裁判例

Precedent

交通事故
下肢
12級
因果関係
素因減額
後遺障害が認定されても安心はできない【後遺障害12級7号】

右膝関節の機能障害の裁判例(後遺障害12級7号)

~後遺障害が認定されても安心はできない~(大阪地判平成27年11月26日)

事案の概要

52歳の男性Xの乗用車が、駐車場の出口で一時停止中、後退してきたYの乗用車に逆追突され、両膝半月板損傷の傷害を負ったため、XがYに対し、損害賠償を求めた事案。
Xの右膝について残存した症状は、膝関節機能に傷害を残したものとして、損害保険料率算出機構(損保料率機構)より後遺障害等級12級7号が認定されていた。

<主な争点>
①本件事故の態様はどのようなものだったか
②本件事故と両膝半月板損傷の因果関係、素因減額

<主張及び認定>

主張 認定
治療費(既払金) 81万0019円 81万0019円
入院雑費 1万0500円 1万0500円
通院交通費 2万3115円 2万3115円
文書料 6300円 6300円
休業損害 515万5000円 125万6191円
入通院慰謝料 130万0000円 130万0000円
逸失利益 1367万1705円 199万8862円
後遺障害慰謝料 290万0000円 84万0000円
既払金 ▲311万2099円 ▲393万7700円
弁護士費用 210万0000円 23万0000円
合計 2286万4540円 253万7287円

判断のポイント

①本件事故の態様
本件事故の態様で具体的な争いになったのは、Y車の後退速度です。
Xは、Y車の後退速度がそれなりの速度であったことを前提に、衝突された瞬間、X車がバウンドするような衝撃を受けたと主張したのに対し、裁判所は、これを認めず、Y車はゆっくりとした速度で後退してX車に衝突し、その衝撃の程度はそれほど大きくなかったものと認定しました。
X側は、X自身の本人尋問のほかに、X車の後方で待機していた車両の運転者Zの、X車が衝撃で動いた旨の陳述書も証拠として提出して、X車がバウンドするほどの衝撃であったことを主張しましたが、裁判所はそのどちらの信用性を認めませんでした。裁判所は、本件事故直後にYがXに負傷の有無を尋ねたところ、Xが大丈夫であると返答し、Xがジュースを買いに現場を離れた際に足を引きずるような様子は見られなかったこと、衝突による車の修理費用が、XYどちらもそれほどの金額にならず、運転にも支障がなかったこと、事故後に警察官が臨場したものの、実況見分も行われなかったことなどの客観的事実を根拠としてY車の後退速度を認定したのです。
第三者の供述は、特別な事情がなく、合理的な内容であれば信用性が認められるものですが、XとZは知人であり、ZにはXに有利に陳述する動機があったことがZの陳述内容の信用性判断に影響したと考えられます。また、本件では上記のような客観的な事実が認められたため、それらから認定される事実と整合しない、不合理な供述として信用性が認められなかったのではないでしょうか。

②本件事故と両膝半月板損傷の因果関係、素因減額
(1) 上記のように、裁判所は本件事故の衝撃の程度はそれほど大きなものではなかったと認定しましたが、Xの右膝の半月板損傷については、本件事故と相当因果関係があると認めました。
半月板損傷は、膝を強く打ったり、激しく動かしたりねじるなど、膝に大きな負荷がかかった場合に、膝関節の外側・内側に1個ずつある三日月型の軟部組織が傷付いて、膝に強い痛みが生じるようになるものであるため、Yは、本件事故の衝撃の程度はそれほど大きくなく、膝にかかる負荷も小さかったとして、本件事故とXの両膝半月板損傷との間には因果関係は認められないと主張しました。
裁判所も、本件事故当時のXの両膝の位置関係からすると、両膝関節の内側半月板を同時に損傷することは考え難い、としながらも、本件事故後、それ以前にはなかった膝の痛みが出現していたこと、特に右膝の痛みが強いこと、Xが右膝の半月板切除手術を受けていたことなどの事情から、少なくとも右膝の半月板損傷は、本件事故によって生じたものと認められるとして、本件事故と右膝半月板損傷の間の相当因果関係を認めたものです。
裁判所の判断のポイントは、受傷状況としては、因果関係が否定されるようなものであったにもかかわらず、事故前後の症状の有無や、治療状況を重視して、事故と受傷の因果関係を認めたところにあります。社会通念からすれば、事故の状況からは考えられないような怪我を負っていても、事故以前になかった症状のために、医師も手術をしなければならないと考えて、実際に手術が行われていたのであれば、これは事故と半月板損傷との相当因果関係自体を認めるほかない、という判断であったのだと思います。

(2) もっとも、Xの右膝の半月板には、加齢性の変形性関節症という疾患があり、Xの半月板損傷は、本件事故と、その疾患がともに原因となって発生したものといえるとして、Xに生じた右膝半月板損傷について、裁判所は70%の素因減額をしました。
素因減額とは、当事者間の損害の公平な分担という見地から、被害者に、損害の発生・拡大に寄与する事情がある場合に、損害のすべてを加害者に負担させるのは公平でないとして、その被害者の事情を斟酌して、損害賠償額を減額するという理論です。
裁判所は、半月板損傷と事故に相当因果関係があることは認めつつも、事故の衝撃の程度が軽微であり、通常であれば半月板損傷が生じるような事故ではないということを考慮して、半月板損傷の要因の70%はXのもともとの疾患にあると認定したのです。
結局、Xの半月板損傷は、後遺障害としては認められたものの、素因減額で70%を引かれてしまい、後遺障害に関する損害に関しては、12級の自賠責保険金290万円よりも少ない金額しか認められない、という結果になりました。

後遺障害等級が認定されると、損害額自体が跳ね上がるのは確かですが、素因減額や過失割合など様々な事情によって、実際に受けられる賠償金がかなり少なくなってしまうということもあります。そのため、被害者の方が、自分が遭った事故では、どのような事情で減額されてしまう可能性があるのか、ということを把握しておくことはとても重要ですので、もし気になるようなことがあれば、当事務所までお気軽にご連絡ください。

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