ホテル・旅館で利用客がけがをした場合のトラブル対処法を徹底解説

ホテル・旅館で利用客がけがをするトラブル

前回は、ホテルや旅館(以下、「ホテル等」といいます。)で提供される食事に着目したさまざまなトラブルのケースを想定しながら、利用客とのトラブルへの対応を紹介しました。

今回は、ホテル等の施設内で利用客がけがをしたというトラブルを想定して、その対応を見ていきます。

(1)ホテル等に課せられる法的な義務

利用客に対してホテル等の施設の利用を提供する場合、宿泊契約に基づくサービスの提供に当たり、安全な設備を提供する義務を負っています(このような義務を「安全配慮義務」といいます)。

また、ホテル等は、ホテルの設備を管理するにあたり、他人に損害を与えないように注意すべき義務を負っています(民法717条1項)。

これらの義務は、ホテル等に、設備の設置や管理について過失がなければ責任を負いませんが、トラブルが発生した後で過失がなかったことを証明することは容易ではありませんので、設備の管理には普段から細心の注意を心がけておく必要があります。

(2)具体的検討

利用客がホテル等の施設内でけがをしたことを確認した場合、まずは医師による適切な治療を受けてもらうよう手配すべきです。

次に、けがに至った事実関係の調査を行います。

現場の状況確認に加え、居合わせた従業員や他の利用客からの事情聴取を行うことも必要です。

また、後の紛争に備え、現場の状況や目撃者の話などはできる限り客観的な記録として保存しておくことが望ましいです。

以下、更に具体的に見ていきます。

#1:浴場ですべって転倒した

浴場ですべって転倒したという場合は、転倒した利用客が浴場内で走っていたとか、お酒に酔っていたなどといった事情が発覚すれば、それは転倒した利用客の自己責任であるといえます。

そのような事情がなく、床がすべりやすくなっていたことが原因であるとすると、今度は、そのような状態が普段から放置されていたのか、それともそのときに限ってたまたますべりやすくなっていたのかなど、原因解明に尽くすべきでしょう。

普段からすべりやすくなっていたという場合には、ホテル等に責任が問われる可能性は高くなります。

その場合は、①すべりやすいことをホテル等が認識していたか、②すべりやすい旨の注意書きなどを施していたか、③すべりやすい場所に手すりをつける、すべりにくい素材の床に変える、すべり止めのマットなどを敷くといった転倒を防止する措置を講じていたか、④そのような措置を講じることが可能だったかなどの諸事情によってホテル等の過失の有無や大小が決まっていきます。

#2:段差や階段で転倒した

浴場に限らず、階段や段差などにおいても転倒の可能性があります。

その場合には、上記のような利用客自身の落ち度のほか、段差があることが分かりづらい構造になっていなかったか、段差に注意すべき旨の掲示をしていたか、手すりや灯りを設置していたか、灯りの電球が切れていなかったか、すべりやすい材質の床ではなかったかなどの事情が考慮されることになります。

#3:施設の崩落、樹木や燈篭の転倒によりけがをした

震災などの不可抗力、利用客の故意又は重大な過失によらずに施設が崩落し、あるいは施設内に植えられた樹木や設置されている灯篭等が転倒して利用客がけがをした場合には、ホテル等に過失が認められることは避けがたいでしょう。

ホテル等としては、通常想定される程度の地震で施設の崩落や設置物の転倒が生じないように対策を講じておくべきですし、例えば子どもがいたずらをして灯篭等を押したところこれが倒れてしまったという場合であっても、子どもの力で倒れる程度の強度しかなかったとなれば過失が認められることになると思われます。

地震等に耐えうる強度が維持できない設置物については、手を触れたり寄りかかったりできないよう囲いをしたり、転倒の危険がある旨の注意書きをしておくなどの対策は講じておくべきでしょう。

このような対策をしていたにもかかわらず事故が生じた場合には、被害者側にも過失があるとして、責任を小さくすることも可能です。

#4:犬に噛まれてけがをした

ホテル等では、看板犬などとして犬を飼われている場合もあるかもしれません。

ホテル等で飼っている犬が利用客に噛み付いてけがをさせた場合には、相当の注意をして管理していたといえない限り、ホテル等が責任を負うことになります。

感染症などの危険性もあるため、必ず医師の治療を受けてもらうべきでしょう。

また、その際の治療費はホテル等で負担すべきです。

次に、ホテル等における犬の管理方法が不十分でなかったかを検討すべきですが、動物が想定外の行動を起こすことはままあることですので、単に紐につないでいたといった程度の管理では責任は免れないでしょう。

また、触れたり驚かせたりしないよう注意していたとしても、容易に近づくことができるような状態であったとするとあまり意味はありません。

つまりは、このようなトラブルを回避するには、物理的に利用客が近づくことができないように分離して、犬が利用客を噛むことがないようにしておかなければ、責任を完全に回避することは難しいものと思われます。

次に、利用客が噛まれたことについて、利用客側に落ち度がなかったかを検討します。

利用客が故意に犬を驚かせたとか、あるいは犬に暴力を振るったなどの事情が発覚すれば、利用者側に大きな落ち度があるといえるでしょう。

この点でも、トラブル後の原因解明が非常に重要になってくるといえます。

ところで、利用客が連れていた飼い犬が他の利用客に噛み付いてけがをさせたという場合も想定できます。

この場合には、犬の飼い主である利用客に責任が生じることになりますが、ホテル等がその施設内で利用客が連れてきたペットをどのように取扱っていたかによって、ホテル等にも責任が生じることがありえます。

例えば、ペットの連れ込みについて何らの制限もしていなかったとか、利用客の連れてきた飼い犬が他の利用客に容易に接触できる状態であったにもかかわらずそれを看過していたというような場合には、ホテル等に善管注意義務違反が問われる可能性があります。

なお、利用客の中には、アレルギーを持つ方がいてもおかしくありませんので、利用客が連れてきたペットが施設内で他の利用客に接触することには危険が伴います。

仮にペットの連れ込みを許可している場合には、客室以外では移動用のケージに入れることを義務付けたり、衛生管理を徹底するなどして事故の発生を厳に防ぐ努力を行う必要があります。

まとめ

以上に挙げた例のほかにも、ホテル等の施設内において利用客がけがを負うトラブルについては様々な場面を想定することができます。

これらのトラブルを防ぐためには、その設備について、設置・管理が不十分な箇所がないか、常に確認を怠らないように注意を行き届かせておくべきでしょう。

これらの管理をしっかりと行っていても、トラブルを全く無くすことは不可能です。

利用客とのトラブルの対応には法的な知識や対応が求められることも少なくないので、利用客とのトラブルの対応でお困りのホテル等の経営者の方は、法律の専門家である弁護士にご相談することをお勧めします。