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玉突き事故とヘルニア【後遺障害なし】

腰椎捻挫の裁判例(後遺障害なし)

~玉突き事故とヘルニア~

事案の概要

X車にY2車が追突、Y2車にY1車が追突した連続追突事故で、XがY2とY1に、Y2がY1に賠償請求をした2件の事案。

<主な争点>
①過失
②素因減額

<主張及び認定>

①Xの損害

主張 認定
治療費関係費 9万8585円 9万8585円
交通費 2523円 2523円
休業損害 2万3625円 2万3625円
傷害慰謝料 49万0000円 33万0000円
素因減額 なし なし
人身傷害保険料受領による請求権移転額 ▲36万4133円 ▲36万4133円
車両修理費等 73万2443円 31万1790円
代車使用料 113万3685円 19万2150円
弁護士費用 24万8086円 6万0000円

②Y2の損害

主張 認定
車両損害 32万9000円 32万9000円
弁護士費用 3万2900円 3万2900円

判断のポイント

①Y2に過失があるか

本件は、広い意味でいえば、いわゆる玉突き事故です。
このような場合、①-1:誰が“加害者”なのか=誰が“損害を賠償する責任を負うのか”、①-2:追突車から他の追突車に対する損害賠償請求において「過失割合」はどうなるのかが問題となります。

①-1:誰が“加害者”なのか=誰が“損害を賠償する責任を負うのか”
Xは、「X車両に対するY2車両の追突は、Y2の前方不注視及び減速不十分の過失又は被告Y1の前方不注視及び減速不十分の過失により発生した。したがって、Yらは、……共同不法行為により、連帯して、Xに対する賠償責任を負う。」と主張しました。

この点、Yらが主張する玉突きの態様は以下のとおり、それぞれ異なりました。
Y2は、「Y1車両がY2車両に追突したため、Y2車両が前進し、X車両に追突した。」と主張し、

Y1は「X車両に追突したY2車両が急停止したため、Y1車両がY2車両に追突した。」と主張したのです。

これに対して、裁判所は、

① Y2車両の後部に、Y1車両の前部に取り付けられたナンバープレートのボルトが接触したとみられる跡が、4か所ついている。
→Y2車両の後部とY1車両の前部は、二度接触したと認められる。

②Y1の主張する追突順序(X←Y2追突が先、Y2←Y1追突が後)では、Y2車両とY1車両は一度しか接触しないはずであるのに対し、
Y2の主張する追突順序(Y2←Y1追突が先、X←Y2追突が後)では、両車両は、Y1車両がY2車両に追突した際及びY2車両がX車両に追突した反動の際の二度接触する機会がある。
→①の損傷状況は、Y1車両による追突が先に発生したことを推認させる。

③Y2車両による追突が先であれば、X車両は二度追突されたはずであるが、
Xは、実況見分実施当時に一度の追突を前提に指示説明をしており、本件訴訟におけるX本人尋問結果によっても二度の衝突を感じたと認めることもできない。

④Y1は、Y2車両がX車両に追突する際、Y2車両の後部が浮き上がるのを見たと主張しているところ、これによれば、Y2車両は最初の追突の際ノーズダイブしたということになる。他方、二度目の追突の際にはY2車両は既に停止しておりノーズダイブは生じていなかったはずであるから、二度の追突があれば、X車両の後部には高さの異なる衝突痕が生じるはずである。しかし、X車両には、二度の衝突を示す痕跡はみられない。
→Y1車両による追突が先に生じたとすれば整合的である。

①~④によれば、Y2の上記証言は信用でき、本件事故は、Y1車両が先にY2車両に追突し、その勢いでY2車両がX車両に追突した順次追突事故であると認められる。

さらに、Y1は、
「Y2車両の前部の損傷のほうが、Y1車両の前部の損傷よりも大きいこと」を、
Y2車両のX車両への追突が先に発生したことの根拠として主張していました。

しかし、裁判所は、
「確かに、通常玉突き事故であれば、最初の追突のほうが、後の追突よりもエネルギーが大きく、損傷も二台目の車両と三台目の車両間のほうが、一台目と二台目の車両間のそれよりも大きくなる。

しかし、本件では、①X車両の後部バンパーが下に折れ曲がり衝撃を吸収する役割を十分果たしていないことや、②Y2車両のボンネットの折れ曲がりは、クラッシャブルポイントがあることによるもので、これのみをもって、Y2車両X車両間の追突のほうがY2車両Y1車両間の追突よりエネルギーが大きかったとはいいがたいこと(D証言)、③Y2証言によれば、Y1車両に追突された際Y2車両は走行中であり、追突により加速したように感じる状態で停止しているX車両に追突したということであり、停止している車両が追突されて前方の停止車両に追突する通常の玉突き事故とは事故態様が異なること等も考慮すれば、各損傷の見た目の大きさをもって、上記認定を覆す事情ということはできない。」

と判断しました。

そして、裁判所は、

という本件事故様態によれば、Y1には前方不注視の過失があると認められるので、Y1はXに対し、不法行為に基づく損害賠償義務を負う。

Y2には、本件事故につき過失は認められないので、Xに対し、不法行為に基づく損害賠償義務を負わない。

と判断したのです。

①-2:追突車から他の追突車に対する損害賠償請求において「過失割合」はどうなるのか
Y2からY1に対する請求に関しても、
裁判所は、上記事故態様を前提として、
「Y2は、本件事故当時、停止したX車両に続いて停止すべく減速していたにすぎず、何らの落ち度は認められない。したがって、本件事故によるY2の損害につき過失相殺をすべきでない。」
と判断し、過失相殺を認めませんでした。

本件は、誰が“加害者”か=誰が“損害を賠償する責任を負うのか” を考える際にも、追突車から他の追突車に対する損害賠償請求において「過失割合」はどうなるのかを考える際にも、「追突の順序」が非常に重要なポイントとなりました。
そこで、それぞれの車両の損傷状況や、当事者の証言に照らして、丁寧に事実認定しているところに特色があります。
人の証言は、大切な証拠のひとつですが、人の記憶は曖昧で不確かなところがあるうえ、それが当事者となると利害関係が絡んで嘘や思い込みが混じってしまうことが多いものです。そこで、裁判では、証言の「信用性」を他の客観的な証拠との関係から見極めていくことになります。

②ヘルニア等で素因減額されるか

もともと症状の原因になるような素養がある場合、「今回生じた症状・損害は、全てが事故のせいとはいえない」として、加害者が負うべき賠償額が何割か割り引かれることがあります。これが「素因減額」というものです。

Y1は、
「Xは、本件事故以前から腰部痛を有していたところ、これは腰椎椎間板ヘルニアに起因するものであり、同腰部痛が、本件事故による治療に影響したといえる。また、は、本件事故以前から右膝痛を有していたものであり、これらの影響につき、5割の素因減額をすべきである。」
と主張しました。

これに対して、裁判所は、
「Xには……腰椎……椎間板ヘルニアがあったところ、本件事故の態様等からすれば、同ヘルニアは、本件事故以前から存在していたものと考えられる。また、同原告は、本件事故当時、腰痛及び右膝痛につき治療中だったものと認められる。しかし、本件事故による衝撃の程度は相当のものだったと考えられること、診断内容及び本件事故による同原告の通院が回数も少なく短期間で終了したこと等も考慮すると、上記ヘルニア及び事故前から有していた腰痛並びに右膝痛が、本件事故による同原告の傷害に影響を及ぼし又は治療の長期化に寄与したとまで認めるに足りない。したがって、素因減額をするのは相当でない。」
と判断しました。

被害者の方ご本人が相手方保険会社と交渉していく中で、「もともと腰痛持ちであった」ことや「医師からヘルニアは本件事故によるものとは言えない」ことを理由に、「素因減額!」と声高に主張されて、弱気になってしまうことがあるかもしれません。
しかし、本件のように、もともと腰痛等で治療中であり、腰のヘルニアももともと持っていたと認定されても、素因減額されないケースはあります。
大切なのは、事故前の症状の程度や治療の内容・程度、事故後の症状、事故の衝撃の大きさなどから、“事故後の症状は、事故のせい”と言えるか否かです。

過失の有無や程度、素因減額の有無や程度については、最終的な判断者である裁判官がどう考えるかを予想しながら賠償請求を進めていく必要があります。
裁判官は法律家であり、法律家には法律家の考え方、感覚に基づいて判断します。
突然交通事故に見舞われた被害者の方々は、法律に馴染みのない方がほとんどだと思います。
同じ法律家としての視点から、分かりやすく説明させていただきますので、ぜひお気軽に当事務所の弁護士にご相談ください。

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