遺産分割協議成立申立書で相続した自動車の名義を変える方法を弁護士が解説

執筆者 西村 賢二 弁護士

所属 第二東京弁護士会

私は、症状の大小に関わらず気軽に受診できる身近なお医者さんのような弁護士でありたいと思っています。まずは、直面された法的問題についてご遠慮なくご相談ください。
個人の方の日常生活や法人の方の事業活動の中で生じるご相談に幅広く適切に対応できるように努め続けたいと思っております。

「自動車を相続することになったが、名義変更の仕方が分からない」
「遺産分割協議成立申立書で相続した自動車の名義変更が簡単に行える場合があると聞いたことはあるが、どんな手続きか知りたい」

亡くなられた方(被相続人)から自動車を相続した場合にその名義変更でお困りの方も多いと思います。

亡くなられた方名義の自動車が相続財産に含まれる場合には、その自動車も含め、相続人間で遺産分割を行って誰が自動車を相続するのか決めたうえで、その名義の変更を行う必要があります。

そして、遺産分割によって軽自動車以外の自動車を取得した場合の名義変更には、遺産分割協議書を運輸支局に提出して行う方法と、それより簡便な遺産分割協議成立申立書を運輸支局に提出して行う方法があります。

ここでは、遺産分割協議成立申立書を用いて名義変更を行う場合の手続についてご説明いたします。

遺産分割で自動車を取得することになったものの、どのような場合に遺産分割協議成立申立書を用いることができるのか、用いる場合の手続きが分からないといったお悩みをお持ちの方は、ご参考になさってください。

1.遺産分割協議書と遺産分割協議成立申立書による自動車の名義変更の違い

遺産分割協議成立申立書を用いた名義変更は、遺産分割協議書を用いて名義変更する場合に比べて、手続きが簡略化されています。

まず、遺産分割協議書を用いた場合の手続きについて簡単にご説明したうえで、遺産分割協議成立申立書を用いる場合にはどのように手続きが簡略化されているかをご説明いたします。

(1) 遺産分割協議書について

#1:相続人全員の署名・押印が必要です

遺産分割協議書は、相続人全員の間で、遺産全体(もしくは一部)についての分割協議が整ったことを証するもので、相続人全員の署名と実印による押印が必要になります。

相続人の人数が多い場合や、相続人が遠隔地に居住している場合などには、相続人全員の署名と押印をもらうにも時間と手間が多くかかることになります。

#2:遺産分割協議書以外にも多くの書類が必要です

遺産分割協議書によって名義変更する場合には、遺産分割協議書とあわせて、全ての相続人と被相続人の関係を証する戸籍謄本等が必要となります。

また、相続人全員の印鑑証明書も必要となります。

相続人が多くなると、戸籍謄本の取得についても時間と手間が多くかかります。

(2)遺産分割協議成立申立書について

遺産分割協議成立申立書は、相続人の一人が、遺産分割によって査定額100万円以下の自動車を取得した場合に、自動車の名義変更手続を簡略化するための書面です。

自動車を遺産分割によって取得した場合、すぐに使用したい場合は多いでしょうし、売却したり廃車にする場合でも、名義変更が必要となります。

そこで、名義変更までの手続に要する手間を省くために、あまり高価ではない自動車については、遺産分割協議成立申立書によって、簡略化された手続きによる名義変更が認められているのです。

遺産分割協議書の場合と比べて、どのような点が簡略化されているか、以下に簡単にご説明します。

#1:申請者のみの署名押印で足ります

遺産分割協議書と異なり、申請人である相続人の署名のみがあれば作成可能で、相続人全員の署名・押印は不要です。

#2:戸籍謄本等も、申請人に関するもののみで足ります

遺産分割協議成立申立書とあわせて提出すべき書類についても、遺産分割協議書の場合と比べて簡略化されています。

戸籍謄本については、遺産分割協議書と異なり、申請人と被相続人との相続関係がわかる範囲のもので足ります。

相続人全員と被相続人の関係を証するものまでは不要です。

また、印鑑証明書についても、申請人分のみで足ります。

遺産分割協議書の場合と異なり、相続人全員分のものまでは不要です。

2.遺産分割協議成立申立書を使用した名義変更の手続き

以上のとおり、遺産分割協議成立申立書を用いた名義変更においては、遺産分割協議書を用いる場合と比べ、手続きが簡略されています。

それでは、具体的には、遺産分割協議成立申立書を用いた名義変更の手続きとはどのようなものでしょうか。

以下、申立書の入手方法から書き方、必要書類といった手続の内容について具体的にご説明します。

(1)遺産分割協議成立申立書はどこで手に入るのか

遺産分割協議成立申立書は、ご自身で作成されても結構ですが、国土交通省地方運輸局のホームページからダウンロードするか、運輸支局の窓口で用紙を取得して使用することができます。

(2)遺産分割協議成立申立書の書き方

遺産分割協議成立申立書には、以下のような記載が必要です。

運輸局で入手できる申立書の書式にしたがって、記載事項について順番に書き方をご説明いたします。

#1:登録番号・車体番号

まず、「自動車の表示」欄に登録番号と車体番号を記入します。

登録番号と車体番号は、車検証の記載と一致しなければならないので、記入の際も、車検証の記載を確認しながら記入するのがよいでしょう。

#2:被相続人の情報

つぎに、「被相続人」欄の「氏名」「死亡年月日欄」に亡くなった方の氏名とお亡くなりになった年月日を記載します。

#3:遺産分割協議成立年月日・申立書による申請の同意年月日

「遺産分割協議成立年月日」には、遺産分割協議が成立した年月日を、「申立書による申請の同意年月日」には、車の移転登録について、遺産分割協議申立書によって申請することについての他の相続人からの同意が得られた日を記入します。

なお、「申立書による申請の同意年月日」は、「遺産分割協議成立年月日」と同一の年月日で構いません。

#4:申請人の情報

最後に、申請人の情報(住所、氏名)は、印鑑証明書の記載と一致する必要がありますので、印鑑証明書を確認しながら記入するのがよいでしょう。

3.遺産分割協議成立申立書と併せて必要となる書類

つぎに、遺産分割協議成立申立書と一緒に必要となる書類についてご説明いたします。

ご説明のとおり、遺産分割協議書を用いる場合に比べて、必要書類が簡略化されています。

(1)被相続人の死亡が確認できる戸籍謄本

被相続人の本籍地の市町村役場で取得します。

(2)申請人が被相続人の相続人であることがわかる戸籍謄本

申請人の本籍地の市町村役場等で取得します。

遺産分割協議書の場合と異なり、申請人に関する戸籍謄本等を取得することで足ります。

(3)申請人の印鑑証明書

申請人の住所地の市町村役場で取得します。

印鑑証明書も、遺産分割協議書の場合と異なり、申請人分のみで足ります。

(4)査定額が分かる査定書

査定額が100万円以下であり、遺産分割協議成立申立書を用いた名義変更ができる場合であることを証するために必要となります。

買取事業者やディーラーにおいて、無料で車の査定を受けることができます。

こちらから依頼しない場合、査定書まで発行してくれないことの方が通常ですので、発行をお願いしましょう。

また、買取業者で査定書を発行してくれるところがどうしても見つからないときは、日本自動車査定協会に有料で査定を依頼するという方法もあります。

(5)対象車両の置き場所が変わる場合は車庫証明書

警察署で取得します。

(6)自動車税申告書

運輸支局に隣接する税事務所で取得します。

取得は申請の当日で構いません。

(7)手数料納付書・移転登録申請書

運輸支局で取得します。

取得は申請の当日で構いません。

(8)委任状

第三者が代理で手続をする場合に必要となります。

4.遺産分割協議成立申立書を用いた名義変更を検討する際の注意点

以上、ご説明のとおり、遺産分割協議成立申立書を用いた自動車の名義変更は、遺産分割協議書を用いた名義変更に比べ、手続きや必要書類が簡略化されており、利用できる場合はかなり便利です。

ただし、その利用にあたっては、先にご説明のとおり、一定の要件を満たす必要があります。

さらに、利用の前提として以下の点については、十分ご注意いただく必要があります。

(1)ローンの残高がないか確認する

自動車の名義変更の前提として、その自動車の所有者が本当に被相続人かどうかを、車検証できちんと確認しましょう。

仮に、自動車の購入時に、信販会社やディーラーでローンを組んでおり、ローンについて残債務があるような状況であれば、自動車の所有権が信販会社等に留保されている可能性があります。

車検証で「所有者の氏名または名称」欄の記載が信販会社等になっていた場合は、実際にローン残高が残っているのか、ローンが完済されているが名義変更がされていないのかを、記載されている信販会社等の連絡先を調べて確認しましょう。

残債務がある場合は、遺産によって返済する等、対応の必要があります。

また、自動車の名義が被相続人であったとしても、銀行でローンを組んだ場合等、ローンの残債務が残っている場合はあり得ますので、この場合も同様に対応が必要です。

(2)遺産分割協議年月日を確認する

遺産分割協議成立申立書の書き方のご説明で触れたとおり、遺産分割協議成立申立書の記載事項として、「遺産分割協議成立年月日」を記載する欄が存在します。

また、遺産分割協議成立申立書に、「被相続人の死亡により、被相続人所有の上記自動車について民法の規定に基づき遺産分割協議を行ったところ・・・」との記載もあります。

つまり、一定の要件を満たした場合、自動車の名義変更を行うにあたっては、遺産分割協議成立申立書を提出すれば、遺産分割協議書を提出しなくてもよいというかたちで手続が簡略化されているものの、その場合も、前提として遺産分割協議が成立していることは必要であるということです。

したがって、遺産分割協議年月日は、少なくとも、申請日と同じかそれより前の年月日である必要がある点についてご注意ください。

(3)任意保険の名義変更を行う

自動車自体の名義変更を行っても、その自動車に乗り続けるためには、任意保険の名義も変更をする必要があります。

万が一、任意保険の名義変更を行わないまま自動車に乗って事故にあったときは、思わぬ賠償責任を負ってしまうことも考えられます。

保険金の受給を受ける場合にも、名義変更の手続きが必要になります。

任意保険の名義変更の際には、結局、相続に関する書類として遺産分割協議書が必要となることがありますので、この点にもご注意ください。

まとめ

以上のとおり、遺産分割により取得した自動車の名義変更には、遺産分割協議書を用いて行う場合と遺産分割協議成立申立書を用いて行う場合があります。

遺産分割協議成立申立書を用いた自動車の名義変更が可能な場合は、遺産分割協議書を提出する必要がある場合に比べて、必要書類や手続が簡略化されており、便利な手続きです。

ただし、ご説明のとおり、取得した自動車について安心して今後も使用するためには、ローンの残高を確認する、任意保険の名義変更も行うといった注意点もありますので、自動車の遺産分割で分からないことがありましたら弁護士にご相談されることをお勧めします。

執筆者 西村 賢二 弁護士

所属 第二東京弁護士会

私は、症状の大小に関わらず気軽に受診できる身近なお医者さんのような弁護士でありたいと思っています。まずは、直面された法的問題についてご遠慮なくご相談ください。
個人の方の日常生活や法人の方の事業活動の中で生じるご相談に幅広く適切に対応できるように努め続けたいと思っております。