SES契約の中途解約と報酬について

執筆者 金子 周平 弁護士

所属 栃木県弁護士会

法律は堅苦しいという印象はあるかと思います。しかし、そんなイメージに阻まれて、皆さんの問題や不安が解決されないのは残念でなりません。
私は、そんな法律の世界と皆さんを、柔和に橋渡ししたいと思っています。問題解決の第一歩は、相談から始まります。
皆様が勇気を振り絞ってご相談をしていただければ、後は私どもが皆様の緊張や不安を解消できるよう対応し、法的側面からのサポートができればと思います。敷居はバリアフリーです。あなたの不安を解消するために全力でサポート致します。

SES契約は、一般に法律的には準委任契約といわれています。

仕事の完成ではなく、仕事(業務)の遂行自体が契約の目的となっているということです。

分かりやすくいうと、「●●というシステムを完成させる」のではなく、「●●というシステムを作る作業をする」ことが契約の目的ということです。

ここで問題となるのは、準委任契約の場合には、報酬の定め方が「システムが完成して受領したら○○円を支払う」ということにはならないことです。

一般的には、業務時間等に応じて、報酬が定められます。

では、この場合、プロジェクト自体が途中で終了することとなるなどの理由で、SES契約を中途解除となる場合には、報酬の支払についてはどのようになるでしょうか。

1.参考裁判例(東京地判令和元年5月28日)

SES契約についてダイレクトに判断したものではありませんが、システム開発の業務委託料について判断した裁判例があります。

事案は、A社からシステム開発を受託したY社が、フリーランスのXとの間で約3ヶ月間システム開発業務の委託をしました。

その後、期間満了の3週間前に2ヶ月間の期間更新の合意をしたところ、合意からわずか2週間後(当初の期間満了直前)に、Y社からXに対して契約の解除がなされたというものです。

Xは、解除されるまでの報酬及び、解除された後、別の業務に就けるまでにかかった期間(1ヶ月分)の報酬をY社へ請求しました。

この裁判では、まず委託業務の法的性質(準委任といえるのか)が問題となりましたが、裁判所は以下の点を総合判断して準委任契約であると認定しました。

・契約書における契約の目的が「Y社が依頼するシステム開発業務及びこれに付随する業務」と概括的に記載されていること

・報酬が月額で固定されており、勤務時間の増減により加減されることとなっていること

・勤務時間も固定されていること

・契約開始の時点で仕様の決定も未了でありXに業務全体の内容等が明かされていなかったこと

したがって、SES契約においても、このような定め方としていると準委任契約であると判断される可能性が高いです。

その上で、裁判所は、解除されるまでの報酬は当然に支払われるべきものであり、解除後の報酬についても以下のように判断します。

・XとYは2ヶ月契約期間を延長したことが認められ、Xとしてはその期間業務をすることで報酬をもらえると期待することが相当

・にもかかわらず、一方的にY社から契約を解除されており、これはXにとって不利な時期の解除といえる

・この突然の解除によって、Xは実際に1ヶ月間は新しい仕事にも就けず、報酬を得る機会を失っている

・エンジニアは人手不足だから、通常ならすぐに他の仕事が見つかるはずとの反論があるが、突然契約を解除されたXが他の仕事を見つけるまでに1ヶ月間かかったことが格別不自然、不合理とはいえない

上記のような理由から、解除後の1ヶ月分についてもY社には報酬の支払義務があると認定しました。

2.準委任の解除と報酬

準委任契約は、法律上委任側からも受任側からも自由に解除ができます。

ただし、相手方にとって不利な時期に解除をする場合には、相手方の損害を賠償する義務が発生します。

上記の裁判例は、この法律の定めについて、事情を丹念にひろって認定をしたものです。

その結果、契約で定めていなくとも、解約後1ヶ月間の報酬を損害として認定しました。

従って、商流の上流から突然中途解除された際には、少なくとも解除後1ヶ月程度の報酬請求権は認められる可能性が高いといえます。

逆に、商流の下流に対して中途解除を行う場合には、同様に1ヶ月程度の報酬の支払義務は覚悟した方がよいでしょう。

もっとも、これが2ヶ月、3ヶ月と長くなった場合にはどういう判断がされるかは、難しいところです。

上記の裁判例からすれば、次の仕事を得られるまでの期間として「不自然、不合理」と言えないところまで認められると考えられますので、業界の需給バランス等によって判断されることとなるでしょう。

3.事前の定めの大切さ

過払い金返還請求の流れ

上記の通り、準委任契約であるSES契約が中途解約された場合には、民法に従って「不利な時期なのか」「損害として認められるのはどの程度か」が判断されます。

しかし、これは最終的には裁判をしなければ決められないこともあり、どのような判断がなされるかにつきリスクがあります。

そのため、事前に契約書中できちんと規定することで備えておくことが大切です。

「解約の1ヶ月前までに言う」などの業界慣行がある場合も多いですが、契約書に盛り込んでおくことにより、認識の齟齬などがなくなり、後の紛争リスクを抑えることができます。

SES契約の活用を考えている方や、どのような契約を締結すればいいのかについて疑問がある方は、一度当事務所までご相談ください。

執筆者 金子 周平 弁護士

所属 栃木県弁護士会

法律は堅苦しいという印象はあるかと思います。しかし、そんなイメージに阻まれて、皆さんの問題や不安が解決されないのは残念でなりません。
私は、そんな法律の世界と皆さんを、柔和に橋渡ししたいと思っています。問題解決の第一歩は、相談から始まります。
皆様が勇気を振り絞ってご相談をしていただければ、後は私どもが皆様の緊張や不安を解消できるよう対応し、法的側面からのサポートができればと思います。敷居はバリアフリーです。あなたの不安を解消するために全力でサポート致します。