解雇の場面で生じるトラブル事例とは?注意点を弁護士が解説

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「従業員の解雇を検討しているが、どのように進めるべきか分からない」
「解雇の手続を進める上で注意すべきポイントについて知りたい」

企業の人事担当者の中には、このような悩みをお持ちの方もいると思います。

解雇は、会社側の一方的な意思表示によって従業員との労働契約を終了させることです。

具体的には、従業員の能力不足や労働契約に定められた労務の提供が困難である場合には、解雇が検討されることがあります。

しかし、そのような場合でも、解雇を行う上では会社側は十分に注意しなければならないポイントがあります。

本記事では、従業員を解雇する場合の注意点について、具体的な事例ごとに裁判例も踏まえながら解説します。

従業員の解雇事例と注意点

会社が従業員を解雇する事例で問題となりやすいのは、以下のようなものが挙げられます。

従業員の解雇に関する主な事例

  1. 勤務態度不良、会社秩序を乱したことを理由に解雇するケース
  2. 人事考課が低いことを理由に解雇するケース
  3. 出勤不良を理由に解雇するケース
  4. 新卒一括採用者(ゼネラリスト)を能力不足を理由に解雇するケース
  5. 新卒一括採用者(スペシャリスト)を能力不足を理由に解雇するケース
  6. 協調性不足を理由に解雇するケース
  7. 雇用主の社会的信用や名誉の棄損を理由に解雇するケース
  8. 業務災害や私傷病で業務を遂行できないことを理由に解雇するケース
  9. 解雇後、長期間経過してから解雇の有効性が争われたケース
  10. 解雇の違法性を理由に慰謝料請求されたケース
  11. 中途採用した一定の経歴・職歴を持つ課長を能力不足を理由に解雇するケース
  12. 即戦力として中途採用した営業部員を能力不足を理由に解雇するケース
  13. 入社時の経歴詐称を理由に解雇するケース
  14. 窃盗行為を理由に解雇するケース
  15. 残業代の詐取を理由に解雇するケース
  16. ストーカー行為を理由に解雇するケース

それぞれのケースでの注意点について解説します。

(1)勤務態度不良、会社秩序を乱したことを理由に解雇するケース

勤務態度不良や会社秩序を乱したことを理由に、解雇をすること自体は認められます。

もっとも、従業員の一度の行為だけでは、解雇は有効とは判断されません。

勤務態度不良行為や会社秩序を乱す行為が積み重ねられる必要があります(東京高判平成14年9月30日、大阪地決平成7年12月21日参照)。

このようなケースでは、会社側は、従業員による勤務態度行為や会社秩序を乱す行為の把握はもとより、都度、従業員に対して十分な注意・指導を行い、従業員本人に改善の機会を与える努力をすることが必要です。

(2)人事考課が低いことを理由に解雇するケース

就業規則上、勤務成績が不良で改善の見込みがない場合を普通解雇事由に挙げ、人事考課上も同じ内容を最低評価の該当事由として定めている場合が多いと思います。

この場合、人事考課で最低評価となれば普通解雇事由に該当するため、会社は当該従業員を有効に解雇できる余地があります。

もっとも、人事考課上、最低評価を付すことは稀で、一定の水準には達しているが改善が必要などの甘い評価となっていることが多いです。

このような場合、普通解雇事由には該当しないとして解雇の有効性が争われることがあります(東京地判平成22年12月27日、同控訴審東京高判平成24年3月26日)。

緩い評価をつけていた場合、会社としては人事考課上は甘く評価していたことを立証していく必要がありますが、その立証は困難ですので日ごろから厳格に評価しておくことが重要です。

また、人事考課の結果だけでなく、その判断に至った過程も記録化しておくことが重要です。

(3)出勤不良を理由に解雇するケース

出勤不良も就業規則に定めがある限り、普通解雇をなし得ます。

もっとも、解雇の有効性が争われる場合、出勤率と欠勤理由、そして、適正な手続を経ていたかが重要となります。

約4か月半に渡る長期欠勤を続けていた従業員に対する解雇の有効性が争われた事例では、普通解雇事由に該当することを前提に、会社から従業員に対して、出勤するか休業の必要性を記した診断書を提出するよう再三求め、労働組合にも退職勧告書を送付するなど、解雇前に十分な手続を経ていたことから解雇は有効と判断されました(大阪地判平成24年2月15日)。

但し、出勤率が8割以上の労働者の場合は、解雇の有効性の判断はより厳格になるでしょう。

その場合は、欠勤理由がより重要となります。

また、欠勤理由の有無を明らかにするために、私傷病を理由とする場合には診断書の提出を求められるようにしておくこと、さらには、会社指定の医療機関を受診させられるようにしておくことも重要です。

(4)新卒一括採用者(ゼネラリスト)を能力不足を理由に解雇するケース

一般に、会社側と新卒一括採用者(ゼネラリスト)との労働契約において、当該従業員が特定の業務を遂行することのできる能力を有するかという点は、契約内容に具体的には含まれていないものと解釈されます。

このような新卒一括採用者(ゼネラリスト)を、能力不足を理由に解雇することは、会社側の教育や指導により改善する可能性が十分に認められる余地があると考えられるため、極めて困難です。

会社側としては、新卒一括採用者(ゼネラリスト)の教育と、人事異動を通して、当該従業員の職務遂行能力の向上を図るべきです。

(5)新卒一括採用者(スペシャリスト)を能力不足を理由に解雇するケース

技術開発などの専門分野では、新卒一括採用者であっても、スペシャリストの採用が考えられます。

スペシャリストであったとしても、職務経験がないことによる新卒一括採用者特有の未熟な点は考慮されますので、特定業務に対する能力不足を理由に、直ちに解雇することは困難です。

会社側としては、新卒一括採用者(スペシャリスト)の特定業務に対する能力不足が明らかである場合、支援体制の確立、現実の支援、当該従業員に対する退職や異動の提案など、雇用確保の努力をすべきです。

(6)協調性不足を理由に解雇するケース

協調性不足は、普通解雇事由に該当します。

もっとも、会社側としては、当該従業員の協調性不足を是正するための措置を講じるべきです。

特に、従業員数の多い会社では、協調性が保たれていない原因を当該従業員一人にあるものと断定できないケースがほとんどです。

そのため、会社側としては、数回の配転を試みて、「心機一転、協調性を持って業務にあたるように。」などと指導をするべきです。

(7)雇用主の社会的信用や名誉の棄損を理由に解雇するケース

週刊誌やSNS等の媒体を介して、従業員から雇用主を誹謗中傷することがあります。

議論の範疇を超えて、雇用主への誹謗中傷に及んでしまうケースでは、会社側と当該従業員の信頼関係は回復し難いほど損なわれますので、当該従業員の解雇の有効性は問題とならないことが多いです。

もっとも、雇用主の社会的信用や名誉の棄損も、その程度は様々です。

会社側の解雇権の濫用にあたらないといえる程度は、①当該従業員の行為によって事実が歪曲され、②その事実が会社の経営の根幹にかかわるものであるかという点を判断基準とすべきです(最判平成6年9月8日参照)。

(8)業務災害や私傷病で業務を遂行できないことを理由に解雇するケース

労働契約上の従業員の義務は労務提供にあります。

したがって、従業員が業務を遂行できないことは、従業員の労働契約上の契約違反ですから、原則として普通解雇事由に該当します。

しかしながら、業務災害を原因とする傷病で労務提供が完全に出来なくなった場合は労働基準法上、解雇制限が適用されるため(同法19条1項本文)、療養のための休業期間及びその後30日間は解雇できません。

復帰後、残存した症状を理由に以前の労務を提供出来なくなった場合でも、解雇は厳格に解されるべきでしょう。

もっとも、会社が職場復帰後、通院や業務内容に対して十分に配慮するなど誠実な支援を行ってきた後の解雇は有効と判断されたケースもあります(名古屋地判平成元年7月28日)。

一方で、私傷病の場合は、原則どおり、普通解雇事由に該当します。

不完全な労務提供が続く場合にも解雇を容易にするために、就業規則には、「身体、精神の故障で業務に耐えないとき、または不完全な労務提供しかできないとき」を解雇事由として明記しておくべきです。

但し、実際の対処としては、休職措置を採った後に契約解消に進める方がトラブルを避けられ無難です。

(9)解雇後、長期間経過してから解雇の有効性が争われたケース

解雇無効を理由に労働契約上の地位を確認する訴訟を提起することに、法律上、期間制限はありません。

もっとも、解雇から10年以上経過後に解雇無効を主張したケースでは、長期間の経過により既に会社内に新たに形成されている秩序を覆すことになること、解雇された労働者が異議なく解雇予告手当てや退職金を受領したことなどが考慮され、解雇無効の主張は信義則に反すると判断されています(名古屋地判昭和46年5月26日、長崎地判昭和60年2月27日参照)。

(10)解雇の違法性を理由に慰謝料請求されたケース

違法な解雇が認められるとしても、必ずしも会社の慰謝料支払義務は認められません。

解雇の違法性は、会社の解雇権の行使が不法行為に当たるかどうかではなく、解雇に合理的理由や社会通念上の相当性があるかという基準から判断されるためです。

そのため、違法な解雇を理由として会社の慰謝料支払義務が認められるのは限定的です。

懲戒解雇の事例では、①雇用主が懲戒解雇すべき非違行為が存在しないことを知りながらあえて懲戒解雇した場合、②杜撰な調査、弁明の不聴取などによって非違事実を誤認して懲戒解雇した場合、③懲戒処分の相当性の判断において明白かつ重大な誤りがある場合などでないと会社に対する慰謝料請求は認められないとされています(静岡地判平成17年1月18日)。

普通解雇の事例では、会社は慎重に調査していれば解雇事由に当たる事情が認められないことを知り得たことを理由に、会社の不法行為を認め、慰謝料請求が認められたケースもあります(東京高判平成7年2月28日)。

(11)中途採用した一定の経歴・職歴を持つ課長を能力不足を理由に解雇するケース

会社側は即戦力として期待して採用しますので、能力不足は、債務不履行として普通解雇事由に該当する場合があります。

一定の経歴・職歴を持つ候補者を採用する段階で、会社側としては、期待する能力や成果を提示して、これに対する当該採用希望者の回答を記載した、採用面談記録を残しておくことが有用です。

また、実際に採用する段階では、個別の雇用契約書を作成して、契約内容を明確にしつつ、会社側から当該従業員に対する要望と、当該従業員の回答を明文化しておくべきです。

能力不足か否か判定をするには、1~2年間の期間を要することが通常です。

また、能力不足が疑われたとしても、改善の機会を与えた上で判定するよう手順を踏むべきといえます。

(12)即戦力として中途採用した営業部員を能力不足を理由に解雇するケース

会社側は一定の経験、職務遂行能力を有することを期待して採用しますので、能力不足は、債務不履行として普通解雇事由に該当する場合があります。

もっとも、どのような職務遂行能力が要求されるか判然としないケースも散見されますので、募集段階で、「○○販売の営業経験〇年以上」など、営業内容と経験年数を特定するべきです。

アパレル業界における営業経験者として採用された従業員について、「未経験者の新人と同様に論じることはできない。」として、売上目標額の30%程度の達成率であった当該従業員の営業成績不良による解雇を有効とした事案があります(大阪地判平成3年11月29日参照)。

(13)入社時の経歴詐称を理由に解雇するケース

最終学歴や職歴等の経歴詐称を、懲戒解雇事由として規定する会社は多くあります。

経歴詐称は、採用時の会社の判断を誤らせるもので、裁判所も、懲戒解雇事由として認めています。

もっとも、懲戒解雇事由となる経歴詐称は、軽微なものでは足りず、重大な経歴詐称に限られるとされていますので(神戸地判昭和30年6月3日参照)、会社側の求める人物像や採用面接時の記録を踏まえて、経歴詐称の程度を十分に吟味する必要があります。

(14)窃盗行為を理由に解雇するケース

従業員が不正に金品を取得する行為は、刑事罰に相当する行為であることはもちろん、会社に対する背信性の高い行為です。

業務への影響がなく、回数・金額も少なく、行為期間も短いといった例外的な場合を除いて、懲戒解雇事由に該当します。

もっとも、解雇後のトラブルを未然に防ぐとの観点から、合意退職を認めるとの態度を採ることも有用です。

(15)残業代の詐取を理由に解雇するケース

打刻等による残業時間の自己申告は、従業員の賃金に直結します。

会社側からみると、従業員による残業代の詐取は、会社を欺く行為、会社に損害を与える行為ですので、原則として懲戒とするべきです。

もっとも、外勤等で労働時間を十分に把握することが困難な場合、会社側としては、時間外労働をした時間は、その都度正確に申告するよう指導して、改められない場合に限って懲戒解雇とするべきです。

(16)ストーカー行為を理由に解雇するケース

被害者側の従業員からストーカー被害の相談、訴えがあった場合、会社側は、慎重に事実関係を調査するよう努めなければなりません。

被害者側の従業員からすると、精神的な苦痛、身体的な危険、さらには生命の危険を感じることもありますので、会社内部での解決を目指すのではなく、警察への相談が必要になります。

ストーカー行為が事実であった場合、会社側としては、加害者側の従業員に対して、警告する、配転する等の措置を講じるべきです。

このような措置にもかかわらず、ストーカー行為を繰り返す場合には、事案に応じて、普通解雇、又は、懲戒解雇とします。

まとめ

本記事では、具体的な事例ごとに解雇を行う際の注意点について解説しました。

従業員の解雇を行う場合には、その理由ごとに会社として行うべき対応や手続などがあります。

しかし、どのような対応を行うべきかは判断が難しいこともあり、対応を誤ると従業員との間で法的トラブルになる可能性もあります。

そのようなリスクを回避するためにも、まずは弁護士に相談することがおすすめです。

執筆者 金子 周平 弁護士

所属 栃木県弁護士会

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