パワハラについて

執筆者 金子 周平 弁護士

所属 栃木県弁護士会

法律は堅苦しいという印象はあるかと思います。しかし、そんなイメージに阻まれて、皆さんの問題や不安が解決されないのは残念でなりません。
私は、そんな法律の世界と皆さんを、柔和に橋渡ししたいと思っています。問題解決の第一歩は、相談から始まります。
皆様が勇気を振り絞ってご相談をしていただければ、後は私どもが皆様の緊張や不安を解消できるよう対応し、法的側面からのサポートができればと思います。敷居はバリアフリーです。あなたの不安を解消するために全力でサポート致します。

近年、パワハラという言葉が世間一般で使われるようになり久しく、職場内で責任追及のトラブルが起きるケースも多くなっています。

もっとも、そもそもパワハラとは一体どのような場合をいうのか、また、パワハラに基づき会社や当事者はどのような責任を負うのか、さらに、パワハラが起きないために企業としてどのような対策が求められるのかをご紹介します。

1 パワハラとは

一般に、パワハラというと職場内のいじめが想定されます。

しかし、どのような場合が違法なパワハラと考えられるでしょうか。

~法令上の定義はない~

パワハラを定義する法令は未だありません。

もっとも、厚生労働省の提言の中では、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と定義されています。

さらに、以下の6類型を典型例として整理しています。

① 身体的な攻撃 : 暴行・傷害
② 精神的な攻撃 : 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言
③ 人間関係からの切り離し : 隔離・仲間外し・無視
④ 過大な要求 : 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
⑤ 過小な要求 : 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
⑥ 個の侵害 : 私的なことに過度に立ち入ること

但し、実際の職場では多様な形で嫌がらせがあるのが現実です。

したがって、この6類型に該当しないからといってパワハラに当たらないというわけではありません。

また、暴言があったとしても、例えば、上司が部下の業務上のミスを原因として叱責することは業務の範囲内として容認されるケースも十分考えられます。

業務上の指摘を超えて、人格攻撃になっているようなときなど、業務の範囲を超えた行為であるかは違法性の重要な指標となります。

~裁判上では~

この点、裁判例では、ハラスメント行為の違法性は、被害者と加害者の職務上の地位・関係や、行為の場所・時間・態様、被害者の対応等の諸般の事情を考慮して、行為が社会通念上許容される限度を超え、あるいは、社会的相当性を超えると判断されるときに認められるとされています。

被害者の感じ方も重要ですが、それだけで違法性が決められるものとは考えられていません。

~具体例~

実質的最高責任者である上司が、看護部で働く従業員と頻繁に食事し、高級品の贈与などしていた。

従業員は断りにくかったためこのような付き合いが続いていたが、付き合いがなくなったと同じ頃に、それまで一人に集中して命じられることはないような瓶の洗浄等の労働を集中的に命じられるようになった。

これらは嫌がらせと捉えられてもおかしくないものであった。また、その従業員が妊娠したところ、これを知った上司からは中絶を示唆するなどの言動があった。

裁判例では、このような言動を、人格的利益を侵害する違法な嫌がらせであったと認めています。

2 発生する責任

加害者の責任

では、違法なパワハラと認定された場合、加害者や会社はどのような責任を追及されるのでしょうか。

加害者の責任

まず、加害者は、不法行為責任を負います(民歩709条)。その結果、慰謝料等の損害賠償義務が生じることになります。

加害者が株式会社の役員である場合は、会社法上の損害賠償責任である役員等の第三者に対する損害賠償責任が生じる場合もあります(会社法429条1項)。

犯罪行為に該当すれば、刑事的な責任を負うことにもなります。

会社の責任

会社は、加害者の使用者として使用者責任を負います(民法715条)。

その結果、会社もまた被害者へ慰謝料等の賠償義務を負います。

さらに、会社は、配慮義務違反や労働環境整備義務違反として、労働契約上の債務不履行責任を負います(415条)。

なお、上記の具体例では、法人に職場環境配慮義務違反による債務不履行が認められています。

素因減額や過失相殺の余地

パワハラ行為を含む過重労働の事例において、労働者の個性が通常想定される範囲のものである限り、損害額の決定に当たり、その性格やこれに基づく業務遂行の態様等を心理的要因として考慮することはできないとされています(電通事件最高裁判決)。

また、過重労働のケースで精神疾患を発症した事例ですが、メンタルヘルスに関して従業員から申告されることは想定し難いことから、使用者は申告がなくとも健康に関する労働環境に十分な注意を払うべき安全配慮義務を負い、必要に応じて業務軽減など労働者の心身の健康への配慮に努める必要があるとして、従業員が精神罹患に関する情報を使用者に申告しなかったことに基づく過失相殺を認めませんでした(東芝うつ病解雇事件最高裁判決)。パワハラ事例でも同様の判断がなされると考えられます。

3 パワハラトラブルの予防策

会社としては、従業員がパワハラを行うことを未然に防がなければなりません。
その方法としては、

① 就業規則でパワハラ禁止を定め、具体例も列挙しておく。
② 研修を実施する。
③ 相談窓口を設置し、適切に運営する。

などがあります。

いずれも、従業員にパワハラ防止への意識を強く持ってもらうためのものです。

それだけでなく、実際にパワハラが発生した場合でも、被害者からの訴えに対して、会社はしっかりと労働環境を整えていたことを主張できることにもなります。

4 実際にパラハラ被害の申告があった場合

会社に、被害者からパワハラ被害の申告があった場合は、まずは詳しい事情を聴取して、その後、事実と確認できれば改善の為の環境整備を行い、再発防止に努めることが必要です。

申告があったにもかかわらずまともな調査もせず、職場環境の改善がなく被害者が自殺したというケースも見られます。

そうなるとより大きな責任を裁判上等で追及されるでしょうから、把握したらすぐに動き改善を図ることが重要です。

パワハラという言葉が広く知られるようになり、会社としては従業員からパワハラ被害の申告や相談が多くなっています。

しかし、何でも違法なパワハラに当たるわけではありません。

また、逆に違法性が認められるのであれば、企業イメージのため、さらに、他の従業員への影響も考慮すると、トラブルが増大しないようにすべきです。

パワハラ問題で現にお悩みの担当者の方やこれからの対策を検討されている担当者の方は、ぜひ法律家に相談してください。

5 パワハラと労災

パワハラにより精神疾患を発症して療養や休業を余儀なくされた場合、従業員から労災申請がなされることがあります。

また、当該従業員が自殺した場合は、遺族から労災申請をなされることがあります。

パワハラが労災と認定される要件は、次のとおりです。

① 認定基準の対象となる精神障害を発症していること
② 認定基準の対象となる精神障害の発症前のおおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
③ 業有無以外の心理的負荷や個体側要因により発症したと認められないこと

※厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準について」参照

パワハラという言葉が広く知られるようになり、会社としては従業員からパワハラ被害の申告や相談が多くなっています。

しかし、何でも違法なパワハラに当たるわけではありません。

また、逆に違法性が認められるのであれば、企業イメージのため、さらに、他の従業員への影響も考慮すると、トラブルが増大しないようにすべきです。

パワハラ問題で現にお悩みの担当者の方やこれからの対策を検討されている担当者の方は、ぜひ法律家に相談してください。

執筆者 金子 周平 弁護士

所属 栃木県弁護士会

法律は堅苦しいという印象はあるかと思います。しかし、そんなイメージに阻まれて、皆さんの問題や不安が解決されないのは残念でなりません。
私は、そんな法律の世界と皆さんを、柔和に橋渡ししたいと思っています。問題解決の第一歩は、相談から始まります。
皆様が勇気を振り絞ってご相談をしていただければ、後は私どもが皆様の緊張や不安を解消できるよう対応し、法的側面からのサポートができればと思います。敷居はバリアフリーです。あなたの不安を解消するために全力でサポート致します。