遺産分割調停

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1.遺産分割調停の当事者

遺産分割調停の当事者は、共同相続人全員と包括受遺者です。

包括受遺者とは、被相続人(亡くなった方)から包括的な遺贈を受けた者です。

具体的には、例えば遺言書で、「遺産の4分の1」というように、割合を示して遺産を与えられた者を指します。

包括受遺者は、実質的に相続人と似た地位にあるので、民法上も相続人と同一の権利義務を有するとされています。

もっとも、以下の場合には、他の者が当事者に代わって遺産分割調停に参加します。

(1)相続人の中に未成年者がいる場合

親権者または後見人が、未成年相続人に代わって遺産分割協議を行うことになります。

(2)親権者または後見人と未成年者とがともに相続人であり、この親権者または後見人が未成年相続人に代わって遺産分割協議を行う場合

親権者または後見人と未成年者とにおいて利益が相反するので、特別代理人の選任が必要となります。

(3)親権者や後見人を同じくする未成年者がいて、この親権者や後見人がそれぞれの未成年後見人に代わって遺産分割協議を行う場合

未成年相続人同士の利益が相反するので、特別代理人の選任が必要となります。

特別代理人なく上記親権者や後見人が代理行為をした場合には、無権代理行為となり、未成年者が成年に達した後で追認しなければ、その行為の効力は未成年者本人に及びません。

(4)相続人の中に判断能力に問題がある方がいる場合

判断能力がない場合は、この相続人の住所地の家庭裁判所へ「成年後見」の申立てを行い、「成年後見人」がこの相続人に代わって遺産分割調停に参加することが必要となります。

(5)相続人の中に不在者(従来の住所・居所から居なくなり、簡単に帰ってくる見込みがない方)がいる場合

不在者の従来の住所地・居所地を管轄する家庭裁判所へ申立てを行って「不在者財産管理人」を選任してもらい、この「不在者財産管理人」が遺産分割調停に参加することとなります。

この場合、遺産分割協議するには、家庭裁判所の許可が必要となります。

また、不在者の生死が7年以上不名な場合等は、不在者の従来の住所地・居所地を管轄する家庭裁判所へ申立てを行って、「失踪宣告」を出してもらう方法もあります。

この「失踪宣告」が出されると、この不在者は法律上死亡したものと見なされ、この不在者の子や、場合によっては孫が、代襲相続人として遺産分割調停に参加することになります。

遺産分割の当事者の一部が入らずになされた遺産分割調停・審判は、全部が無効となります。

遺産分割の当事者以外の人を加えてなされた遺産分割調停・審判も、遺産分割の当事者以外の人が取得した遺産部分について無効となるとする考え方が多数説です。

そこで、遺産分割調停の申立てをする際には、全ての共同相続人(上記、他の者が代わる場合も含む)と包括受遺者を、漏れなく相手方として申立てすることが大切です。

2.遺産分割調停の申立先

遺産分割調停の申立ては、①相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、あるいは②当事者が合意で定める家庭裁判所に行います。

①で、相手方が複数いて住所地が異なる場合は、その全てが管轄裁判所となるので、そのうちどれかの裁判所に申し立てることとなります。

手続が遅滞することを避けるため必要があると認めるときその他相当と認めるとき、または、事件を処理するために特に必要があると認めるときは、裁判所の職権で他の裁判所に移送されることがあります。

事件処理のために移送が必要か否か判断するときの視点としては、当事者の居住先、出頭に関する時間的・経済的な利便性、係争土地の所在地、係争土地の形状や利用関係についての地元調査委員等による事実調査の必要性等が挙げられます。

3.遺産分割調停に必要な書類

遺産分割調停は、遺産分割の当事者が、管轄裁判所に、以下の書類を提出することで始まります。

(1)申立書関係

申立書には、以下のものが必要です。

  • 遺産分割調停申立書及びその写し(相手方の人数分)
  • 事情説明書

(2)証拠関係

生前贈与や遺贈などで、被相続人(亡くなった方)から相続人(遺族)に財産が渡った場合、本来は、その財産は、法定相続分で分けるべき遺産には含まれません。

しかし、それでは、その財産が「遺産の前渡し」といえるような場合、相続人(遺族)間で不公平が生じてしまいます。

そこで、このような不公平を解消するために、特別受益という制度が作られたのです。

(3)戸籍関係

①被相続人の出生から死亡までの間に在籍した全戸籍の除籍謄本・改正原戸籍謄本(原本)
②被代襲者の出生から死亡までの間に在籍した全戸籍の除籍謄本・改正原戸籍謄本(原本)
③相続人全員の戸籍謄本(原本)
④相続人全員の戸籍の附票または住民票(原本、取得後3か月以内のもの)

①~④の戸籍関係書類や戸籍の附票については、本籍地の市区町村役場の戸籍担当係から、④の住民票関係は、住所地の市区町村役場の住民登録担当係から取得することができます。

(4)遺産関係

① 登記簿謄本または全部事項証明書(原本、取得後3か月以内のもの)
② 固定資産評価証明書(原本、直近の年度のもの)
③ 不動産の位置・形状等が分かる書類(住宅地図、公図の写しなど)
④ 建物の平面図
⑤ 賃貸借契約書
⑥ 預貯金の通帳の写しまたは相続開始時の残高証明書の写し
⑦ 株式、国債、投資信託等の内容を示す文書の写し

①、③及び④については、物件所在地の法務局、支局、出張所の不動産登記部門から、②は、不動産所在地の都・県税事務所または市区町村役場の固定資産税担当係から取得することができます。

(5)前提問題関係

① 遺言書の写し
② 遺産分割協議書の写し
③ 協議不成立に終わった遺産分割協議書案の写し
④ 前相続に関する遺産分割協議書の写し

(6)相続債務関係

① 消費貸借契約書、担保設定契約書の写し
② 支払予定表の写し

相続債務(被相続人が死亡時に負っていた債務)については、遺産分割の対象とはならないのですが、調停では債権者の承認を前提に、相続人の一人に債務引受の合意をしたり、担保付不動産の帰属を検討するために、その残額を確認する必要があります。

また、調停手続を進める中で、事実関係を明らかにする書面として、以下のものが必要とされます。

① 主張書面
② 陳述書、事実経過表、収支表
③ メモ、日記、手紙、写真

③は、通常の民事訴訟では、証拠として提出されるものですが、遺産分割調停においては、事実関係を明らかにする書面として提出されるのが一般的です。

4.遺産分割調停の終わり方

免責を受けるためのポイント

遺産分割調停は、以下のいずれかの事由によって終了します。

  • 調停の成立
  • 調停の不成立
  • 調停申立ての取下げ
  • 調停をしない措置

以下でご紹介いたします。

(1)調停の成立

当事者間で合意が成立し、調停委員や裁判所がその合意が相当と認めた場合、その合意内容が調停調書に記載されて、調停は成立となり、調停は終了となります。

(2)調停の不成立

当事者間で合意が成立する見込みがない場合、または、調停委員や裁判所が相当でないと認めた場合は、調停は成立しないものとして、調停は終了となります。

調停が不成立になった場合は、裁判所から調停に関与していた者や利害関係人に、通知されます。

調停が不成立で終了した場合、調停の申立時に、審判の申立てもあったものとしてみなされ、自動的に審判手続に移行します。

(3)調停申立ての取下げ

申立人は、調停が終了するまでであれば、いつでも遺産分割調停の申立てを取り下げることができます。

取下げに、理由も相手方の同意も不要です。

取下げは、書面か、調停期日であれば口頭ですることができます。

(4)調停をしない措置

濫用的な申立てや、調停を進行させる意欲を喪失していたり、調停の引き延ばしと見られる場合等には、裁判所が調停をしない措置を採ることがあります。

まとめ

遺産分割調停は、全ての共同相続人と包括受遺者を相手方として進めなければならず、提出資料も多岐に渡ります。

しっかりと準備し、スムーズに調停手続を進めていくためにも、弁護士への依頼をぜひご検討いただきたいものです。