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加害者の重大な不注意の持つ意味【後遺障害7級5号】

臓器機能障害についての裁判例(後遺障害7級5号)

~加害者の重大な不注意の持つ意味~(神戸地判平成17年7月21日)

事案の概要

Xは、普通乗用自動車に乗車しトンネル内を走行していたところ、Yの運転する普通乗用自動車が対向車線からセンターラインをオーバーしてきてX車両に衝突。
Xは、これにより膵損傷、腹腔内膿瘍、大動脈解離等の傷害を追ったため、Yに対して損害賠償請求をした。

<争点>
①過失相殺が認められるか?
→Xはシートベルトをしていなかったため、これによって過失相殺がされるか。
②既往症減額が認められるか?
→Xは糖尿病及び高血圧の既往歴があるとして、これによって損害額が減額されるか。
③損害額は?
→将来の治療費や逸失利益など、適正な金額はいくらか。

<主張及び認定>

主張 認定
将来の治療費 34万3988円 28万7689円
入院雑費 25万4800円 25万4800円
付添看護費 117万6000円 97万9000円
休業損害 942万3372円 714万2916円
入通院慰謝料 400万0000円 350万0000円
後遺症慰謝料 2800万0000円 1000万0000円
逸失利益 2222万9688円 476万5689円
家屋改造費 1301万4605円 46万2953円
既払金 ▲863万3090円 ▲863万3090円
逸失利益 2億2133万7678円 1億4443万5642円
弁護士費用 500万0000円 180万0000円
合計 6179万4758円 2009万7004円

 

判断のポイント

①過失相殺について

本件事故では、Xにシートベルト不着用という車両運転者としては基本的な義務違反があります。この点、本裁判例は「原告が本件事故により負った傷害の部位、内容からすると、シートベルトの不着用が原告に生じた損害の拡大に影響していることは否定し難く、この点において、原告にも落ち度がなかったとは言い難い」と説示しています。
つまり、もしもXがシートベルトを着用していれば、膵損傷などの重篤な損害が生じていなかったかもしれないので、Xの損害結果についてはシートベルトの不着用が関係している可能性があるといっているのです。
通常であれば、このようにXの側の落ち度で損害が拡大している場合には、損害の公平な分担という見地から、賠償額が一定範囲で減額されてしまいます。
しかし、本件事故では、Yの側にはさらに重大な不注意が多数ありました。Yは、本件事故当時、酒気帯び運転のうえ法定速度を30キロメートルも超過しており、さらにカーステレオの操作に気をとられて前方を注視せず、センターラインをオーバーしています。
このように、Yの側に自動車運転者として看過しがたい過失が複数ある以上、Xの落ち度を理由に過失相殺することは逆に損害の公平な分担にならないとして、過失相殺を否定しました。
シートベルトを着用していないというのは一般的には大きな落ち度ですが、本件ではそれを超える重大な過失がYにあったために、過失相殺が否定されたという、珍しい判断です。

②既往症減額について

もし、被害者に固有の既往症や疾病があり、それが事故と相まって重大な損害を生じさせた場合には、発生した損害を事故だけのせいにすることは公平とは言えない場合があります。
既往症減額とは、そのような事故以外の原因が被害者にある場合に、その割合によって賠償額を減額する考え方をいいます。
本件では、Xには既往症として糖尿病及び高血圧があり、これによって大動脈解離が引き起こされたという主張がありました。
もっとも、Xの糖尿病及び高血圧が軽度であったこと、本件事故の態様からすると事故のみによる受傷によっても現実に生じた障害結果が発生した蓋然性が相当あるといえることから、本件では既往症減額は否定されました。

③損害額について

一般に症状固定後の治療費は認められませんが、固定した症状の悪化を防ぐために定期的なケアが必要である場合には、将来分の治療費が認められることがあります。
本件では、Xは大動脈解離の傷害を被っており、この悪化を防ぐための血圧コントロール等が継続的に必要でした。そこで、Xは今後の通院頻度と1月あたりの治療費から、将来分の治療費を請求し、必要な範囲で認められました。

また、本件ではXの後遺障害の重さも問題となりました。
Xは訴訟提起の前に後遺障害等級第7級5号に該当していましたが、Xは請求段階では第1級相当の後遺障害が残っているという主張で損害額を算定しています。
もっとも、この点については、Xの具体的な症状を判断した上で、判決においても第7級5号の後遺障害であると認められ、これに相当する慰謝料及び逸失利益が認定されました。

コメント

本裁判例のポイントは、Xのシートベルト不着用や高血圧などが、損害発生と関係ないとは言えないとした上で、実際の事故態様と照らし合わせて、損害額の減額は相当ではないと判断しているところです。
これは、Yの運転態様や衝突の仕方について、適切に証拠により立証できたことから出された判断だと思われます。
事故状況の立証はとても難しい問題がある場合が多いため、専門家である弁護士と綿密な事前準備が必要となります。

損害額についても、適切に判断されていると思われます。
裁判所は、請求金額以上の金額は認定できないという決まりがあります。
たとえば、裁判官が原告の損害額を1000万円だと思ったとしても、原告が100万円しか請求していなかった場合には、100万円までしか判決できません。そのため、弁護士はあえて妥当な金額よりも高めに請求をするということがよくあります。
本件では、Xの労働能力喪失率を100%とする主張で請求していたため、認定金額が大きく下がったようにみえますが、後遺障害7級であることを前提とすれば、ほぼ適切な金額での判決がなされていると言えます。
このように、どの程度の認定がされそうか、そのためにどの程度の請求をすべきかという点も専門的な知識や経験に基づく判断が必要となるのです。

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