ホテル・旅館の宿泊予約のキャンセル料を請求できるタイミング

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。

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ホテル・旅館を営業していると宿泊予約のキャンセルをうけることはよくあるかと思います。

そして、その場合に生じる問題がキャンセル料の問題です。

「今回のケースでキャンセル料を請求していいのか」
「請求できるキャンセル料はいくらなのか」

お客様とのやり取りでそんな悩みを抱えている方も少なくありません。

また、キャンセル料の金額は消費者契約法による規制があるため、知らないうちに違法状態になってしまっているという可能性もあります。

本記事では、ホテルや旅館がキャンセル料を請求できるのはどういうときなのか、キャンセル料はいくらまで請求できるのか、キャンセルポリシーの定め方、そしてキャンセルポリシーに免責事項を定めた場合の注意点についてご説明します。

宿泊客からキャンセル料を適正に受領したいと考えている事業者の方、キャンセル料をめぐって利用者とトラブルになっている方、キャンセルポリシーの見直しを考えている方は本記事を参考にしていただければと思います。

1.キャンセル料とは

キャンセル料とは、宿泊の予約が確定した後に予約を変更またはキャンセルする場合に発生する料金です。

お客様から宿泊の申込みがあり、ホテル等がこれを承諾した場合、法律的には、両者の間で宿泊契約が成立します。

この契約がお客様の意思でキャンセルとなる場合、ホテル側は、予約を受け付けた時点でお客様のために特定の部屋やサービスを確保し、その予約に基づいて業務を計画・調整するため予約がキャンセルされると予約に関連する損失を被る可能性があります。

そこで、解約による損害の補填として必要となるのがキャンセル料です。

2.ホテル・旅館がキャンセル料を定める際の2つの注意ポイント

キャンセル料は、キャンセルによって発生する損害の補填という性質を持ちます。

キャンセル料を定める場合に注意すべきポイントは、下記の2点です。

注意すべきポイント

  1. キャンセル料をいくらにするのか
  2. キャンセル料があることを明文化しておくこと

以下に詳細についてご説明します。

(1)キャンセル料はいくらまで請求できるのか

キャンセル料の金額は法律による規制があるため、無限に設定できるわけではありません。

キャンセル料についての定めがあるのは「消費者契約法」です。

ホテルの宿泊客は「消費者」です。

そのため、宿泊契約にもこの法律が適用されることになります。

#1:高額なキャンセル料は消費者契約法によって無効となる

キャンセル料について定めがあるのは、消費者契約法9条1項です。

この条文では、キャンセル料について、解除によって平均的に業者に生じる損害の金額を超えたキャンセル料を定めた場合、その超える部分は無効だと定めています。

消費者契約法9条1項

次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。

一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分

たとえば、宿泊のキャンセルによって生じる平均的な損害が5万円だったとして、キャンセル料を6万円と定めた場合は、5万円を超える1万円部分は無効だということになります。

#2:適法なキャンセル料はいくらが妥当なのか

では、どの程度であれば「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える」ことになるのでしょうか。

これを具体的に定めている法令等はないようです。

そのため、そのホテルの個別具体的な運営状況に応じて適法な範囲でキャンセル料を定めていく必要があります。

しかしながら、キャンセルの場合に生じる損害は予約内容やその規模によって準備に要する費用などが変わることから、金額を一律とすることは定め方として適していません。

たとえば、キャンセルが生じた場合は他のお客様から予約をいただかない限りは損害が発生してしまいますが、これが当日なのか、3か月前なのか、一般客なのか、団体客なのかによって実際に損害が生じるかは異なります。

そのため、国土交通省が公開している「モデル宿泊約款」のように、「契約申込人数」と「解除の通知を受けた日」という2つの軸を用いてキャンセル料の算定基準を段階的に設けていくことが実態に適合しやすいといえるでしょう。

もっとも、このモデル約款のうえでも割合の部分は空欄となっていますので、ご自身の施設の運営状況に応じた設定が必要となります。

参考までに、『改訂版 Q&A 旅館ホテル業トラブル解決の手引き(雨宮眞也ほか)』においては、当日キャンセルは100%、前日キャンセルは50%、2日前キャンセルは30%程度がモデルケースとして登場しています(同書77頁)。

(2)キャンセルポリシーを定める

キャンセル時にキャンセル料がかかることを明文化しておくことが大切です。

もちろん、キャンセル料の損害の補填という法的性質からすると、キャンセルポリシーがなくてもキャンセル料は請求できます。

しかし、その場合は、損害の根拠資料をもとに損害額を計算し、その金額を相手方へ請求し交渉するという流れを踏まなければなりません。

キャンセルはホテル側にとって日常的に起こり得ることですから、その都度損害の疎明や交渉をしていくことは現実的ではありません。

効率的にキャンセルへの備えをするためには、キャンセル料についてキャンセルポリシーや宿泊約款などに明文化しておき、宿泊予約時に提示し同意を得ておくことが大切です。

また、キャンセルポリシーを明文化し顧客から同意を得ておくことは、単にキャンセルによって生じる損害に備えるというだけでなく、安易なキャンセルの抑止ともなります。

3.キャンセルポリシーの定め方

キャンセルポリシーを定めるときは、少なくとも以下の内容を定めておくことが大切です。

・キャンセルの方法(連絡先、対応時間 など)
・キャンセル料金
・キャンセル料を超える損害が発生する場合は別途損害賠償請求をすること

また、お客様への配慮として、お客様の責めに帰すことのできない理由によるキャンセルの場合はキャンセル料を請求しないという「免責事項」を設けることがあります。

しかし、その場合はキャンセル理由の精査が必要となることに注意しなければなりません。

たとえば、次のようなケースでキャンセル料を請求するのかしないのかという問題が出てきます。

#1:天候や交通機関によるキャンセル

台風、大雨、大雪などの自然災害や、鉄道事故、ストライキなどの人為的なトラブルによってホテルへたどり着けないことを理由にキャンセルとなることがあります。

この場合は、お客様の責めに帰すことのできない理由だと考えられるため、キャンセル料は発生しません。

また、ホテルへたどりつけないかどうかはわからないけれども、台風の予想進路範囲内にホテルがあることを理由としたキャンセルというケースもあります。

この場合は、移動手段の有無や滞在中の安全などから総合考慮することになります。

もっとも、予想進路であるということは、台風が通る可能性が高いといえる状態ですので、多くのケースでお客様の責めに帰すことのできない理由によるキャンセルだと言えます。

#2:感染症が発生したことによるキャンセル

感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)で特定された感染症に罹患した人が宿泊施設内で生じた場合は、同法規定の措置がとられます。

このような場合のキャンセルは、お客様の責めに帰すことのできない理由によるキャンセルと考えられるため、キャンセル料は発生しません。

他方で、感染症が発生した場所が、ホテルと同じ県内だけれども別の市区町村であるというケースでは、お客様の心情的に付近に行きたくないと考えてのキャンセルとなるため、お客様の責めに帰すべき理由によるキャンセルとしてキャンセル料を請求できる場合があります。

もっとも、お客様の心情配慮という観点からすると実際にキャンセル料をいただくかどうかは判断がわかれるところです。

さらに、ホテルの近隣で感染症が発生したというようなケースでは、ホテルの方からキャンセル連絡をすべき場合もあります。

このように、感染症が発生したことによるキャンセルの場合は、法的にはどうなのか、おもてなしとしてどうなのか、危機管理としてどうなのかなど、多角的に考えて結論を出す必要があります。

#3:旅行者の配偶者又は一親等の親族が死亡した場合を理由とするキャンセル

社会通念上、親、子、妻、夫などの近しい家族が死亡した場合は旅行どころではありません。

そのため、お客様の責めに帰すことのできない理由によるキャンセルと考えられるところです。

しかし、内容的にホテル側が裏をとらないことが多いことから、親族の病気や死亡は、不当キャンセルの口実に使われるケースが後を絶ちません。

「旅行者の配偶者又は一親等の親族が死亡した場合」は平成13年に標準旅行約款からも削除されていることから、むしろ、この理由によるキャンセルの場合は原則キャンセル料をいただくとしておき、実際にキャンセル料をいただくか否かは、個別具体的な事情によって判断するという方法をとった方が良いかもしれません。

このように、キャンセルポリシーに免責事項を設けるときはキャンセル料を請求するか否かの状況判断が必要となります。

免責事項を設ける場合は、キャンセルポリシーの意義を損わない範囲で設けることが大切です。

4.ホテル・旅館からキャンセルしたい場合

ここまで、顧客側からのキャンセルについてご説明しました。

しかし、宿泊契約の解約は、お客からのキャンセルの場合が圧倒的に多いとはいえ、ホテル側が、宿泊客との宿泊契約を解約したいと考えることも一定程度あります。

どのような場合にホテル等は宿泊客との契約を解約できるのでしょうか。

国土交通省が公開している「モデル宿泊約款」のうえでは、ホテル側からの契約の解除の場合について次のようなケースが設けられています。

・法令の規定や公の秩序、善良の風俗に反する行為をするおそれがある場合やそのような行為をしたとき
・暴力的要求行為、合理的な範囲を超える負担を求められたとき
・寝室での寝たばこ、消火用設備にいたずらをした場合

また、各都道府県の条例においても宿泊を拒むことのできる場合が既定されていることもあります。

たとえば、東京都では泥酔者でかつ他の宿泊客に著しい迷惑を及ぼすおそれが場合などに宿泊契約を解除して、宿泊を拒むことができるとされています。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

本記事では、ホテルや旅館がキャンセル料を請求できるのはどういうときなのか、キャンセル料はいくらまで請求できるのか、キャンセルポリシーの定め方などについてご紹介しました。

宿泊施設はおもてなしの場である以上、ある程度は利用者への心情的配慮は必要であり、厳格なキャンセルポリシーは適切ではありません。

しかし、近年インターネットの発達により国内外から気軽に予約をとることができるため、不当なキャンセルへの備えをしておかなければホテル側が思わぬ損害を被る可能性があります。

本記事を読んでキャンセルポリシーの内容を見直してみようと思った方、不当キャンセルや迷惑な宿泊客への対応についてお悩みの方は、是非一度当事務所へご相談ください。

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。