従業員の残業代が未払いだとどうなる?弁護士がリスクと対処法について解説
「従業員から未払い残業代を請求された場合、どのように対処すればいい?」
従業員から未払いの残業代を請求された場合、どのように反論するべきか対応に苦労する会社も少なくないと思います。
また、解雇等により退職した元従業員から、未払いの残業代を請求され、対応を迫られる場合も少なくないでしょう。
前提として、残業代には、(ア)時間外労働に係る残業代、(イ)休日労働に係る残業代及び(ウ)深夜労働に係る残業代の3種類があります。
本記事では、会社が従業員から未払い残業代をされた場合について、前提としての会社への影響、会社が確認すべきこと、具体的な対処法や残業代請求をされないようにするための方法について、総論的に解説します。
※なお、労働基準法では、「残業代」のことを「割増賃金」(労働基準法37条)と表現していますが、本記事では、一般的な「残業代」という表現を使用します。
1.残業代請求をされた場合の会社への影響

では、会社が従業員から残業代請求をされた場合、会社にはどのような影響があるでしょうか。
代表的な影響としては、次の3つが挙げられます。
- 従業員に対する支払義務が発生する
- 他の従業員からも残業代請求を受ける可能性がある
- 外部からの評判が低下する
それぞれについて見ていきましょう。
(1)従業員に対する支払義務が発生する
当然のことですが、支払うべき残業代を支払っていなかった場合、従業員に対して、未払い残業代を支払う必要があります。
特に、中小企業等で資金繰りに窮している場合、未払い残業代の支払いはかなりの負担となるでしょう。
場合によっては、破産、民事再生等の法的整理に直結してしまうリスクもあります。
(2)他の従業員からも残業代請求を受ける可能性がある
残業代請求をされ、かつ、支払わなければならないとされた場合、他の従業員との関係でも、未払いの残業代が生じていることが通常だと思われます。
これは、未払い残業代が会社のシステム上発生していることが多く、1人に未払い残業代が発生していたら、全従業員に発生している可能性があるからです。
また、当該従業員に対し、支払わなければならない残業代がなかったとしても、当該従業員から他の従業員へ残業代請求を行った事実が広まった結果、他の従業員からの残業代請求を誘発する可能性があります。
このように、会社が従業員から残業代請求を受けた場合、当該従業員だけでなく、他の従業員へ波及するおそれがあり、会社側としては、適切に対応する必要があります。
会社としては、争うべきものは争うべきであり、安易に対処してはいけません。
(3)外部からの評判が低下する
また、従業員から残業代請求がされていることが、何らかの理由によって会社外にも流出するおそれがあります。
特に大企業の場合、週刊誌等にリークされる可能性もあるかもしれません。
そうすると、会社としては、外部からの評判が低下するおそれもあるといえます。
これは、仮に会社として支払うべき残業代を支払っていたとしても、従業員からレピュテーションリスクは避けられず、非常に難しい問題であるといえるでしょう。
2.残業代請求をされた際に確認すること

従業員から残業代請求をされた際、会社としては以下の点について確認することが大切です。
- 管理監督者に該当しないかどうか
- 労働時間に該当するかどうか
- 従業員が労働を行ったのかどうか
- 固定残業代として支払っていないかどうか
- 消滅時効が成立しているかどうか
なお、個別具体的な事案によって、確認・検討すべき事柄は異なります。
そのため、より具体的なことについては、弁護士に相談・確認することが望ましいです。
(1)管理監督者に該当しないかどうか
まず、従業員が管理監督者(労働基準法41条2号)に該当しないかどうかを確認しましょう。
管理監督者に該当すれば、労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用が除外される(ただし、深夜労働に関する規定〔労働基準法37条4項〕や年次有給休暇の規定〔労働基準法39条〕の適用は除外されていません。)ため、時間外労働に係る残業代及び休日労働に係る残業代を請求することができなくなるからです。
管理監督者とは、一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいいます。
管理監督者に該当するか否かは、名称や肩書には捉えられずに、実態に即して判断されます。
具体的には、以下の3つの判断基準を満たすか否かで判断されています。
- 事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限が認められていること(経営者との一体性)
- 自己の労働時間(出勤・退勤)についての裁量を有していること(労働時間の裁量)
- 一般の従業員と比べその地位と権限にふさわしい賃金等の待遇を与えられていること(賃金等の待遇)
実務上は、管理監督者に該当するとの反論は中々認められないと言われていますが、管理監督者に該当した場合の効果はとても強力です。
そのため、当該従業員が管理監督者に該当しないかどうかは、まず確認すべきでしょう。
(2)労働時間に該当するかどうか
また、従業員が時間外労働等を行った労働時間が、労働時間に該当するかどうかも確認すべきです。
労働時間とは、一般的に、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」のことをいいます。
特に争われるものとしては、労働時間の始期・終期がいつなのか(通勤時間、朝礼の時間、清掃や着替えの時間など)、仮眠時間、手待ち時間等の不活動時間がどうなのか等があり、個別具体的な判断が必要となる場合が少なくありません。
従業員から上記のような労働時間を主張されている場合は、弁護士にご相談されることをおすすめします。
(3)従業員が労働を行ったのかどうか
例えば、従業員が会社に残っていたものの、ネットサーフィン等をするのみで、何ら仕事をしていないような場合は、労働時間とはいえないでしょう。
なお、休憩時間であっても、使用者の指揮命令下に置かれているといえる場合、労働時間として計算されてしまいます。
具体的には、守衛の夜勤の仮眠時間や、社員寮の寮母の待機時間等が手待ち時間といえます。
このような要素を満たしているかどうかについても、慎重に吟味する必要があるでしょう。
(4)固定残業代として支払っていないかどうか
例えば、「基本給30万円のうち10万円を残業代とする」というような形で、固定残業代(「定額残業代」ともいいます。)を定めている会社も少なくないと思います。
このような固定残業代は、給与計算事務の負担を軽減すること、また、手取り額を多めに見せることができ、採用時の訴求力を高められること(もっとも、職業安定法や青少年雇用促進法等による規制があります。)等の理由から、導入されるものです。
そして、従業員から請求される未払い残業代が固定残業代として支払われていれば、支払うべき未払い残業代がない又は一部は支払済みであるという反論ができることになります。
また、固定残業代部分は、残業代の算定基礎賃金には算入されないことにもなり、残業代の全体額を抑えることにもつながります。
判例上、固定残業代により支払済みであるとの反論をするためには、以下が必要とされています。
- 通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条の定める割増賃金に当たる部分とが判別できること(「明確区分性」)
- 固定残業代(定額残業代)が割増賃金の対価として支払われていること(「対価性」)
具体的にこの反論ができるかどうかは、弁護士にご相談ください。
(5)消滅時効が成立しているかどうか
残業代を請求する権利(「残業代請求権」)についても、消滅時効が完成し、時効の援用をすれば、会社は支払義務を免れます。
そのため、会社としては、消滅時効が完成しているものが含まれていないかどうかも確認すべきでしょう。
安易に支払ってしまうと、承認したものとされてしまい、消滅時効の援用をすることができなくなってしまいます。
なお、残業代請求権の消滅時効期間は、近時、法改正がありました。
令和2年3月31日までに発生した残業代請求権についての消滅時効期間は、賃金支払日から2年間でしたが、令和2年4月1日以降に発生した残業代請求権についての消滅時効期間は、賃金支払日から5年間(当面の間3年)となりました。
3.残業代請求をされた場合の対処法

それでは、従業員から残業代請求をされた場合、会社はどのように対処するべきでしょうか。
以下、残業代請求をされた場合の対処法を2つご紹介します。
- 専門家である弁護士へ相談する
- 支払義務を負う残業代は全額支払う
(1)専門家である弁護士へ相談する
これまでに説明した限りでも、残業代請求に対処するための方法は、かなりの専門性を要するものであり、会社のみで対処すべきではないでしょう。
したがって、まずは、専門家である弁護士へ相談するべきです。
(2)支払義務を負う残業代は全額支払う
残業代請求をされた場合、会社側としては、まず、残業代が発生しないと全面的に争うことが考えられますが、一部の残業代については発生を認めた上で、残りの残業代の支払を争う場合も考えられます。
このような場合、支払義務を負うと考えられる残業代については支払うべきであり、争うべきものを争うという対応をとることをおすすめします。
特に、訴訟で判決となった場合、未払残業代に対しては付加金の支払いが命じられるため、口頭弁論が終了するまでに、負け筋の未払い残業代については、支払ってしまうことが大切だとされています。
4.残業代請求をされないようにするための方法

上記のとおり、民法改正に伴い、残業代請求の消滅時効期間が2年間から5年間(当面の間は3年間)に延長されました。
そのため、今後、会社が残業代を支払わなければならないとされた場合に、会社が負担する残業代が延長された分増加することになります。
したがって、会社としては、従業員から未払い残業代請求をされない環境構築を行うことが非常に重要です。
以下、従業員から残業代請求をされないようにするための2つの方法を紹介します。
- 労働時間の管理を徹底する
- 定時退勤を徹底し残業承認制を設ける
(1)労働時間の管理を徹底する
会社は、従業員の労働時間を把握する義務を負っています。
従業員の労働時間を具体的に把握できるようにするため、例えば、タイムカードやICカード等による労働時間の打刻を義務付ける(始業・終業時間だけでなく、休憩時間も打刻を義務付ける。)等の体制を構築すべきでしょう。
なお、厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」には、次のような対策が記載されています。
①始業・終業時刻の記録
②始業終業の確認および記録の原則的な方法
- 使用者が自ら現認し、記録
- タイムカード等の客観的な記録を基礎とする
③自己申告制により始業・終業時刻の確認および記録を行う場合の措置
- 労働者への適切な説明
- 必要に応じた実態調査
- 適正な申告を阻害せず、阻害している要因がある場合には改善する
④労働時間の記録に関する書類の保存
⑤労働時間を管理する者の職務
- 労務管理の責任者は、労働時間の適正な把握、問題解消をする必要があります
⑥労働時間短縮委員会等の活用
- 必要に応じた労使協議組織の活用
(2)定時退勤を徹底し残業承認制を設ける
また、残業代請求をされないようにするためには、残業代を発生させる時間外労働等を行わせないことも重要です。
そのためには、定時退勤を徹底し、就業規則において、「事前に承認を得た場合にのみ残業を認める」という残業承認制を設けておくことも考えられます。
もっとも、裁判例では、残業承認制が設けられていた会社において、従業員が会社の事前の承認を得ないで行った残業時間について、会社が従業員に対して所定労働時間内に業務を終了させることが困難な量を業務を行わせ、従業員の時間外労働が常態化していたことを理由として、会社の承認なく行われた残業時間を労働時間にあたると判断した裁判例があります(東京地判平成30年3月28日・クロスインデックス事件)。
したがって、会社としては、残業承認制を設けるだけでなく、業務量の調整を行い、会社の承認なく従業員が時間外労働を行っている場合には、従業員に対し業務の停止を命じる等の対応を行うべきでしょう。
まとめ
本記事では、会社が従業員から未払い残業代をされた場合について、前提としての会社への影響、会社が確認すべきこと、具体的な対処法や残業代請求をされないようにするための方法等を総論的にご紹介しました。
従業員から残業代請求をされた場合は、労働問題に詳しい弁護士法人みずきにご相談ください。
関連記事

