裁判例

Precedent

交通事故
死亡
遺された子どもと内縁の夫(東京地判平成18年6月7日)

事案の概要

A(59歳、女性)が信号規制のある交差点を青信号に従って横断歩行中、Yの運転する貨物自動車が赤信号無視により交差点へ進入しAと衝突。

Aは、頸椎脱臼骨折を原因とする頸椎損傷により即死したため、Aの子であるX1、X2及び内縁の夫であるX3が、Yに対して損害賠償の請求をした。

<争点>

本件事故に基づく損害額はいくらか?

<主張及び認定>

<Aの損害額>

主張 認定
逸失利益 2511万0000円 2426万6813円
慰謝料 2400万0000円 2400万0000円
合計 4911万0000円 4826万6813円

<X1の損害額>

主張 認定
相続
(Aの損害額の3分の1)
2455万5000円 2413万3406円
死体検案費用 1万5000円 1万5000円
葬儀関係費用 156万2620円 130万0204円
弁護士費用 261万0000円 200万0000円
合計 2874万2620円 2744万8610円

<X2の損害額>

主張 認定
相続
(Aの損害額の3分の1)
2455万5000円 2413万3406円
葬儀関係費用 1万5750円 1万5750円
弁護士費用 246万0000円 200万0000円
合計 2703万0750円 2614万9156円

<X3の損害額>

主張 認定
固有の慰謝料 200万0000円 200万0000円
弁護士費用 20万0000円 20万0000円
合計 220万0000円 220万0000円

<判断のポイント>

(1)死亡事故の際に請求できるもの

通常、交通事故の損害賠償は、被害者が自身の被った損害を加害者に対して請求します。

しかし、被害者が死亡してしまった場合には、被害者が請求することはできません。

従って、被害者の被った損害を相続人が相続し、相続人が加害者に対して請求していくことになります。

また、死亡事故の場合には、近親者に固有の慰謝料が認められます。

これは、家族の命が事故によって奪われてしまったという精神的損害を被ったことを理由としています。

法律上被害者の父母、配偶者及び子どもに認められていますが、本件のように内縁であることの立証ができれば、婚姻をしていなくとも配偶者に準じて慰謝料を認められることができます。

(2)葬儀費用はいくらまで認められるか

被害者が死亡した場合に、多くの場合が葬儀を執り行うことになります。

以前は、葬儀はいつか死亡した際にも執り行うのだから、交通事故によって発生した損害ではないという考え方もありましたが、裁判所は基本的に交通事故による損害として葬儀費用の賠償を認めています。

しかし、ここで気をつけなければならないのは、葬儀費用はかかった実費分全額が認められるとは限らない点です。裁判所は原則として葬儀費用は上限150万円までと考えており、それ以下の場合には実際に支出した額を認めます。150万円を超えて認定されるためには、細やかな立証が必要となります。

本件では、X1が支出した葬儀費用のうち、130万0204円は本件事故による損害として認められましたが、残り26万2416円については事故との因果関係の立証ができず認められませんでした。

まとめ

交通事故によって、突然命を奪われてしまうという痛ましい事件は後を絶ちません。

そして、そのような事故の場合、誰が、どのような損害の賠償を受けられるか、ということが、被害者存命の事故よりも分かりづらくなります。

本件では、X3につき、13年ほどの交際期間および9年以上にわたる同棲が認められ、実質的には夫婦同様であると認定されたため、内縁配偶者として慰謝料の請求が認められました。

しかしこれが単なる交際相手、同棲相手という程度だった場合には判断が異なる可能性があります。

また、葬儀費用はどこまで認められるのか、香典の処理はどうするのか、生命保険等はどうなるのか、など懸念される事項は多岐にわたります。

交通事故で大切な方を亡くしたうえに、賠償や相続といった手続きを十全にこなすのは、かなりの困難を伴うと思われます。

相続から損害賠償に至るまで、専門家である弁護士に御相談いただいた上で、適切な解決を目指すのが望ましいでしょう。

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