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11級
逸失利益
現在減収は生じていないが、将来の昇進等の不利益の可能性は否定できないなどから逸失利益を認めた事例【後遺障害等級11級相当】

聴力障害についての裁判例(後遺障害等級11級相当)

聴力障害について、現在減収は生じていないが、将来の昇進等の不利益の可能性は否定できないなどから逸失利益を認めた事例(岡山地方裁判所判決 平成21年5月28日 )

事案の概要

Y(被告)が、雨の日に、高速道路上においてスピードの出しすぎによりスリップし、非常帯の壁に激突した反動で、後続のX(原告)の運転する普通乗用自動車に衝突し、Xが、頚椎捻挫、右上肢不全麻痺、混合難聴及び耳鳴り症の障害を負い、1耳の聴力全く失ったものとして後遺障害等級9級の7に該当し、既払金76万2750円を控除し2644万4026円を求めて訴えを提起した。

<争点>
①Xの後遺障害の有無、程度
②Xの逸失利益の有無

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 76万2750円 76万2750円
入院雑費 3万4500円 2万5500円
通院交通費 1万9320円 1万9320円
装具器具等購入費 35万円 0円
休業損害 68万9603円 0円
逸失利益 1760万2465円 1005万8551円
入通院慰謝料 120万円 120万円
後遺障害慰謝料 690万円 420万円
小計 2755万8638円 1626万6121円
過失割合 ▲2割
既払金 ▲76万2750円 ▲76万2750円
弁護士費用 240万4002円 100万円
合計 2644万4026円 1325万0146円

聴力障害について

聴力障害の原因

聴力障害の原因としては様々なものがありますが、代表的なものとしては、内耳振盪症(ないじしんとうしょう)、側頭骨骨折、外リンパ瘻(ろう)があります。

内耳振盪症とは、耳の最も内側にある内耳に通っているリンパ液が、交通事故の衝撃で振動することにより難聴等の聴力障害が発生することです。

側頭骨骨折は、耳周辺の頭蓋骨が骨折することにより、耳の各器官が障害を受け、難聴等を引き起こします。

外リンパ瘻は、内耳の一部に穴があき、中のリンパ液が漏れ出すことをいいます。これにより難聴等が発生します。

また、傷病名が単なるむち打ち(頚椎捻挫、腰椎捻挫等)である場合でも、耳鳴りを伴う場合も少なくありません。

頚椎周辺の損傷により、交感神経の活動が異常化し、耳につながる血管が収縮もしくは拡張することにより生じるものと考えられています。

両耳の聴力障害による後遺障害

聴力障害による後遺障害等級は、純音による聴力レベル(純音聴力レベル)及び語音による聴力検査結果(明瞭度)を基礎として認定されます。

両耳の聴力障害の場合は、以下の表のようになります。

なお、聴力はデシベル(dB)で表され、異常が大きいほどデシベル数は大きくなります。

一耳の聴力障害による後遺障害

一耳の場合は、以下のようになります。

平均純音聴力レベル/最高明瞭度 後遺障害等級
平均純音聴力レベルが90dB以上 9級9号
平均純音聴力レベルが80dB以上 10級6号
①平均純音聴力レベルが70dB以上
②平均純音聴力レベルが50dB以上であり、かつ、最高明瞭度が50%以下
11級6号
平均純音聴力レベルが40dB以上 14級3号

聴力障害の検査方法

聴力検査回数は、日を変えて3回行い、2回目と3回目の測定値の平均純音聴力レベルの平均を出します。検査と検査の間隔は7日程度あけます。

また、平均純音聴力レベルは、周波数が500ヘルツ(A)、1000ヘルツ(B)、2000ヘルツ(C)及び4000ヘルツ(D)の音に対する聴力レベルを測定し、以下の式により求めます。

{A+(2×B)+(2×C)+D)}/6
そして、大事なところですが、後遺障害等級の認定のための聴力検査の実施は、症状が固定した後になされます。

難聴や聴力障害は、時間が経つにつれ回復することが見込まれるからです。

もっとも、強烈な騒音を発する場所における業務に従事している場合、症状は漸次進行する傾向が認められることから、聴力検査にあたっては、強烈な騒音を発する場所における業務を離れた後に行うことになります。

本件について

① Xの後遺障害の有無、程度

前提事実として、Xは、純音聴力検査を複数回実施しており、事故直後は以下のように推移していました(単位:回数/dB)

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
73 78 78 63 55 87 80 91 93 88 93
19 20 14 14 15 18 15 17 14 15 13

<X及びYの主張>
Xは、通院先の病院で作成された後遺障害診断書に、上記のとおり90dB以上の検査結果が出ていることを理由に、後遺障害等級9級9号に該当すると主張しました。

これに対して、Yは、4回目及び5回目に行われた検査の平均値が59dBであることから、後遺障害等級14級3号が相当であると反論しました。

<裁判所の判断>
Xは空港に勤務しており給油作業に従事していたが、事故後には仕事中に指示を聴き取ることができなかったために、航空機の出発が遅れると言う事故を発生させるなどしたことから、大型機がなく航空機のエンジン音が静かな別の飛行場に異動することになった。

その後に聴力検査を行ったところ、82.5dBの結果が出ている。

しかし、本件訴訟の本人尋問を行った際は、聴力障害を窺わせるようなことはなかった。

そして、Xの純音聴力検査の結果は、ステロイド剤の投与のころに一時期比較的良好な時期があったものの、それ以外は、一貫して80dB以上であることからすれば、少なくとも後遺障害等級11級に該当するものと認めるのが相当である。

上で述べたとおり、Xは空港で働いていたことから、強烈な騒音を発する場所における業務に従事している場合にあたり、エンジン音が静かな別の飛行場に異動した後の聴力検査が後遺障害認定の資料となっています。

② Xの逸失利益の有無

<Xの主張>
後遺障害等級9級の場合、労働能力喪失率は35%と考えられています。

Xは後遺障害等級9級であることを前提に、労働能力喪失期間を39年間として主張しました。

<裁判所の判断>
Xの右耳の聴力は82.5dBであるが、本件訴訟における尋問状況からすれば、日常生活において格別に不都合が生じているとは考えにくい。

しかし、Xの業務内容からすれば、現在減収は生じていないものの、仕事場を異動していることに照らしても将来の昇進等における不利益の可能性は否定できないこと、法廷での尋問では聞き取りが可能であっても、就労を含む日常生活で支障がないとはいえないことから、後遺障害等級11級相当と認め、労働能力喪失率を20%、労働能力喪失期間を39年間として逸失利益を算定するのが相当である。

コメント

本件は、難聴や耳鳴りを訴えていたXに対して、聴力検査を実施した結果から、後遺障害等級11級を認定し、減収は生じていないものの、今後昇進等に影響が出るなど不利益を生じる可能性があるとして逸失利益を認めた事例です。

Xは空港で働いていたという事情もあり、強烈な騒音を発する場所における業務に従事している場合に該当するとして、異動後の聴力検査の結果が、後遺障害等級の認定の判断要素となったのだと思われます。

そして、実際に減収が生じていなくても、本件のように業務に支障が生じたり異動による不利益が考えられる場合には、逸失利益は認められます。

後遺障害慰謝料や逸失利益をきちんと請求するためには、通院時から適切な検査や診察を受ける必要があります。

後遺障害が取れるか、どのような検査を行えばいいのか、1人では判断が難しいと思います。そのようなことでお困りの際には、是非当事務所にご相談いただければと思います。

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