというよりは、体に刻まれた修練や多年の経験に基盤を置くものであって、Xの障害である短期記銘力の低下とは必ずしも直接は関わらないと見られることなどによれば、上記のような障害を負いつつもなおこれを凌駕・克服して好成績を挙げる余地もあると考えられる。

講義内容もXの体験談やバリスタの業務内容等平易かつ定型的なものであると見られ、Xにおいても、平素から習熟した内容であると考えられるから、上記のような障害があるとしても、なおこれを克服しつつその実現は可能であると考えられる。

コメント

この事例は、Y側から、Xが著名なバリスタで、世界大会で優秀な成績を収めたり、講演などを行うことができたことを理由に後遺障害の等級を争っていましたが、本人の努力次第で障害を克服し従前通りの能力を発揮することは可能であると判断して、高次脳機能障害を認めたことが特徴的です。

従前通りの生活が可能であったとしても、それが本人の努力の結果であることや障害に左右されにくいものであることを立証することにより、適切な後遺障害等級が認められることは十分に可能です。

(2)後遺障害等級7級4号:名古屋地方裁判所平成23年3月19日判決

【事案の概要】

横断歩道を被害者X(原告)が自転車を運転していたところ、交差点に進入してきた加害者Y(被告)に衝突され、自転車もろとも転倒し、脳挫傷、肋骨多発骨折、左肺血気胸等の傷害を受けた事案。

Yの主張
Yは、全面的にXに後遺障害等級7級4号相当の後遺障害が残存したことを否認すると主張しました。

裁判所の判断

裁判所は以下のように判断し、Xに後遺障害等級7級4号を認定しました。

Xの現在の症状には、記銘力低下、注意・集中力の低下、知的能力の低下、状況判断能力、類推能力、想像力及び理論的思考などの思考力全般の低下があり、高次脳機能障害が認められる。性格変化、易怒性、状況への無関心及び依存性も認められる。

本件事故後の臨床症状、経過及び画像から、びまん性軸索損傷が生じていたことは明らかであり、Xの上記症状の原因は、本件事故による脳のびまん性軸索損傷であると判断する。

コメント

Xは、高次脳機能の評価を得るため、HDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)、WAIS-R(ウェクスラー成人知能検査改訂版)、WMS-R(ウェクスラー記憶検査改訂版)などの検査を受けており、全般的な能力の低下が認められていました。

このように、高次脳機能障害を認めるためには、様々な検査を受ける必要があります。

また、高次脳機能障害は本人の自覚症状がない場合もあるので、身近な人に性格の変化などを感じたら、早めに検査を受けることをお勧めします。

(3)後遺障害等級5級2号(併合4級):京都地方裁判所平成17年12月15日判決

【事案の概要】

信号機により交通整理の行われている交差点で、対面青信号に従って交差点を左折した加害者Y(被告)運転の自動車が、交差点の歩道を横断歩行中の被害者X(原告・デザイナー)に衝突し、Xが左頭頂骨骨折、脳挫傷等の傷害を負った事案。

Yの主張
受傷後の治療状況、症状の経過を客観的に判断することができる資料として最も的確性を有するカルテ等の医証によれば、症状の経過及び日常生活の状況から、後遺障害として5級2号の認定は疑問であり、「神経系統の機能または精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」としての9級10号に該当するとするのが妥当であると主張しました。

そして、労働能力喪失率についても後遺障害等級9級10号を基準に算定するべきであると主張しています。

裁判所の判断

裁判所は以下のように判断し、Xに高次脳機能障害として、後遺障害等級5級2号を認定し、労働能力喪失率を85%としました。

なお、高次脳機能障害の他に嗅覚障害及び味覚障害として後遺障害等級12級が認められ、Xには後遺障害等級併合4級が認定されています。

Xは、高次脳機能障害の症状である記憶障害、記銘力障害、地誌的障害、遂行機能障害、注意障害、情動・人格障害が認められており、そのために、本件事故後の勤務において、記憶力や持続性の低下が認められ、協調性に問題があって、孤立したり、他の社員とのトラブルが発生する事態になり、退職までした事実が認められる。

もっとも、Xのデザイン能力は本件事故後も低下しておらず、勤務先がXの能力を高く評価していたこと、退職もあくまで自主的にしたものであり、勤務先も直ちに解雇には向かわなかったことが認められる。

また、高次脳機能障害者も、リハビリ等により能力が一部でも回復する可能性も否定することはできないし、勤務先や家族等の理解、協力を得ることができれば、作業内容及びその程度に限定はあっても就職して継続的に勤務していくことも不可能とはいえない。

嗅覚障害及び味覚障害については、これによって直ちに労働能力喪失率に影響を与えるものでないことも考慮して、Xの労働能力喪失率は85%と評価するのが相当である。

コメント

本件では、高次脳機能障害の有無そのものは争われていませんが、逸失利益算定のための労働能力喪失率が大きな争点となっています。

裁判所は、双方の言い分を聞いたうえで、労働能力喪失率を85%と認定しました。

通常、後遺障害等級5級2号が79%であるため、認定等級よりも高い喪失率を認めたことになります。

Xは、嗅覚障害及び味覚障害の後遺障害も認められていますが、直ちに労働能力の喪失に結びつかない場合には、基本的には逸失利益の算定には考慮されません。

裁判所も、「直ちに労働能力喪失率に影響を与えるものでない」と述べています。

しかし、裁判所は、労働能力喪失率を85%と認定しています。

これは、Xに就労の意思、意欲が皆無である状態が継続しており、勤務先、家族等の理解、協力があったとしても(不可能とはいえないとはいえ)現実的に就労が困難であることを重視したものと考えられます。

このように、高次脳機能障害での後遺障害等級は逸失利益に大きく影響してきます。

交通事故前後の被害者の就労実態を細かく立証することが重要となってきます。

(4)後遺障害等級3級3号:名古屋地方裁判所平成23年10月28日判決

【事案の概要】

加害者Y(被告)運転の自動車が市道を走行中、市道を横断歩行中の被害者X(原告)に衝突し、Xに頭蓋骨骨折等の傷害を負わせた事案。

Yの主張
後遺障害等級3級3号であることは争う。

裁判所の判断

裁判所は以下のように判断し、Xに後遺障害等級3級3号を認定しました。

Xの後遺障害は、認知機能障害、四肢体幹失調、左上肢不随意運動である。

Xは、身体的には、両上肢の手指巧緻性低下、両下肢の耐久力低下、体幹・四肢失調がみられ、書字は両手とも不可能で、箸も持てず、入浴も一人でできずに親の介助を受ける状態であった。

また、認知・情緒・行動障害が存在し、少し前に行った自分の行動、発言も忘れてしまい、日付・曜日の概念も全くない。

Xが日常生活を送るには、着替えや食事の再に若干の介助が必要であるが、それも、食事については魚の骨を取るなどの細かい作業については介助を要するがスプーンの使用はできるのでおおむねは自立しているものと認めるのが相当であり、日常生活において介助を要する部分はそれほど多くはないし、介助の労力もそれほど大きくはないと認めるのが相当である。

コメント

本件では、自賠責の認定どおり後遺障害等級3級3号が認定されました。

5級の後遺障害慰謝料は1400万円ですが、3級の後遺障害慰謝料は1990万円にもなり、両者の間には590万円もの差があります。

また、逸失利益を算定するための労働能力喪失率は、5級は79%であるのに対し、3級は100%です。

このように、高次脳機能障害で、後遺障害等級3級が認められるか5級が認められるかによって、賠償金額に大きな違いが生じます。

高次脳機能障害の3級と5級の違いは、軽易な労務に服することができるかどうかですが、その判断には細かな検査が必要となります。

適切な後遺障害等級を認めてもらうためには、適切な検査が必要となりますので、早めの相談をお勧めします。

まとめ

高次脳機能障害による後遺障害等級9級から3級までの各事例を紹介してきましたが、いずれも、適切な検査を受けたうえで、被害者の生活状況や就労状況を細かく立証しています。

高次脳機能障害が残ると、就労自体困難となる場合もあり、その後の生活に大きな支障が生じることも考えられます。

また家族の支援も必須となります。

十分な生活保障を受けるためにも、高次脳機能障害の疑いがありどのような検査を受ければいいのか不安な方や、後遺障害等級が認められたけれども賠償金額に納得がいかない方は、是非当事務所にご相談いただければと思います。

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