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どこまでが事故による傷害か【後遺障害併合10級】

咀嚼機能障害等の裁判例(後遺障害併合10級)

~どこまでが事故による傷害か~(東京地判平成25年11月25日)

事案の概要

信号機による交通整理が行われておらず見通しの利かない交差点で、X運転の自転車とY運転の原動機付自転車とが出合い頭に衝突した事故。

Xは、右オトガイ部骨折、左下顎枝骨折、左下第一小臼歯破折の傷害を負い、労災による後遺障害認定で併合10級の認定を受けた。

<争点>
・本件傷害は本件事故によるものか(因果関係)
・X側の過失割合(過失相殺)

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 184万7853円 184万7853円
入院雑費 1万6500円 1万6500円
通院交通費等 3万6160円 8520円
休業損害 382万3047円 214万3433円
後遺障害による逸失利益 1512万8546円 1358万4175円
入通院慰謝料 223万円 58万円
後遺障害慰謝料 550万円 550万円
小計 2368万0481円
過失割合 1420万8287円(4割)
弁護士費用 260万円 118万円

判断のポイント

・因果関係:資料に基づく認定
・過失割合:損害の公平な分担

本件では、Xの身体に、Yの原動機付自転車が接触したことはないことから、Y側は、そもそもXの傷害は本件事故によって起きたものではないと主張しました。

これに対して、裁判所は、①Xが本件事故時に自分の運転する自転車のブレーキ等に顔面を強打したこと、②Xは本件事故の直後に医療機関に受診し、本件事故当日には骨折が認められたこと、③Xの自転車は、Yの原動機付自転車との衝突により右方向に進み、かご、ハンドル、ブレーキ等が曲がっており、Xは,Y車両との衝突により相当の衝撃を受けたということができること、④Xは、本件事故の前から継続的に歯科治療を受けていたものの、本件事故の前に、右オトガイ部骨折、左下顎枝骨折、左下第一小臼歯破折が認められたことはなく、オトガイ部周辺のしびれ等を訴えることもなく、かみ合わせやそしゃくについて医学的に問題があるとは見受けられなかったこと、⑤本件事故の他に前示受傷の原因は見当たらないこと等に照らすと、Yの主張は失当であると判断しました。

交通事故による怪我は、なにも自動車などが直接ぶつかって生じたものに限られません。本件のように、相手の車両とぶつかった時に、自分の車両の一部に当たったことで生じたものでもいいのです。

このように相手が直接ぶつかった箇所でなくとも、「因果関係」さえ認められれば、交通事故による怪我として認められます。

ただ、この「因果関係」が曲者なのです。加害者が認めていない場合、被害者の言い分だけではこの「因果関係」も基本的には認められません。

被害者は「当事者」なので、どうしても“客観的な”資料とはいえないからです。

「因果関係」が認められるためには、分かりやすく言えば、何も知らない第三者から見て、「ああ、こういう事実があるということは、この事故からこの怪我が発生したんだな。」と思わせるような事実を、資料に基づいて示していかなければならないのです。

本件では、Xがブレーキ等に顔面をぶつけたこと、事故後当日に骨折が認められたこと、ブレーキ等が曲がっていたこと、事故前の歯の治療では顎の骨折やしびれ、かみ合わせ等に問題がなかったこと等の事実を、X側の提出した証拠資料から裁判所が認められると判断した結果、「この事故からこの怪我が発生したんだな。」と裁判所に思わせることができたのです。

「事故や怪我のことを一番よく知っているのは、被害者なのに!被害者の言い分だけで認められないのはおかしい!」とお思いになられる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、裁判所は、全く事故のことを知らない第三者です。そして、法律的な考え方を使って、全く知らない事故について判断しようとしている人たちなのです。そのような裁判所や法律的な考え方との特徴を正確に理解した上で、適切な主張立証をしていくことが非常に重要になってきます。

また、本件では、X車両が走行していた道路に一時停止規制があったこと等から、Y側はYに過失がないこと、あったとしてもX側の過失が8割あるのでその分損害賠償額も過失相殺されるべきと主張しました。

これに対して、裁判所は、X車両の進路に一時停止の交通規制がされていたなどの本件事故の態様や本件交差点の状況等を考慮すると、X側の過失は4割が相当であると判断しました。

確かに交差点において一時停止規制がある道路を走っているほうがその規制を守らなかったことから「悪い」というイメージがあるかもしれません。そのようなイメージからすると、X側の過失が4割で、Y側の過失6割よりも小さいことには納得がいかない方もおられるかもしれませんね。

しかし、過失相殺というものは、「損害の公平な分担」という考え方に基づいて認められるものです。

つまり、被害者の方に発生してしまった損害について、被害者の方にも「落ち度」があった場合には、一定程度損害を分担させるのが「公平」ではないかという考え方に基づいているのです。ど

ういう場合にどの程度の過失割合とするのが「公平」なのかという観点から、過失割合は考えられます。本件では判決文の中に明示的に「公平」という言葉が出てくるわけではありませんが、過失割合というものと語る以上、当然の前提として「損害の公平な分配」という考えがあるものといえるのです。

このように一般的な、直感的なイメージと、法律の世界での考え方には乖離があるかもしれません。ですが、きちんと色々な場合を想定して理屈が立てられているのです。

いずれにしても、法律的な根拠に基づいて相手方に請求していく、言ってみれば“裁判所を味方につけて”相手方に請求していくには、法律的な考え方に精通した専門家の力が必要な場合が多いといえます。

適切な賠償を得るためには、このように“裁判所を味方につけた”法律的な考え方が極めて重要です。

ぜひ当事務所にご相談ください。きっとお手伝いできることがあることと思います。

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