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裁判例: 14級

交通事故
TFCC損傷
上肢

左手関節のTFCC損傷を否認し14級9号を認定した事例【後遺障害14級9号】(大阪地裁平成30年6月22日判決)

事案の概要

Xが原付自転車を運転中、左方の駐車場から侵入してきたY運転の乗用車に衝突され、頚椎捻挫、左手関節捻挫等の傷害を負った。Xは、左手関節に後遺障害等級10級10号に該当する機能障害、左前腕関節に12級6号に該当する機能障害が生じたとして、併合9号の後遺障害が残存したとして、Yに損害賠償を請求した。

<主な争点>

TFCC損傷が認められるか否か

<主張及び認定>

主張 認定
治療関係費 54万2735円 54万2735円
文書料 1万4040円 1万4040円
休業損害 18万8064円 18万8064円
入通院慰謝料 150万円 120万円
逸失利益 2274万2821円 101万9357
後遺障害慰謝料 690万円 110万円
小計 3134万4925円 406万4196円
過失相殺(1割) ▲54万2735円
弁護士費用 310万円 31万1504円
合計 3444万4925円 342万6545円

<判断のポイント>

(1)当事者の主張

Xは、本件事故の衝撃で、空中で回転して左側から地面に叩き付けられ、左手を強く打っていたこと、通院先の医師から、左手関節に運動制限や疼痛等の症状からして左TFCC損傷に間違いはないと診断されていること、MRI検査の結果、尺骨に面した軟骨部に高信号が認められ、TFCC損傷を裏付ける客観的な所見が確認されたことなどから、Xの左手関節にはTFCC損傷が生じていると主張しました。

(2)裁判所の判断

裁判所は、Xの上記の主張について、まず、Xの受傷状況については、本件事故によってXが全身に傷害を負っており、左手も痛めたことは認められるとしました。

もっとも、TFCC損傷を原因とする痛み等の症状があれば、カルテ等に記載されるのが通常であるのに、右手関節については事故直後に両手打撲挫傷とは別に右手関節打撲挫傷と診断されているにもかかわらず、左手関節については事故から10日間が経過するまでカルテ等に症状の記載がない、という不自然な点がある、としました。

また、MRI検査の結果では、Xの左TFCC部に輝度変化は認められるものの、その程度は小さく、症状も軽度であること、通院先の医師とは別の医師の話では、輝度変化だけでは、外傷性TFCC損傷の確定診断はできず、確定診断が可能な関節鏡検査等が実施されていないことなどを指摘しました。

裁判所は、このような事故直後のXの主訴や、検査の実施状況、結果などの事情を総合考慮した結果、本件事故によるTFCC損傷の発症そのものを認めず、14級9号の神経症状が生じているに留まると判断しました。

まとめ

TFCC損傷は、手首の辺りにある三角線維複合体という組織が、手首に大きな負荷がかかった際に損傷し、手首を捻る運動時などに痛みが生じる傷害です。

このTFCC損傷が生じているか否かは、レントゲン撮影では判断することができないため、基本的に、MRI検査による輝度変化の有無等で診断されることになりますが、整形外科医であっても診断が難しい分野とされています。

特に、捻挫・打撲などと診断され、骨折を伴わない傷害の場合は、自賠責保険の後遺障害の審査では、TFCC損傷として後遺障害が認定されるハードルは比較的高いものといえ、等級認定がされても、14級9号の局部の神経症状に留まることが多くあります。

本件において、裁判所は、MRI検査での輝度変化を認めながらも、XのTFCC損傷を認めませんでした。裁判所がその判断をするに当たって考慮した主な事情は、①Xのカルテ等に事故直後の左手関節に関する症状の記載がなかったこと、②MRI検査結果の輝度変化の程度が小さいこと、③確定診断のできる関節鏡検査等が実施されていないこと、の3つです。

まず、①については、TFCCを損傷した場合、手首の回旋運動時などに、相当な痛みを伴うため、それが事故後10日経過するまでカルテ等に現れていないというのは、確かに不自然に感じられます。そのため、これはTFCC損傷を否定する事情といえるでしょう。

次に②ですが、上記のとおり、TFCC損傷は、整形外科医でも、その診断が難しく、MRI検査で輝度変化が認められたとしても、それが線維組織の損傷まで至っているか否かまでは、必ずしも明らかにはなりません。

MRI検査は、検査箇所の水分含有量の変化が、画像上、輝度変化(白く見えるようになる)という形で生じているか否かを判断するものであるため、その水分含有量の変化が、何に由来しているかも問題となり得るからです。

本件でも、裁判所は、左手の打撲挫傷に伴う血腫や浮腫により輝度変化が生じた可能性も否定できない、としています。

ただし、MRI検査で輝度変化がみられるということは、少なくとも、その部位に異常が生じていることは間違いないので、この事情は、あくまでもTFCC損傷を否定する消極的な理由にとどまるものといえます。

③は、確定診断(症状の原因となっている疾患をはっきりと定める診断)ができる検査が行われているか否か、という観点からの考慮要素です。

②のとおり、MRI検査では、画像上、症状が出ている部位に何らかの異常が生じているか否かは分かりますが、それがどのような原因で異常が生じているのかまでは分かりません。

これに対して、判決の挙げる関節鏡検査という検査は、関節鏡という医療器具で、該当部位を直接視認するため、実際に線維組織が損傷しているか否かを確認することができます。

ただし、この検査は、人体の内部に関節鏡を入れるため、医療行為として相当程度身体への安全性は担保されているとはいえ、患者への精神的な負担も大きいです。また、通常、関節鏡検査は、TFCCの再建手術のために行われるものですが、手術にはある程度のリスクも伴うことから、保存的療法を選択する被害者も多く、必ずしも実施されるとは言い難いものといえます。

そのため、TFCC損傷の認定に当たっての考慮事情として、関節鏡検査が実施されているか否かを含めるのは、いささか過剰であるように思います。

本件の裁判所の判断は、あくまでも上記①~③を含めた様々な事情を総合考慮したものであって、これらの事情があるとTFCC損傷が認定されない、というものではありません。

しかし、TFCC損傷が認定されるためには、少なくとも、被害者の側でその存在を立証しなければならないことから、相手方からその存在を否定する事情を主張された場合には、適切な反論を行う必要があります。

以上のように、TFCC損傷は、後遺障害申請手続においても、裁判においても、その立証が難しい分野の後遺障害ですので、専門家へ相談されることをお勧めします。

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交通事故
上肢
神経・精神

関節の可動域制限における参考運動の重要性 【後遺障害14級9号】(東京地裁 平成25年12月18日判決)

事案の概要

平成19年2月23日午後7時28分頃、Xが丁字路交差点の横断歩道を歩行中に、交差点を右折しようとしたY運転の自動車に衝突され、第3・第4腰椎右横突起骨折、歯牙損傷、顔面打撲、全身打撲等の傷害を負ったため、Yに対し、損害賠償を求めた事案。

<主な争点>

①過失割合
②Xの左肩関節の可動域制限の後遺障害等級

<主張及び認定>

主張 認定
治療関係費 73万8979円 17万4825円
通院交通費 111万5480円 4万0650円
食費 47万4500円 0円
宿泊費 41万5174円 19万2000円
雑費(入院雑費) 47万9817円 10万2000円
入院付添費 47万4500円 3万2500円
通院付添費 25万4100円 7万2600円
入通院慰謝料 122万0000円 122万0000円
後遺障害慰謝料 290万0000円 110万0000円
弁護士費用 350万0000円 35万0000円
小計 830万8151円 293万4575円
弁護士費用 81万5067円 30万0000円
合計 912万3218円 323万4575円

※治療関係費については、温泉費用、スポーツクラブの費用等が含まれており、これらは本件事故との相当因果関係のある損害であるとまでは認められないとされた。
※食費についても、事故の有無にかかわらず生じうるもので、本件事故と相当因果関係のある損害とは認められないとされた。

<過失割合について>

・裁判所の判断

Y側は、本件事故が信号機の設置されていない横断歩道上の自己であったことや、Xが夜間では見えづらい黒っぽい服装であったこと、本件事故現場が車両や人の交通量が少ないため、車両がある程度速度を出して走行してくることもまったく予見不可能とまではいえないとして、Xにも前方不注視等の過失があり、少なくとも5%の過失相殺がされるべきであると主張しましたが、裁判所は、Y側のこの主張を認めませんでした。

・コメント

歩行者の、信号のない横断歩道の横断中の事故における基本的な過失割合は、歩行者0:車両10ですが、これらに修正要素が加わり、歩行者にも過失が出る場合があります。

本件事故は午後7時28分頃発生したもので、夜間に当たります。

夜間は暗いので、車の運転者側からすれば、歩行者の発見が昼間より難しいため、そのことは歩行者としても予測可能であるとして、通常は歩行者には過失が5%プラスに修正されることになるのです。

しかし、本件で裁判所は、Yが本件事故現場の交差点を右折するに当たって、横断歩道上の歩行者の有無に十分な注意を払っていなかったこと、Yが交差点を時速20km~25kmもの速度で漫然と通過しようとしたなどの著しい過失があったとして、Yにもさらに過失を加算する要素を認め、結局、Xには過失がないと認定したのです。

このように、本件は、Yにも過失を加算する要素があったために、プラスマイナスゼロでXの過失が認定されないという判断が下されましたが、仮にYにまったく過失を加算する要素がなかった場合には、Xにも多少であれ過失が認められたと考えられる事案です。

歩行者としては、横断歩道という渡ることが許された場所なのだから、自らの過失が認められることはないと思ってしまうかもしれませんが、実際にはそうとは限らない、ということは肝に銘じておいたほうがいいでしょう。

<左肩関節の可動域制限の後遺障害等級について>

・裁判所の判断

Xは、本件事故により、第3・第4腰椎右横突起骨折が発生するほどの全身打撲を受け、それによって、肩甲骨周囲筋(三角筋など)や、肩関節腱板等の腱、上腕から肩関節に付着する二頭筋、三頭筋の腱・筋などが損傷を受けたために、左肩関節の機能障害が発生し、左肩について、後遺障害等級第12級6号の「1上肢の3大関節中の1関節の機能に傷害を残すもの」の後遺障害に該当する、と主張しました。

しかし、裁判所は、これを否定し、Xの頚部及び腰部の神経症状についてのみ、後遺障害等級第14級9号の「局部に神経症状を残すもの」に該当すると認定しました。

・コメント

肩関節の可動域制限(機能障害)については、重いものから、
後遺障害等級8級6号「上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの」、
10級10号「上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」、
12級6号「上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」
の3段階に区分されます。

今回Xが主張した後遺障害等級12級6号は、健側(健康な方)に比して患側(怪我をしてしまった方)の可動域が4分の3以下に制限されている場合に、認定されることになります。

そしてこの可動域は、
屈曲(腕を下げた状態から、体に直角に腕を振り上げる動作)、
外転(腕を下げた状態から、体に平行に腕を振り上げる動作)
という「主要運動」と呼ばれる動作が、
他動でどの範囲までできるのかで測定されます。

そのため、健側が180°まで上がる場合、
主要運動のいずれかで患側が90°を超え、135°以下の範囲の制限が生じているときに、12級6号が認定されることになるのです。

本件では、後遺障害診断書の記載上、Xの肩の可動域は、外転について右の他動及び自動で各140°、左の他動及び自動で各110°、屈曲について右の他動及び自動で各150°、左の他動及び自動で各120°とされていました。

そのため、左肩の外転については、140°の4分の3に当たる105°以下に、屈曲については150°の4分の3に当たる115°(正確には112.5°ですが、判定は5°単位で切り上げされます)以下に制限されている必要があるため、外転、屈曲とも判定基準には5°足りず、4分の3以下という後遺障害12級6号の認定基準には達していないことになります。

もっとも、主要運動の可動域が基準をわずかに上回る場合、12級6号ではその関節の参考運動(伸展、外旋、内旋)が、4分の3以下に制限されているときは、後遺障害が認定されることになります。

そして、この「わずか」とは、12級6号の判断では、5°とされているため、本件では、外転、屈曲とも「基準をわずかに上回る場合」に当たり、参考運動が4分の3以下に制限されていれば、12級6号が認定される可能性がありました。

しかし、Xの後遺障害診断書には、参考運動の測定結果が記載されていなかったため、裁判所も、「原告(X)の患側の可動域は、いずれも健側の可動域の4分の3をわずかに上回っていることが認められ」る、としながらも、「参考運動が測定されていない以上、原告に左肩関節の機能障害を認めることは困難である。」と判示して、12級6号の後遺障害には該当しないと認定したのです(ただし、本件では症状固定時期も争点となっており、裁判所はXの主張する症状固定日よりも1年以上前の時点を症状固定時期と認定したため、この時点での可動域制限が明らかになっていなかったことも、非該当と認定した理由の1つとしています。)。

したがって、もし参考運動についてもきちんと測定されていたとしたら、Xの左肩関節の可動域制限について12級6号が認定されていた可能性があったかもしれません。

このように、主要運動が可動域制限の基準をわずかに上回っている場合、参考運動の測定結果が極めて重要となり、それを測定しているか否かで、賠償金額が大きく変わる可能性があるため、参考運動は決して軽視することができないものなのです。

以上のように、関節の可動域制限について後遺障害が認定されるためには、後遺障害診断書を作成してもらうに当たり、正しい方式で、必要な測定を漏れなく行ってもらうことが極めて重要ですが、お医者さんによっては、どのように測定すればいいのか、どこまで記載する必要があるのかを理解されていない場合もあります。

当事務所では、適切な後遺障害診断書の作成の仕方についてもお医者さんにご案内することで、被害者の方が適正な後遺障害等級認定を受けるお手伝いもしています。まずは当事務所まで一度ご連絡ください。

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交通事故
上肢

可動域制限が認め難いとして14級を認定した事例 【後遺障害14級9号相当】(京都地裁 平成28年6月7日判決)

事案の概要

X(原告:24歳男性)が、自動二輪車を運転して交差点を直進中、同一方向を進行していたY運転の左折乗用車に衝突され転倒、左手関節捻挫、左手橈側屈筋腱腱鞘炎、左手母指対立筋損傷等の傷害を負い、約10か月通院して、10級左母指機能障害、12級左手関節機能障害による併合9級後遺障害の他、12級左母指神経症状の後遺障害(自賠責併合14級認定)を残したとして、既払金690万1651円を控除し3911万5412円を求めて訴えを提起した。

<主な争点>

①Xの傷害、後遺障害の有無及び内容
②Xの過失の程度と過失相殺の可否

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 128万8924円 128万8924円
通院交通費 1万8520円 1万8520円
休業損害 486万2727円 371万7554円
後遺障害逸失利益 2816万6892円 279万3778円
通院慰謝料 148万0000円 148万0000円
後遺障害慰謝料 670万0000円 110万0000円
小計 4251万7063円 1039万8776円
過失相殺 ▲10%
既払金 ▲690万1651円 ▲690万1651円
弁護士費用 350万0000円 35万0000円
合計 3911万5412円 280万7247円

<判断のポイント>

(1)Xの傷害、後遺障害の有無及び内容

*関節の機能障害の後遺障害認定基準
関節に機能障害が認められるかどうかは、その関節が正常時に比べてどのくらい曲がらないか、もしくは伸ばせないかで判断されます。

・指の関節について(本件に即して親指について説明します)
親指の関節に関しては、医学的には、指先に近い方からIP関節(いわゆる第一関節)、MCP関節(第二関節)といいます。

そして、いずれかの関節が正常可動域の3分の1以下に制限された場合を、指の「用を廃した」といい、片手の親指のみ用を廃したときには10級7号の後遺障害が認定されます。

IP関節では、90°曲げる(屈曲といいます)ことができれば正常とされるので、45°しか曲がらないのであれば、用廃が認められることになります。

また、親指を10°反らす(伸展といいます)ことができれば正常とされるので、5°しか反らせないのであれば、用廃が認められます。

MCP関節では、屈曲で60°、伸展で10°が正常値とされ、その3分の1の屈曲30°もしくは伸展5°で用廃が認められます。

・手の関節について
手の関節については、どのくらい曲げることができるか、程度により後遺障害等級が変わってきます。

可動域角度が正常時の10%程度以下→「関節の用を廃したもの」と評価され8級6号
可動域角度が正常時の3分の1以下→「著しい障害を残すもの」と評価され10級10号
可動域角度が正常時の4分の3以下→「障害を残すもの」と評価され12級6号

が認定されることになります。

判断の方法は、前にならえをし、腕を90°で前に伸ばした状態を0°とします。

そして、正常時と比べて、手のひら側(掌屈といいます)と手の背側(背屈といいます)がどのくらい曲げることができるかをみてみます。

一般的には、掌屈が90°、背屈が70°であれば正常(合計で160°)とされています。

たとえば掌屈が45°、背屈35°のときは合計80°となり、正常時の3分の1以下となるので、通常は、後遺障害等級10級10号が認められるでしょう。

*Xの主張
Xは、左手指の母指のMCP関節の可動域角度が、他動、自動とも3分の1以下に制限されていることから、用廃にあたり、母指の機能障害として後遺障害等級10級に該当すると主張しています。

また、左手手関節の可動域は、他動での背屈が正常時80°だったところ、事故後は45度であったため、可動域が4分の3以下に制限されており、手関節の機能障害として後遺障害等級12級に該当すると主張しています。

この他にも、筋損傷の回復が遅れ、廃用性筋委縮が生じたとして、頑固な神経症状を残すものとして後遺障害等級12級13号に当たるとも主張しています。

*裁判所の判断
上記のXの主張に対して裁判所は、本件事故から約3か月後に診断した結果が掌屈70°、手術後の背屈が45°、掌屈が65°であり、著しい可動域制限は生じていないこと、複数回レントゲン、CT検査及びMRI検査が実施されたにもかかわらず、左手の母指関節及び手関節に関節拘縮を生じさせるほどの筋萎縮をもたらす重度の筋損傷を示す所見がなかったことからすれば、本件事故により可動域制限が生じたとは認めがたいと判断しています。
また、画像所見がないことや左手母指の膨らみについてもその原因を説明できる医学的所見がないことからすれば、これを頑固な神経症状と評価することはできないと判断されてしまいました。
ただ、Xは、事故直後から症状固定時に至るまで一貫して痛みを訴えていること、医師に舟状骨骨折を疑わせる強度のものであったこと、左手母指の膨らみが外見上顕著に認められることからすれば、左手関節の親指側の痛みは、本件事故により生じたものであり、局部に神経症状を残すものとして14級9号相当の障害であると認めるのが相当であると判断しました。

(2)Xの過失の程度と過失相殺の可否

また、本件では、過失割合についても争点になりました。

*Xの主張
本件事故では、XがYを後方から追い越したことを考慮しても、Yは左方への方向指示器を出していなかったこと、Yに直近左折の過失があることからすれば、過失相殺はなされるべきではないと主張しました。

*裁判所の判断
このような主張に対して裁判所は、左折の合図につき、後方から車列を追い越す場合には合図を見落としがちであることからすれば、左折の合図をしていた旨のYの説明を否定する根拠としては不十分であり、Yが左折の合図をしていなかったとの認定はできないと判断しました。

もっとも、Yには、左折するに際し、あらかじめできる限り左方に寄った上、進行方向である左前方及び左後方の安全を確認して進行する注意義務があるのに、これに違反した過失があるというべきであり、特に、Y車がX車の後部に衝突していることからすれば、Yからは、X車の発見が容易であったはずであり、Yには左方の安全確認について著しい過失があると判断しました。

他方で、Xにも、交差点の手前30m以内での追い越し禁止規制に違反していることから10%の過失割合を認めました。

まとめ

(1)Xの傷害、後遺障害の有無及び内容

この裁判例は、少し厳しめの判断がなされたように思われます。

手術後であるとはいえ、背屈45°、掌屈65°であるにもかかわらず、機能障害を理由とする後遺障害は認められませんでした。

複数回ものMRI検査等をしても筋損傷を示す所見が見られなかったことが、重要視されていると思われます。

このように、上記のような基準はあるのですが、様々な要因によって多少判断が異なることはありうることです。

医師の診断内容は大事な要素ですが、後遺障害等級が認定されるかどうかは法律的判断になります。

(2)Xの過失の程度と過失相殺の可否

交通事故において、過失割合を判断するにあたっては、当事者が主張する事実が客観的に資料に現れないことが多いです。

本件のように左方の合図を出していたか否かなど、水掛け論になってしまいます。

裁判所は、最終的には、客観的に認められる事実を前提にすれば、通常こうであっただろうという経験則を用いて判断するほかありません。

そこで、裁判官を納得させるような説明が必要となるのですが(これは保険会社に対しても同じことが言えます)、事実関係を調べるだけでも大変なことです。

後遺障害申請をしようか迷っている場合、自賠責からの後遺障害認定がされていて納得がいかない場合や過失割合で相手方と争いが生じたような場合には、是非当事務所にご相談ください。

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交通事故
上肢

他覚所見がなくとも後遺障害が認定された事例【後遺障害14級9号相当】(横浜地裁 平成28年3月24日判決)

事案の概要

X(原告:28歳男性)が、自動二輪車を運転して進行中、右前方を走行していたY運転の乗用車が左折をするためハンドルを左に切って衝突、転倒して右肩関節腱板炎、右上腕二頭筋長頭腱炎等の傷害を負い、約10ヶ月通院して、右肩関節痛等から12級13号後遺障害を残したとして、既払金288万9473円を控除して1935万7076円を求めて訴えを提起した。

<主な争点>

①Xの過失の程度と過失相殺の可否
② Xの傷害、後遺障害の有無及び内容

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 87万1885円 87万1885円
通院交通費 2万5046円 2万5046円
休業損害 278万5415円 154万8420円
通院慰謝料 146万5000円 89万0000円
後遺障害慰謝料 290万0000円 110万0000円
小計 2048万6815円 516万4317円
既払金 ▲288万9473円 ▲288万9473円
弁護士費用 175万9734円 22万0000円
合計 1935万7076円 249万4844円

<判断のポイント>

(1)Xの過失の程度と過失相殺の可否

本件では、Yが安全確認を怠ったまま直近で左折した著しい不注意があるとXが主張していたのに対し、Yは、Xの運転するバイクの右側前方で、左折の方向指示器を出した後に左折を開始したのであり突然左折したのではない、また、XはY車が左折することを予見し回避することができたことから過失があるとして争っていました。

まず、本件のような事故態様では、一般的には、自動二輪車の側が2割、自動車の側が8割の過失割合と考えられています。

ここで一般的とは、交差点の手前30mの地点で、自動二輪車に先行している自動車が左折の合図を出して左折を開始した場合が想定されています。

自動二輪車に2割の過失があるとされているのは、交差点の30m以内は追越しが禁止されているので(道路交通法38条3項)、先行する自動車がある場合には、その前に出ようとすることは許されないという考えがあるためです。前方に自動車があることをわかっているのだから、自動車が左折するなどの動きを見せるかもしれない、その場合には減速するなどして事故を回避しなさいというような注意義務が課せられているのです。

ただ、本件でXが主張するように、突然前方の自動車が左折して事故を回避できない場合には、過失割合が修正されて、自動二輪車に1割の過失だったり、過失なしの認定がなされたりします。

本件において裁判所は、Y車が左折方向指示器を出した地点と本件事故現場(約10m)との距離や、本件事故直前のY車のスピードから、Y車が左折指示器を出してから左にハンドルを切るまでに進んだ時間は2秒にも満たない時間であると認定しました。

そして、Yにそのような過失がある以上、Xには何らの過失もないとして過失相殺を認めませんでした。

本件において裁判所は、方向指示器を出して左折するまでの距離(10m)ではなく方向指示器を出して左折するまでの時間(2秒未満)を重視しているようです。

進路変更するにあたっては、その3秒前に合図を行う義務(道路交通法53条1項、同法施行例21条)があることはみなさんご存知かと思われます(もしかしたら忘れている方もいるかもしれませんが…)。

しかしながら、残念なことに、進路変更する直前に方向指示器を出される方もたまに見かけます。

近所の慣れている道路で、交通量の少ない道路であれば大丈夫と考えている方もいるでしょう。

ですが、仮にそれで事故を起こしてしまった場合、2割の過失相殺もされない可能性があるのです。

逆に、被害者となってしまった方は、もしかしたら警察などから一般的な基準を用いられて2割の過失はあるなどと言われるかもしれません。

しかし、警察の言うことは、最初の段階でまだ十分な検討がなされていない状況で判断されている場合も多いのです。

相手の保険会社から言われる場合も同様です。

そこであきらめず、実況見分調書などの客観的な資料に基づいて、事故を回避できないことを証明することによって、過失相殺などされず損害の全額が支払われることは十分にあります。

警察や相手方保険会社から言われた過失割合に納得できないときには、是非当事務所にご相談ください。

(2)Xの傷害、後遺障害の有無及び内容

本件では、Xの後遺障害逸失利益も争点となりました。

Xは、本件事故により、右肩関節痛などの症状が残存し、後遺障害等級表12級13号に該当すると主張し、Yはレントゲン検査やMRI検査で、外傷性の異常所見は認められていないとして全面的に否認しました。

確かに、後遺障害の認定には、画像所見や神経学的所見などの他覚所見が有効になります。

自覚症状だけでは、裁判所も後遺障害の認定には消極的と思われます。

しかし、画像所見や神経学的所見などの他覚所見が認められなくても、①事故態様が相当程度重いものであること、②当初から通院を継続(多数回あればなおよし)していること、③通院当初から症状が一貫していることなどから、後遺障害が認められることもあります。

本件において裁判所は、自動二輪車を運転していた際の転等による衝撃の程度も決して軽微とはいえないこと、事故当日ではないものの、通院の当初から右肩鎖関節部をはじめとする右肩痛を訴えていたことなどから、Xは、右上腕二頭筋長頭腱炎の傷害を負ったことが認められるとしました。

また、MRI検査の画像上、異常所見が確認されないのは、上関節上腕靭帯の断裂という軽度損傷である可能性があり、MRI検査が受傷から1ヶ月が経過していたためと考えられると述べています。

そして、12級13号は認められないが、以上の事実から14級9号の後遺障害を負ったものと認めるのが相当という判断をしました。

このように、画像所見や神経学所見など他覚所見がなくとも、後遺障害が認定されることは十分にあります。

MRIを撮って、医者から異常なところは見当たらないなどと言われてしまったとしてもあきらめてはいけません。

事故当初から、継続的に通院をし、症状を訴え続けることが大事です。

当事務所でも、MRI画像などの他覚所見がない方でも、事故当初からアドバイスをしていたことにより、後遺障害認定がされたケースはたくさんあります。

ただ、事故当初から、後遺障害が認定される見通しをつけるのは困難ですし、わからない方がほとんどだと重います。

しかし、これまで述べたように、事故直後の行動が大事になってきますので、もし事故に遭われてしまったら、後遺障害の有無や見通しについても相談に乗ることができますので、早い段階で当事務所にご相談いただければと思います。

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交通事故
上肢

MRI検査の重要性 【後遺障害14級】(福岡高裁 平成27年9月24日判決)

事案の概要

X(原告:60歳女性)は,双方一時停止規制のない丁字路交差点を自転車に搭乗して直進進行中,左方道路から左折進入してきたY乗用車に衝突された。

Xは本件事故により,頸椎捻挫,腰部打撲,右肩腱板断裂等の傷害を負い,自賠責保険では後遺障害等級14級が認定された。

<主な争点>

①本件事故と右肩腱板断裂の因果関係
②Xの被った損害額

<主張及び認定>

主張 認定
治療費関係 184万9349円 7万7161円
入院料 48万8499円 0円
通院交通費 11万8010円 2万0060円
入院雑費 20万2400円 0円
休業損害 306万6600円 0円
傷害慰謝料 143万3124円 100万0000円
逸失利益 100万8170円 100万8170円
後遺障害慰謝料 40万0000円 40万0000円
過失相殺 10%
損益相殺 190万9790円 195万0000円
弁護士費用 67万0000円 0円
合計 732万6362円 30万4851円

<判断のポイント>

事故によって生じた傷害に対する治療費や後遺障害逸失利益などの損害を請求するためには,その事故と傷害結果との間に「因果関係」が認められる必要があります。すなわち,その事故が原因でその傷害が生じてしまったことをこちらが立証しなければなりません。

そして,因果関係の有無は,被害車両の状態や医師の診断書などから,裁判所が客観的に判断します。

本件においてXは,右肩腱板断裂は本件事故によるものであると主張していましたが,裁判所は以下のように判示して,本件事故と右肩腱板断裂との因果関係を否定しました。

①中年以降になると腱板は退行変化を起こし,損傷しやすくなるため,肩腱板損傷は,40歳以上に起こりやすく,腱板に好発するとされているところ,Xは右肩関節脱臼当時62歳であり,腱板が断裂している。

②肩関節は,高く手を挙げる程度でも脱臼することがある上,肩の脱臼の合併症として,特に壮年から高齢者においては腱板断裂が挙げられており,また,肩腱板の断裂や損傷は,高齢者ならば通常の生活をしても起こることがあるところ,A医師は,Xに肩関節の脱臼とともに腱板の断裂が起きた可能性はあり,これを否定する根拠はない旨供述している。

③他方,腱板の状態を判断するためにはMRI検査が不可欠であり,A病院にはMRI検査機械が備え付けられていたので,必要があればMRI検査を実施することは容易であったが,B医師は,Xを本件事故直後及びその後約3か月間診察している間に,肩関節自動挙上不能や挙上時の脱力,筋力低下等の腱板断裂・損傷を疑うような主訴や症状等がなかったことから,同検査をする必要性がないものと判断して,検査を実施しなかった。

④腱板の状態を検査するMRI検査が肩脱臼後まで実施されていないため,本件事故当時の腱板の状況を明らかにする客観的資料はない。

以上の事実を総合考慮すれば,Xの右肩腱板断裂や損傷が,本件事故によって生じたものとは認められない。

また,Xの治療費の範囲については,「本件事故により,頸椎捻挫,腰部・臀部打撲の傷害を負い,連日のようにA病院を受診してリハビリを受けていたところ,右肩脱臼が判明した日までの治療費等は,すべて相当因果関係の範囲内の損害と認めるが,それ以降の通院及び入院治療は,本件事故と相当因果関係が認められない右肩脱臼,腱板断裂に対するものであるから,相当因果関係がない」としました。

まとめ

本件では,Xの右肩腱板断裂は,本件交通事故によるものとは客観的に認められないとして因果関係を否定しています。

そして,本件において重要なのは上記③,④の記載です。

この裁判例は,「腱板の状態を判断するためにはMRI検査が不可欠」であると述べています。

MRI検査(他の検査についても同様のことが言えます)が,事故があった日に近ければ近いほど,判明した傷害が事故によって生じたものと立証しやすくなります。しかし,本件では,本人からの訴えや明確な症状がなかったため,早い段階でのMRI検査がなされませんでした。

上記でも述べましたが,傷害結果が生じたことはその事故が原因であるということを,被害車両の状態や医師の診断書などからこちらが立証し,それを裁判所が客観的に判断することになります。

そして,本件事故当時,腱板がどのような状態であったかを判断する客観的な資料がなく,さらには,高齢者においては,通常の生活をしていても,関節の脱臼や腱板の断裂が起こることがあるという認定をしたことで,他の原因によって生じた可能性があると判断されてしまいました。

このように,傷害が事故によって生じたと言うためには,客観的な資料が必要となります。

本件でも,事故直後にMRI検査を受けていれば違う結果となったかもしれません。

しかし,事故直後に適切な対応をすることは,なかなかできるものではありません。

適切な賠償額を得るためにも,医者だけではなく,通院や治療方法についても弁護士にぜひ相談してください。

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