アスベスト訴訟の和解要件とは?受給できる賠償金額と訴訟の流れ
「アスベスト訴訟ので和解金を得られる要件は何があるのか」
「アスベスト訴訟はどのような流れで進むのか」
アスベスト訴訟を検討している方の中には、和解金を得るためにどのような要件を満たす必要があるのか気になっている方もいるのではないでしょうか。
また、アスベストに関する制度はいくつかあり、自分がどの制度を利用すべきなのか迷う方は少なくありません。
本記事では、工場型アスベストの被害に遭われた方向けに、訴訟における和解の要件や訴訟の流れについてご紹介します。
なお、建設型アスベストの被害者は、建設アスベスト給付金の申請をすることが可能です。
以下の記事で申請方法についてご紹介しているので、建設型アスベストの被害に遭われた方は、そちらをご参照ください。
1.アスベスト訴訟の種類と要件
アスベスト訴訟は、国を相手にする場合と、当時の勤務先である企業を相手にする場合があります。
このうち、国を相手に訴訟をする場合、被害者救済のために国は一定の要件に該当する者に対しては和解に応じるという方針を明らかにしています。
他方で、企業を相手にする場合は、そのような方針がないため、具体的な侵害行為や損害内容を主張・立証していく必要があります。
以下で詳しく見ていきましょう。
(1)国を相手に訴訟
国を相手に訴訟を提起する場合は、3つの要件を満たせば、和解が成立します。
- 昭和33年5月26日から昭和46年4月28日までの間に、アスベスト(石綿)を取り扱う工場等において作業に従事していた
- 中皮腫、肺がん、石綿肺、びまん性胸膜肥厚など石綿による健康被害を被った
- 提訴の時期が損害賠償請求権の期間内である
損害賠償請求権の期間には、以下のように2つのパターンがあり、到来が早い方が適用されます。
- アスベスト被害を知った時点から3年もしくは5年
- 最も重い症状が新たに判明した時点から20年
2020年4月1日までにアスベスト被害を知った時点から3年経過していない場合に限り、訴訟提起期間が5年になります。
それ以外は、アスベスト被害を知った時点から3年が訴訟提起期間となるので注意しましょう。
(2)企業・使用者を相手に訴訟
企業・使用者を相手に訴訟を提起する場合、まず請求の仕方が2種類あります。
請求の仕方によって時効(請求が可能な期間)が異なるので注意が必要です。
- 安全配慮義務違反による請求
- 不法行為による請求
不法行為による請求をするためには、以下の2つの要件のうち、到来が早い方の期間内に提起しなければなりません。
- アスベスト被害を知った時点から3年もしくは5年
- 最も重い症状が新たに判明した時点から20年
他方で、安全配慮義務違反による請求をする場合の訴訟要件は、最も重い症状が新たに判明した時点から10年です。
つまり、最終的に診断結果が出てから10年経過すると、安全配慮義務違反を軸に請求することができなくなります。
2.国を被告とするアスベスト訴訟で受給できる賠償金
国を被告とするアスベスト訴訟で受給できる賠償金についてご紹介します。
賠償金は被害者が存命しているか死亡しているかで大きく差が発生する点に注目です。
被害者本人が請求する場合 | |
病態区分 | 金額 |
---|---|
石綿肺 (管理2) 合併症なし | 550万円 |
石綿肺 (管理2) 合併症あり | 700万円 |
石綿肺 (管理3) 合併症なし | 800万円 |
石綿肺 (管理3) 合併症あり | 950万円 |
中皮腫、肺がん、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚、石綿肺 (管理4)、良性石綿胸水である者 | 1,150万円 |
被害者の遺族が請求する場合 | |
病態区分 | 金額 |
---|---|
石綿肺 (管理2) 合併症なし | 1,200万円 |
石綿肺 (管理2) 合併症あり | 1,300万円 |
石綿肺 (管理3) 合併症なし | 1,200万円 |
石綿肺 (管理3) 合併症あり | 1,300万円 |
中皮腫、肺がん、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚、石綿肺 (管理4)、良性石綿胸水である者 | 1,300万円 |
病態区分によっても若干差があるので、診断結果を参考にしてどの区分に該当するかチェックしておきましょう。
これに対し、企業や使用者を相手に訴訟を提起した場合は、具体的にどのような損害が発生していると言えるかによって賠償金が決定されます。
そのため、国を相手にする場合よりも、主張や立証が大変である傾向にあります。
3.国を相手とするアスベスト訴訟の主な流れ
国を相手にアスベスト訴訟を提起する際の流れについてご紹介します。
主な流れは以下のとおりです。
- お問い合わせ・相談
- 訴訟準備
- 訴訟提起
- 口頭弁論で和解要件の主張・立証
- 裁判上で和解
アスベスト訴訟を提起したいと考えている方は、参考にしてみてください。
なお、以下の記事で具体的に説明しているので、詳しくはそちらをご参照ください。
(1)お問い合わせ・相談
まずは、弁護士に問い合わせて、アスベストの被害に遭われたことを相談しましょう。
担当弁護士から、訴訟の流れや必要な手続等の説明があります。
今後の方針に関する説明等に納得がいったら、訴訟手続の依頼をしましょう。
なお、安心して任せるためにも不明なことなど何でも質問し、不安を少しでも解消しておくことをおすすめします。
(2)訴訟準備
訴訟提起に向けて準備を行います。
賠償金を受け取るために必要なことは、アスベストによる健康被害を立証することです。
健康被害がアスベストによって引き起こされたことを証明しなければ、賠償金を受け取ることはできません。
そのためにも、アスベストによる健康被害を受けるまでの経緯や内容を明確にしておく必要があります。
弁護士から立証に必要な書類等の説明があるので、指示に従って証拠書類を揃えましょう。
(3)訴訟提起
準備が整い次第、訴訟を提起します。
訴訟に必要な手続は弁護士が行うため、契約した弁護士事務所に任せましょう。
訴訟を提起する際は、それまでに準備した証拠に基づいて適切な主張をすることが大切です。
専門的な知識が必要となるため、やはり弁護士に依頼していただくのがよろしいでしょう。
(4)口頭弁論で和解要件の主張・立証
口頭弁論では、和解要件の主張や立証を行い、アスベストの健康障害を証明します。
主に立証する点は以下の3つです。
- 一定期間における石綿(アスベスト)工場での作業従事歴
⇒昭和33年5月26日から昭和46年4月28日までの期間のことで、石綿工場内で石綿粉じんにばく露する作業に従事していることを証明することが必要 - アスベストによる健康被害の内容
⇒石綿肺や肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚などのアスベストによる健康被害を被っていることを立証することが必要 - 損害賠償請求権の消滅時効が完成していないこと
⇒石綿の病気の確定診断、死亡、労災認定またはじん肺管理区分決定から20年経過していないこと等、時効となっていないことを証明することが必要
ちなみに、日本年金機構発行の「被保険者記録照会回答票」や都道府県労働局長発行の「じん肺管理区分決定通知書」、労働基準監督署長発行の「労災保険給付支給決定通知書」、医師の発行する「診断書」等の証拠書類で立証することが可能です。
これらの証拠書類を揃えた上で訴訟を提起するので、たいていは早期に和解が認められます。
(5)裁判上の和解
和解要件の立証に成功したら、和解が成立します。
裁判所で和解調書というものが作成され、これは判決と同等の効果を持ちます。
裁判終了後、和解に基づいて賠償金が支払われるので、確認しましょう。
国を相手に訴訟を提起した場合は、先にご紹介した金額が病態区分に応じて支払われます。
まとめ
アスベスト訴訟を提起し、和解金を受け取るためには、いくつかの要件を満たす必要があります。
和解成立に至るには、準備の段階で立証するための証拠書類を揃えることが重要です。
まずは弁護士に相談して、訴訟要件を満たしているか確認してもらい、弁護士が賠償金を受け取れる可能性があると判断した際は、訴訟の準備に取り掛かりましょう。
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