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裁判例: 過失割合

交通事故
上肢
神経・精神

関節の可動域制限における参考運動の重要性 【後遺障害14級9号】(東京地裁 平成25年12月18日判決)

事案の概要

平成19年2月23日午後7時28分頃、Xが丁字路交差点の横断歩道を歩行中に、交差点を右折しようとしたY運転の自動車に衝突され、第3・第4腰椎右横突起骨折、歯牙損傷、顔面打撲、全身打撲等の傷害を負ったため、Yに対し、損害賠償を求めた事案。

<主な争点>

①過失割合
②Xの左肩関節の可動域制限の後遺障害等級

<主張及び認定>

主張 認定
治療関係費 73万8979円 17万4825円
通院交通費 111万5480円 4万0650円
食費 47万4500円 0円
宿泊費 41万5174円 19万2000円
雑費(入院雑費) 47万9817円 10万2000円
入院付添費 47万4500円 3万2500円
通院付添費 25万4100円 7万2600円
入通院慰謝料 122万0000円 122万0000円
後遺障害慰謝料 290万0000円 110万0000円
弁護士費用 350万0000円 35万0000円
小計 830万8151円 293万4575円
弁護士費用 81万5067円 30万0000円
合計 912万3218円 323万4575円

※治療関係費については、温泉費用、スポーツクラブの費用等が含まれており、これらは本件事故との相当因果関係のある損害であるとまでは認められないとされた。
※食費についても、事故の有無にかかわらず生じうるもので、本件事故と相当因果関係のある損害とは認められないとされた。

<過失割合について>

・裁判所の判断

Y側は、本件事故が信号機の設置されていない横断歩道上の自己であったことや、Xが夜間では見えづらい黒っぽい服装であったこと、本件事故現場が車両や人の交通量が少ないため、車両がある程度速度を出して走行してくることもまったく予見不可能とまではいえないとして、Xにも前方不注視等の過失があり、少なくとも5%の過失相殺がされるべきであると主張しましたが、裁判所は、Y側のこの主張を認めませんでした。

・コメント

歩行者の、信号のない横断歩道の横断中の事故における基本的な過失割合は、歩行者0:車両10ですが、これらに修正要素が加わり、歩行者にも過失が出る場合があります。

本件事故は午後7時28分頃発生したもので、夜間に当たります。

夜間は暗いので、車の運転者側からすれば、歩行者の発見が昼間より難しいため、そのことは歩行者としても予測可能であるとして、通常は歩行者には過失が5%プラスに修正されることになるのです。

しかし、本件で裁判所は、Yが本件事故現場の交差点を右折するに当たって、横断歩道上の歩行者の有無に十分な注意を払っていなかったこと、Yが交差点を時速20km~25kmもの速度で漫然と通過しようとしたなどの著しい過失があったとして、Yにもさらに過失を加算する要素を認め、結局、Xには過失がないと認定したのです。

このように、本件は、Yにも過失を加算する要素があったために、プラスマイナスゼロでXの過失が認定されないという判断が下されましたが、仮にYにまったく過失を加算する要素がなかった場合には、Xにも多少であれ過失が認められたと考えられる事案です。

歩行者としては、横断歩道という渡ることが許された場所なのだから、自らの過失が認められることはないと思ってしまうかもしれませんが、実際にはそうとは限らない、ということは肝に銘じておいたほうがいいでしょう。

<左肩関節の可動域制限の後遺障害等級について>

・裁判所の判断

Xは、本件事故により、第3・第4腰椎右横突起骨折が発生するほどの全身打撲を受け、それによって、肩甲骨周囲筋(三角筋など)や、肩関節腱板等の腱、上腕から肩関節に付着する二頭筋、三頭筋の腱・筋などが損傷を受けたために、左肩関節の機能障害が発生し、左肩について、後遺障害等級第12級6号の「1上肢の3大関節中の1関節の機能に傷害を残すもの」の後遺障害に該当する、と主張しました。

しかし、裁判所は、これを否定し、Xの頚部及び腰部の神経症状についてのみ、後遺障害等級第14級9号の「局部に神経症状を残すもの」に該当すると認定しました。

・コメント

肩関節の可動域制限(機能障害)については、重いものから、
後遺障害等級8級6号「上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの」、
10級10号「上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」、
12級6号「上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」
の3段階に区分されます。

今回Xが主張した後遺障害等級12級6号は、健側(健康な方)に比して患側(怪我をしてしまった方)の可動域が4分の3以下に制限されている場合に、認定されることになります。

そしてこの可動域は、
屈曲(腕を下げた状態から、体に直角に腕を振り上げる動作)、
外転(腕を下げた状態から、体に平行に腕を振り上げる動作)
という「主要運動」と呼ばれる動作が、
他動でどの範囲までできるのかで測定されます。

そのため、健側が180°まで上がる場合、
主要運動のいずれかで患側が90°を超え、135°以下の範囲の制限が生じているときに、12級6号が認定されることになるのです。

本件では、後遺障害診断書の記載上、Xの肩の可動域は、外転について右の他動及び自動で各140°、左の他動及び自動で各110°、屈曲について右の他動及び自動で各150°、左の他動及び自動で各120°とされていました。

そのため、左肩の外転については、140°の4分の3に当たる105°以下に、屈曲については150°の4分の3に当たる115°(正確には112.5°ですが、判定は5°単位で切り上げされます)以下に制限されている必要があるため、外転、屈曲とも判定基準には5°足りず、4分の3以下という後遺障害12級6号の認定基準には達していないことになります。

もっとも、主要運動の可動域が基準をわずかに上回る場合、12級6号ではその関節の参考運動(伸展、外旋、内旋)が、4分の3以下に制限されているときは、後遺障害が認定されることになります。

そして、この「わずか」とは、12級6号の判断では、5°とされているため、本件では、外転、屈曲とも「基準をわずかに上回る場合」に当たり、参考運動が4分の3以下に制限されていれば、12級6号が認定される可能性がありました。

しかし、Xの後遺障害診断書には、参考運動の測定結果が記載されていなかったため、裁判所も、「原告(X)の患側の可動域は、いずれも健側の可動域の4分の3をわずかに上回っていることが認められ」る、としながらも、「参考運動が測定されていない以上、原告に左肩関節の機能障害を認めることは困難である。」と判示して、12級6号の後遺障害には該当しないと認定したのです(ただし、本件では症状固定時期も争点となっており、裁判所はXの主張する症状固定日よりも1年以上前の時点を症状固定時期と認定したため、この時点での可動域制限が明らかになっていなかったことも、非該当と認定した理由の1つとしています。)。

したがって、もし参考運動についてもきちんと測定されていたとしたら、Xの左肩関節の可動域制限について12級6号が認定されていた可能性があったかもしれません。

このように、主要運動が可動域制限の基準をわずかに上回っている場合、参考運動の測定結果が極めて重要となり、それを測定しているか否かで、賠償金額が大きく変わる可能性があるため、参考運動は決して軽視することができないものなのです。

以上のように、関節の可動域制限について後遺障害が認定されるためには、後遺障害診断書を作成してもらうに当たり、正しい方式で、必要な測定を漏れなく行ってもらうことが極めて重要ですが、お医者さんによっては、どのように測定すればいいのか、どこまで記載する必要があるのかを理解されていない場合もあります。

当事務所では、適切な後遺障害診断書の作成の仕方についてもお医者さんにご案内することで、被害者の方が適正な後遺障害等級認定を受けるお手伝いもしています。まずは当事務所まで一度ご連絡ください。

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交通事故
上肢

可動域制限が認め難いとして14級を認定した事例 【後遺障害14級9号相当】(京都地裁 平成28年6月7日判決)

事案の概要

X(原告:24歳男性)が、自動二輪車を運転して交差点を直進中、同一方向を進行していたY運転の左折乗用車に衝突され転倒、左手関節捻挫、左手橈側屈筋腱腱鞘炎、左手母指対立筋損傷等の傷害を負い、約10か月通院して、10級左母指機能障害、12級左手関節機能障害による併合9級後遺障害の他、12級左母指神経症状の後遺障害(自賠責併合14級認定)を残したとして、既払金690万1651円を控除し3911万5412円を求めて訴えを提起した。

<主な争点>

①Xの傷害、後遺障害の有無及び内容
②Xの過失の程度と過失相殺の可否

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 128万8924円 128万8924円
通院交通費 1万8520円 1万8520円
休業損害 486万2727円 371万7554円
後遺障害逸失利益 2816万6892円 279万3778円
通院慰謝料 148万0000円 148万0000円
後遺障害慰謝料 670万0000円 110万0000円
小計 4251万7063円 1039万8776円
過失相殺 ▲10%
既払金 ▲690万1651円 ▲690万1651円
弁護士費用 350万0000円 35万0000円
合計 3911万5412円 280万7247円

<判断のポイント>

(1)Xの傷害、後遺障害の有無及び内容

*関節の機能障害の後遺障害認定基準
関節に機能障害が認められるかどうかは、その関節が正常時に比べてどのくらい曲がらないか、もしくは伸ばせないかで判断されます。

・指の関節について(本件に即して親指について説明します)
親指の関節に関しては、医学的には、指先に近い方からIP関節(いわゆる第一関節)、MCP関節(第二関節)といいます。

そして、いずれかの関節が正常可動域の3分の1以下に制限された場合を、指の「用を廃した」といい、片手の親指のみ用を廃したときには10級7号の後遺障害が認定されます。

IP関節では、90°曲げる(屈曲といいます)ことができれば正常とされるので、45°しか曲がらないのであれば、用廃が認められることになります。

また、親指を10°反らす(伸展といいます)ことができれば正常とされるので、5°しか反らせないのであれば、用廃が認められます。

MCP関節では、屈曲で60°、伸展で10°が正常値とされ、その3分の1の屈曲30°もしくは伸展5°で用廃が認められます。

・手の関節について
手の関節については、どのくらい曲げることができるか、程度により後遺障害等級が変わってきます。

可動域角度が正常時の10%程度以下→「関節の用を廃したもの」と評価され8級6号
可動域角度が正常時の3分の1以下→「著しい障害を残すもの」と評価され10級10号
可動域角度が正常時の4分の3以下→「障害を残すもの」と評価され12級6号

が認定されることになります。

判断の方法は、前にならえをし、腕を90°で前に伸ばした状態を0°とします。

そして、正常時と比べて、手のひら側(掌屈といいます)と手の背側(背屈といいます)がどのくらい曲げることができるかをみてみます。

一般的には、掌屈が90°、背屈が70°であれば正常(合計で160°)とされています。

たとえば掌屈が45°、背屈35°のときは合計80°となり、正常時の3分の1以下となるので、通常は、後遺障害等級10級10号が認められるでしょう。

*Xの主張
Xは、左手指の母指のMCP関節の可動域角度が、他動、自動とも3分の1以下に制限されていることから、用廃にあたり、母指の機能障害として後遺障害等級10級に該当すると主張しています。

また、左手手関節の可動域は、他動での背屈が正常時80°だったところ、事故後は45度であったため、可動域が4分の3以下に制限されており、手関節の機能障害として後遺障害等級12級に該当すると主張しています。

この他にも、筋損傷の回復が遅れ、廃用性筋委縮が生じたとして、頑固な神経症状を残すものとして後遺障害等級12級13号に当たるとも主張しています。

*裁判所の判断
上記のXの主張に対して裁判所は、本件事故から約3か月後に診断した結果が掌屈70°、手術後の背屈が45°、掌屈が65°であり、著しい可動域制限は生じていないこと、複数回レントゲン、CT検査及びMRI検査が実施されたにもかかわらず、左手の母指関節及び手関節に関節拘縮を生じさせるほどの筋萎縮をもたらす重度の筋損傷を示す所見がなかったことからすれば、本件事故により可動域制限が生じたとは認めがたいと判断しています。
また、画像所見がないことや左手母指の膨らみについてもその原因を説明できる医学的所見がないことからすれば、これを頑固な神経症状と評価することはできないと判断されてしまいました。
ただ、Xは、事故直後から症状固定時に至るまで一貫して痛みを訴えていること、医師に舟状骨骨折を疑わせる強度のものであったこと、左手母指の膨らみが外見上顕著に認められることからすれば、左手関節の親指側の痛みは、本件事故により生じたものであり、局部に神経症状を残すものとして14級9号相当の障害であると認めるのが相当であると判断しました。

(2)Xの過失の程度と過失相殺の可否

また、本件では、過失割合についても争点になりました。

*Xの主張
本件事故では、XがYを後方から追い越したことを考慮しても、Yは左方への方向指示器を出していなかったこと、Yに直近左折の過失があることからすれば、過失相殺はなされるべきではないと主張しました。

*裁判所の判断
このような主張に対して裁判所は、左折の合図につき、後方から車列を追い越す場合には合図を見落としがちであることからすれば、左折の合図をしていた旨のYの説明を否定する根拠としては不十分であり、Yが左折の合図をしていなかったとの認定はできないと判断しました。

もっとも、Yには、左折するに際し、あらかじめできる限り左方に寄った上、進行方向である左前方及び左後方の安全を確認して進行する注意義務があるのに、これに違反した過失があるというべきであり、特に、Y車がX車の後部に衝突していることからすれば、Yからは、X車の発見が容易であったはずであり、Yには左方の安全確認について著しい過失があると判断しました。

他方で、Xにも、交差点の手前30m以内での追い越し禁止規制に違反していることから10%の過失割合を認めました。

まとめ

(1)Xの傷害、後遺障害の有無及び内容

この裁判例は、少し厳しめの判断がなされたように思われます。

手術後であるとはいえ、背屈45°、掌屈65°であるにもかかわらず、機能障害を理由とする後遺障害は認められませんでした。

複数回ものMRI検査等をしても筋損傷を示す所見が見られなかったことが、重要視されていると思われます。

このように、上記のような基準はあるのですが、様々な要因によって多少判断が異なることはありうることです。

医師の診断内容は大事な要素ですが、後遺障害等級が認定されるかどうかは法律的判断になります。

(2)Xの過失の程度と過失相殺の可否

交通事故において、過失割合を判断するにあたっては、当事者が主張する事実が客観的に資料に現れないことが多いです。

本件のように左方の合図を出していたか否かなど、水掛け論になってしまいます。

裁判所は、最終的には、客観的に認められる事実を前提にすれば、通常こうであっただろうという経験則を用いて判断するほかありません。

そこで、裁判官を納得させるような説明が必要となるのですが(これは保険会社に対しても同じことが言えます)、事実関係を調べるだけでも大変なことです。

後遺障害申請をしようか迷っている場合、自賠責からの後遺障害認定がされていて納得がいかない場合や過失割合で相手方と争いが生じたような場合には、是非当事務所にご相談ください。

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交通事故
上肢

他覚所見がなくとも後遺障害が認定された事例【後遺障害14級9号相当】(横浜地裁 平成28年3月24日判決)

事案の概要

X(原告:28歳男性)が、自動二輪車を運転して進行中、右前方を走行していたY運転の乗用車が左折をするためハンドルを左に切って衝突、転倒して右肩関節腱板炎、右上腕二頭筋長頭腱炎等の傷害を負い、約10ヶ月通院して、右肩関節痛等から12級13号後遺障害を残したとして、既払金288万9473円を控除して1935万7076円を求めて訴えを提起した。

<主な争点>

①Xの過失の程度と過失相殺の可否
② Xの傷害、後遺障害の有無及び内容

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 87万1885円 87万1885円
通院交通費 2万5046円 2万5046円
休業損害 278万5415円 154万8420円
通院慰謝料 146万5000円 89万0000円
後遺障害慰謝料 290万0000円 110万0000円
小計 2048万6815円 516万4317円
既払金 ▲288万9473円 ▲288万9473円
弁護士費用 175万9734円 22万0000円
合計 1935万7076円 249万4844円

<判断のポイント>

(1)Xの過失の程度と過失相殺の可否

本件では、Yが安全確認を怠ったまま直近で左折した著しい不注意があるとXが主張していたのに対し、Yは、Xの運転するバイクの右側前方で、左折の方向指示器を出した後に左折を開始したのであり突然左折したのではない、また、XはY車が左折することを予見し回避することができたことから過失があるとして争っていました。

まず、本件のような事故態様では、一般的には、自動二輪車の側が2割、自動車の側が8割の過失割合と考えられています。

ここで一般的とは、交差点の手前30mの地点で、自動二輪車に先行している自動車が左折の合図を出して左折を開始した場合が想定されています。

自動二輪車に2割の過失があるとされているのは、交差点の30m以内は追越しが禁止されているので(道路交通法38条3項)、先行する自動車がある場合には、その前に出ようとすることは許されないという考えがあるためです。前方に自動車があることをわかっているのだから、自動車が左折するなどの動きを見せるかもしれない、その場合には減速するなどして事故を回避しなさいというような注意義務が課せられているのです。

ただ、本件でXが主張するように、突然前方の自動車が左折して事故を回避できない場合には、過失割合が修正されて、自動二輪車に1割の過失だったり、過失なしの認定がなされたりします。

本件において裁判所は、Y車が左折方向指示器を出した地点と本件事故現場(約10m)との距離や、本件事故直前のY車のスピードから、Y車が左折指示器を出してから左にハンドルを切るまでに進んだ時間は2秒にも満たない時間であると認定しました。

そして、Yにそのような過失がある以上、Xには何らの過失もないとして過失相殺を認めませんでした。

本件において裁判所は、方向指示器を出して左折するまでの距離(10m)ではなく方向指示器を出して左折するまでの時間(2秒未満)を重視しているようです。

進路変更するにあたっては、その3秒前に合図を行う義務(道路交通法53条1項、同法施行例21条)があることはみなさんご存知かと思われます(もしかしたら忘れている方もいるかもしれませんが…)。

しかしながら、残念なことに、進路変更する直前に方向指示器を出される方もたまに見かけます。

近所の慣れている道路で、交通量の少ない道路であれば大丈夫と考えている方もいるでしょう。

ですが、仮にそれで事故を起こしてしまった場合、2割の過失相殺もされない可能性があるのです。

逆に、被害者となってしまった方は、もしかしたら警察などから一般的な基準を用いられて2割の過失はあるなどと言われるかもしれません。

しかし、警察の言うことは、最初の段階でまだ十分な検討がなされていない状況で判断されている場合も多いのです。

相手の保険会社から言われる場合も同様です。

そこであきらめず、実況見分調書などの客観的な資料に基づいて、事故を回避できないことを証明することによって、過失相殺などされず損害の全額が支払われることは十分にあります。

警察や相手方保険会社から言われた過失割合に納得できないときには、是非当事務所にご相談ください。

(2)Xの傷害、後遺障害の有無及び内容

本件では、Xの後遺障害逸失利益も争点となりました。

Xは、本件事故により、右肩関節痛などの症状が残存し、後遺障害等級表12級13号に該当すると主張し、Yはレントゲン検査やMRI検査で、外傷性の異常所見は認められていないとして全面的に否認しました。

確かに、後遺障害の認定には、画像所見や神経学的所見などの他覚所見が有効になります。

自覚症状だけでは、裁判所も後遺障害の認定には消極的と思われます。

しかし、画像所見や神経学的所見などの他覚所見が認められなくても、①事故態様が相当程度重いものであること、②当初から通院を継続(多数回あればなおよし)していること、③通院当初から症状が一貫していることなどから、後遺障害が認められることもあります。

本件において裁判所は、自動二輪車を運転していた際の転等による衝撃の程度も決して軽微とはいえないこと、事故当日ではないものの、通院の当初から右肩鎖関節部をはじめとする右肩痛を訴えていたことなどから、Xは、右上腕二頭筋長頭腱炎の傷害を負ったことが認められるとしました。

また、MRI検査の画像上、異常所見が確認されないのは、上関節上腕靭帯の断裂という軽度損傷である可能性があり、MRI検査が受傷から1ヶ月が経過していたためと考えられると述べています。

そして、12級13号は認められないが、以上の事実から14級9号の後遺障害を負ったものと認めるのが相当という判断をしました。

このように、画像所見や神経学所見など他覚所見がなくとも、後遺障害が認定されることは十分にあります。

MRIを撮って、医者から異常なところは見当たらないなどと言われてしまったとしてもあきらめてはいけません。

事故当初から、継続的に通院をし、症状を訴え続けることが大事です。

当事務所でも、MRI画像などの他覚所見がない方でも、事故当初からアドバイスをしていたことにより、後遺障害認定がされたケースはたくさんあります。

ただ、事故当初から、後遺障害が認定される見通しをつけるのは困難ですし、わからない方がほとんどだと重います。

しかし、これまで述べたように、事故直後の行動が大事になってきますので、もし事故に遭われてしまったら、後遺障害の有無や見通しについても相談に乗ることができますので、早い段階で当事務所にご相談いただければと思います。

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交通事故

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連鎖事故~解けた冷凍チキン~(東京地判 平成26年2月21日)

事案の概要

同一交差点付近で、Yの従業員Bの運転する事業用大型貨物自動車(Y車)の運転が引き金となって発生した第1事故から第4事故まで連続する多重衝突事故の中で、Xの従業員Aの運転する事業用中型貨物自動車(X車)と、Y車との間で発生した衝突事故により、冷凍チキンを運送していたX車に損害が生じた事件。

<主な争点>

①X車の時価額
②自動車重量税
③積載物の損害
④過失割合

<主張及び認定>

主張 認定
X車の時価額 640万0000円 500万0000円
残存車検費用(自動車重量税) 5040円 0円
レッカー代 19万1211円 19万1211円
積載物に係る損害 131万2401円 131万2401円
過失相殺 80%
弁護士費用 79万0865円 13万0000円

<判断のポイント>

(1)X車の時価額~レッドブック~

交通事故で破損した自動車について、修理すればまた使えるようになるけれども、修理代が高額な場合、加害者に何を請求できるのか?

シンプルにいえば、自動車の「時価額」と「修理代」とで安いほうを相手方に賠償請求することができます。

本件も、X車の時価額が、壊れたX車を修理する修理代よりも安かった(「経済的全損」といいます)ので、X車の時価額が損害として認められる金額となる場合でした。

この「時価額」というものが曲者で、“何をもって算定するのか”本来は非常に難しいものなのです。

なぜなら、「時価額」とは要するに“事故に遭った自動車が、事故に遭っていなかったらいくらの値が付いたか”を考えるものですが、既に事故に遭ってしまった自動車を前にして、そんなことは誰も分からないはずだからです。

しかし、そんなことを言っていたら、誰も賠償請求なんてできませんし、裁判所も賠償責任を認めることができません。

そこで、裁判所は、時価額について、原則として、事故に遭った自動車と「同一の車種や型・年式・同程度の使用状態・同程度の走行距離などの自動車を、中古車市場によって取得するために必要な価額」によって定めることとしています。

事故に遭った自動車と「同じ物」は存在しないので、「同一の車種・型・年式、同程度の使用状態・走行距離」等の自動車の値段を、事故に遭った自動車の「時価額」としているのです。

ここで「同一の車種・型・年式、同程度の使用状態・走行距離等の自動車の値段」の資料として、裁判所からもかなり重視されているのが通称「レッドブック」と呼ばれる雑誌です。

この「レッドブック」とは、有限会社オートガイドというところが毎月発行しているもので、様々な自動車の価格が、年式や車種や型に分けられ、下取価格・卸価格・小売価格の3つの点から掲載されていて、走行距離や車検の残り期間による修正要素も設定されています。

かなり抽象化された価格なので、地域的な価格差が反映されていなかったり、インターネット上で取引されている金額に比べるとかなり低額だったりするので、不満を持たれる被害者の方も多いですが、抽象化されているからこそ裁判所は基準として使いやすいのかもしれませんね。

裁判所は基本的にこのレッドブックを基準に時価額を認定するといっても過言ではありません。

裁判所に、このレッドブック以上の金額で時価額を認定させるためには、被害者側で資料を集めて裁判所に提出する必要があります。

本件でも、Xは、X車の時価額は640万円であるとして、640万円と714万円で売り出されているX車と同程度の中古車2件の広告を提出しました。

しかし、裁判所は、その中古車2件のいずれも、初度登録がX車より後の年だったり、走行距離がX車より少ない車両だったので、これら2件の広告だけで640万円がX車と同程度の自動車の平均価格であると認められないと判断しました。

(2)自動車重量税~還付制度~

また、X車はまだ車検期間が残っている自動車だったので、Xは、残存車検費用として、車検の際に支払った自動車重量税のうち5040円を車検の未経過分として損害賠償請求しました。

要するに、事故によって廃車となってしまうため、車検のときに払った自動車重量税のうち一部は“払い過ぎた”ことになるということですね。

この「“払い過ぎた”分が損害になる」という理屈事態は、裁判所も認めるところであり、少し前まで自動車重量税の未経過分は損害として賠償請求できることになっていました。

しかし、本件で、裁判所は、事故に遭った自動車の「自動車重量税の未経過分は、使用済自動車の再資源化等に関する法律により適正に解体され、永久抹消登録すれば、還付されるものである」という理屈で、自動車重量税の未経過分については損害として認められないとしたのです。

この「還付制度がある」という理屈は他にも、自動車税や自賠責保険料等の諸費用についても使われており、やはり損害として認められません。

(3)積載物の損害~相当因果関係~

そして、本件では、X車が冷凍チキンを運ぶトラックだったことから、Xは、その冷凍チキンを配送先に届けることは食品衛生上不可能であるため、破棄することとなり、代替商品を手配した上で、配送先に対し、別途用意した車両によって運送することになったとして、①運送中であった商品の代金相当額99万8976円、②運送中であった商品の破棄処分に要した費用相当額13万4925円、③代車による運送代相当額17万8500円の合計131万2401円の損害を被ったと主張しました。

これに対して、裁判所はXの主張をそのまま認め、①~③の合計131万2401円を本件事故と「相当因果関係のある損害」として認めました。

事故によって発生した損害については、「事故のせいでこんな出費やあんな損が生じた!」と拡大していくため、どこまでを加害者に“賠償させるべき”損害とするか、一定のところで区切る必要があります。

その区切りに使われるのが「相当因果関係」という概念です。

(4)過失割合~事故態様~

さらに、本件はY車の不注意で生じた第1事故が連鎖的に次々と別の事故につながり第4事故まで発生したものですが、X車とY車の事故は第3事故にあたります。

この第3事故は、Y車が対向車線の別の自動車に衝突し(第2事故)、対向車線をふさぐような形で止まっていたところに、後ろから対向車線を走ってきたX車が衝突してしまったというものです。

Xは、Y車を運転していたBの過失のみ主張していましたが、裁判所は、X車を運転していたAが前方注視を怠ったために、Y車等が停止していることに気付くのが遅れ、X車をY車に衝突させた過失が認められ、他方で、Y車を運転していたBが安全運転義務に違反して第2事故を発生させたことが、本件第3事故発生の原因の一つとなっていることからBにも本件事故発生に関する過失が認められるとして、Aの過失が80%、Bの過失が20%としました。

まとめ

今回は論点がたくさんありましたね。

どういう資料があれば、レッドブック以上の時価額を裁判所に認めてもらえるのか、時価額以外にどんな費用が損害として認められるのか、どこまでの損害に「相当因果関係」が認められるのか、特殊で複雑な事故態様の場合に過失割合はどうなるのか。

いずれも、実際には裁判をしてみなければ分からないことが多いものですが、論点がたくさんあるものほどチャレンジのしがいがありますし、見通しのポイントとなる点はいくつもあります。

ひとつひとつのポイントを丁寧に検討し、みなさまが適正な賠償を得られるように全力でサポートさせていただきます。

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就活中の被害者の逸失利益を、事故前年収入の7割を基礎収入として計算した事例【後遺障害併合12級】(さいたま地裁 平成30年12月28日判決)

<事案の概要>

Xは、見通しの悪いカーブ地点で自動二輪車を運転走行中、対向車線のY運転の乗用車に衝突され、右肩甲骨骨折、右鎖骨遠位端骨折、左大腿骨転子部骨折等の傷害を負った。

Xは、自賠責保険より、右肩につき後遺障害等級12級6号に該当する関節機能障害、左大腿部痛につき14級9号に該当する神経症状が認定されたため、併合12級の後遺障害が残存したとして、Yに損害賠償を請求した。

<主な争点>

1 過失割合
2 逸失利益を算定するに当たっての基礎収入額

<請求額及び認定額>

<X1の損害>

主張 認定
治療費 232万7370円 232万7370円
入院雑費 12万0000円 12万0000円
通院交通費 6375円 6375円
休業損害 462万2950円 231万1475円
入通院慰謝料 230万0000円 230万0000円
逸失利益 754万8312円 528万3818円
後遺障害慰謝料 290万0000円 290万0000円
小計 1982万5007円 1524万9020円
高額療養費還付金 ▲100万4981円 ▲100万4981円
過失相殺(4割) ▲609万9608円
人身傷害補償保険金 ▲574万4606円 ▲4万6990円
物損 48万9602円 27万6392円
過失相殺(4割) ▲11万0557円
人損+物損 1356万5022円 866万5268円
弁護士費用 130万0000円 87万0000円
確定遅延損害金 29万4290円 29万4016円
合計 1515万9312円 982万29284円

<過失割合について>

本件事故は、見通しの悪いカーブ地点において、X運転の自動二輪車が道路中央部分を走行していたため、対向車線を走行していたY車に衝突したものです。

裁判所は、事故現場の道路は、中央線がない峠道で、右カーブで見通しの悪い状況にあったことから、Y車は道路左側を進行して、また、対向車両との衝突を回避する措置を採り得る適切な速度に減速して走行すべき義務を負っていたにもかかわらず、中央部分を若干はみ出し、また、十分に徐行していなかったとして、Yに上記の義務違反を認定しました。

他方、Xについても、本件道路の左側を走行すべき義務があるにもかかわらず道路中央部分を走行していた、また、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転すべき安全運転義務があったにもかかわらず、十分に減速することなく走行していたとして、注意義務違反を認定しました。

そして、本件事故の原因がX・Y双方が本件道路の中央部分を走行したことにあるとして、Xの過失割合を4割、Yの過失割合を6割としました。

道路交通法17条4項では、車両は、道路(車道)の中央から左の部分を通行しなければならない、と定められており、本件事故に関しては、X、Y双方とも道路の中央寄りを走行していたという点において、道交法違反が認められます。

この場合、どちらも同程度の過失が認められると考えられますが、Xのほうが自動二輪車で普通乗用車よりも優先して保護される立場にあったことから、Xに1割有利に考えてXを4割、Yを6割と過失割合を認定したのだと思われます。

<逸失利益を算定するに当たっての基礎収入額について>

本件においてもうひとつ争いとなったのが、Xの逸失利益を算定するに当たっての基礎収入の金額です。

Xは本件事故の約3か月前に前職を退職し、事故の前日に就職活動で会社の面接を受け、採用が決まりかけていたものの、本件事故が原因で就職がなくなったという事情がありました。

面接を受けた会社では、月額15万円の給与が予定されていたことから、裁判所は、本件事故によって生じた休業損害については、同額を基礎収入として算定しました。

一方、逸失利益については、Xが前職の会社で事故前年に得ていた収入が約420万円であったことから、裁判所は、基礎収入の金額を休業損害と同様に月額15万円(年額180万円)とするのは相当でないとし、少なくとも、前職の年収の7割に当たる約295万円収入を得られる蓋然性が認められるとして、これを基礎収入として逸失利益を算定しました。

逸失利益は、その算定の基礎とすべき収入に、後遺障害による労働能力喪失率と、労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数を乗じて計算します。

そして、通常は、事故前年の年収額を基礎収入とすることが多いのですが、事故当時に職に就いていない場合、事故前年に収入があっても、それをそのまま基礎収入とすることは困難です。

なぜなら、逸失利益は、あくまでも後遺障害によって将来にわたって得られるはずの収入が得られなくなったことに対する補償なので、事故当時に就職していなければ、事故前年と同様の収入額が得られるとは認められないからです。

もっとも、事故前年の年収額は、被害者が、事故当時、どれだけ収入を得る能力を有しているかを、一定程度示す指標となり得るため、全額は認められなくとも、ある程度事故前年の年収に寄せた金額を基礎収入とする手法は、よく用いられています。

本件でも、裁判所は、Xの事故前年の年収からすると、事故当時就職予定であった会社の当初収入では、Xの逸失利益を適切に算定することはできないと考えて、Xの事故前年の年収を基準に、その7割を基礎収入としたのです。

後遺障害による逸失利益は、基礎収入、労働能力喪失率、労働能力喪失期間のいずれもが適切な数値で計算されないと、認定される金額が大きく減ってしまう可能性があります。ご自身に生じた後遺障害の逸失利益はどれくらいが適正なのかとお悩みの方は、弁護士にご相談ください。

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