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裁判例: 過失割合

交通事故
下肢

自転車vs自動車 ~傘差し運転の過失割合【後遺障害12級13号相当】

事案の概要

X(原告:64歳女性)が、交差点で傘を差して自転車に搭乗中、衝突までXに気付かなかったY(被告:83歳男性)運転の乗用車に出会頭に衝突され、左大腿骨転子下骨折、左下腿打撲等の傷害を負い、約1年2ヶ月入通院して、自賠責14級9号後遺障害認定を受けたが、12級7号または13号左股関節部の疼痛、14級9号左足関節の痛み等から併合12級後遺障害を残したとして、既払金201万8006円を控除し、1354万3374円を求めて訴えを提起した。

<主な争点>

①Xの過失の程度と過失相殺の可否
②Xの傷害、後遺障害の有無及び内容

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 151万8006円 151万8006円
入院雑費 9万9000円 9万9000円
通院交通費 1793円 1793円
文書料 1万0800円 1万0800円
装具購入費 1万9300円 1万9300円
休業損害 246万5545円 124万3400円
後遺障害逸失利益 440万1436円 236万7911円
入通院慰謝料 225万0000円 200万0000円
後遺障害慰謝料 350万0000円 280万0000円
物損 9万5500円 9550円
過失相殺 ▲15%
既払金 ▲201万8006円 ▲201万8006円
弁護士費用 120万0000円 65万0000円
合計 1354万3374円 719万1290円

<判断のポイント>

① Xの過失の程度と過失相殺の可否

本件の具体的な検討に入る前に、過失や過失相殺について少し説明をします。

過失とは、ざっくりと言えば不注意のことを言います(法律的には客観的注意義務違反といいます)。

そして過失相殺とは、被害者が加害者に対して損害賠償請求をする場合、被害者にも過失があったときに、公平の観点から、損害賠償額を減額することを言います。

その減額の度合いは過失割合で決まります。

交通事故においては、過失割合は事故態様に応じて類型化されており、ある程度決まっています。

実務においては、判例タイムズ社という出版社が出している「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」という本が使われていますが、これは裁判例をもとにして過失割合の基準が決められています。

典型的な事故の場合には、その基準をそのまま用いる場合もありますが、ある程度修正要素も定められており、個別具体的な事情に応じて過失割合の修正がなされます(あくまで目安ですが)。

例えば、本件のように、自転車と四輪者が信号のない同幅員の交差点で出会いがしらの衝突事故に遭った場合、基本的には自転車が2割、自動車が8割の過失があるとされます(20:80と表現されます)。

ただ、自転車の側が児童や高齢者である場合には被害者の過失割合から-5の修正を行い(すなわち15:85)、自動車に著しい過失(要はひどい不注意)がある場合には被害者の過失割合から-10の修正を行うとされています(すなわち10:90となります)。

過失割合は、上で述べたように、過失相殺で減額する度合いを言いますから、被害者が請求できる損害賠償額にかかわってきます。

つまり、被害者が怪我をして100万円の損害が生じている場合、20:80の過失割合であるときには、被害者は80万円の請求しかできないことになります。

それでは、これらの点を踏まえて本件の裁判例を見てみたいと思います。

本件では、Xは、高齢者に準ずる者であること、Y車の速度の点やY車が衝突するまでX車に気付かない点でYに著しい過失があることからすれば、過失相殺すべき事案ではないと主張しています。

これに対してYは、Y車がX車の左方車であり優先関係にあること、Xが折りたたみ傘を持って片手運転をしていたことから、Yの過失割合を加重する理由にはならないと反論しました。

この点につき裁判所は、Yには、X車と衝突した後にすら、右方から進入してきたX車について、左方から進入してきたと当初思っていたほどX車の発見が遅れたことからすれば、Yには前方不注視及び交差道路の安全不確認という点で、一般的に想定される程度以上の著しい過失があるとしました。

また、Xには、右手に傘を差したまま片手で自転車を運転した点、左方のY車を発見したにもかかわらず停止するものと軽信して進行したことについて過失があるとする一方、64歳であり注意力・判断力が低下しがちな要保護性の高い存在であることも考慮すべきとしました。

その結果、Xに15%の過失相殺を行うのが相当と判断しました。

上で述べた過失相殺の例のように、目安としては、自転車の運転者が高齢者の場合は-5、相手に著しい過失がある場合は-10を、被害者の過失割合において修正します。

もっとも本件では、その両方が考慮されているにもかかわらず、Xに15%の過失割合が認定されています。

すなわち、Xの傘差し運転などの過失が相当程度考慮されていることがわかります。

近年、自転車事故が多くなり、取り締まりや罰則も厳しくなっていることからも、この裁判例の結論は妥当なものと言えるでしょう。

② Xの傷害、後遺障害の有無及び内容

本件では、Xの後遺障害逸失利益も争点となりました。

Xは、左股関節部につき12級7号又は12級13号、左足関節部につき14級9号、左下肢の醜状につき準114級とされるべきで、併合12級が相当であると主張し、Yは全面的に否認しました。

裁判所は、Xは、本件事故により左大腿骨転子下骨折の傷害を負い、インプラント(髄内釘)を固定する手術を受けたこと、骨癒合が完成し症状固定時まで一貫して疼痛を訴えていたこと、症状固定時において疼痛が残存し、担当医師は症状固定時においても大転子部にインプラント突出部位があることが疼痛の原因となっている旨診断していることを認定しました。

そのうえで、Xの左臀部の疼痛は、インプラントの突出部位の刺激によると説明でき、この症状は疼痛と整合する部位にインプラントが残置されていることに裏付けられ、医師の診断もあることから、「局部に頑固な神経症状を残すもの」として後遺障害等級12級13号に該当すると判断しました。

まとめ

本件は、自転車と自動車の事故を紹介しました。

そして、例に出した事故態様だと、過失割合は20:80が基準となります。

ここで、そもそも修正前の過失割合が、自動車の側に不利になっていることに疑問をもたれる方もいらっしゃると思います。

もっとも、これは自動車の方がスピードも出るし車体が大きく安定性があるので、自転車と自動車が衝突した場合、双方の損害に必然的に差が生じることからです。

そこで、交通事故を避けるべき注意義務は、自動車の側に大きく課されることになります。

そして、修正を行って適正な過失割合を決めて賠償額を確定するのですが、過失割合は本件のように様々な事情を考慮して決められるものです。

過失割合が5%も違えば、賠償額も大きく異なります。

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交通事故
外貌醜状

後遺障害には該当しない前額部線状痕について後遺障害慰謝料を認めた事例【後遺障害非該当】(大阪地方裁判所判決 平成28年10月28日)

事案の概要

美顔器具等の販売会社所長のX(原告:69歳女性)は、自転車痛効果の歩道を自転車で進行中、停車中のY(被告)所有の普通貨物自動車の助手席ドアを同乗のWが開けたため、顔面に直撃して、前額部挫創等の傷害を負い、約2年間通院し、右眉付近に約2センチメートルの線状痕を残したとして、既払金46万4882円を控除し664万6606円を求めて訴えを提起した。

<争点>

① Xの後遺障害の有無、程度
② Xの逸失利益の有無
③ Xの過失割合

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 51万2262円 51万2262円
通院交通費 1万3280円 1万3280円
休業損害 63万5946円 0円
通院慰謝料 206万円 120万円
後遺障害逸失利益 143万円 0円
後遺障害慰謝料 186万円 30万円
既払金 ▲46万4882円 ▲46万4882円
小計 604万6606円 156万0660円
弁護士費用 60万円 15円
合計 664万6606円 171万0660円

<判断のポイント>

本件事故により、Xは通院治療を終えたあとも、右眉付近に前額部挫創後の線状痕(約2センチメートル)が残存してしまいました。

自賠責保険に対する事前認定手続においては、前額部挫創後の瘢痕は、長さ3センチメートル以上の線状痕または10円銅貨大以上の瘢痕とは認められないため、自賠責保険における後遺障害には該当しないとの判断を受けていました。

そこで、裁判において前額部の線状痕は後遺障害に該当するかが争われました。

・外貌醜状について
「外貌」とは、頭部、顔面部、頚部など、上肢及び下肢以外の日常露出する部分をいいます。

そして、交通事故によって外貌に傷跡が残存した場合(これを「外貌醜状」といいます)、その傷跡の場所や大きさに応じて、3段階に区分された後遺障害等級が認定されます。

外貌醜状は、神経症状など目に見えにくい症状に比べて、外部から客観的に判断できるものであることから、基準がある程度明確に定められています。

*第7級の12:「外貌に著しい醜状を残すもの」
「著しい醜状」とは、以下のいずれかに該当する場合であって、人目につく程度以上のものをいいます。

ア 頭部にあっては、手のひら大(指は含まない)以上の瘢痕又は頭蓋骨の手のひら大以上の欠損
イ 顔面部にあっては、鶏卵大面以上の瘢痕又は10円銅貨大以上の組織陥没
ウ 頚部にあっては、手のひら大以上の瘢痕

*第9級の16:「外貌に相当程度の醜状を残すもの」
「相当程度の醜状」とは、顔面部の長さ5センチメートル以上の線状痕で、人目につく程度以上のものをいいます。

*第12級の14:「外貌に醜状を残すもの」
単なる「醜状」とは、以下のいずれかに該当する場合であって、人目につく程度以上のものをいいます。

ア 頭部にあっては、鶏卵大面以上の瘢痕又は頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損
イ 顔面部にあっては、10円銅貨大以上の瘢痕又は長さ3センチメートル以上の線状痕
ウ 頚部にあっては、鶏卵大面異常の瘢痕

※ここで、外貌醜状で注意しなければならないのは、「人目につく程度」という表現があることです。

顔面に線状痕があったとしても、眉毛や頭髪にかくれる部分は醜状として取り扱われません。

例えば、眉毛の走行に一致して3.5センチメートルの縫合創痕があり、そのうち1.5センチメートルが眉毛に隠れている場合は、顔面に残った線状痕は2センチメートルとなるので、外貌の醜状(12級の14)には該当しないことになります。

<X及びYの主張>

Xは、肌の手入れ等に特別に気を遣いながら長年コスメティック業界で働くなどしてきており、本件線状痕により精神的苦痛を感じていることから、後遺障害等級表12級の後遺障害慰謝料の3分の2に相当する金額が相当であると主張しました。

これに対してYは、本件線状痕は、長さは約2センチメートルであるが、眉に隠れる部分が相当程度あるほか、髪型によって隠れる場所に位置しており、後遺障害に該当するとは認められないと反論しました。

<裁判所の判断>

裁判所は、まず、本件線状痕は、傷の位置や長さ・大きさに照らすと、これが後遺障害等級表における後遺障害に相当するものとは認められないとしました。

上記の後遺障害の認定基準においても、12級の14が認められるためには、長さ3センチメートル以上の線状痕が必要とされることから、この判断は仕方のないところではあります。

しかし、顔面に2センチメートルの傷跡が残ってしまったことに対する精神的苦痛は生じているはずであり、特に普段仕事などで人前に立つ場合、その精神的苦痛は大きなものといえます。

3センチメートルの傷跡が残れば後遺障害が認められて慰謝料が支払われるのに、傷跡が2センチメートルの場合には慰謝料が支払われないとされるのは、あまりにも不均衡です。

そこで、裁判所も以下の事実を認定した上で、Xの線状痕は、後遺障害等級表における後遺障害には該当しないけれども、精神的苦痛が生じているとして慰謝料を認めました。

まず、Xは約20年間、美顔器具等の販売をする会社の営業所長として美顔器具や化粧品等の販売事業に携わり、美顔器具等の販売、営業所の販売員に対する指示・指導、その他の所長業務に従事してきたほか、芸能プロダクションに登録して広告やCMに出演するなどしてきたことが認められるとしました。

そして、Xが本件事故後もCM出演を継続していることを踏まえるなど、Xの職業や業務内容にも着目した上で、本件線状痕による精神的苦痛を慰謝するため、30万円の後遺障害慰謝料を認めました。

まず、逸失利益とは、後遺症が残存したことによる労働能力の低下の程度、収入の変化、将来の昇進・転職・失業等の不利益の可能性、日常生活上の不便等を考慮して算定される損害をいいます。
すなわち、後遺症によって仕事や日常生活に支障がきたすような場合でなければ逸失利益は認められないこととなります。

<X及びYの主張>

Xは、本件事故により、美顔器具や化粧品等の販売事業の廃業を余儀なくされており、少なくとも5年ほどは継続するつもりであったことから、女性平均月収(27万5100円)の10%相当の収入が、最低でも5年間失われたと主張しました。

これに対してYは、上記と同様、本件線状痕は約2センチメートルであり、眉に隠れる部分も相当程度あるとして後遺障害に該当しないから、逸失利益も認められないと反論しました。

裁判所は、本件線状痕は後遺障害には該当しないとし、さらに、Xは本件事故後に販売事業を廃業しているが、本件事故後の売上や所得の推移及びXの業務に本件線状痕が支障とならない業務も含まれていることなども考慮すると、廃業が本件事故によるものとまでは認められないから、後遺障害逸失利益を認めることはできないとしました。

外貌醜状の場合、後遺障害が認められたとしても、それが仕事や日常生活への支障に直結していなければ逸失利益は認められません。

上記のとおり、逸失利益とは、後遺症が残存したことによる労働能力の低下、日常生活上の不便等を考慮して算定される損害額だからです。

モデルやウエイターなどの接客業で、容姿が重視される職業に就いている場合には、ファンや客足が減るなど労働に直接影響を及ぼすおそれがある場合には、逸失利益が認められることになります。

Xは、美顔器具や化粧品等の販売事業を行っており、芸能プロダクションに登録して広告やCMに出演するなどしていたことから、ある程度容姿が重視される職業に就いていたと考えられます。

しかし、裁判所は、上記のように、Xの仕事には本件線状痕による支障はなかったとしてやや厳しい判断をしました。

Yは、Y車の停止位置の付近に設置された自動販売機があることにより歩道の幅員が1m弱と狭くなっていたことから、Xは、Y車から降車する者がありうることを予見し、Y車と自動販売機の間を進行する際には減速してY車の動静を注視すべきところ、これを怠った過失があるから、少なくとも1割の過失相殺をすべきである旨反論しました。

これに対してXは、本件事故は、Y車が停止した直後に発生したものではなく、Xが、Y車から降車する者の存在を予測することは不可能であり、本件事故は夜間に発生したものであること、WはXがY車のドア付近に差し掛かったタイミングでこれを開放したことも考慮すると、過失相殺はされるべきではないと主張しました。

<裁判所の判断>

裁判所は、以下のとおりの事実を認定し、Yの主張を排斥、すなわちXに過失は認められないとしました。

Wは、Y車のドアを開けるに際し、左後方の安全を確認すべき注意義務があったにもかかわらず、これを怠った過失があり、Wが衝突までXの存在を認識していないことなども踏まえると、その過失の程度は極めて大きいというべきである。

他方、Y車のドアの開放はXとの衝突の直前であり、Xがドアの開放を予見し、本件事故の発生を回避することができたとまで認めることは困難である。

したがって、本件事故についてXの過失は認め難いとしました。

まとめ

本件は、自賠責における後遺障害の認定基準には満たない外貌醜状に対して、後遺障害慰謝料を認めた事例です。

しかし、他方で後遺症による逸失利益は認められませんでした。

交通事故により生じた後遺障害にはさまざまなものがあり、外貌醜状のように後遺障害の認定基準がはっきりと定められているものがあります。

そして、認定基準に満たさず後遺障害が認定されなくとも、被害者の個別的事情から、精神的苦痛がある旨を主張することにより、適切な賠償額を得られることは十分に可能です。

また、本件では認められませんでしたが、現実に仕事に支障が生じている場合には、逸失利益も認められます。

もっとも、交通事故の怪我によってどのように精神的苦痛が生じており、仕事にどのように影響してどの程度の不利益を被ったかなどを、相手方に説明し、また、裁判で立証するということは1人ではなかなか困難です。

被害者の悩みを被害者に代わって、法的な主張として相手方と交渉し、また、裁判で立証するのが弁護士の仕事です。

交通事故に遭い、適切な賠償額が得られるのかお悩みの方がいましたら、是非当事務所にご相談いただければと思います。

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交通事故
外貌醜状

ロードバイクの特殊性を過失割合に反映しなかった事例【後遺障害12級14号】(東京地判平成28年7月8日)

事案の概要

X(24歳男性)は、ロードバイクで車道を直進していたところ、道路外に出ようと左折する被告の車に、巻き込まれるように衝突した。

Xは転倒し、下顎部挫創等の傷害を負い、下顎部の醜状痕は後遺障害等級12級14号と認定された。

<争点>

① 過失割合
② 外貌醜状の逸失利益

<主張及び認定>

主張 認定
治療関係費 6万7220円 5万4610円
通院交通費 2万3020円 2万3020円
休業損害 3万9545円 3万9545円
逸失利益 1278万4098円 100万円
傷害慰謝料 90万円 70万円
後遺障害慰謝料 300万円 290万円
過失相殺 0% 5%
既払金 ▲250万6285円 ▲250万6285円
弁護士費用 160万円 20万円
合計 1590万7598円 217万5031円

<判断のポイント>

<ロードバイクの特徴と過失割合>
近年、ロードバイクは競技のみならず、日常の足として使われています。

ヘルメットをかぶっていたり、目立つ色のウェアを着用したりしていれば、通常の自転車と異なり、高速度で走行しているものと一見してわかりますが、交通事故となると、そのようなケースはあまり多くありません。

過失割合は、道路形状、交通規制(信号機や一時停止の標識)、双方の車両の種類(車、二輪車、自転車)、双方の進路、速度などの事情によって定められます。

ロードバイクの特殊性は、双方の車両の種類、速度に大きく関わります。

<X及びYの主張>

Xは、「Yの車は、左折の際合図を出していなかった。」と主張しました。

これに対し、Yは、「Xの自転車はBianchi社製のスポーツタイプであり、本件事故当時、高速度で、なおかつ、不適切なブレーキ操作、前方不注視及び無灯火の過失があった。」と主張しました。

<裁判所の判断>

Xのロードバイクが、時速20kmの速度で走行し、かつ、ブレーキ操作を適切に行っていれば、Xは転倒せずに、Yの車の手前で停止できたと認められる。

ところが、Xは、急ブレーキによって転倒しているのであるから、Xには、道路の状況に応じた速度で走行する義務又はブレーキを確実に操作する義務(道路交通法70条)に違反した過失があったと認められる。

一方で、Yがいつその合図を出したかは不明である。

このように本件事故の発生についてはXにも過失があるが、本件事故の主たる原因は、Yが左後方の安全を十分確認することなく左折したことにあり、Xの過失は、Yの過失と比べると軽微であるから、Xの過失は5%とするのが相当である。

<外貌醜状のポイント>

外貌醜状は、対面する人に着目されるなどして、コミュニケーションに支障をきたすことあり得るものの、労働能力を直接的に減少させる要因にはならないと考えられています。

そのため、外貌醜状の後遺障害が残ってしまった場合には、逸失利益を主張するよりも、後遺障害慰謝料の増額を図ることを念頭に置く例が多いです。

<Xの主張>

Xは、舞台俳優になることを目指し、アルバイト等で生活費を稼ぎながら歌や踊りの練習をしたり舞台に出演したりする活動をしており、外貌醜状による労働能力の喪失は認められるべきとして、逸失利益1278万4098円を主張しました。

<裁判所の判断>

Xは、本件事故後も舞台活動を続けているものの、本件事故による下顎の挫創治癒痕を友人や知人に度々指摘され、舞台に立っているときも下顎の挫創治癒痕が気になって演技に集中できなくなることがあることなどを総合すれば、下顎の挫創治癒痕はXの労働能力に影響を及ぼすおそれがある。

もっとも、下顎の挫創治癒痕は化粧をすれば目立たなくなること、下顎の挫創治癒痕を理由に役を外されたりしたことはなく、本件事故前と同様に舞台活動を続けられていることに照らすと、下顎の挫創治癒痕が原告の労働能力に及ぼす影響は限定的といわざるを得ない。以上の事情を勘案すると、逸失利益は100万円と認めるのが相当である。

まとめ

外貌醜状の点は、他の参考判例解説に譲ることにしますが、本件で、舞台俳優を目指している方であっても、労働能力の喪失は限定的にしか認められないとした点は特徴的といえます。

ロードバイクは、自動二輪車に匹敵する高速度で走行することが可能であり、近年ではその利便性から、都市部で多く見かけます。

ロードバイクの事故に関するご依頼を多くいただくようになりましたが、自動二輪車と同等に取り扱われる例は少ないです。

本件のように、ロードバイクの特殊性よりも、道路形状、交通規制、双方の車両の種類、双方の進路、速度などの基本的な事情が重視されることが多いです。

ご自身がロードバイクに乗っていた場合、相手方がロードバイクに乗っていた場合のいずれであっても、当事務所にお気軽にご相談下さい。

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交通事故
外貌醜状

俳優の卵がキズモノに【後遺障害12級14号】(東京地判平成26年1月14日)

事案の概要

X(当時27歳・男性)は、普通自動二輪車を運転し直進進行していたところ、対向車線からでUターンをしようとしたY乗車の普通自動二輪車に衝突される。

Xは、頭部打撲傷、顔面挫創、左肘打撲擦過創等の傷害を負い通院治療をしたが、左眉部に6センチメートルの線状痕、左下顎部に3.3平方センチメートルの瘢痕、左下顎下部には5センチメートルの線状痕が残存し、当時の後遺障害等級12級14号に該当すると認定された。

これらの慰謝料等をYに対して損害賠償請求した事案である。

<争点>

①逸失利益が認められるか?
②過失割合は認められるか?

<主張及び認定>

主張 認定
治療関係費 647万6798円 646万8738円
通院交通費 2万3920円 2万2830円
文書料等 1万9379円 1万9379円
休業損害 334万3726円 264万4892円
逸失利益 3115万0810円 0円
傷害慰謝料 200万0000円 154万0000円
後遺障害慰謝料 800万0000円 700万0000円
既払金 ▲793万2857円 ▲950万7867円
弁護士費用 430万0000円 82万0000円
合計 4738万1776円 900万7972円

<判断のポイント>

(1)逸失利益について

本裁判例に限らず、傷痕や瘢痕が残ってしまうという外貌醜状障害の場合に大きな問題となるのが逸失利益を認めさせることができるか?という点です。

逸失利益とは、後遺障害が残ったことによって労働能力が喪失し、その結果として将来的に収入が減少する場合に、補償として認められます。つまり、例え後遺障害が残ったとしても、労働能力が減少しない限り、逸失利益は生じないことになります。通常、可動域制限や神経症状などが残存している場合には、これまでと同じように動けないのですから、逸失利益が生じることは暗黙の了解のような場合が多いのですが、外貌醜状や痛み等を伴わない変形障害は、従前通り稼動することができるため、逸失利益が認められない傾向にあります。

本件では、原告であるXが事故当時俳優研修所に通っている俳優の卵だったため、原告は残存した外貌醜状によって表情作りが困難になったり、オファーの来る役柄にも制限が出てしまい、労働能力の35%を喪失した、と主張しました。

これに対し、裁判所は、Xの本件事故以前の経歴や本件事故後の出演作品等を一つ一つ認定した上で、原告の傷痕は「通常は労働能力を喪失させるようなものではなく、原告が俳優の仕事に従事していることを考慮しても、舞台俳優としての活動には何ら支障になるものではないことが認められる」「原告が将来、俳優として成功するかどうかは様々な要因によって左右されるものであることを併せ考慮すると、左眉部の線状痕等が残存したことによって原告の俳優としての将来得べかりし収入が減少したと認めるには足りない」と判断し、逸失利益を認めませんでした。

もっとも、舞台俳優としては目立たなくとも、映像分野において俳優として活動する際に何らかの支障になる可能性があることは認め、後遺障害の慰謝料増額事由を認めました。

後遺障害12級の慰謝料相場が290万円であることを考えると、本件では410万円ほど増額していることになります。

(2)過失割合について

「双方動いていたら、10対0にはならない」という話を聞いたことがある方もいるかもしれません。

これは保険会社がよく使ってくるフレーズなのですが、本件で裁判所は双方進行中の事故でも過失相殺を認めませんでした。

本件事故は、平日の午前中で、現場付近の交通量が多い時間帯に起こっていますが、そのような場所でUターンをしようとする場合、慎重な運転が求められていたにもかかわらず、YはX車両にぶつかる直前までX車両に気づかないまま衝突しており、Yの前方不注視の違反が重大だと判断されたためです。

Xは、Y車両を避けようとブレーキをかけ、ハンドルを切るなどの措置をとっていることからすれば、本件事故は専らYの過失によって起きたと判断されました。

まとめ

外貌醜状障害が残存した場合には、本件のように逸失利益が認められるかが大きな争点となることが多くなります。

外貌醜状以外の他の症状も残存している場合には、それらと合わせて逸失利益の検討ができますが、外貌醜状態のみの場合には、実際にどの部位にどのような痕が残っており、仕事内容を勘案してどのような影響が生じるかという具体的な主張と立証が必要となります。

本件では、眉部分の傷痕は一部が眉と重なっており、映像でアップにすれば気づくことはありますが、写真や舞台では気づかない程度のものであり、左下顎部の瘢痕や線状痕もあまり目立たないものでした。そのため、具体的に仕事に支障が生じていることが認められず、逸失利益は否定されました。

もしも、どこから見ても分かってしまうような大きな痕であったり、傷痕によって仕事のオファーが減る、実際に傷痕を理由として降板させられるような事態が生じていれば、一定程度の逸失利益が認められた可能性は十分にあります。

もっとも、本件のように逸失利益が認められない場合にも、慰謝料が一定程度増額される傾向にあります。

この増額を勝ち取るためにも、被害者がその傷痕によってどのような弊害を被っているかをきちんと主張する必要があるのです。

※なお、本件事故当時は後遺障害等級上男性の醜状と女性の醜状は別々の等級とされていましたが、平成22年6月10日以後に発生した事故については、男女同等級となっています。

また、本件では過失相殺を否定しています。

Xはまっすぐ走っていただけなので、当たり前と思うかもしれませんが、具体的にどういう形で衝突したのかをきちんと立証できなければ、不本意にも過失割合が認められてしまうこともあります。

本件のように、加害者がどのような対応の運転行為をしてそれはいかに重大な不注意なのか、被害者はどのような対応の運転行為をしてそれはいかに評価すべきなのか、という点をしっかりとカバーすることが大切になります。

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交通事故
死亡

生活を助け合っている家族が亡くなったとき~扶養利益~(大坂地判平成27年10月14日)

事案の概要

東西に通じる道路と、その道路に南方から通じる道路が丁字に交わる交差点の東方に設けられた横断歩道上で、青信号に従って南方から交差点に進入し東方に右折したY車が、横断中の亡Cに衝突。

その結果、亡Cは死亡し、(1)亡Cの内縁の夫X1は、自己固有の人的損害を、(2)亡Cの子であるX2らは、亡Cの人的損害の相続分について、それぞれ支払を求めた事案。

<主な争点>

①X1は「内縁の夫」か否か
②X1の固有の損害の有無・額
③X2らの損害額

<主張及び認定>

①X1

主張 認定
扶養利益の喪失 2070万8069円 655万0533円
固有の慰謝料 1200万0000円 600万0000円
弁護士費用 320万0000円 100万0000円

②X2ら

主張 認定
葬儀費用 518万4426円 150万0000円
死亡逸失利益 3451万7484円
・稼動分 2457万8619円
・年金分 993万8865円
1791万2885円
・稼動分 1310万1066円
・年金分 481万1819円
死亡慰謝料 2800万0000円 1800万0000円
弁護士費用 680万4808円 各100万円

<判断のポイント>

(1)内縁関係

「内縁」とは、結婚する意思をもって一緒に生活し、社会的にも夫婦と認められているけれども、婚姻届を提出していないため、法律上の配偶者と認められない関係を意味します。

内縁の妻または夫は、パートナーについて、法律上の配偶者ではないため、相続権がありません。

ですので、パートナーが交通事故で亡くなった場合、パートナー自身が加害者や保険会社に請求できる権利を相続して行使することはできません。

もっとも、裁判実務では、たとえば、内縁の妻または夫は、パートナーが亡くなったことに対する自分自身の慰謝料=「固有の慰謝料」を請求することができると考えられていますし、一定範囲の家族に認められる「扶養利益」も認められる場合があります。

本件で、裁判所は、「X1は、昭和60年頃から本件事故時までの約28年間、継続して亡Cと同居し、二人の収入による同一家計で生活しており、亡Cの子であるX2らの結婚式や結納にも、父親(亡Cの夫)という立場で出席していた。しかも、X1は、X2らが全て独立した後で、本件事故の約4年半前の平成21年2月には、亡Cの申出により、亡Cと結婚式を挙げ、その際二人で今後も夫婦としての共同生活を続けることを誓っている。

そして、X1と亡Cに対しては、家族以外の者からも連名の年賀状が送られており、これらの事実を総合すれば、X1と亡Cは本件事故当時、事実上の夫婦共同生活を送る意思を有し、かつ、社会通念上夫婦としての共同生活の実態も有していたと評価することができる。」として、X1が亡Cの内縁の夫であったことを認めました。

(2)扶養利益

民法上、親子や同居の親族については「お互いに助け合う必要がある」と規定されています。

この「お互いに助け合う必要がある」とは、お互いに扶養義務を負っているということを意味します。

扶養利益は、この義務に基づき、被害者から扶養される利益といえます。

内縁の妻または夫は、配偶者と同視できるので、この扶養利益が認められる可能性があるのです。

そして、扶養利益は、簡単に言うと、扶養されていた額×扶養を受けられたであろう期間(ライプニッツ係数)で計算されます。

X1は、「本件事故前、X1と亡Cは、X1の年金(月額約15万円)と亡Cのアルバイト収入(月額約13万円)によって二人で生活しており、亡Cが家事をしていた。ところが、本件事故によって亡Cが死亡したため、原告X1は、亡Cのアルバイト収入が得られなくなるとともに、亡Cによる家事も受けられなくなったから、扶養利益を喪失したというべきである。」として、X1に扶養される利益を失ったと主張しました。

そして、X1は、平成25年賃金センサスの女性労働者・学歴計・60歳~64歳の平均賃金である年額298万8600円を基礎とし、生活費控除率を30パーセント、喪失期間を14年として、喪失した扶養利益を計算しました。

これに対して、裁判所は、X1に扶養利益の喪失の損害が生じたことは認めましたが、その額は,平成25年賃金センサス女性労働者・学歴計・60歳~64歳の平均賃金である298万8600円を基礎とし,亡Cの生活費控除率を30パーセント,就労可能年数を61歳女性の平均余命の約半分である13年間として算定した上で,その3分の1に当たる金額をもって相当と認めました。

上のX1の主張では、亡Cの稼いだお金などは全てX1の生活費などに充てられていた=X1の扶養に充てられていたということになります。

裁判所は、その主張は認めず、(期間も若干短く認定しましたが)その約3分の1の金額をXが扶養されていた金額としました。

亡C本人の生活費については、「生活費控除率30パーセント」というところで考慮されているにしても、亡C本人の生活費以外=X1の扶養に充てられた金額とは単純に考えられないということですね。

(3)年金の生活費控除率

生活費控除率とは、被害者が亡くなったことで将来かからなくなった生活費を逸失利益の計算の際に差し引くために使われる概念です。

この点、年金は、生活を保障するために支払われるものなので、年金は、他の収入に比べ、生活費の占める割合が高いと考えられています。

X2らは、亡Cの逸失利益に関して、アルバイトでの収入も年金収入も同じく生活費控除率30%として計算しています。

これに対して、裁判所は、アルバイトでの収入については生活費控除率30%、年金収入については生活費控除率60%として計算しました。

X2らと裁判所との計算方法には、他にも細々として違いがありますが、大きなところではこの生活費控除率を何%と考えるかの違いが、金額の差に影響していると考えられます。

また、裁判所は、亡Cのアルバイトでの収入についての逸失利益のうち、X1の扶養利益として認定した額は、X1の扶養に充てられるべき金額であるので、これを除いた金額が、亡Cの逸失利益として認められるべきと判断しました。

まとめ

扶養利益と死亡被害者の逸失利益との間にはこのような関係もあるので注意が必要ですね。

身近な方が亡くなっただけでも大きな精神的ダメージを被ることと思います。

しかし、その方が、自分の生活を経済的に支えてくれていた場合に、その経済的損失を加害者に請求したいというのは当然のことです。

交通事故で大切な方を亡くされた場合、扶養利益が請求できるのか、その金額はどの程度になるのかなど、どうぞ当事務所の弁護士にご相談ください。

死亡事故の場合は、請求金額も高額となりますので、プロの法律家の目で漏れなく主張・立証していくことが大切です。

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