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14級
肩の可動域制限が認められなかった裁判例【後遺障害14級9号】(名古屋地判 平成28年3月16日)

事案の概要

47歳の主婦であるXが、交差点を自転車で進行中、右側交差道路から進入してきたY運転の乗用車に出合い頭に衝突され、左上腕骨骨幹部骨折の傷害を負ったため、XがYに対し、損害賠償を求めた事案。

Xに残存した症状は、左肩関節機能に障害を残したものとして、損害保険料率算出機構(損保料率機構)より後遺障害等級10級10号が認定されていた。

<主な争点>

①Xに残存した症状が後遺障害に該当するか、該当するとすればどの程度か
②Xの労働能力の喪失はどの程度か

<主張及び認定>

主張 認定
治療費(既払金) 197万8098円 197万8098円
入院雑費 8108円 8108円
通院交通費 4万3000円 0円
文書料 3150円 3150円
旅行キャンセル代 13万4800円 13万4800円
休業損害 163万2624円 63万9936円
逸失利益 1157万4624円 136万6470円
入通院慰謝料 114万9333円 114万9333円
後遺障害慰謝料 550万0000円 120万0000円
弁護士費用 134万0733円 0円

※ただし、Xの過失割合20%分が控除され、また、自賠責保険から、裁判所が認定した金額より多い額である後遺障害等級10級10号の保険金461万円がすでに支払われていたため、Yに請求できる金額はないとしてXの請求は棄却されました。

<判断のポイント>

(1)後遺障害の有無・程度

本件では、訴訟提起以前に、Xが左上腕骨骨幹部骨折によって残存した左肩の可動域制限について、損保料率機構から後遺障害等級10級10号に該当するとの判断を受けていたため、Xはそれを前提に、Yに対して損害賠償請求訴訟を提起しましたが、Xの後遺障害について裁判所は後遺障害の程度としては、左肩の動作時痛について14級9号(局部に神経症状を残すもの)のみを認定し、可動域制限については、より下位の等級も含めて後遺障害とは認めませんでした。

本件訴訟において、Y側は、Xの後遺障害診断書作成以前の治療期間中に、Xがゴルフの練習でフィニッシュまでするようなスイングを行っていた事実を指摘し、後遺障害等級10級10号の認定基準となる肩の可動域の数値よりも広い可動域まで回復していたとして、Xには認定基準をみたす可動域制限は認められず、後遺障害は存在しない、と主張しました。

そして裁判所も、Y側のこの主張を認め、また、後遺障害診断書の作成以前にXの通院先の病院で測定された可動域の数値では、かなり回復していたにもかかわらず、後遺障害診断書上の数値は、明らかにそれを下回る数値が記載されていたため、後遺障害診断書の記載の測定値は不自然なものであるとして、その測定値及びそれに基づく後遺障害認定は採用できないと判断し、Xの左肩の可動域制限を後遺障害として認めなかったのです。

損保料率機構の審査は、請求者より提出された資料のみから認定判断がなされ、提出されていない資料や把握できない事情は考慮されないため、その審査には限界があるといえるでしょう。

それに対して裁判では、後遺障害等級の認定において、後遺障害診断書の記載が重視されるのは事実ですが、それだけでは測りきれない事情も含めて総合考慮されて、適切な後遺障害等級が認定されることとなるので、損保料率機構の認定結果と異なる判断がなされることもあるのです。

損保料率機構で後遺障害が認定された場合、通常であれば、相手(の保険会社)は、示談交渉でもその結果に従って後遺障害慰謝料や逸失利益の支払に応じることがほとんどですが、なかには本件のように、認定された後遺障害の有無や程度を裁判まで争ってくることもあります。

本件では、うかつにも(?)Xが治療期間中にゴルフの練習をしていたことが露見して、そのことに疑問をもったY側が、可動域制限を認めずに争ったというような事情があったのかもしれませんね。

(2)労働能力喪失の程度

本件訴訟では、Xの可動域制限は認められませんでしたが、後遺障害等級14級9号は認定されたため、後遺障害に関する損害として、後遺障害慰謝料及び逸失利益が損害として認められ、後遺障害としての動作時痛によるXの労働能力の喪失期間を10年と判断しました。

後遺障害とは、交通事故による受傷で生じた症状が、将来においても回復の見込めない状態になったものであり、その意味内容からすると、後遺障害によって労働が制限される期間(労働能力喪失期間)は生涯に渡って続くとも思われます。

もっとも、後遺障害の種類によっては、必ずしも労働がずっと制限されるものとは考えにくいものもあり、たとえばむち打ちによる神経症状は、時間が経つにつれて馴れてきて、支障が軽減、あるいは生じなくなると考えられているため、裁判では、労働能力喪失期間は、14級9号では5年、12級13号では10年とされている例が多く見られます。

ただし、一律に5年あるいは10年とされているわけではなく、具体的症状に応じて、それ以上の期間が認められる場合もあります。

本件でXに認められた後遺障害も14級9号ですが、Xの場合、左肩の動作時痛が、骨折という明らかに重い怪我に起因するものであることが考慮されて、むち打ちの場合よりも長い10年という労働能力喪失期間が認められたのです。

①のように、損保料率機構で後遺障害等級が認定されたからといって、必ずしも裁判でも同様の認定がされるとは限りません。

本当に後遺障害がないのに認定されるということであれば問題ですが、実際に認定どおりの後遺障害が生じているにもかかわらず、それが裁判では覆されてしまって適切な賠償を受けられないこともありえなくはないのです。

そのような事態をできる限り避けるためには、交通事故に精通した弁護士に依頼することが重要といえます。

当事務所では、多数の交通事故案件を取り扱っている弁護士がおりますので、まずはお気軽にご相談ください。

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