肩の後遺障害
2022.01.25

肩の後遺障害

肩は腕と胴体をつなぐ関節です。
自賠法施行令の後遺障害認定基準の中で、「上肢の3大関節」という言葉が出てきますが、これは「肩関節」「肘関節」「手関節」を指します。
肩関節は、他の関節が行うような屈曲(曲げる)、伸展(伸ばす)といった単純な動作だけでなく、頭の後ろに手を持って行く等の複雑な動作をすることができる関節です。この動作を実現するために、肩には複数の関節があります。
一般的に、「肩関節」と言われているのは、肩甲骨と上腕骨という骨で形成された、肩甲上腕関節のことです。肩関節は、関節窩(かんせつか)という骨の窪みに球形の上腕骨頭(上腕骨の先端)がはめ込まれる形になっています。肩関節の可動域は、回転、旋回、屈曲と伸展などの多彩な動作があります。また三角筋などの多くの筋肉に包まれているため、大きな力を出すことができます。

交通事故によって生じる主な肩の傷害としては、肩関節を形成する骨の骨折や関節の脱臼、筋肉等に対する肩挫傷、肩関節周囲炎、腱板損傷などがあります。

  • 神経系統の機能障害
  • 肩の機能障害
  • 肩の変形障害

1.神経系統の機能障害

交通事故による怪我の中で最も代表的なのが首のむちうち(頸椎捻挫)です。
自賠法施行令に定められている後遺障害認定基準において、むちうちは「神経系統の機能又は精神障害」という系列に該当します。
なお、むちうちというのは正式な名称ではなく、医師からの主な診断名としては「頸椎捻挫」「頸部挫傷」「外傷性頸部症候群」などと診断がされます。

神経系統の機能障害の後遺障害認定基準

等級 後遺障害
第12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
第14級9号 局部に神経症状を残すもの

神経系統の機能障害の後遺障害判断基準

<12級の局部に頑固な神経症状を残すもの>

自賠責保険の実務上では、神経系統の障害が他覚的に証明できる場合がこれに該当すると考えられています。
「他覚的に証明」とは、XP線、CTやMRI等の画像所見や、神経学的所見により障害が証明できることを指します。

<14級の局部に神経症状を残すもの>

事故の状況、診療経過からわかる症状に連続性・一貫性があり、事故による障害であることが説明可能であり、医学的に推定できる場合がこれに該当すると考えられています。

12級と14級の違いは、説明可能か、証明可能かの違いになります。
被害者の自覚症状が事故を原因とするものであることが「医学的に証明できる」場合は12級に該当し、自覚症状が事故の態様などから「説明できる」範囲に留まる場合は14級が該当し、それ以外の場合、つまりは医学的に説明することも証明することもできない場合が非該当となります。
なお、医学的に証明できる場合というのは、レントゲンやMRI等の画像所見や、ドロップアームテスト等の神経学的所見をもとに障害が判断できる場合をいいます。

ドロップアームテスト

腱板損傷や腱板断裂を疑いがある場合に行うテストです。
検査方法としては、被験者の肩関節を90度まで外転し、地面と水平になるところまで挙げ、その位置を維持してもらいます。そこからゆっくりと下に下ろす動作を行います。動作の途中で、手関節部分に検者が軽い衝撃を加えます。
腕をゆっくりと下ろすことができない場合や腕がストンと落ちてしまう場合は、陽性となります。この腕がストンと落ちてしまうことを「ドロップアームサイン」といいます。

2.肩の機能障害

肩の機能障害の後遺障害等級認定基準

等級 後遺障害
第1級4号 両上肢の用を全廃したもの
第5級6号 1上肢の用を全廃したもの
第6級6号 1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの
第8級6号 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
第10級10号 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
第12級6号 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

肩の機能障害の後遺障害等級判断基準

肩関節の主要運動(日常動作において最も重要な運動)には、「屈曲」、「外転・内転」があります。
肩の各主要運動と参考可動域角度(正常値)は以下のとおりになります。

主要運動 正常値
屈曲 180° 腕を前に挙げる動作です。「前方挙上」ともいいます。
外転 180° 腕を横に挙げる動作です。「側方挙上」ともいいます。
内転 0° 腕を完全に下ろした状態をいいます。

肩の機能障害の等級は、関節の可動域がどの程度制限されているかによって判断されます。
制限の有無については、健側(事故の影響による症状がない側)の可動域と比較して判断します。
交通事故の影響による症状が両方に出てしまった場合は、上記の参考可動域と比較することになります。

用を廃したもの 全く可動しない又は10%以下しか動かない場合
著しい障害を残すもの 1/2以下に制限されている場合
機能に障害を残すもの 3/4以下に制限されている場合
主要運動が複数ある関節の場合

肩関節のように主要運動が複数ある関節の場合、「用を廃したもの」とは、全ての主要運動(屈曲、外転、内転)において用を廃している場合がこれに該当します。
これに対し、可動域が1/2以下ないし3/4以下に制限されている場合は、主要運動のうちいずれかひとつがこれに該当すれば、その程度に応じた等級が認定されることになります。

3. 肩の変形障害

肩の変形障害の後遺障害等級認定基準

等級 後遺障害
第7級9号 1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
第8級8号 1上肢に偽関節を残すもの
第12級8号 長管骨に変形を残すもの
※ここにいう長管骨とは、上腕骨・橈骨・尺骨という肩から手にかけての骨のことです

肩の変形障害の後遺障害等級判断基準

変形障害は偽関節の有無と骨の変形や欠損の有無により判断されます。
偽関節とは、骨折の後、骨がくっつかずに回復が止まってしまったものをいいます。
つまり、骨がくっつかずに止まってしまったか(偽関節)、骨はくっついたけれど変形が残っているか(変形や欠損)という点で差が生じます。

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