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将来介護費に関する裁判例【後遺障害2級1号】

将来介護費に関する裁判例

【後遺障害2級1号】(さいたま地裁平成31年3月19日判決)

<事案の概要>

63歳の男性会社員Xが、店舗敷地内にあるマンホールの蓋を開いて作業していたところ、Yの運転する乗用車が敷地内に進入し、Xの頭部を礫過した。Xは、外傷性くも膜下出血、頭蓋骨開放性陥没骨折、脳挫傷等の傷害を負い、右上下肢麻痺、失語及び嚥下障害等の症状が残存したため、損保料率機構より、後遺障害等級2級1号の後遺障害が認定された。その後、XはYに対して、損害賠償を求めて訴訟を提起した。

<主な争点>
将来介護費(常時介護の必要性)

<請求額及び認定額>

<Xの損害>

主張 認定
治療関係費 2976万1420円 2976万1420円
症状固定後治療費 253万2550円 145万0236円
入院雑費 73万0500円 68万8500円
通院交通費 31万4412円 5万8375円
入院付添費 316万5500円 260万0000円
将来介護費 9971万8183円 5828万0061円
家屋改造費等※ 996万6168円 724万8395円
休業損害 704万6784円 704万6784円
逸失利益 4586万7902円 4586万7902円
傷害慰謝料 500万0000円 400万0000円
後遺障害慰謝料 2500万0000円 2500万0000円
小計 2億2910万3419円 1億8200万1673円
既払金 ▲7441万1779円 ▲7441万1779円
遅延損害金 1551万1847円
弁護士費用 1758万4283円 1231万0174円
合計 1億9342万7110円 1億3541万1915円

※家屋改造費のほか、福祉機能付自動車や介護福祉用具の購入費用

1 将来介護費について

(1) 特に重篤な後遺障害が残存した被害者については、自分自身で日常生活の基本動作のほとんどを行うことが困難となり第三者の介護が必要となった場合、親族や職業として介護に従事する人(職業介護人)への介護の対価、すなわち介護費用を負担しなければならなくなります。
そのため、将来にわたって発生する介護費用(将来介護費)も損害賠償の対象となりますが、将来介護費は、基本的に被害者が亡くなるときまでにかかる介護費用であるため、特に高額になることが多いことから、当事者間において対立が大きくなり得る損害費目の1つです。

(2) そして、将来介護費が認められるか否かにおいて大きく争われる点が、介護の必要性及びその程度です。
高次脳機能障害の場合、後遺障害としてはその症状の重さに応じて、第1級~第3級、第5、第7、第9級に該当する可能性があります。
その中でも第1級1号の「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」と第2級1号の「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」は、被害者に介護を要することが前提ですので、将来介護費が認められることはほぼ間違いないですが、「常に介護を要する」か「随時介護を要する」かという点で異なります。
特に第2級1号の場合、「随時介護」であるため、将来にわたってどの程度の介護が必要になるのか、職業付添人による介護が必要かなどで将来介護費の金額が変わってくることになるのです。
なお、第1級、第2級に達しない高次脳機能障害であっても、介護を要する事情が認められる場合には、将来介護費が認められる場合があります。
また、いわゆる赤い本では、職業付添人の介護費用は実費、近親者付添人は日額8000円が目安とされており、職業付添人の介護費用のほうが一般的には高額になります(東京地裁では第1級の場合日額1万5000円ないし1万8000円程度を認めることが多いです)。

2 本件について

(1) 本件では、Xに認定された高次脳機能障害が第2級1号であったものの、Xの妻が67歳(就労可能年限)になるまでの近親付添人としての将来介護費日額2万円と、それ以降平均余命までの職業付添人の将来介護費日額2万5000円が認められるべきであると主張しました。
これに対して、Yは、Xが自力で日常生活の基本動作を行えている部分があること、後遺障害2級の随時介護と判断されていることを主張し、将来介護費は近親付添人による介護を前提にした日額7000円とし、これが困難となった場合に職業付添人の費用を検討すべきであると主張しました。

(2) 裁判所は、Xの介護を要する程度を判断するうえで、後遺障害の内容や、医師の見解、Xが食事動作や車椅子の操作はときどき介助を要し、排泄動作はほとんどすることができないなどの日常生活動作の観点から見る限りは、随時の介護で足りるものの、現実には常時に近い適宜の見守りが必要ということができ、また、Xの妻と一緒にXと同居して介護に当たっている息子が、近く独立して別居する生活をするであろうことを想定すべきである、としました。
そのうえで、Xの妻が67歳になるまでは日額8000円、それ以降、Xの平均余命までの期間の職業付添人による介護費を日額1万8000円とするのが相当であると認定しました。

(3) Xの請求した日額までは認めなかったものの、第2級1号の高次脳機能障害であっても、現実のXの日常生活動作の状況等から、常時に近い見守りが必要であるとして、Xの平均余命までの全期間について近親者介護及び職業付添人による介護の費用を認めたという点において意義を有するものといえます。

高次脳機能障害は、それ自体重い後遺障害であり、将来介護費以外の請求費目も多岐にわたり、金額も高額になる傾向にあります。そのため、被害者自身や親族の方のみの力だけでは適切な賠償を受けることは難しく、専門家に相談すべき案件であるといえます。まずは当事務所までご相談ください。

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