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逸失利益の金額をいくらと考えるべきか【後遺障害等級11級7号】

脊柱変形障害についての裁判例(後遺障害等級11級7号)

(東京地判平成27年3月23日)

事案の概要

X(44歳、男性)は大型自動二輪車を運転中、進路前方の赤信号により停止したところ、Y運転の普通乗用自動車に追突された。
Xは、本件事故により外傷性第4腰椎椎体骨折を受傷し、脊柱に変形を残す後遺障害が残存した。
この後遺障害について、自賠責保険では、後遺障害等級11級7号が認定された。

<争点>
逸失利益の金額をいくらと考えるべきか?

<請求額及び認定額>

請求額 認定額
治療費 20万1310円 20万1310円
入院雑費 2万2500円 2万2500円
通院交通費 6160円 6160円
コルセット装具等 6万6947円 6万6947円
休業損害 119万7462円 109万9710円
逸失利益 1983万7414円 174万9140円
通院慰謝料 113万0000円 105万0000円
後遺障害慰謝料 420万0000円 420万0000円
損害のてん補 122万1339円 122万1339円
弁護士費用 254万4045円 71万0000円
合計 2798万4499円 788万4428円

判断のポイント

労働能力喪失率について

X側は、基礎収入は大卒の平均賃金、労働能力喪失率は少なくとも20パーセント、喪失期間は、骨の変形が治癒することはあり得ず、就労可能期間の23年であると主張していたのに対して、
Y側は、基礎収入は事故前年の実収入とすべきであり、労働能力喪失率は、脊柱の変形障害自体が労働能力を喪失させるものではないから20パーセントを用いるべきではなく、喪失期間は、神経症状であるため5年程度に限定されるべきであると主張していました。
裁判所は、Xの場合は、脊柱の変形があっても腰を動かすことはできるけれど、腰の痛み・違和感のせいで仕事に支障を来たしているとして、労働能力が一定程度喪失していることと認めました。
そして、労働喪失期間は、背骨が変形して高さが短くなっていること、Xのこれまでの症状や職務内容などから考えて、慣れたり良くなる可能性が高いとも言いにくいので、67歳までの23年とするのが相当であるとしました。
しかし、「社会保障制度上ないし社会保障制度的な性格を有する自賠責保険制度上、せき柱の変形につき、せき柱の支持機能・保持機能に影響を与え又は与えるおそれがあることを理由に労働能力の喪失が認められているとしても、加害者個人が賠償責任として被害者に対し賠償義務を負うのは、被害者に現に生じ、あるいは将来生じる蓋然性が認められる逸失利益である。」と述べて、後遺障害等級11級として自賠保険会社に認めてもらえる労働能力喪失率が20%だとしても、この事件の具体的事情からすれば、加害者に請求できるのは労働能力喪失率5%分の逸失利益だとしたのです。

コメント

逸失利益とは、簡単に言えば「後遺障害がなかったら、稼げたはずの収入」のことです。この逸失利益を計算するときに使うものが、労働能力喪失率です。Xさんは、後遺障害のせいで、腰が痛いなどの症状が残ってしまい、何時間も座り続けることができなかったり、仕事である家具の組立てや搬入などを十分な能力でこなせなくなってしまいました。このように「こなせなくなった」程度を数字で表したものが労働能力喪失率です。
この事件では、Xさんに残った後遺障害が後遺障害等級11級にあたることそれ自体を裁判所が否定したわけではありません。
11級にあたる後遺障害であり、治りにくく生活や仕事に支障を来たす障害が残ってしまったことは認めています。だからこそ、就労可能年数めいいっぱいの期間である23年を労働能力喪失期間とすべきだとしたのです。
ですが、裁判所が認めた金額は、X側の主張した逸失利益(損害額)よりもずっと低いものでした。それは、裁判所が、後遺障害の等級だけを基準とするのではなく、Xさんの労働能力喪失率を具体的に検討して労働能力喪失率を判断したからです。
この事件から、裁判となった場合に、必ずしも後遺障害等級が絶対基準とはならないということが分かります。示談交渉の段階で保険会社から示された金額に対して、「もっと高い金額じゃないと納得できない!」と、裁判をしたら、示談交渉の段階で示されていた金額よりも低くなってしまったということにもなりかねませんね。
できるだけ高い金額で示談したいものですが、示談交渉の中でこのくらいが妥当な金額だと適切に判断することも同じくらい重要です。
適切な判断をするために、どうぞ当事務所の弁護士に相談して、そのアドバイスをご活用ください。

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