裁判例

Precedent

交通事故
14級
休業損害
異時共同不法行為
通院中なのに、また事故に遭ってしまった【後遺障害なし】

異時共同不法行為についての裁判例

通院中なのに、また事故に遭ってしまった…(大坂地判平成27年11月17日)

事案の概要

停止中の自動車において、Y1が左後部ドアを開放したところ、後ろから自転車で走行してきたXと衝突した事故(本件事故)で、XがY1とY2会社(本件事故は、Y1がY2会社の事業の執行として自動車を運転した際に起きた)に対し、損害賠償を求めた事案。Xは本件事故の前にも事故に遭っており(前事故)、本件事故は前事故での怪我の通院中に起きた。

<主な争点>
①異時共同不法行為
②症状固定後の治療費
③休業損害・営業損害

<主張及び認定>

主張 認定
未払治療費 8万1997円 0円
未払交通費 4万3640円 0円
資料作成費 4万3550円 0円
休業補償 127万8360円 0円
営業補償 25万0000円 68万0000円
通院慰謝料 186万0000円 40万0000円
名誉毀損にかかわる慰謝料 50万0000円 0円

判断のポイント

①客観的に1個の不法行為といえるか

交通事故の怪我で通院中に、不幸にもまた事故に遭ってしまうことがあります。
1事故目と2事故目とで全然別の部位をお怪我した場合は、「この部位の怪我は1事故目のせい。この部位の怪我は2事故目のせい。」とはっきり分かるので、それぞれの怪我についてそれぞれの加害者及び保険会社に請求すればいいので、特に法的な問題はありません。
しかし、1事故目と2事故目とで同じ部位をお怪我した場合、「この怪我はどちら事故のせいか」とはっきり分からなくなります。このとき、「誰に対して何を請求できるのか」が問題となるのです。
この問題に関して、出てくる言葉・考え方に「異時共同不法行為」というものがあります。
「異時」つまり“違う時期・タイミング”で起きたけれども、複数の「不法行為」つまり“1事故目と2事故目”が「共同」つまり“合わさって”怪我が発生したといえるので、被1事故目の加害者と2事故目の加害者はどちらも怪我の“全部”について損害賠償義務を負うと考えるものです。
例えば本件では、裁判所はXの「通院慰謝料は200万円が相当」と判断しましたが、ここで本件事故と前事故が「異時」の「共同不法行為」であると考えれば、XはY1及びY2会社に加え、前事故の加害者にも200万円全額の賠償を請求することができるのです。
このように考えると被害者に有利なので、異時共同不法行為の主張は被害者側からなされることが多いですが、本件では加害者であるY側から主張されました。
これは、前事故の加害者側からXにいくらか賠償がなされていたからです。共同不法行為と考えた場合には、前事故の加害者側からなされた賠償の分だけ全体の賠償額が減るので、Y側がXに賠償すべき金額も減ります。こういう面から見ると、異時共同不法行為の考え方はY側にとっても有利な側面があるということですね。
しかし、裁判所は、「共同不法行為が成立するためには、複数の加害行為が時間的、場所的に近接する等、客観的に1個の加害行為であると認められることを要するというべきである」が、「本件についてみるに、前事故と本件事故は、異なる場所で発生しており、また、前事故から本件事故までは5か月以上の時間的間隔があるのであって、時間的・場所的に近接しているとはいえず、客観的に1個の行為であると評価することはできない」として、本件事故と前事故を「異時共同不法行為」とは認めませんでした。
このように、“客観的・社会的に見て、1個の行為といえない場合“には「共同不法行為」と認めないのが裁判所の傾向です。
そして、この場合、被害者は本件事故の加害者と前事故の加害者それぞれに、それぞれの「寄与度」つまり“影響度”に応じた損害額の請求しかできないので、本件で、裁判所は、「前事故と本件事故の態様、原告の症状、治療の時期及び内容を考慮すると、前事故と本件事故の寄与度は、8:2の割合とみるのが相当であるから、本件事故に係る通院慰謝料は、40万円となる」と判断しました。

②相当因果関係

加害者に損害賠償請求するには、その損害と事故との間に「相当因果関係」、分かりやすくいえば“普通に考えてその損害は事故のせいで発生したという関係”が認められなければなりません。
怪我の「治療中」に発生した治療費であれば、通常この「相当因果関係」が認められます。
しかし、「症状固定後」の治療費はどうでしょう。
答えは、ノー。原則、相当因果関係は認められません。
なぜなら、「症状固定」とは“治療が効かなくなった状態“を意味するからです。効かない治療にお金をかけても、それは事故による怪我を“治すため”の治療費とはいえませんよね。だから、症状固定後の治療費には、相当因果関係が認められず、加害者に請求できないのです。
本件で、XはY側から、受傷部位のひとつである左肩関節について、「症状固定……日より後に行わなければならない」等と繰り返し要求されたことから、症状固定後の治療費も請求しましたが、裁判所はそのような事実は証拠上認められず、症状固定日後の治療費について「本件全証拠を検討しても、……相当因果関係があると認めるには足りない」として請求を認めませんでした。
「完全に治るまでの治療費は、全部加害者が払うべきだ!」とお考えの被害者の方も多いと思いますが、治療はいずれ“効かなくなる”時=「症状固定」が来ます。だからこそ「後遺障害」認定という制度があるのです。

③現実の減収

Xは、予備校を経営しており、代替講師使用や事務代行に伴う損害が発生したとして、休業損害の賠償を請求しました。
これに対して裁判所は、「休業補償は、受傷による休業のために実際に収入の減少があった場合に認められるものである」として、本件では、事故前年度と比べて、Xの営業等収入にも所得金額にも減少が認められないとして、休業損害を認めませんでした。
また、Xは、「前事故及び本件事故の影響のため、Xが経営する予備校は、開設以来前例がないほど低い70%台の合格率となった。その結果、予備校の看板に半永久的に消えない傷が残った」として、これに対する補償を求めました。
しかし、これに対しても、裁判所は、「本件事故前からの収入減が認められない」ことから「合格実績の変化によりXが主張する損害が発生したと認めるには足りない」として、Xの主張を認めませんでした。
判決文上は記載がありませんが、Xはおそらく個人事業主であり、個人事業主の方の休業損害等については、「現実の減収」が認められることが重視される傾向にあります。事故後に売上げや所得が減っていない場合には、休業損害が認められないことが多いのです。

少し想像も入ってしまいますが、本件では、裁判上、弁護士費用の請求がないことから、ご本人で訴訟をなされた可能性があります。
その前提で、休業損害の部分についていえば、「代替講師使用」や「事務代行」という主張が出ていることから。もし弁護士が訴訟追行していれば「代替労働力」への人件費という切り口で請求する方法もあったのではないかと考えられます。
法律の専門家である弁護士だからこそ、適格なポイントに注目し、効果的な切り口から主張することができることがあります。
交通事故においては、今回のように「異時共同不法行為」や「症状固定」など難しい法律概念が絡んでくることが多々あります。ひとつひとつ説明させていただきながら、適切な賠償を得られるようにサポートさせていただきますので、どうぞお気軽にご相談ください。

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