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遅すぎた通院【後遺障害なし】

頚椎捻挫の裁判例(後遺障害なし)

~遅すぎた通院~(東京地判平成26年5月15日)

事案の概要

X(43歳、女性)は、自家用の普通乗用自動車を運転して、国道を走行していたところ、Y1(当時58歳)が,Y2(Y1の勤める会社)が所有する事業用普通貨物自動車を運転して、国道沿いにあった「やまだうどん」の駐車場から本件国道に進入ししてきて、衝突された。
Xは、この事故により頚椎捻挫の傷害を負ったとして、Y1とY2に対して損害賠償を請求する訴訟を提起したが、Xが頚部痛を訴えて整形外科を受診したのは,事故から4か月以上が経過した後であり、Xは8年前に頚椎後縦靱帯骨化症の手術を受けたことがあった。

<主な争点>
Xは、事故によって頚椎捻挫の傷害を負ったといえるか(因果関係)。

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 2万1880円 0円
通院交通費 3360円 0円
休業損害 82万4117円 0円
文書料 740円 0円
通院慰謝料 102万2000円 0円
弁護士費用 18万7210円 0円
合計 205万9307円 0円

判断のポイント

通院開始時期

Xは、受診が遅れた理由として、事故の1~2日後から首の付け根辺りに違和感を覚えるようになったので、病院に行こうと思っていたが、①アパレル店で接客の仕事を始めたばかりであり,午前8時~午後12時まで勤務する日が何日も続いていたこと、②事故から約2ヵ月後、仕事は落ち着いたが、夫の母親が入院したため、看病のための病院通いが約1か月続いたこと,③事故から3~4ヶ月後には,父親が入院したため、片道1時間以上かけて病院に通わなければならなかった(父親は約3週間で退院)と説明しました。

しかし、裁判所は、Xがそう言っているだけで、その事情を裏付ける他の証拠を何も出さないから、Xの言っていることだけを証拠に①~③の事情があったと認めることはできないと判断しました。
加えて、裁判所は、仮に①~③の事情があったのだとしても、Xが4ヶ月以上も病院を受診する時間が全くなかったなんて考えられないから,「本件事故の1~2日後から首の付け根辺りに違和感を覚えるようになった」というXの言葉も信用することができないとしました。
そして、他に、この事故によってXが頚椎捻挫の傷害を負ったことを認めるに足りる証拠が出ていないことから、Xがこの事故によって頚椎捻挫の傷害を負ったとはいえないと判断したのです。

交通事故の加害者側に怪我に関する損害賠償を請求していく場合、怪我と交通事故との間に“因果関係”があること、つまり“その怪我がその事故のせいで生じたといえる”必要があります。
この因果関係を示していくためには、事故後、痛くなったらすぐに病院に行き、お医者さんに診察してもらって、その症状を診断書に残してもらうことが非常に大切になってきます。
事故から時間が経つほど、「その痛みは、事故とは関係ないのでは?」を思われやすくなってしまうということですね。
ただ、交通事故に見舞われた方は、突然のことにびっくりしてしまっていてすぐには痛みなどを感じないケースも多くあります。
そのような場合、事故直後ではなくても、痛みや違和感を感じたらすぐに病院に行きましょう。
この事案でも、Xが、事故から数日経って首に違和感を感じ始めてからすぐに病院に行って診断書を書いてもらっていれば、結論が変わった可能性が高いです。

また、この事案では、Xに、“既往症”、つまり“事故前からあった怪我や病気(すでに治っているものも含みます)”として頚椎後縦靱帯骨化症の手術を受けていたことも裁判所に注目されています。
首の痛みの原因になりそうな病気をして手術を受けたことがあるということで、事故のせいで痛くなったのではないんじゃないか?という疑問をもたれてしまったということです。
もっとも、既往症があるだけで、ただちに因果関係が否定されるわけではありません。そのほかにも、痛みが生じた時期や、お医者さんの見立てなど様々な事情が考慮されるので、既往症があるからといって諦める必要はないのです。

さらに、裁判では「証拠」が非常に重要になってきます。
たとえ本当のことであっても、証拠がなければ、事情を知らない裁判所は、それが本当だと判断できないのです。
これは、加害者の入っている保険会社との交渉の際にも同じです。保険会社も証拠がなければ動いてくれないことが多いです。

どういう風にしたら“事故のせいで生じた怪我”だと認めてもらえるのか、既往症があるけれど損害賠償請求できるか、どういうものが証拠になるのか、専門家でないと判断が難しい場合もあります。
そんなときは当事務所の弁護士にご相談ください。
つらいお怪我と交通事故との因果関係が認められて、適切な損害賠償ができますように、お手伝いさせて頂ければ幸いです。

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