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裁判例: 14級

交通事故
上肢

肩の可動域制限が認められなかった裁判例【後遺障害14級9号】(名古屋地判 平成28年3月16日)

事案の概要

47歳の主婦であるXが、交差点を自転車で進行中、右側交差道路から進入してきたY運転の乗用車に出合い頭に衝突され、左上腕骨骨幹部骨折の傷害を負ったため、XがYに対し、損害賠償を求めた事案。

Xに残存した症状は、左肩関節機能に障害を残したものとして、損害保険料率算出機構(損保料率機構)より後遺障害等級10級10号が認定されていた。

<主な争点>

①Xに残存した症状が後遺障害に該当するか、該当するとすればどの程度か
②Xの労働能力の喪失はどの程度か

<主張及び認定>

主張 認定
治療費(既払金) 197万8098円 197万8098円
入院雑費 8108円 8108円
通院交通費 4万3000円 0円
文書料 3150円 3150円
旅行キャンセル代 13万4800円 13万4800円
休業損害 163万2624円 63万9936円
逸失利益 1157万4624円 136万6470円
入通院慰謝料 114万9333円 114万9333円
後遺障害慰謝料 550万0000円 120万0000円
弁護士費用 134万0733円 0円

※ただし、Xの過失割合20%分が控除され、また、自賠責保険から、裁判所が認定した金額より多い額である後遺障害等級10級10号の保険金461万円がすでに支払われていたため、Yに請求できる金額はないとしてXの請求は棄却されました。

<判断のポイント>

(1)後遺障害の有無・程度

本件では、訴訟提起以前に、Xが左上腕骨骨幹部骨折によって残存した左肩の可動域制限について、損保料率機構から後遺障害等級10級10号に該当するとの判断を受けていたため、Xはそれを前提に、Yに対して損害賠償請求訴訟を提起しましたが、Xの後遺障害について裁判所は後遺障害の程度としては、左肩の動作時痛について14級9号(局部に神経症状を残すもの)のみを認定し、可動域制限については、より下位の等級も含めて後遺障害とは認めませんでした。

本件訴訟において、Y側は、Xの後遺障害診断書作成以前の治療期間中に、Xがゴルフの練習でフィニッシュまでするようなスイングを行っていた事実を指摘し、後遺障害等級10級10号の認定基準となる肩の可動域の数値よりも広い可動域まで回復していたとして、Xには認定基準をみたす可動域制限は認められず、後遺障害は存在しない、と主張しました。

そして裁判所も、Y側のこの主張を認め、また、後遺障害診断書の作成以前にXの通院先の病院で測定された可動域の数値では、かなり回復していたにもかかわらず、後遺障害診断書上の数値は、明らかにそれを下回る数値が記載されていたため、後遺障害診断書の記載の測定値は不自然なものであるとして、その測定値及びそれに基づく後遺障害認定は採用できないと判断し、Xの左肩の可動域制限を後遺障害として認めなかったのです。

損保料率機構の審査は、請求者より提出された資料のみから認定判断がなされ、提出されていない資料や把握できない事情は考慮されないため、その審査には限界があるといえるでしょう。

それに対して裁判では、後遺障害等級の認定において、後遺障害診断書の記載が重視されるのは事実ですが、それだけでは測りきれない事情も含めて総合考慮されて、適切な後遺障害等級が認定されることとなるので、損保料率機構の認定結果と異なる判断がなされることもあるのです。

損保料率機構で後遺障害が認定された場合、通常であれば、相手(の保険会社)は、示談交渉でもその結果に従って後遺障害慰謝料や逸失利益の支払に応じることがほとんどですが、なかには本件のように、認定された後遺障害の有無や程度を裁判まで争ってくることもあります。

本件では、うかつにも(?)Xが治療期間中にゴルフの練習をしていたことが露見して、そのことに疑問をもったY側が、可動域制限を認めずに争ったというような事情があったのかもしれませんね。

(2)労働能力喪失の程度

本件訴訟では、Xの可動域制限は認められませんでしたが、後遺障害等級14級9号は認定されたため、後遺障害に関する損害として、後遺障害慰謝料及び逸失利益が損害として認められ、後遺障害としての動作時痛によるXの労働能力の喪失期間を10年と判断しました。

後遺障害とは、交通事故による受傷で生じた症状が、将来においても回復の見込めない状態になったものであり、その意味内容からすると、後遺障害によって労働が制限される期間(労働能力喪失期間)は生涯に渡って続くとも思われます。

もっとも、後遺障害の種類によっては、必ずしも労働がずっと制限されるものとは考えにくいものもあり、たとえばむち打ちによる神経症状は、時間が経つにつれて馴れてきて、支障が軽減、あるいは生じなくなると考えられているため、裁判では、労働能力喪失期間は、14級9号では5年、12級13号では10年とされている例が多く見られます。

ただし、一律に5年あるいは10年とされているわけではなく、具体的症状に応じて、それ以上の期間が認められる場合もあります。

本件でXに認められた後遺障害も14級9号ですが、Xの場合、左肩の動作時痛が、骨折という明らかに重い怪我に起因するものであることが考慮されて、むち打ちの場合よりも長い10年という労働能力喪失期間が認められたのです。

①のように、損保料率機構で後遺障害等級が認定されたからといって、必ずしも裁判でも同様の認定がされるとは限りません。

本当に後遺障害がないのに認定されるということであれば問題ですが、実際に認定どおりの後遺障害が生じているにもかかわらず、それが裁判では覆されてしまって適切な賠償を受けられないこともありえなくはないのです。

そのような事態をできる限り避けるためには、交通事故に精通した弁護士に依頼することが重要といえます。

当事務所では、多数の交通事故案件を取り扱っている弁護士がおりますので、まずはお気軽にご相談ください。

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シートベルトをしなかったお客さんにも過失!?【後遺障害14級】(大阪地方裁判所判決平成26年7月25日)

事案の概要

タクシー運転手が業務としてタクシーを運転中に急ブレーキをかけたため、後部座席の乗客Xが、運転席の後ろに腕や体をぶつけて傷害を負ったとして、タクシー会社Yに対し損害賠償金の支払を求めた事案。

<主な争点>

①過失相殺
②Xの損害額

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 45万4104円 45万4104円
交通費 10万9635円 3430円
休業損害 91万6594円 73万0820円
通院慰謝料 95万0000円 95万0000円
後遺障害慰謝料 110万0000円 110万0000円
逸失利益 77万0435円 48万1911円
弁護士費用 25万0000円 25万0000円

<判断のポイント>

(1)シートベルトを着用していなかった乗客に過失割合が認められるか?

タクシーやバスに乗ったとき、ついシートベルトをし忘れてしまうことってありますよね。

そうやってシートベルトをし忘れたタイミングで交通事故にあった場合、お客様側に過失割合が認められてしまうことがあります。

こうお話すると、「事故を起こしたのは運転手のせいなのに!」「自分は被害者なのに!」と憤慨される方も多いことと思います。

しかし、「過失割合」というのは、“事故が誰のせいか?”という問題ではなく、“発生した損害を誰がどのくらい負うべきか?”の問題なのです。

つまり、事故が運転手のせいだとしても、発生した損害の全部を運転手に負わせるのは公平でない場合があり、そのときに認められるのが「過失割合」なのです。

Xは、シートベルトを着用していなかったことは認めるけれど、

①運転手には乗客にシートベルトを着用させる義務があるのに、本件の運転手はXに対しシートベルトを着用するよう指示しなかった。

②後部座席の同乗者がシートベルトを装着することは一般化されているとはいえない。

③仮にシートベルトを着用しなかったことにつきXに落ち度が認められるとしても、Xがシートベルトを着用しなかったことによりXの損害が拡大したとはいえない。

だから、過失相殺はされるべきでないと主張しました。

これに対して、裁判所は、

①Yは乗客の目につきやすいY車両の後部座席ドア内側に「安全のためにシートベルトをおつけください」と記載されたステッカーを貼付することで装着を促したが、Xはシートベルトを装着しなかった。

②Y車両がタクシーというサービス業であることからすれば、乗客に対する装着指示の方法にはおのずと限界があるというべきであり、ステッカー貼付による指示も相当な方法とみることができる。

③Xは事故の約1か月前に運転免許を取得したばかりで後部座席のシートベルト装着義務も理解していたにもかかわらず、シートベルトを装着しなかった。

④急ブレーキによりシートベルトを装着していれば、急ブレーキにより腕や体が運転席にぶつかるようなことにはならなかったものと認められ、本件事故による原告の傷害も軽減された可能性が高い。

以上によれば、Xがシートベルトを装着しなかった点について1割の過失相殺をするべきと判断しました。

自動車を運転する人には、後部座席に乗車する人にシートベルトを装着させる義務があります(道路交通法71条の3第2項)。
これはあくまで運転する人に義務があるだけなので、後部座席に乗車する人に“シートベルトをする義務”があるわけではありません。

それでも、シートベルトをしなかったことで“損害が拡大した”場合=“シートベルトをしていればもっと損害は小さかったのに”という場合には、拡大した損害を全て運転する人に負わせるのは公平でないということになるのです。

(2)相当因果関係

本件では、Xの損害額(特に交通費、休業損害及び逸失利益)について、本件の事情を考慮して、裁判所が判断しています。

ア 交通費
Xは、後頚部の痛みや張りを訴えて病院を受診し、頚部の画像検査では、生理的前彎の消失以外に異常所見は見られず、医師からは頚椎捻挫との診断を受けました。

その後投薬や理学療法等の治療、MRI検査等を受けるため、自宅(大阪市)近くの病院と、自宅から60km離れているけれど実家(奈良県五條市)から近い病院とに通院していました。

そこで、Xは、自宅近くの病院で子供を同伴しての通院が拒まれたとして通院の際に子供を実家に預ける必要等があり、大阪市と奈良県五條市との往復交通費を含めた金額を請求しました。

これに対して裁判所は、自宅近くの病院で子供同伴の通院が拒まれたとは認められず、Xの通院パターンからすると、自宅から60km離れているけれど実家には近い病院への通院は、実家で生活することが目的の一部になっていたといえるとして、大阪市と奈良県五條市間の交通費を本件事故と相当因果関係のある損害と認めることができないと判断しました。

イ 休業損害
Xは専業主婦だったので、主婦労働に関して実通院日数につき100%の休業損害を請求しました。

これに対して、裁判所は、事故発生日から症状固定日までの期間や通院状況、後遺障害の程度内容によれば、実通院日数につき80%主婦労働ができなかったとして休業損害を算定するのが相当であると判断しました。

ウ 逸失利益
治療したもののXには後頚部痛の症状が残り、この症状に対して「局部に神経症状を残すもの」として14級9号の後遺障害認定がおりました。

そこで、Xは将来にわたって制限される労働能力について、Xは5年間5%制限されるとして請求しました。

これに対して、裁判所は、急ブレーキをかけただけの本件事故においては、追突等の接触事故に比べて、原告の身体に加わった力は比較的軽度であったと考えられることや原告の後遺障害の程度内容に照らして、Xの労働能力は3年間5パーセント減少したとして逸失利益を算定するのが相当であると判断しました。

相当因果関係とは、結局のところ“どこまでの損害を加害者に負わせるべきか?”という価値判断によって決まります。

最初にお話した「過失割合」が“事故による損害をどう分担するか?”という問題なのに対し、「相当因果関係」とは“そもそもどこまでを事故による損害と認めるべきか?”という問題なのです。

適切な賠償を得ていくためには、「過失割合」を考えるうえでも「相当因果関係」を考えるうえでも、法的なバランス感覚が非常に重要となってきます。

このバランス感覚が、法律に馴染みのない方にはなかなか掴みにくいところかと思います。

適切なバランス感覚をもった弊所の弁護士なら、きっとお力になれると思いますので、ぜひお気軽にご相談ください。

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交通事故

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通院中なのに、また事故に遭ってしまった【後遺障害なし】(大坂地判平成27年11月17日)

事案の概要

停止中の自動車において、Y1が左後部ドアを開放したところ、後ろから自転車で走行してきたXと衝突した事故(本件事故)で、XがY1とY2会社(本件事故は、Y1がY2会社の事業の執行として自動車を運転した際に起きた)に対し、損害賠償を求めた事案。

Xは本件事故の前にも事故に遭っており(前事故)、本件事故は前事故での怪我の通院中に起きた。

<主な争点>

①異時共同不法行為
②症状固定後の治療費
③休業損害・営業損害

<主張及び認定>

主張 認定
未払治療費 8万1997円 0円
未払交通費 4万3640円 0円
資料作成費 4万3550円 0円
休業補償 127万8360円 0円
営業補償 25万0000円 68万0000円
通院慰謝料 186万0000円 40万0000円
名誉毀損にかかわる慰謝料 50万0000円 0円

<判断のポイント>

(1)客観的に1個の不法行為といえるか

交通事故の怪我で通院中に、不幸にもまた事故に遭ってしまうことがあります。

1事故目と2事故目とで全然別の部位をお怪我した場合は、「この部位の怪我は1事故目のせい。この部位の怪我は2事故目のせい。」とはっきり分かるので、それぞれの怪我についてそれぞれの加害者及び保険会社に請求すればいいので、特に法的な問題はありません。

しかし、1事故目と2事故目とで同じ部位をお怪我した場合、「この怪我はどちら事故のせいか」とはっきり分からなくなります。

このとき、「誰に対して何を請求できるのか」が問題となるのです。

この問題に関して、出てくる言葉・考え方に「異時共同不法行為」というものがあります。

「異時」つまり“違う時期・タイミング”で起きたけれども、複数の「不法行為」つまり“1事故目と2事故目”が「共同」つまり“合わさって”怪我が発生したといえるので、被1事故目の加害者と2事故目の加害者はどちらも怪我の“全部”について損害賠償義務を負うと考えるものです。

例えば本件では、裁判所はXの「通院慰謝料は200万円が相当」と判断しましたが、ここで本件事故と前事故が「異時」の「共同不法行為」であると考えれば、XはY1及びY2会社に加え、前事故の加害者にも200万円全額の賠償を請求することができるのです。

このように考えると被害者に有利なので、異時共同不法行為の主張は被害者側からなされることが多いですが、本件では加害者であるY側から主張されました。

これは、前事故の加害者側からXにいくらか賠償がなされていたからです。共同不法行為と考えた場合には、前事故の加害者側からなされた賠償の分だけ全体の賠償額が減るので、Y側がXに賠償すべき金額も減ります。こういう面から見ると、異時共同不法行為の考え方はY側にとっても有利な側面があるということですね。

しかし、裁判所は、「共同不法行為が成立するためには、複数の加害行為が時間的、場所的に近接する等、客観的に1個の加害行為であると認められることを要するというべきである」が、「本件についてみるに、前事故と本件事故は、異なる場所で発生しており、また、前事故から本件事故までは5か月以上の時間的間隔があるのであって、時間的・場所的に近接しているとはいえず、客観的に1個の行為であると評価することはできない」として、本件事故と前事故を「異時共同不法行為」とは認めませんでした。

このように、“客観的・社会的に見て、1個の行為といえない場合“には「共同不法行為」と認めないのが裁判所の傾向です。

そして、この場合、被害者は本件事故の加害者と前事故の加害者それぞれに、それぞれの「寄与度」つまり“影響度”に応じた損害額の請求しかできないので、本件で、裁判所は、「前事故と本件事故の態様、原告の症状、治療の時期及び内容を考慮すると、前事故と本件事故の寄与度は、8:2の割合とみるのが相当であるから、本件事故に係る通院慰謝料は、40万円となる」と判断しました。

(2)相当因果関係

加害者に損害賠償請求するには、その損害と事故との間に「相当因果関係」、分かりやすくいえば“普通に考えてその損害は事故のせいで発生したという関係”が認められなければなりません。

怪我の「治療中」に発生した治療費であれば、通常この「相当因果関係」が認められます。

しかし、「症状固定後」の治療費はどうでしょう。

答えは、ノー。原則、相当因果関係は認められません。

なぜなら、「症状固定」とは“治療が効かなくなった状態“を意味するからです。効かない治療にお金をかけても、それは事故による怪我を“治すため”の治療費とはいえませんよね。だから、症状固定後の治療費には、相当因果関係が認められず、加害者に請求できないのです。

本件で、XはY側から、受傷部位のひとつである左肩関節について、「症状固定……日より後に行わなければならない」等と繰り返し要求されたことから、症状固定後の治療費も請求しましたが、裁判所はそのような事実は証拠上認められず、症状固定日後の治療費について「本件全証拠を検討しても、相当因果関係があると認めるには足りない」として請求を認めませんでした。

「完全に治るまでの治療費は、全部加害者が払うべきだ!」とお考えの被害者の方も多いと思いますが、治療はいずれ“効かなくなる”時=「症状固定」が来ます。だからこそ「後遺障害」認定という制度があるのです。

(3)現実の減収

Xは、予備校を経営しており、代替講師使用や事務代行に伴う損害が発生したとして、休業損害の賠償を請求しました。

これに対して裁判所は、「休業補償は、受傷による休業のために実際に収入の減少があった場合に認められるものである」として、本件では、事故前年度と比べて、Xの営業等収入にも所得金額にも減少が認められないとして、休業損害を認めませんでした。

また、Xは、「前事故及び本件事故の影響のため、Xが経営する予備校は、開設以来前例がないほど低い70%台の合格率となった。その結果、予備校の看板に半永久的に消えない傷が残った」として、これに対する補償を求めました。

しかし、これに対しても、裁判所は、「本件事故前からの収入減が認められない」ことから「合格実績の変化によりXが主張する損害が発生したと認めるには足りない」として、Xの主張を認めませんでした。

判決文上は記載がありませんが、Xはおそらく個人事業主であり、個人事業主の方の休業損害等については、「現実の減収」が認められることが重視される傾向にあります。事故後に売上げや所得が減っていない場合には、休業損害が認められないことが多いのです。

少し想像も入ってしまいますが、本件では、裁判上、弁護士費用の請求がないことから、ご本人で訴訟をなされた可能性があります。

その前提で、休業損害の部分についていえば、「代替講師使用」や「事務代行」という主張が出ていることから。もし弁護士が訴訟追行していれば「代替労働力」への人件費という切り口で請求する方法もあったのではないかと考えられます。

法律の専門家である弁護士だからこそ、適格なポイントに注目し、効果的な切り口から主張することができることがあります。

交通事故においては、今回のように「異時共同不法行為」や「症状固定」など難しい法律概念が絡んでくることが多々あります。

ひとつひとつ説明させていただきながら、適切な賠償を得られるようにサポートさせていただきますので、どうぞお気軽にご相談ください。

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首・腰のむちうち(捻挫)

確定申告はきちんとしましょう【後遺障害14級】(東京地判平成28年1月22日)

事案の概要

Yが所有し運転する自動車が首都高速道路を進行中、その前方を進行するX1運転の自動車(同乗者X2あり)に追突した事故で、傷害を負ったXらが、Yに対し、損害賠償を求めた事案。

<主な争点>

①休業損害・逸失利益:基礎収入
②素因減額

<主張及び認定>

①X1の損害

主張 認定
治療費等 27万6210円
※未払い分のみ
65万0681円
※治療費全体の額
診断書作成料等 1万1840円 1万1840円
通院交通費 32万2440円 8万7200円
休業損害 162万5085円 62万9796円
通院慰謝料 240万0000円 68万0000円
後遺障害逸失利益 279万9637円 79万4181円
後遺障害慰謝料 224万0000円 110万0000円
素因減額 ▲0円 ▲39万5370円
損害のてん補 ▲85万0000円 ▲150万0681円
弁護士費用 85万0000円 21万0000円

②X2の損害

主張 認定
治療費等 2万9240円
※未払い分のみ
65万0681円
※治療費全体の額
通院交通費 32万2500円 28万9500円
休業損害 352万9225円 98万5326円
通院慰謝料 240万0000円 126万0000円
後遺障害逸失利益 79万4181円 279万9637円
後遺障害慰謝料 224万0000円 110万0000円
損害のてん補 ▲107万4000円 ▲154万4100円
弁護士費用 85万0000円 34万0000円

<判断のポイント>

(1)基礎収入の根拠資料:確定申告書の有無

交通事故に遭ってお怪我をされた場合、通院や療養のためにお仕事をお休みしなければならないことがあります。

また、治療をしたけれども後遺障害が残ってしまった場合、将来の労働能力、すなわち収入にも影響が出てきてしまう場合があります。

このようにお仕事をお休みされた場合の収入減少は「休業損害」として、後遺障害による将来の収入減少は「逸失利益」として、相手方に請求することができるのです。

休業損害も、逸失利益も、「基礎収入」がいくらかによって金額が変わってきますが、基本的に「基礎収入」=“事故前の収入”として計算されることになります。

“事故にあってない状態”で“現在”に一番近い時期の収入を基礎とするんだと考えれば分かりやすいですね。

この“事故前の収入”の資料としては、サラリーマンやOLなどの給与所得者の方でしたら「源泉徴収票」と「休業損害証明書」が考えられますが、個人事業主などの方の場合、「確定申告書」がもっとも重要な資料とされています。

本件でも、確定申告書の有無が休業損害及び逸失利益の金額に大きく影響しました。

X1は,不動産売買の仲介を業とする会社等2つの会社の代表取締役でしたが、実質的にはX1個人で事業をしているところ、本件事故により休業せざるを得なくなったとして、①X1の基礎収入は、会社の本件事故前の1年間の売上げが1120万3646円であり,少なくともその60%以上である672万2187円が粗利益となるから、仮に1か月に20日(年240日)働いた場合には1日当たりの粗利益は2万8009円となるので,少なくとも平成23年賃金センサスから算出した1日当たり1万6415円の基礎収入は認められると主張しました。

これに対し、裁判所は、X1が本件事故の前後を通じてA等の代表者として不動産仲介業を営んでいたことは認められるものの,①(a)確定申告をしていないとして課税証明書や確定申告書等の証拠がないなど、諸経費の額につきこれを認めるに足りる的確な証拠がない以上、X1が主張する会社の実所得を認めるに足りる的確な証拠はないため、会社の所得額を認定することはできない。

また、②会社の代表者取締役としてのX1の報酬額(のうち労務対価部分)についても、これを認定するに足りる的確な証拠はない。

そうすると、X1が主張する基礎収入を認めることはできない。

もっとも、X1において、一定程度の所得を得られる相当程度の蓋然性は認められるから、X1の基礎収入は,本件事故が発生した平成24年の賃金センサス男性全年齢学歴計である529万6800円の7割である370万7760円(日額1万0158円。小数点以下切り捨て。以下同じ。)とするのが相当であると判断しました。

X2も同様に、建築業及び不動産仲介業等の会社を営んでいるとして少なくとも平成23年賃金センサスから算出した1日当たり1万6415円の基礎収入は認められると主張しましたが、X1と同様に確定申告書等の提出がなく、X2の主張する基礎収入は認められませんでした。

このように個人事業主や会社役員の方が休業損害・逸失利益を請求する際には、確定申告書等の所得に関する公的な資料が非常に重要となります。

節税のために確定申告上は所得が低くなるように申告していらっしゃる方も多いことと思います。

しかし、交通事故に遭ってしまい、いざ適正な賠償を受けようとしたときに、極めて不利になってしまうのです。

もっとも、確定申告をしていないから、もしくは確定申告書上の所得がゼロだからといって、休業損害や逸失利益も必ずゼロと決まってしまうわけではありません。

本件でも、確定申告書等の提出はなかったけれども、一定程度の所得は得られただろうとして、休業損害や逸失利益が認められています。

(2)素因減額

X1については、椎間板ヘルニア等の持病があったことから、「素因減額」すべきか否かも争点となりました。

「素因減額」については、別の裁判例解説「ぶつけていないほうの目も…!?」でも触れていますが、“被害者側の要因で損害が大きくなっている場合には、その分加害者が払うべき賠償額を少なくする”ことが公平だという考え方に基づいています。

つまり、Yに全額賠償責任を負わせるのは“公平でない”と考えられる場合に、素因減額が認められることになります。

本件で、Xは素因減額すべきでないと主張しました。

これに対して、裁判所は、①X1には30年前から腰椎椎間板ヘルニアがあり、平成19,20年頃から左腰痛、左下肢しびれの症状が生じるようになり、事故の数ヶ月前にも間欠跛行の症状があり、レントゲン検査により第5腰椎第1仙椎間椎間腔狭小が認められて、医師から腰部脊柱管狭窄症による間欠跛行(左第5腰神経症状)と診断されたこと、②X1は、腰部脊柱管狭窄症のため本件事故前から通院して腰部硬膜外ブロック等の治療を継続して受けていたことからすると、X1の腰部脊柱管狭窄症は,加齢性変化というよりももはや疾患といえるものであり、これが本件事故による間欠跛行や左腰下肢痛、しびれの発生、拡大に一定程度寄与したと認められ、本件事故の態様に照らすとX1の腰部に相当程度の力が加わったと認められることや、X1の治療期間等を併せ考慮すると、損害の公平な分担の見地から、損害額の1割を減額するのが相当であると判断しました。

お怪我の部位や症状に関連する持病があるからといって、ただちに素因減額が認められるわけではありません。

事故前は症状がなかったり、事故の衝撃が大きいためにそれだけで症状が発生することも十分考えられる場合などは、たとえ持病があったとしても素因減額されないことが多いのです。

本件では、椎間板ヘルニアや椎間腔狭窄等の持病があったことに加え、事故前から本件事故と同様の症状があったことが重視されて素因減額が認められています。

その上で、事故の衝撃が相当程度大きかったこと等から、素因の影響が相対的に小さく捉えられ、減額の割合が1割に抑えられたものと考えられます。

休業損害や逸失利益の請求に関しては、まず第一に、きちんと実態に即した確定申告をすることが、ご自分の身を守る上で大切なことです。

ですが、たとえそれができなかったとしても、その状況の中でもできるだけ高い賠償を得られるようできることはあります。

素因減額については、ご自身で避けられる性質のものではありませんが、持病があるからといって諦めずに請求すべき場合の方が多いものです。

ぜひ当事務所にご相談ください。

お客様のおかれた状況の中での適正な賠償を受けられるよう精一杯お手伝いさせていただきます。

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後遺障害1級か、14級か【後遺障害14級9号】(東京地判平成22年9月9日)

事案の概要

X(46歳女性、兼業主婦)は、普通乗用自動車に乗車し、赤色信号規制に従い停止していたところ、Yの運転する普通乗用車がX車の後部に追突。

Xは、頚椎以下の両上下肢の知覚鈍磨・異常感覚・筋力低下、肩・肘・手・股・膝・足・足趾の関節機能障害、膀胱直腸障害等を訴え、損害保険料率算出機構へ後遺障害の申請をしたが、いずれも非該当と判断された。

異議申立をしても結果が変わらなかったことから、Xは残存している障害は後遺障害等級併合1級に該当するとして、Y及びYの勤務先に対して損害賠償の請求をした。

<争点>

Xに後遺障害が認められるかが主な争点となりました。
具体的には、Xに残存している症状の内容・程度と、事故との因果関係の有無が問題となりました。

<請求額及び認定額>

主張 認定
後遺障害等級 併合1級 14級9号
入院付添費 46万8000円 46万8000円
休業損害 1546万8050円 262万6650円
逸失利益 3948万3802円 75万5562円
入通院慰謝料 600万0000円 210万0000円
退院後付添費及び介護費 6726万6268円 0円
損害のてん補 ▲163万5900円
弁護士費用 1500万0000円 54万0000円
請求額(一部請求) 9821万5952円
合計 595万4312円

※治療費については、既に任意保険会社より支払いを受けており、争いなし。

<判断のポイント>

本件では、原告側が併合1級の後遺障害の主張をしていたのに対して、裁判所は頚部痛について14級9号の「局部に神経症状を残すもの」に該当するとのみ判断し、それ以外の後遺障害を認めませんでした。

一般的な傾向としては、損害保険料率算出機構での結果を裁判で覆すのは難しいと言われますが、本判決では、単に損害保険料率算出機構の結論を追認するのではなく、症状の発症時期、内容、その後の推移等を、医師の診断書や看護師の看護記録等から丹念に認定していった上で、結論付けています。

本件は、事故直後に知覚障害・運動障害が認められ頚髄損傷の診断を受け、その後知覚障害等は順調に軽快しましたが、事故から約5ヶ月後に一転して体のしびれ等を訴え始め、意識消失や膀胱障害も見られるようになっています。

これらについて、裁判所は、そのような症状の存在自体は認めたうえで、一般的な頚髄損傷の経過と異なる点(突然悪化することはない)、Xのような症状が引き起こされる頚髄損傷であれば見られるはずのMRI画像所見が見られない点等から、Xの症状は本件事故に起因するものではなく、Xの心因的な要因に基づいて発症したものであるとし、事故との因果関係を認めませんでした。

もっとも、頚部の残存疼痛については、本件事故態様からかなり大きな衝撃がXの身体に加わったといえること、それまでの診療経緯から、「局部に神経症状を残すもの」として後遺障害14級9号に該当すると認めました。

まとめ

本件ではまず「今どういう症状があるか」ということが問題になりました。

仮に診断書上「脊髄損傷」と記載があるとしても、実際のところはどうなのか、どのような症状があるのか、ということが争いになりえます。

これについては、それまでの診療記録や看護記録、適時実施された画像検査結果や意見書の内容などを利用し、具体的で詳細な主張立証をしていく必要があります。

そのためには、適切に入通院をし、きちんと自覚症状を医師または看護師に伝えていくことが重要になります。

また、本件ではそのほかに、「それが交通事故と因果関係があるか」ということも問題となりました。

ここにいう「因果関係」というものは、法律上加害者に責任を負わせるべきか否か、という価値判断を含むものなので、一般的に使われる「因果関係」とは異なります。

たとえば医学的に見れば、事故に遭ったことを契機として、精神に負荷がかかりそのような症状を発症しているといういみで「因果関係がある」と言えるのかもしれませんが、法律上は必ずしもその判断と同じにはならないのです。

この法律上の因果関係の有無はかなり専門的な判断になります。

いずれの点についても、「診断書に書いてあるんだから」「裁判官はきっと分かってくれるはずだ」との過信は禁物です。

自身の損害について適切に賠償を受けることをお考えの方は、なるべく早いうちに、当事務所の弁護士までご相談ください。

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