遺留分とは?遺言書と遺留分の関係、遺留分を侵害された場合の権利行使方法をご説明します
「父が残した遺言で、弟に全部相続させるとされていたけど、自分はなにももらえないの?」
「遺留分というのがもらえると聞いたけど、放っておいたらいいの?」
ご親族を亡くされた方の中には、遺言や遺留分というものについて混乱されている方もいるのではないでしょうか。
遺言書の内容は、亡くなった方の最後の意思として尊重されるべきですが、他方で、残された相続人の相続への期待も、一定の範囲で保護されるべきといえます。
本記事では、遺言書についての概要と、遺言者と相続人の両者の利益を調整するための制度である遺留分の概要についてご説明いたします。
また、実際に、有効な遺言によってご自身の遺留分が侵害された場合にはどのような対応が可能か、遺留分侵害額請求権を行使する際の注意点についてもご説明いたします。
本記事をお読みになって、遺言書によって不公平な遺産の分配がなされた場合のご対応の参考にしていただければ幸いです。
1.遺言書について
まずは法的に有効な「遺言」というのはどういったものかについて、確認していきましょう。
(1)遺言書とは
まず、「遺言書」と似たものとして「遺書」というものがあります。
遺書というのは法律上の書面ではなく、亡くなった方が残した書面全般を指します。
例えば、残された親族に対する感謝の情などが記載されているものなどは遺書と言われます。
他方「遺言(遺言書)」とは、法律によって定められた書面です。
法的効果が発生するので、一定の方式(要件)を満たす必要があります。
一定の方式にしたがうことが求められるのは、遺言の明確性を確保し、後の紛争を予防するためです。
(2)遺言書の方式
遺言書は、場面に応じて、法律で定められたいずれかの方式にしたがって作成される必要があります。
大きく分けて、普通方式の遺言と特別方式(病気などで死が迫っているときや船舶の遭難時などの際の方式)の2つの方式に分かれます。
ここでは、普通方式の遺言についてどのようなものが定められているか、簡単にご説明いたします。
#1:自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言書の全文、日付及び氏名を遺言者自身で書き、押印して作成する方式の遺言です。
筆跡によって遺言者自身が作成したことが分かり、そのこと自体で遺言が遺言者の真意によって作成されたものであることが保証されるため、このような方式が認められています。
#2:公正証書遺言
公正証書遺言とは、遺言者が、公証人役場において、遺言の内容を公証人に口頭で伝え、公証人がその内容を筆記して公正証書による遺言書を作成する方式の遺言です。
作成された公正証書遺言は、公証役場で一定期間保管されます。
#3:秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言者が遺言の内容を他者には秘密にしたうえで遺言書を作成し、公証役場において、公証人らの前に封をした遺言書を提出して遺言証書の存在を明らかにすることを目的として作成される方式の遺言です。
自筆証書遺言と異なり、遺言事項の作成は遺言者の自書による必要はなく、ワープロなどによる印字による作成、遺言者以外の者による記載も認められます。
(3)遺言事項
法律では、遺言の明確性を確保するとともに、後の紛争を予防するため、方式について規定すると同時に、遺言をすることができる事項も限定しています。
遺言事項は以下のとおりです。
・身分関係に関する事項(認知、未成年後見人の指定など)
・相続の法定原則の修正(相続人の廃除、相続分の指定、分割方法の指定など) ・遺産の処分に関する事項(遺贈、相続させる遺言など) ・遺言の執行に関する事項(遺言執行者の指定など) |
遺言事項はこのように限定されていますが、逆にいえば、上述の方式に従い、法律上定められた遺言事項を記載して作成されたものであれば遺言は有効となります。
したがって、法定相続分は1/2である配偶者の相続分を2/3とする内容の遺言や、特定の法定相続人の相続分を0とする内容の遺言(相続分の指定)も有効となりますし、特定の者に「すべての財産を遺贈する」または特定の相続人に「すべての財産を相続させる」といった内容の遺言も有効となります。
2.遺留分について
それでは、遺言によって遺産を貰えないことにされてしまった相続人は、一切何も受け取ることができないのでしょうか。
ここで登場するのが遺留分という制度です。
(1)遺留分・遺留分権利者
一定の相続人に最低限確保される割合を遺留分、そしてその遺留分を持っている相続人を遺留分権利者と言います。
以下で説明していきます。
#1:遺留分とは
遺留分とは、簡単に言えば「遺言によっても侵害できない割合」のことです。
例えば、特定の者に「すべての財産を相続させる」という内容の遺言書が作られていた場合、形式的な誤りがなければ法律的に有効とされます。
この場合、他の相続人は何も得られないとも思えます。
しかし、一定の範囲の相続人については、遺産相続への期待を保護するべきと考えられています。
そのために認められている制度が遺留分制度です。
#2:遺留分権利者とは
それでは、遺留分権利者とされる、「一定範囲の相続人」とは、いかなる範囲の相続人なのでしょうか。
相続人のうち、遺留分が認められているのは、以下のとおりです。
・配偶者
・子(代襲相続人を含む) ・直系尊属(父母・祖父母など) |
ご注意いただきたい点として、被相続人の兄弟姉妹については、相続人にあたる場合であっても遺留分は認められません。
例えば、妻がいるものの子も直系尊属もいない男性が亡くなった場合、法定相続人は配偶者である妻と兄弟姉妹です。
しかし、遺言書で「全ての財産を妻に相続させる」旨の遺言を書き遺していたとすると、亡くなった方の兄弟や姉妹は、法定相続人ではあっても遺留分は認められません。
その結果、遺言書等が存在しない場合に取得し得た可能性のある、法定相続分での遺産に相当する財産の取得はできないということになります。
このように、相続人であれば必ず遺留分が認められるわけではありませんのでご注意ください。
#3:遺留分割合・割合の例
遺留分の割合については法律で定めがあり、整理すると次の表のとおりとなります。
相続のパターン | 相続人 | 遺留分割合 | 法定相続分 | 各相続人の遺留分 |
配偶者のみ | 配偶者 | 1/2 | 1 | 1/2 |
子のみ | 子(1人) | 1/2 | 1 | 1/2 |
直系尊属のみ | 直系尊属 | 1/3 | 1 | 1/3 |
兄弟姉妹のみ | 兄弟姉妹 | なし | 1 | なし |
配偶者と子 | 配偶者 | 1/2 | 1/2 | 1/4 |
子(1人) | 1/2 | 1/4 | ||
配偶者と直系尊属 | 配偶者 | 1/2 | 2/3 | 1/3 |
直系尊属 | 1/3 | 1/6 | ||
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者 | 1/2 | 3/4 | 1/2 |
兄弟姉妹 | なし | 1/4 | なし |
遺留分を持つ相続人が複数いる場合は、相続分に従って遺留分を分割し、各相続人の遺留分を算出します。
例えば、遺留分を持つ相続人が配偶者と子2人の場合、子1人の法定相続分は1/2となりますので、遺留分割合(相対的遺留分)1/2×法定相続分1/2=1/4の計算式より、子1人についての各相続人の遺留分(個別的遺留分)は1/4となります。
(2)有効な遺言書と遺留分との関係~遺留分侵害額請求権~
遺留分は遺言によっても侵害できない最低限度の割合と説明しました。
そうだとすると、遺留分を侵害するような内容の遺言は無効になるのでしょうか。
答えは、NOです。
法は、遺留分権利者が、有効な遺言や生前贈与によって、自己の遺留分を侵害された場合、遺留分侵害額請求権の行使を認めることで、遺言者の最後の意思の尊重と相続人の相続への期待を調整しています。
つまり、遺留分権利者が「私の遺留分を侵害している分を払ってください」と主張する必要があるということです。
この主張をしない限り、遺言に従った財産移転が有効になりますので、とても注意が必要です。
(3)遺留分侵害額請求権の行使
#1:行使方法
遺留分侵害額請求権の行使方法については、相手方に対する裁判外の意思表示を行うことでよく、訴えによることを要しないとされています。
そのため、口頭で話し合ったり書面を郵送したりすることで権利行使することができます。
ただし、後述のとおり、遺留分侵害請求権には厳しい行使期間の制限があり、期限内に行使したかどうかが後に紛争になることが少なくありません。
この点の争いを未然に防ぐため、内容証明郵便等、請求権を行使した時期が証拠に残る方法での権利行使をおすすめします。
また、遺留分侵害額請求権の行使は、遺留分侵害者に対し、遺留分侵害額請求権行使の意思表示をすることにより行うとされており、侵害されている額を具体的に示して意思表示をする必要はないとされています。
遺留分侵害額を請求しても、当事者同士の話し合いで収まらない場合には、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に、遺留分侵害額請求調停を申し立てることができます。
調停手続においては、調停委員が、当事者双方の間に入り、事情を聴取したり提出された資料を確認したりして事案を把握したうえで、話し合いでの解決を図ります。
話し合いにより当事者双方で合意ができれば、調停成立により解決となります。
合意ができず、調停が不成立に終わった場合には、地方裁判所又は簡易裁判所に対し、遺留分侵害額請求訴訟を提起することになります。
#2:期間制限
遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈(遺言による財産の承継)があったことを知った時から1年間行使しない場合には、時効により消滅します。
また、相続開始の時から10年を経過したときも、遺留分侵害額請求権の行使ができなくなります。
遺留分侵害額請求権が時効によって消滅することを避けるためには、これら期間内に、相手方である遺留分侵害者(贈与や遺贈を受けた者)に対して、遺留分侵害額請求権行使の意思表示を行う必要があります。
まとめ
本記事では、遺言による遺言書と遺留分の概要や遺言書と遺留分の関係についてご説明しました。
実際に遺留分が侵害されているかの判断にあたっては、そもそも遺言書が有効なものかの判断に始まり、遺留分算定の基礎となる財産の範囲の確定・評価など、専門的知識が必要となります。
弁護士に早めにご相談いただくことで、不公平な遺産の分配による不利益を見過ごすことなく、厳しい行使期間の制限がある遺留分侵害額請求権についても適正に行使することができ、ご自身の権利が保護されることにつながります。
遺留分についてお悩みの方は、専門家である弁護士に一度相談することをおすすめします。
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