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脊髄損傷
5級
過失割合
被害者には何が必要なのか【後遺障害5級相当】

脊髄損傷についての裁判例(5級相当)

~被害者には何が必要なのか~(大阪地判平成26年5月14日)

事案の概要

Xが一方通行の山道を先行車両に続いて普通自動二輪車で走行していたところ、前方からY運転の普通乗用車が逆送をしてきたため、Y車両と先行車両が衝突し、その後X車両もY車両と衝突した。
Xは、この事故で頚髄を損傷したとして、Yに対し損害賠償の請求をした。

<争点>
①過失割合
②Xの後遺障害の重さ
③損害額

<請求額及び認定額>

主張 認定
治療費 1157万0179円 1157万0179円
通院費 31万9720円 31万9720円
入院雑費 24万7500円 24万7500円
後遺障害診断書作成費用 1万0500円 1万0500円
家族交通費・引越費用等 22万7006円 22万7006円
症状固定日までの付添看護費 272万0000円 43万5200円
休業損害 684万3520円 632万5632円
本件料理教室廃業による損害 25万0000円 10万0000円
自動車買替等に伴う損害 35万8000円 0円
症状固定後の治療費 18万7116円 18万7116円
将来の成人用おむつ費用 207万6514円 173万0395円
将来の付添看護費 207万6514円 173万0395円
将来の成人用おむつ費用 207万6514円 173万0395円
将来の付添看護費 606万8352円 0円
将来の自動車買替費用 114万4260円 74万5491円
後遺障害逸失利益 6463万1672円 4617万3920円
後遺障害慰謝料 2000万0000円 1440万0000円
入通院慰謝料 370万0000円 295万0000円
住宅改造費 488万7390円 97万7478円
弁護士費用 2094万0240円 400万0000円

判断のポイント

①過失割合

本件事故は、X車の前に先行車両がいたため、Xが先行車両との車間距離を空けていれば損害が生じなかったのではないかと、Y側から過失相殺の主張がありました。
確かに、車間距離をつめすぎていて玉突きのようになった場合には、離れていれば避けることができたとして、過失割合をとられる可能性があります。
本件では、証拠から車間距離が20メートルは取られていたと認定した上で、具体的な道の状況が、カーブの続く山道でありかつ上り坂であることから、X車両は早くとも時速40キロメートル程度しか出ていなかったとし、この場合には制動距離との兼ね合いで20メートルの車間距離があれば十分と判断しました。
車間距離は、どれだけ離していれば大丈夫というものではなく、走行速度から算出される制動距離との関係で判断されます。
速度がわからない場合には、車間距離が十分だったかどうかの判断が難航する場合がありますが、本件のように道の状況などから推認することもできます。

②Xの後遺障害の重さ

Xは頚髄損傷の傷害を負い、四肢の感覚異常、知覚異常、痺れ、疼痛や尿・便失禁などの症状が残存しました。
これらの症状について、裁判提起前の損害保険料率算出機構における審査では、後遺障害等級の5級2号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの)に該当するという判断が出されていました。
Xは、裁判においては、後遺障害等級3級3号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの)に該当すると主張し、Yはこれを争いました。

本裁判においては、まず、Xに具体的にどんな症状が残存しているかを、診療録等を手がかりに認定していきました。
症状が重かったり、残存症状の数が多かったりすると、加害者側は「その症状は事故によるものではない」「その症状はカルテに記載がない」等と争ってくることがあります。
これは、カルテや治療経過で作成される資料が、必ずしも完璧に記載されているわけではないためです。
本件でも、リハビリテーション計画書上の自覚症状について、「疼痛」にチェックがなされていなかったことをもって、「この時点では疼痛は存在しなかった」という反論が出されていました。
しかし、本裁判例は、同資料がリハビリテーションを行うための計画書であるから、リハビリ箇所に関係しない部位の症状は必ずしも記載されない可能性があること、感覚傷害にはチェックがあり「四肢しびれ」の記載があることから、疼痛もこの中に含まれているとも考えられること等から、疼痛欄にチェックの記載がないことのみをもって、Xに同期間疼痛がなかったとまで言うことはできない、と判断しました。
このように、単に記載の内容だけを見るのではなく、その資料は何のために作成されているものか、記載があること又はないことを、合理的に説明することができないかという観点から検討することが大切になります。

次に、それらの症状がXの生活にどの程度制限を加えているかの判断がなされました。
本件のような脊髄損傷については、尊称の程度によってその制限の程度もさまざまです。半身不随になる場合もあれば、巧緻作業がしづらくなる程度のものまで有り得ます。
したがって、症状があるとしても、それがどの程度なのかという点は、非常に大きな問題となります。
本件では、Xは上記の症状が強く残っていることは認定されましたが、他方でXが一人で4時間運転をして和歌山まで出かけたり、12時間運転をして山梨まで出かけたりした事実が認められました。
このように、一人で運転して出かけられるということは、周囲の助けをあまり必要としていないという評価につながりますので、「まったく労務に服することができない」とまではいえません。
そのため、本件では、事前に認定を受けていた後遺障害等級5級が相当であると判断されました。

③Xの損害内容

本件の損害認定でユニークな認定をしているのは、症状固定日までの付添看護費についてです。
付添看護費は、怪我の状態や医師の指示により、家族等が付き添いを必要とする状況であれば、被害者の損害として認められます。
他方で、単に家族が被害者のお見舞いに行くだけでは、なかなか必要性が認められない場合もあります。
本件でXが入院していたのは、完全看護体制の病院でした。そのため、家族等が付き添いをしても、具体的に看護や介護をする必要性は乏しくなってしまいます。
しかし、本裁判例は、Xは命にかかわる重傷を負っており、ここから回復するためには家族による精神的な支援が必要だったと認定しました。
具体的な行動というよりは精神的な支援であるため、金額こそ1日800円という小額になってはいますが、精神的支援の必要性を認めたものとして、意義のある判決だと思われます。

また、もう一点特徴的なのは、将来の自動車買替費用を認めたことです。
Xは上記のとおり、事故後も長時間かけて自動車移動が可能でしたが、これは逆を言えば自動車でなければ移動が困難ということになります。
四肢に痺れや疼痛が残っているため、長距離の移動や物品の運搬は、もっぱら自動車を利用するほかありません。
そのため、今後の人生で自動車が必要不可欠となるということで、将来自動車を買い替えるための費用を認めました。
車椅子や義足などの、医療用器具であれば認める例は多数ありますが、自動車についても必要性を認めた点で特徴的な判断といえるでしょう。

コメント

脊髄損傷をしてしまうと、残念ながら、ほとんど回復は見込めなくなります。
したがって、その症状といかにうまく付き合いながら生活していくかという点を考える必要が出てきます。
しかし、加害者側の保険会社や代理人は、被害者のこの先の生活を気にしてはくれません。
どのような請求が可能なのか、どのような補償が必要なのかをきちんと検討するためにも、まずは被害者のための弁護士にご相談ください。

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