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裁判例: 過失割合

交通事故
死亡

信号のない交差点の横断歩道上を横断中に普通自動車に衝突された自転車の過失割合3割に認定した裁判例(福岡高裁平成30年1月18日判決)

事案の概要

A(原告:71歳女性)は、信号のない交差点の横断歩道上を自転車で進行中、Y運転の普通乗用車に衝突され死亡した。

Aの相続人Xらは既払金357万9,288円を控除した4,757万4,326円の支払いを求めて訴えを提起した。

<争点>

過失割合

<判断のポイント>

(1) 過失割合

交通事故は、当事者双方またはいずれか一方の過失によって生じるものですが、当事者間における過失の割合のことを「過失割合」といいます。

過失割合は、過去の裁判例を基準とし、当該事故の具体的事情に応じた修正を加えながら決定されます。

(2) Xら及びYの主張

1審において、Xらは、事故当時Aが71歳と高齢であったこと、本件事故が横断歩道上で発生したものであること、Aの運転する自転車が先に交差点に進入していたことなどから、AとYの過失割合は0対10であると主張しました。

これに対し、Yは、Aにおいても、車道を走行する車両の有無及びその存在を確認すべき注意義務があったのにこれを怠り、漫然と本件道路を横断した過失があるとして、AとYの過失割合は3.5対6.5であると主張しました。

(3) 裁判所の判断

1審裁判所は、AとYの過失割合を3対7と認定しました。

その理由として、1審裁判所は、Yに「前方及び右方の注視義務違反」が認められる一方で、本件交差点が見通しのきく交差点であることから、Aにも「本件歩道の横断を開始する際の左方への注視義務違反」が認められることを挙げています。

そして、本件事故が信号機による交通整理が行われていない交差点で発生したこと、Y車両の進行していた道路が優先道路であったこと、本件事故発生当時、Aは71歳であったことから、「自転車が横断歩道上を通行する際は、車両等が他の歩行者と同様に注意を向けてくれるものと期待することが通常であることを総合考慮すれば、AとYの過失割合を3対7と認めるのが相当である」と認定しました。

2審裁判所も、1審判決を支持してAとYの過失割合を3対7と認定し、控訴を棄却しました。

その理由として、2審裁判所は、「道路交通法は歩行者と軽車両である自転車を明確に区別しており、自転車を押して歩いている者は、歩行者とみなして歩行者と同様の保護を与えているのに対し、自転車の運転者に対しては歩行者に準ずるような特別な扱いはしておらず、同法が自転車に乗って横断歩道を通行することを禁止しているとまでは解せないものの、横断歩道を自転車に乗って横断する場合と自転車を押して徒歩で横断する場合とでは道路交通法上の要保護性には明らかな差がある」ことなどを挙げています。

まとめ

道路交通法は歩行者と軽車両である自転車を明確に区別しており、横断歩道を自転車に乗って横断する場合と自転車を押して徒歩で横断する場合とでは、必要とされる保護の程度に大きな差を認めています。

今回ご紹介した裁判例では、自転車側に3割の過失が認められました。自転車と自動車の間で事故が発生した場合、思いもよらない結果が生じて大きな不安を感じることもあるかもしれません。

お困りの際には、お気軽にご相談ください。

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交通事故

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シートベルトをしなかったお客さんにも過失!?【後遺障害14級】(大阪地方裁判所判決平成26年7月25日)

事案の概要

タクシー運転手が業務としてタクシーを運転中に急ブレーキをかけたため、後部座席の乗客Xが、運転席の後ろに腕や体をぶつけて傷害を負ったとして、タクシー会社Yに対し損害賠償金の支払を求めた事案。

<主な争点>

①過失相殺
②Xの損害額

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 45万4104円 45万4104円
交通費 10万9635円 3430円
休業損害 91万6594円 73万0820円
通院慰謝料 95万0000円 95万0000円
後遺障害慰謝料 110万0000円 110万0000円
逸失利益 77万0435円 48万1911円
弁護士費用 25万0000円 25万0000円

<判断のポイント>

(1)シートベルトを着用していなかった乗客に過失割合が認められるか?

タクシーやバスに乗ったとき、ついシートベルトをし忘れてしまうことってありますよね。

そうやってシートベルトをし忘れたタイミングで交通事故にあった場合、お客様側に過失割合が認められてしまうことがあります。

こうお話すると、「事故を起こしたのは運転手のせいなのに!」「自分は被害者なのに!」と憤慨される方も多いことと思います。

しかし、「過失割合」というのは、“事故が誰のせいか?”という問題ではなく、“発生した損害を誰がどのくらい負うべきか?”の問題なのです。

つまり、事故が運転手のせいだとしても、発生した損害の全部を運転手に負わせるのは公平でない場合があり、そのときに認められるのが「過失割合」なのです。

Xは、シートベルトを着用していなかったことは認めるけれど、

①運転手には乗客にシートベルトを着用させる義務があるのに、本件の運転手はXに対しシートベルトを着用するよう指示しなかった。

②後部座席の同乗者がシートベルトを装着することは一般化されているとはいえない。

③仮にシートベルトを着用しなかったことにつきXに落ち度が認められるとしても、Xがシートベルトを着用しなかったことによりXの損害が拡大したとはいえない。

だから、過失相殺はされるべきでないと主張しました。

これに対して、裁判所は、

①Yは乗客の目につきやすいY車両の後部座席ドア内側に「安全のためにシートベルトをおつけください」と記載されたステッカーを貼付することで装着を促したが、Xはシートベルトを装着しなかった。

②Y車両がタクシーというサービス業であることからすれば、乗客に対する装着指示の方法にはおのずと限界があるというべきであり、ステッカー貼付による指示も相当な方法とみることができる。

③Xは事故の約1か月前に運転免許を取得したばかりで後部座席のシートベルト装着義務も理解していたにもかかわらず、シートベルトを装着しなかった。

④急ブレーキによりシートベルトを装着していれば、急ブレーキにより腕や体が運転席にぶつかるようなことにはならなかったものと認められ、本件事故による原告の傷害も軽減された可能性が高い。

以上によれば、Xがシートベルトを装着しなかった点について1割の過失相殺をするべきと判断しました。

自動車を運転する人には、後部座席に乗車する人にシートベルトを装着させる義務があります(道路交通法71条の3第2項)。
これはあくまで運転する人に義務があるだけなので、後部座席に乗車する人に“シートベルトをする義務”があるわけではありません。

それでも、シートベルトをしなかったことで“損害が拡大した”場合=“シートベルトをしていればもっと損害は小さかったのに”という場合には、拡大した損害を全て運転する人に負わせるのは公平でないということになるのです。

(2)相当因果関係

本件では、Xの損害額(特に交通費、休業損害及び逸失利益)について、本件の事情を考慮して、裁判所が判断しています。

ア 交通費
Xは、後頚部の痛みや張りを訴えて病院を受診し、頚部の画像検査では、生理的前彎の消失以外に異常所見は見られず、医師からは頚椎捻挫との診断を受けました。

その後投薬や理学療法等の治療、MRI検査等を受けるため、自宅(大阪市)近くの病院と、自宅から60km離れているけれど実家(奈良県五條市)から近い病院とに通院していました。

そこで、Xは、自宅近くの病院で子供を同伴しての通院が拒まれたとして通院の際に子供を実家に預ける必要等があり、大阪市と奈良県五條市との往復交通費を含めた金額を請求しました。

これに対して裁判所は、自宅近くの病院で子供同伴の通院が拒まれたとは認められず、Xの通院パターンからすると、自宅から60km離れているけれど実家には近い病院への通院は、実家で生活することが目的の一部になっていたといえるとして、大阪市と奈良県五條市間の交通費を本件事故と相当因果関係のある損害と認めることができないと判断しました。

イ 休業損害
Xは専業主婦だったので、主婦労働に関して実通院日数につき100%の休業損害を請求しました。

これに対して、裁判所は、事故発生日から症状固定日までの期間や通院状況、後遺障害の程度内容によれば、実通院日数につき80%主婦労働ができなかったとして休業損害を算定するのが相当であると判断しました。

ウ 逸失利益
治療したもののXには後頚部痛の症状が残り、この症状に対して「局部に神経症状を残すもの」として14級9号の後遺障害認定がおりました。

そこで、Xは将来にわたって制限される労働能力について、Xは5年間5%制限されるとして請求しました。

これに対して、裁判所は、急ブレーキをかけただけの本件事故においては、追突等の接触事故に比べて、原告の身体に加わった力は比較的軽度であったと考えられることや原告の後遺障害の程度内容に照らして、Xの労働能力は3年間5パーセント減少したとして逸失利益を算定するのが相当であると判断しました。

相当因果関係とは、結局のところ“どこまでの損害を加害者に負わせるべきか?”という価値判断によって決まります。

最初にお話した「過失割合」が“事故による損害をどう分担するか?”という問題なのに対し、「相当因果関係」とは“そもそもどこまでを事故による損害と認めるべきか?”という問題なのです。

適切な賠償を得ていくためには、「過失割合」を考えるうえでも「相当因果関係」を考えるうえでも、法的なバランス感覚が非常に重要となってきます。

このバランス感覚が、法律に馴染みのない方にはなかなか掴みにくいところかと思います。

適切なバランス感覚をもった弊所の弁護士なら、きっとお力になれると思いますので、ぜひお気軽にご相談ください。

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交通事故
神経・精神
脊髄損傷

被害者には何が必要なのか【後遺障害5級相当】(大阪地判平成26年5月14日)

事案の概要

Xが一方通行の山道を先行車両に続いて普通自動二輪車で走行していたところ、前方からY運転の普通乗用車が逆送をしてきたため、Y車両と先行車両が衝突し、その後X車両もY車両と衝突した。

Xは、この事故で頚髄を損傷したとして、Yに対し損害賠償の請求をした。

<争点>

①過失割合
②Xの後遺障害の重さ
③損害額

<請求額及び認定額>

主張 認定
治療費 1157万0179円 1157万0179円
通院費 31万9720円 31万9720円
入院雑費 24万7500円 24万7500円
後遺障害診断書作成費用 1万0500円 1万0500円
家族交通費・引越費用等 22万7006円 22万7006円
症状固定日までの付添看護費 272万0000円 43万5200円
休業損害 684万3520円 632万5632円
本件料理教室廃業による損害 25万0000円 10万0000円
自動車買替等に伴う損害 35万8000円 0円
症状固定後の治療費 18万7116円 18万7116円
将来の成人用おむつ費用 207万6514円 173万0395円
将来の付添看護費 207万6514円 173万0395円
将来の成人用おむつ費用 207万6514円 173万0395円
将来の付添看護費 606万8352円 0円
将来の自動車買替費用 114万4260円 74万5491円
後遺障害逸失利益 6463万1672円 4617万3920円
後遺障害慰謝料 2000万0000円 1440万0000円
入通院慰謝料 370万0000円 295万0000円
住宅改造費 488万7390円 97万7478円
弁護士費用 2094万0240円 400万0000円

<判断のポイント>

(1)過失割合

本件事故は、X車の前に先行車両がいたため、Xが先行車両との車間距離を空けていれば損害が生じなかったのではないかと、Y側から過失相殺の主張がありました。

確かに、車間距離をつめすぎていて玉突きのようになった場合には、離れていれば避けることができたとして、過失割合をとられる可能性があります。

本件では、証拠から車間距離が20メートルは取られていたと認定した上で、具体的な道の状況が、カーブの続く山道でありかつ上り坂であることから、X車両は早くとも時速40キロメートル程度しか出ていなかったとし、この場合には制動距離との兼ね合いで20メートルの車間距離があれば十分と判断しました。

車間距離は、どれだけ離していれば大丈夫というものではなく、走行速度から算出される制動距離との関係で判断されます。

速度がわからない場合には、車間距離が十分だったかどうかの判断が難航する場合がありますが、本件のように道の状況などから推認することもできます。

(2)Xの後遺障害の重さ

Xは頚髄損傷の傷害を負い、四肢の感覚異常、知覚異常、痺れ、疼痛や尿・便失禁などの症状が残存しました。

これらの症状について、裁判提起前の損害保険料率算出機構における審査では、後遺障害等級の5級2号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの)に該当するという判断が出されていました。

Xは、裁判においては、後遺障害等級3級3号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの)に該当すると主張し、Yはこれを争いました。

本裁判においては、まず、Xに具体的にどんな症状が残存しているかを、診療録等を手がかりに認定していきました。

症状が重かったり、残存症状の数が多かったりすると、加害者側は「その症状は事故によるものではない」「その症状はカルテに記載がない」等と争ってくることがあります。

これは、カルテや治療経過で作成される資料が、必ずしも完璧に記載されているわけではないためです。

本件でも、リハビリテーション計画書上の自覚症状について、「疼痛」にチェックがなされていなかったことをもって、「この時点では疼痛は存在しなかった」という反論が出されていました。

しかし、本裁判例は、同資料がリハビリテーションを行うための計画書であるから、リハビリ箇所に関係しない部位の症状は必ずしも記載されない可能性があること、感覚傷害にはチェックがあり「四肢しびれ」の記載があることから、疼痛もこの中に含まれているとも考えられること等から、疼痛欄にチェックの記載がないことのみをもって、Xに同期間疼痛がなかったとまで言うことはできない、と判断しました。

このように、単に記載の内容だけを見るのではなく、その資料は何のために作成されているものか、記載があること又はないことを、合理的に説明することができないかという観点から検討することが大切になります。

次に、それらの症状がXの生活にどの程度制限を加えているかの判断がなされました。

本件のような脊髄損傷については、尊称の程度によってその制限の程度もさまざまです。

半身不随になる場合もあれば、巧緻作業がしづらくなる程度のものまで有り得ます。

したがって、症状があるとしても、それがどの程度なのかという点は、非常に大きな問題となります。

本件では、Xは上記の症状が強く残っていることは認定されましたが、他方でXが一人で4時間運転をして和歌山まで出かけたり、12時間運転をして山梨まで出かけたりした事実が認められました。

このように、一人で運転して出かけられるということは、周囲の助けをあまり必要としていないという評価につながりますので、「まったく労務に服することができない」とまではいえません。

そのため、本件では、事前に認定を受けていた後遺障害等級5級が相当であると判断されました。

(3)Xの損害内容

本件の損害認定でユニークな認定をしているのは、症状固定日までの付添看護費についてです。

付添看護費は、怪我の状態や医師の指示により、家族等が付き添いを必要とする状況であれば、被害者の損害として認められます。

他方で、単に家族が被害者のお見舞いに行くだけでは、なかなか必要性が認められない場合もあります。

本件でXが入院していたのは、完全看護体制の病院でした。そのため、家族等が付き添いをしても、具体的に看護や介護をする必要性は乏しくなってしまいます。

しかし、本裁判例は、Xは命にかかわる重傷を負っており、ここから回復するためには家族による精神的な支援が必要だったと認定しました。

具体的な行動というよりは精神的な支援であるため、金額こそ1日800円という小額になってはいますが、精神的支援の必要性を認めたものとして、意義のある判決だと思われます。

また、もう一点特徴的なのは、将来の自動車買替費用を認めたことです。

Xは上記のとおり、事故後も長時間かけて自動車移動が可能でしたが、これは逆を言えば自動車でなければ移動が困難ということになります。

四肢に痺れや疼痛が残っているため、長距離の移動や物品の運搬は、もっぱら自動車を利用するほかありません。

そのため、今後の人生で自動車が必要不可欠となるということで、将来自動車を買い替えるための費用を認めました。

車椅子や義足などの、医療用器具であれば認める例は多数ありますが、自動車についても必要性を認めた点で特徴的な判断といえるでしょう。

まとめ

脊髄損傷をしてしまうと、残念ながら、ほとんど回復は見込めなくなります。

したがって、その症状といかにうまく付き合いながら生活していくかという点を考える必要が出てきます。

しかし、加害者側の保険会社や代理人は、被害者のこの先の生活を気にしてはくれません。

どのような請求が可能なのか、どのような補償が必要なのかをきちんと検討するためにも、まずは被害者のための弁護士にご相談ください。

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交通事故
神経・精神
脊髄損傷

治療費・リフォームはどこまで認められる?【後遺障害等級3級】(東京地判平成26年12月24日)

事案の概要

X(51歳男性、自営業)は、大型自動二輪車で第2車線を直進していたところ、その前方道路において路外駐車場へ後退進入するために切り返し中だったY(被告)車両と衝突。

Xは、脊髄損傷、四肢麻痺等の傷害を負い、後遺障害等級3級3号が認定されたため、Y及びその勤務先である会社に対し、損害賠償を請求した。

<請求額及び認定額>

請求額 認定額
治療費 737万0957円 653万2343円
リハビリ費用 719万1240円 7万4340円
下肢装具費 51万9825円 35万4938円
自宅付添費 5046万2452円 1716万7504円
入院雑費 21万6000円 21万6000円
その他諸雑費 96万7889円 86万2639円
通院交通費 3416万1112円 1803万5079円
家屋改造費 1301万4605円 46万2953円
休業損害 3069万4755円 2897万8737円
逸失利益 2億2133万7678円 1億4443万5642円
入通院慰謝料 264万0000円 264万0000円
後遺傷害慰謝料 1990万0000円 1990万0000円
物的損害 500万1761円 374万0081円
過失相殺(5%) ▲1217万0014円
損害の填補 ▲2472万3850円
弁護士費用 3776万0748円 2065万0000円
合計 2億2715万6392円

<判断のポイント>

一般的に、治療費やリハビリ費用は症状固定時までしか相手方に請求することはできません。

しかし、症状固定後も治療やリハビリ等の必要性があると立証することができれば、相当といえる範囲内で将来分の費用の賠償請求が可能となります。

本件では、原告側は、原告の症状(左手指の巧緻運動障害、左下肢支持性低下、膀胱直腸障害等)の程度からすれば、症状固定後も治療やリハビリが必要だと主張して、将来分の治療費やリハビリ費用、通院交通費を請求していました。

これについて裁判所は、主治医らの「今後増悪の可能性がありアフターケアを要する」や「永久に自己導尿が必要と考える」等の診断結果から、症状固定後も、平均余命に至るまで、症状の増悪防止及び排尿管理のため、整形外科及び泌尿器科を継続的に受信する必要性・相当性が認められると判断し、整形外科及び泌尿器科への通院については将来分の治療費を認めました。そして、これに伴う範囲での、リハビリ費用や通院交通費も認容されました。

もっとも、内科や眼科など、後遺障害それ自体と直接関連しない通院については、必要性を認めませんでした。

<家屋改造費について>

脊髄損傷により四肢麻痺等になると、家屋をバリアフリーに改造する必要が生じることがあります。

本件でも、原告は階段昇降機の設置や、トイレのウォシュレット機能増設等の改造が必要だとして、これらの費用を請求していました。

もっとも、裁判所は、Xの症状の内容や程度に加え、Xが退院後も本訴訟に及ぶまでの間階段昇降機やウォシュレットが未施工であるにもかかわらず日常生活を送っていることから、自宅付添費とは別にこれらの設置の必要性はないと判断しました。(一部トイレは既に改修済みであり、この費用は認めています。)

<過失割合について>

本件は、過失割合の認定も興味深いところです。

本件事故は、路外の駐車場にバックで進入しようとしていたY車両が、切り返しの際にXが直進進行していた第2車線まで前進して塞いでしまい、衝突したという事案です。

原告側は、Yは、Y車両を幹線道路の第2車線まで前進させる際には、十分に走行車線の安全を確認すべきであり、また、そもそもそのような運転行為をしなくても十分に切り返しはできるため、Yに著しい過失があり、Yの一方的な過失であると主張しました。

対して、被告側は、Xは見通しのいい幹線道路を走行していたのであるから、Y車両と衝突するにはXの側にも脇見運転に近い前方不注視があったとし、Xに3割の過失があると主張しました。

この点裁判所は、Yは、X車両が走行してくることに気づいたにもかかわらず、切り返しを行い、Y車両を第2車線まで前進させたという過失があり、この過失は大きいとしながらも、Xとしても、ハザードランプを点灯させた状態で駐車場前の路側帯に停車していたY車両を認識していたのであるから、この動静に注意すべきであったとして、Xに5%の過失を認めました。

まとめ

非常に丁寧な事実認定を行い、一つ一つの論点に判断を下している裁判例です。

過失割合にしろ、損害額にしろ、「どのような事実があるのか」ということが大切で、これを立証できるかが鍵となります。

本件でも、主治医の診断書や意見書の記載が重要視され、それに基づく事実認定がされていますので、通院期間を通して、主治医の先生とのコミュニケーションをうまくとり、自身の症状や医師としての見解を書面に固定化してもらっておくことが肝要となります。

ひとつの事実が認められるか否かで大きく賠償額が変わってくることもあるので、重度後遺障害が見込まれる場合には、お早めに弁護士にご相談いただき、後の立証に備えていただきたく思います。

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交通事故
神経・精神
首・腰のむちうち(捻挫)

玉突き事故とヘルニア【後遺障害なし】

事案の概要

X車にY2車が追突、Y2車にY1車が追突した連続追突事故で、XがY2とY1に、Y2がY1に賠償請求をした2件の事案。

<主な争点>

①過失
②素因減額

<主張及び認定>

①Xの損害

主張 認定
治療費関係費 9万8585円 9万8585円
交通費 2523円 2523円
休業損害 2万3625円 2万3625円
傷害慰謝料 49万0000円 33万0000円
素因減額 なし なし
人身傷害保険料受領による請求権移転額 ▲36万4133円 ▲36万4133円
車両修理費等 73万2443円 31万1790円
代車使用料 113万3685円 19万2150円
弁護士費用 24万8086円 6万0000円

②Y2の損害

主張 認定
車両損害 32万9000円 32万9000円
弁護士費用 3万2900円 3万2900円

<判断のポイント>

1.Y2に過失があるか

本件は、広い意味でいえば、いわゆる玉突き事故です。

このような場合、①-1:誰が“加害者”なのか=誰が“損害を賠償する責任を負うのか”、①-2:追突車から他の追突車に対する損害賠償請求において「過失割合」はどうなるのかが問題となります。

①-1:誰が“加害者”なのか=誰が“損害を賠償する責任を負うのか”

Xは、「X車両に対するY2車両の追突は、Y2の前方不注視及び減速不十分の過失又は被告Y1の前方不注視及び減速不十分の過失により発生した。したがって、Yらは、共同不法行為により、連帯して、Xに対する賠償責任を負う。」と主張しました。

この点、Yらが主張する玉突きの態様は以下のとおり、それぞれ異なりました。

Y2は、「Y1車両がY2車両に追突したため、Y2車両が前進し、X車両に追突した。」と主張し、

Y1は「X車両に追突したY2車両が急停止したため、Y1車両がY2車両に追突した。」と主張したのです。

これに対して、裁判所は、

① Y2車両の後部に、Y1車両の前部に取り付けられたナンバープレートのボルトが接触したとみられる跡が、4か所ついている。

→Y2車両の後部とY1車両の前部は、二度接触したと認められる。

②Y1の主張する追突順序(X←Y2追突が先、Y2←Y1追突が後)では、Y2車両とY1車両は一度しか接触しないはずであるのに対し、Y2の主張する追突順序(Y2←Y1追突が先、X←Y2追突が後)では、両車両は、Y1車両がY2車両に追突した際及びY2車両がX車両に追突した反動の際の二度接触する機会がある。
→①の損傷状況は、Y1車両による追突が先に発生したことを推認させる。

③Y2車両による追突が先であれば、X車両は二度追突されたはずであるが、Xは、実況見分実施当時に一度の追突を前提に指示説明をしており、本件訴訟におけるX本人尋問結果によっても二度の衝突を感じたと認めることもできない。

④Y1は、Y2車両がX車両に追突する際、Y2車両の後部が浮き上がるのを見たと主張しているところ、これによれば、Y2車両は最初の追突の際ノーズダイブしたということになる。他方、二度目の追突の際にはY2車両は既に停止しておりノーズダイブは生じていなかったはずであるから、二度の追突があれば、X車両の後部には高さの異なる衝突痕が生じるはずである。

しかし、X車両には、二度の衝突を示す痕跡はみられない。

→Y1車両による追突が先に生じたとすれば整合的である。

①~④によれば、Y2の上記証言は信用でき、本件事故は、Y1車両が先にY2車両に追突し、その勢いでY2車両がX車両に追突した順次追突事故であると認められる。

さらに、Y1は、「Y2車両の前部の損傷のほうが、Y1車両の前部の損傷よりも大きいこと」を、Y2車両のX車両への追突が先に発生したことの根拠として主張していました。

しかし、裁判所は、「確かに、通常玉突き事故であれば、最初の追突のほうが、後の追突よりもエネルギーが大きく、損傷も二台目の車両と三台目の車両間のほうが、一台目と二台目の車両間のそれよりも大きくなる。

しかし、本件では、①X車両の後部バンパーが下に折れ曲がり衝撃を吸収する役割を十分果たしていないことや、②Y2車両のボンネットの折れ曲がりは、クラッシャブルポイントがあることによるもので、これのみをもって、Y2車両X車両間の追突のほうがY2車両Y1車両間の追突よりエネルギーが大きかったとはいいがたいこと(D証言)、③Y2証言によれば、Y1車両に追突された際Y2車両は走行中であり、追突により加速したように感じる状態で停止しているX車両に追突したということであり、停止している車両が追突されて前方の停止車両に追突する通常の玉突き事故とは事故態様が異なること等も考慮すれば、各損傷の見た目の大きさをもって、上記認定を覆す事情ということはできない。」と判断しました。

そして、裁判所は、

という本件事故様態によれば、Y1には前方不注視の過失があると認められるので、Y1はXに対し、不法行為に基づく損害賠償義務を負う。

Y2には、本件事故につき過失は認められないので、Xに対し、不法行為に基づく損害賠償義務を負わない。

と判断したのです。

①-2:追突車から他の追突車に対する損害賠償請求において「過失割合」はどうなるのかY2からY1に対する請求に関しても、裁判所は、上記事故態様を前提として、「Y2は、本件事故当時、停止したX車両に続いて停止すべく減速していたにすぎず、何らの落ち度は認められない。したがって、本件事故によるY2の損害につき過失相殺をすべきでない。」と判断し、過失相殺を認めませんでした。

本件は、誰が“加害者”か=誰が“損害を賠償する責任を負うのか” を考える際にも、追突車から他の追突車に対する損害賠償請求において「過失割合」はどうなるのかを考える際にも、「追突の順序」が非常に重要なポイントとなりました。

そこで、それぞれの車両の損傷状況や、当事者の証言に照らして、丁寧に事実認定しているところに特色があります。

人の証言は、大切な証拠のひとつですが、人の記憶は曖昧で不確かなところがあるうえ、それが当事者となると利害関係が絡んで嘘や思い込みが混じってしまうことが多いものです。

そこで、裁判では、証言の「信用性」を他の客観的な証拠との関係から見極めていくことになります。

2.ヘルニア等で素因減額されるか

もともと症状の原因になるような素養がある場合、「今回生じた症状・損害は、全てが事故のせいとはいえない」として、加害者が負うべき賠償額が何割か割り引かれることがあります。これが「素因減額」というものです。

Y1は、
「Xは、本件事故以前から腰部痛を有していたところ、これは腰椎椎間板ヘルニアに起因するものであり、同腰部痛が、本件事故による治療に影響したといえる。

また、は、本件事故以前から右膝痛を有していたものであり、これらの影響につき、5割の素因減額をすべきである。」と主張しました。

これに対して、裁判所は、「Xには腰椎椎間板ヘルニアがあったところ、本件事故の態様等からすれば、同ヘルニアは、本件事故以前から存在していたものと考えられる。また、同原告は、本件事故当時、腰痛及び右膝痛につき治療中だったものと認められる。しかし、本件事故による衝撃の程度は相当のものだったと考えられること、診断内容及び本件事故による同原告の通院が回数も少なく短期間で終了したこと等も考慮すると、上記ヘルニア及び事故前から有していた腰痛並びに右膝痛が、本件事故による同原告の傷害に影響を及ぼし又は治療の長期化に寄与したとまで認めるに足りない。したがって、素因減額をするのは相当でない。」と判断しました。

被害者の方ご本人が相手方保険会社と交渉していく中で、「もともと腰痛持ちであった」ことや「医師からヘルニアは本件事故によるものとは言えない」ことを理由に、「素因減額!」と声高に主張されて、弱気になってしまうことがあるかもしれません。

しかし、本件のように、もともと腰痛等で治療中であり、腰のヘルニアももともと持っていたと認定されても、素因減額されないケースはあります。

大切なのは、事故前の症状の程度や治療の内容・程度、事故後の症状、事故の衝撃の大きさなどから、“事故後の症状は、事故のせい”と言えるか否かです。

過失の有無や程度、素因減額の有無や程度については、最終的な判断者である裁判官がどう考えるかを予想しながら賠償請求を進めていく必要があります。

裁判官は法律家であり、法律家には法律家の考え方、感覚に基づいて判断します。

突然交通事故に見舞われた被害者の方々は、法律に馴染みのない方がほとんどだと思います。

同じ法律家としての視点から、分かりやすく説明させていただきますので、ぜひお気軽に当事務所の弁護士にご相談ください。

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