宿泊契約(予約)のキャンセル等

1 お客からのキャンセル

ホテルや旅館など(以下、「ホテル等」といいます。)を営業していれば、お客から宿泊予約をキャンセルされることはよくあることかと思います。そして、その場合に避けては通れないのが、キャンセル料の問題です。

では、ホテル等は、いかなる場合に、どの程度のキャンセル料を請求することができるでしょうか。

以下で詳しく検討していきます。

(1)キャンセル料について

お客からの宿泊の申込みがあり、ホテル等がこれを承諾した場合、法律的には、両者の間で宿泊契約が成立し、原則として、一方の意思でこの契約を解約(キャンセル)することはできません。

もっとも、多くのホテル等では、お客の側からのキャンセルを認めている場合がほとんどではないかと思います。

宿泊しないことが分かっているお客との契約を維持するよりも、別のお客から新たな予約を取ったほうがホテル等にとっても利益になるので、当然といえば当然です。

観光庁が作成するモデル宿泊約款(以下、「モデル約款」といいます。)6条においても、お客からのキャンセルが認められています。

ただし、同約款では、お客の「責めに帰すべき事由」によりキャンセルした場合には、キャンセル料を支払わなければならないとされています。

キャンセル料をどのように設定するかは、原則として、当事者間の合意の下で自由に決めることができますが、一般的には、ホテル等が定める宿泊約款によってその内容が決められています。

仮にこのような約款を置いていなくとも、予約時に、お客に対して、キャンセルの場合にキャンセル料が発生することを告知していれば、それが契約の内容となって、キャンセル料を請求することが可能となります。

(2)どのような場合にキャンセル料を請求できるのか

お客の「責めに帰すべき事由」によるキャンセル

約款でキャンセル料について定めている場合や、お客からの予約時にキャンセル料が発生することを告知していた場合、実際にお客がキャンセルをしたら、いかなる場合であってもキャンセル料を請求できるのでしょうか。

モデル約款においては、お客の「責めに帰すべき事由」が必要とされています。

つまり、お客の側にキャンセルの責任がない場合には、キャンセル料は発生しません。

例えば、ホテル等の内部又はその近隣で、危険性の高い感染症の発症患者が確認されたとか、大型の台風の接近、大地震、大雪などの自然災害、公共交通機関のトラブルや道路の封鎖など、やむを得ない理由によって宿泊が困難となってしまったといえる場合には、キャンセル料は発生しません。

反対に、急に仕事が入って宿泊できなくなったとか、旅程の変更に伴うキャンセルなどは、お客の「責めに帰すべき事由」といえますので、キャンセル料が発生します。

本人の病気や怪我や近親者の病気や怪我、死亡によるキャンセル

では、本人の病気や怪我、あるいは、近親者の病気や怪我、死亡などは、お客の「責めに帰すべき事由」にあたるといえるでしょうか。

この点の判断は意見が分かれるところです。

例えば、一般的な風邪や、転んで骨折してしまったなどといった理由であれば、自己管理の問題といえますから、お客の「責めに帰すべき事由」にあたるといえそうです。

しかし、本人に全く責任のない交通事故の被害に遭って大怪我をしたとか、旅行の前に大病を患っていることが発覚し、手術のために宿泊ができなくなったなどという場合にまで、自己管理の問題としてお客の「責めに帰すべき事由」といえるかは判断が分かれるところかと思います。

参考までに、平成13年までの標準旅行約款では、「旅行者の配偶者又は一親等の親族が死亡した場合」を、やむを得ないキャンセルとしていました。

しかし、平成13年に同約款が改正された際、この定めは削除されています。その理由は、当該条項が、不当なキャンセルの口実に使われやすかったためです。

このような事情に照らすと、本人の大病や近親者の死亡等によるキャンセルに対してキャンセル料を請求するかどうかは、個々のホテル等がその約款においてキャンセル料を請求する定めを置くか否かに委ねられていると考えてもいいのかもしれません。

大病や近親者の死亡を口実にした不当キャンセルに対して、ホテル等の利益を確保するのであれば、そのような理由によるキャンセルについても、キャンセル料を請求する旨の規定を置くべきです。

他方で、ホテル等の経営政策として、中・長期的な顧客の確保を優先して、一律キャンセル料を請求しないとすることにも合理性があると言えます。

なお、定款に上記のような定めを置いたとしても、ホテル等は必ずしもキャンセル料を請求しなければならないわけではないですし、反対に、定款に定めを置いていなかったとしても、本人の大病や近親者の死亡という理由が真実でなかった場合には、お客の「責めに帰すべき事由」によるキャンセルとしてキャンセル料が請求できることはいうまでもありません。

キャンセルの時期について

現在多くのホテル等では、キャンセル料の請求については、「宿泊の●日前までであれば、キャンセル料はなし、▲日前から■日前になると、宿泊料の◆%のキャンセル料が発生します」というように、宿泊の日とキャンセルの時期によって、キャンセル料の請求の有無及び請求金額を細かく設定していることが多いように思います。モデル約款においても、同様の定めがあります。

ホテル等がこのように約款において具体的な請求の有無及び請求金額を定めている場合は、原則としてはその定めに従ってキャンセル料を請求することができます。

しかし、このような定めがあれば、どのような内容であっても規定どおりのキャンセル料が請求できるわけではありません。

一般にホテル等は、宿泊直前の予約でない限り、お客からの予約が入った時点ですぐにそのお客の宿泊の準備に取り掛かるわけではありません。

例えば、お客が1年後の宿泊の予約をキャンセルしたからといって、ホテル等に何らかの損害が発生することは通常想定できません。

ホテル側は、1年後の予約をキャンセルされたとしても、1年もあれば、別のお客からの予約を取ることが十分に可能だからです。

そうすると、お客の「責めに帰すべき事由」によるキャンセルがされた場合にはその時期にかかわらずキャンセル料が発生するような定めを置いていたとしても、そのような定めについては、相当な期間を超えてキャンセル料が発生することになる部分は無効となると考えられます。

したがって、仮にお客の「責めに帰すべき事由」によるキャンセルであっても、宿泊日までに相当の期間があり、お客のキャンセルによりホテル等に具体的な損害が発生しない場合においては、キャンセル料を請求できないということも十分に考えられます。

キャンセルの時期とキャンセル料の請求については、予約の内容(特別な企画や、特注の料理・物品の提供を求めるなど)やその規模(予約人数)によって、準備期間や準備に要する費用なども変動してきますので、キャンセル料の請求の可否は、具体的事案によっても変わってくることが考えられます。

(3)キャンセル料はどの程度請求できるのか

消費者契約法9条1項は、「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える」キャンセル料の定めは、その超える部分は無効となると定めています。

ホテル等に対して、お客は「消費者」にあたるため、宿泊契約にもこの条文が適用されることになります。

では、どの程度であれば「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える」ことになるのでしょうか。

これを具体的に定めている法令等はないようですが、ホテル側で定款を定めてキャンセル料の金額を設定できるとはいえ、その金額の程度は一定の範囲に制限されることになり、お客に対して不当な金銭負担を強いるような高額なキャンセル料を請求することはできません。

『改訂版 Q&A 旅館ホテル業トラブル解決の手引き(雨宮眞也ほか)』においては、当日キャンセルは100%、前日キャンセルは50%、2日前キャンセルは30%程度が妥当と考えられるとされています(同書77頁)。

もっとも、この点に関しても、予約の内容やその規模によって準備に要する費用などが変わるため、請求できる金額の程度も具体的事案によって変動してくると考えられます。

2 ホテル等からのキャンセル

宿泊契約の解約は、お客からのキャンセルの場合が圧倒的に多いかと思いますが、ホテル等が、宿泊客との宿泊契約を解約したいと考えることもあろうかと思います。どのような場合にホテル等は宿泊客との契約を解約できるのでしょうか。

モデル約款7条で、ホテル等からの契約の解除の場合が定められています。

そこでは、①法令の規定や公の秩序、善良の風俗に反する行為をするおそれがあるとか、そのような行為をしたとき、②暴力的要求行為が行われたり、合理的な範囲を超える負担を求められたりしたとき、③寝室での寝たばこ、消火用設備にいたずらをした場合などに解除できると定めています。

また、各都道府県の条例においても宿泊を拒むことのできる場合が既定されていることもあり、例えば東京都では、泥酔者でかつ、他の宿泊客に著しい迷惑を及ぼすおそれが場合などに宿泊契約を解除して、宿泊を拒むことができるとされています。

3 まとめ

このように、お客との宿泊契約のキャンセル・解除には、さまざまな制限があり、その制限の中で、お客とのトラブルを回避したり、紛争となった場合にはホテル等の利益を適切に保護したりしなければなりません。

一方で、ホテル等の利益を最大限追求するのと同時に、中・長期的な経営政策のために、法律的には請求可能な目先の権利・利益に眼をつぶらなければならないこともあると思います。

しかし、そのような判断を適切に行うためには、法律的にどのような請求が可能なのか、また、それを実現するためのコストについて把握できていなければなりません。

ご自身が経営されているホテル等が有する権利と、それを実現するためのコストについて、曖昧なままでは、結果的に損をしてしまう可能性は十分にあります。

キャンセル料の内容や、不当キャンセル、迷惑な宿泊客への対応についてお悩みのホテル等の事業者の方は、是非、法律の専門家にご相談されてはいかがでしょうか。