雇用契約書の書き方とは?正社員・パートアルバイトなど雇用形態別の注意すべきポイントについて解説

執筆者 金子 周平 弁護士

所属 栃木県弁護士会

法律は堅苦しいという印象はあるかと思います。しかし、そんなイメージに阻まれて、皆さんの問題や不安が解決されないのは残念でなりません。
私は、そんな法律の世界と皆さんを、柔和に橋渡ししたいと思っています。問題解決の第一歩は、相談から始まります。
皆様が勇気を振り絞ってご相談をしていただければ、後は私どもが皆様の緊張や不安を解消できるよう対応し、法的側面からのサポートができればと思います。敷居はバリアフリーです。あなたの不安を解消するために全力でサポート致します。

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あわせてご視聴いただければと思います。

「雇用契約書の作成をしたいが、書き方や注意すべき点などがわからない」
「そもそも雇用契約書は作成しなければならないのか」

このような悩みを抱えておられる事業主、経営者の方も多くいらっしゃるでしょう。

本記事では、採用時において雇用契約書を作成する場合に、どのように記載すればいいのか、どのような点に注意すべきかについて、ご紹介します。

この記事を読んで、雇用契約書とはなにか、雇用契約書を作成する際の注意点を知っていただく一助になれば幸いです。

1. 雇用契約書について

債務整理に関する悩みは弁護士に相談する

そもそも、雇用契約書とはどのようなものでしょうか。

内容や、どのような効力があるかについて説明していきます。

(1) 雇用契約書とは

従業員との間で雇用契約を締結する際、その契約内容を明記した契約書を雇用契約書といいます。

雇用契約書の作成自体は法律上の義務ではありませんが、契約の内容等をきちんと双方で確認をしたうえで署名捺印をする雇用契約書は、重要な意味を持ちます。

そのため、従業員を雇い入れるときには作成しておいた方が好ましいと言えます。

雇用契約書と似たものとして、労働条件通知書というものがあります。

これは、文字通り雇用契約の内容を明記して通知するためのものです。

雇用契約(労働契約)が生活に密接にかかわるものであることから、曖昧な内容のまま働くことのないように作成が義務付けられています。

これは契約書とは異なり、使用者が一方的に通知をすればいい物であり、従業員の署名捺印等は不要です。

(2) 雇用契約書の法的効力について

契約書は、契約当事者の権利や義務について明記し、双方で署名捺印をしたものです。

そのため、双方の署名捺印がされた契約書が作成された場合、原則としてその記載内容で合意が成立したと捉えられます。

しっかりと内容をすり合わせたうえで署名捺印をもらうことが大切です。

(3) 雇用契約書はなぜ必要であるのか

口頭の約束でも成立するのであれば、雇用契約書は交わす必要がないと思われる方がいるかもしれません。

しかし、使用者と労働者との間にどのような条件で雇用契約が成立したかについて認識のずれなどがあると、労使間のトラブルに発展する可能性があります。

このような無用のトラブルを避け、使用者と労働者の信頼関係を構築するためにも、雇用契約はきちんと書面で交わすようにしましょう。

2. 雇用契約書の書き方

次に、雇用契約書の記載事項について、詳しくみてみましょう。

(1) 全労働者に共通する事項

使用者は、労働者を採用するときは、労働条件を明示しなければなりません。

そして、雇用契約書と労働条件通知書は分けて作成する必要はありません。

実務上は、「雇用契約書兼労働条件通知書」として、雇用契約書の中に、労働条件を記載して、労働条件通知書を兼ねることもあります。

厚生労働省のホームページにモデル書式が掲載されていますが、実際にどのような契約を結ぶかは様々ですので、念のため弁護士などの専門家にも見せていただいた方がより安心です。

雇用契約書を労働条件通知書と兼ねる場合、法律上記載しなければならない事項があります。

どんな場合も必ず明示しなければならない事項を「絶対的記載事項」、定めをおいた場合に明示しなければならない事項を「相対的記載事項」といいます。

絶対的記載事項としては、以下のものがあります。

  1. 労働契約の期間
  2. 期間の定めがある契約を更新する場合の基準に関する事項
  3. 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
  4. 始業・終業時刻、所定労働時間超えの労働の有無、休憩時間、休日、休暇、2交代制等に関する事項
  5. 賃金の決定・計算・支払方法、賃金の締切・支払時期、昇給に関する事項
  6. 退職(解雇の事由を含む)に関する事項

相対的記載事項としては、退職手当に関する事項、賞与などに関する事項、休職に関する事項等があります。

また、上記の記載事項にはあたりませんが、新規採用の場合は、試用期間などを設ける場合があり、その場合、試用期間の有無、期間、試用期間中の賃金や待遇について、雇用契約書に記載したほうがいいでしょう。

(2) パートタイム社員・アルバイト社員の場合

パートタイム社員・アルバイト社員のような短時間労働者(パートタイム労働者)を雇用する場合には、以上のような絶対的記載・相対的記載事項に加えて

  1. 昇給の有無
  2. 退職手当の有無
  3. 賞与の有無

を明示しなければなりません(パートタイム・有期雇用労働法6条)ので、注意が必要です。

3. 雇用契約書作成の注意点

雇用契約書作成時、法令に違反しないようにするなど、注意すべき点がいくつかあります。

雇用契約書を作成する際は必ず確認しましょう。

(1) 労働基準法・労働協約・就業規則の内容と照らし合わせて、項目を記載すること

雇用契約書を作成する際は、労働条件が労働基準法、労働協約、就業規則に違反しないか、確認することが必要です。

#1:労働基準法は、労働条件に関する最低基準を定めた法律です。

労働条件が、労働基準法の定める基準に達しない場合は、その部分については無効となります(労働基準法13条)。

雇用契約書記載の労働条件が、労働基準法の定める基準をクリアしているか、よく確認するようにしましょう。

#2:労働協約とは、労働組合と使用者との間の労働条件そのほかの労働者の待遇に関する合意をいいます。

労働協約に定める労働条件そのほかの労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は無効となります(労働組合法16条)ので、労働基準法と同様に、雇用契約書の労働条件が労働協約に反する内容となっていないか、確認するようにしましょう。

#3:就業規則は、使用者と対象となる労働者との間の統一したルールです。

就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効となります(最低基準効といいます。労働契約法12条)ので、雇用契約書を作成する際は就業規則に反しないよう注意しましょう。

(2) 求人の内容・就職説明会・面接の内容と矛盾しないようすること

求人内容・就職説明会・面接で示された労働条件は、ただちには労働契約の内容にはなりません。

もっとも、あたかもその内容で契約を締結するかのように説明を行っていたにもかかわらず、異なる内容で雇用契約を結んだ場合には、民法上の不法行為に該当する可能性も生じます。

そのため、求人の内容等と矛盾しないようにし、仮に異なる場合には雇用契約書を締結する際に十分に説明を行うよう注意しましょう。

(3) 雇用契約書の使い回しは避けること

労働関連法規は、社会情勢等を反映して改正が多い分野です。

そのため、雇用契約書を一度作成したきり、数年にわたって内容の見直しをしていないような場合、最新の法律に則った内容になっていない可能性があります。

弁護士等の専門家に定期的にチェックを受けた方が安心です。

(4) 賠償予定についての文言は入れないこと

使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をすることはできません(労基法16条)ので、賠償予定についての文言は入れないようにしましょう。

4. 雇用契約書作成でよくある質問

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雇用契約書作成に関してよくある質問として、以下のようなものがあります。

  1. 雇用契約書の作成のタイミング
  2. 雇用契約書原本の保管期間
  3. 雇用契約書の内容に変更があった場合の対応方法
  4. 雇用契約書の内容に違反するケースが生じた場合の対応方法

以下、順にみていきましょう。

(1) 雇用契約書の作成のタイミング

少なくとも雇用契約を締結するときには取交しができるように準備していたいものです。

そのため、新規従業員を雇い入れることになった場合、速やかに作成に着手し、勤務開始日には取交しができるようにしておきましょう。

(2) 雇用契約書原本の保管期間

令和2年の労基法の改正で、雇用契約書原本などの雇入れに関する書類等の保管期間は3年から5年に延長されました(ただし、経過措置として、当分の間は3年が適用されます)。

今後は、労働者の退職又は死亡の日から5年間は保管するようにしましょう(労働基準法109条、同施行規則56条1項3号)。

(3) 雇用契約書の内容に変更があった場合の対応方法

雇用契約書の内容に変更がある場合、どのように対応すればよいのでしょうか。

#1:使用者と労働者の合意により契約内容を変更する場合

使用者と労働者との合意により労働契約の内容を変更する場合(労働契約法8条)、労働者の合意が自由意思に基づいてなされたかが問題になることもあるので、労働者に適切に情報を提供した上で、説明義務を果たすように気を付けましょう。

複雑で多岐にわたる変更内容を使用者が口頭で説明したに過ぎないケースでは、変更内容の特定が不十分であるとして合意の成立が否定されるとした裁判例があります(東武スポーツ事件。東京高判平成20年3月25日)。

#2:就業規則で定めた労働条件を変更する場合

使用者と労働者間の個別の労働契約で定めていない労働条件については、就業規則で定めた労働条件が適用されます(契約内容補充効といいます。労働契約法7条本文)。

就業規則で定められた労働条件を変更する場合、使用者が就業規則の変更により労働条件を不利益に変更することは原則として許されていません。

もっとも、変更後の就業規則を労働者に周知し、その内容が合理的であれば例外的に変更できるとされています。

労働者・使用者が就業規則による変更を予定しない労働条件を合意していた場合は、その特約が優先します(労働契約法10条ただし書き)ので、その点にも留意するようにしましょう。

(4) 雇用契約書の内容に違反するケースが生じた場合の対応方法

使用者側が雇用契約書の内容に違反した場合、労働者は、即時に労働契約を解除することができます(労働基準法15条2項)。

一方、労働者側が雇用契約書の内容に違反した場合は、契約に違反したとして、損害賠償責任を負ったり、懲戒の対象となったりする可能性があります。

5. 雇用契約書作成に関して弁護士に相談するメリット

任意整理をどこの弁護士事務所に依頼するべきか

雇用契約書が重要な書面であるからこそ、作成をきちんと行うことが大切です。

以下では弁護士に相談するメリットについて説明します。

(1) 企業事情に合わせた雇用契約書の作成

各企業によって、従業員の雇用形態・勤務形態、就業規則の内容も千差万別です。

弁護士に依頼すれば、各企業の事情に合わせた雇用契約書を作成することができます。

(2) 自社で作成した雇用契約書のリーガルチェック

また、すでに雇用契約書の書式を自社で作成している場合であっても、労働関連法令は毎年のように改正されているため、法律の専門家である弁護士などに定期的にリーガルチェックを受けた上で、雇用契約書をアップデートすることが望ましいです。

まとめ

本記事では、採用時において雇用契約書を作成する上で、どのような点に注意すればいいのかなどについて紹介しました。

専門家である弁護士に相談することで、適切に雇用契約書を作成、締結し、未然にトラブルを防止することができるでしょう。

雇用契約書の作成について、懸念点がある方は、一度弁護士に相談することをお勧めします。

執筆者 金子 周平 弁護士

所属 栃木県弁護士会

法律は堅苦しいという印象はあるかと思います。しかし、そんなイメージに阻まれて、皆さんの問題や不安が解決されないのは残念でなりません。
私は、そんな法律の世界と皆さんを、柔和に橋渡ししたいと思っています。問題解決の第一歩は、相談から始まります。
皆様が勇気を振り絞ってご相談をしていただければ、後は私どもが皆様の緊張や不安を解消できるよう対応し、法的側面からのサポートができればと思います。敷居はバリアフリーです。あなたの不安を解消するために全力でサポート致します。