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裁判例: 12級

交通事故
外貌醜状

俳優の卵がキズモノに【後遺障害12級14号】(東京地判平成26年1月14日)

事案の概要

X(当時27歳・男性)は、普通自動二輪車を運転し直進進行していたところ、対向車線からでUターンをしようとしたY乗車の普通自動二輪車に衝突される。

Xは、頭部打撲傷、顔面挫創、左肘打撲擦過創等の傷害を負い通院治療をしたが、左眉部に6センチメートルの線状痕、左下顎部に3.3平方センチメートルの瘢痕、左下顎下部には5センチメートルの線状痕が残存し、当時の後遺障害等級12級14号に該当すると認定された。

これらの慰謝料等をYに対して損害賠償請求した事案である。

<争点>

①逸失利益が認められるか?
②過失割合は認められるか?

<主張及び認定>

主張 認定
治療関係費 647万6798円 646万8738円
通院交通費 2万3920円 2万2830円
文書料等 1万9379円 1万9379円
休業損害 334万3726円 264万4892円
逸失利益 3115万0810円 0円
傷害慰謝料 200万0000円 154万0000円
後遺障害慰謝料 800万0000円 700万0000円
既払金 ▲793万2857円 ▲950万7867円
弁護士費用 430万0000円 82万0000円
合計 4738万1776円 900万7972円

<判断のポイント>

(1)逸失利益について

本裁判例に限らず、傷痕や瘢痕が残ってしまうという外貌醜状障害の場合に大きな問題となるのが逸失利益を認めさせることができるか?という点です。

逸失利益とは、後遺障害が残ったことによって労働能力が喪失し、その結果として将来的に収入が減少する場合に、補償として認められます。つまり、例え後遺障害が残ったとしても、労働能力が減少しない限り、逸失利益は生じないことになります。通常、可動域制限や神経症状などが残存している場合には、これまでと同じように動けないのですから、逸失利益が生じることは暗黙の了解のような場合が多いのですが、外貌醜状や痛み等を伴わない変形障害は、従前通り稼動することができるため、逸失利益が認められない傾向にあります。

本件では、原告であるXが事故当時俳優研修所に通っている俳優の卵だったため、原告は残存した外貌醜状によって表情作りが困難になったり、オファーの来る役柄にも制限が出てしまい、労働能力の35%を喪失した、と主張しました。

これに対し、裁判所は、Xの本件事故以前の経歴や本件事故後の出演作品等を一つ一つ認定した上で、原告の傷痕は「通常は労働能力を喪失させるようなものではなく、原告が俳優の仕事に従事していることを考慮しても、舞台俳優としての活動には何ら支障になるものではないことが認められる」「原告が将来、俳優として成功するかどうかは様々な要因によって左右されるものであることを併せ考慮すると、左眉部の線状痕等が残存したことによって原告の俳優としての将来得べかりし収入が減少したと認めるには足りない」と判断し、逸失利益を認めませんでした。

もっとも、舞台俳優としては目立たなくとも、映像分野において俳優として活動する際に何らかの支障になる可能性があることは認め、後遺障害の慰謝料増額事由を認めました。

後遺障害12級の慰謝料相場が290万円であることを考えると、本件では410万円ほど増額していることになります。

(2)過失割合について

「双方動いていたら、10対0にはならない」という話を聞いたことがある方もいるかもしれません。

これは保険会社がよく使ってくるフレーズなのですが、本件で裁判所は双方進行中の事故でも過失相殺を認めませんでした。

本件事故は、平日の午前中で、現場付近の交通量が多い時間帯に起こっていますが、そのような場所でUターンをしようとする場合、慎重な運転が求められていたにもかかわらず、YはX車両にぶつかる直前までX車両に気づかないまま衝突しており、Yの前方不注視の違反が重大だと判断されたためです。

Xは、Y車両を避けようとブレーキをかけ、ハンドルを切るなどの措置をとっていることからすれば、本件事故は専らYの過失によって起きたと判断されました。

まとめ

外貌醜状障害が残存した場合には、本件のように逸失利益が認められるかが大きな争点となることが多くなります。

外貌醜状以外の他の症状も残存している場合には、それらと合わせて逸失利益の検討ができますが、外貌醜状態のみの場合には、実際にどの部位にどのような痕が残っており、仕事内容を勘案してどのような影響が生じるかという具体的な主張と立証が必要となります。

本件では、眉部分の傷痕は一部が眉と重なっており、映像でアップにすれば気づくことはありますが、写真や舞台では気づかない程度のものであり、左下顎部の瘢痕や線状痕もあまり目立たないものでした。そのため、具体的に仕事に支障が生じていることが認められず、逸失利益は否定されました。

もしも、どこから見ても分かってしまうような大きな痕であったり、傷痕によって仕事のオファーが減る、実際に傷痕を理由として降板させられるような事態が生じていれば、一定程度の逸失利益が認められた可能性は十分にあります。

もっとも、本件のように逸失利益が認められない場合にも、慰謝料が一定程度増額される傾向にあります。

この増額を勝ち取るためにも、被害者がその傷痕によってどのような弊害を被っているかをきちんと主張する必要があるのです。

※なお、本件事故当時は後遺障害等級上男性の醜状と女性の醜状は別々の等級とされていましたが、平成22年6月10日以後に発生した事故については、男女同等級となっています。

また、本件では過失相殺を否定しています。

Xはまっすぐ走っていただけなので、当たり前と思うかもしれませんが、具体的にどういう形で衝突したのかをきちんと立証できなければ、不本意にも過失割合が認められてしまうこともあります。

本件のように、加害者がどのような対応の運転行為をしてそれはいかに重大な不注意なのか、被害者はどのような対応の運転行為をしてそれはいかに評価すべきなのか、という点をしっかりとカバーすることが大切になります。

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交通事故
脊柱・体幹

変形しているだけではダメ?【後遺障害12級5号】(大阪地判平成27年3月30日)

事案の概要

信号機のない交差点において、東西道路を東進して直進進入したY1(Y2会社の従業員で業務中)運転の自動車と、南北道路を南進して直進進入したX運転の原動機付自転車が出合い頭に衝突した事故で、傷害を負ったXがYらに対し損害賠償を求めた事案。

<主な争点>

①過失割合
②逸失利益

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 55万7816円 55万7816円
文書料 800円 800円
通院交通費 2万1000円 2万1000円
休業損害 259万2000円 144万0000円
後遺障害逸失利益 714万7123円 255万2544円
通院慰謝料 150万0000円 110万0000円
後遺障害慰謝料 280万0000円 280万0000円
物損 (ア)原告車両修理費    12万9294円
(イ)ヘルメット買換費用  1万0000円
(ウ)衣服買換費用     4万3000円
0円

<判断のポイント>

(1)交差点の見通し状況と進入状況

出会いがしらの事故において、過失割合は基本的に避けられない論点です。

「お互いに、前方をもう少し注意すれば事故を避けられたよね」という考慮が働くわけですね。

当事者の方の感覚からすれば、「相手が飛び出してきた!」といいたいところもあるかと思いますが、過失割合を考える際には、冷静に「どういう状況で事故が起きたのか」という客観的な事故状況を分析することが重要になります。

本件事故が起きた交差点では、交差点の北東側角に鉄塔とフェンスが存在しているため、交差点北側から同交差点東側方向に対する見通しは不良であり、本件交差点の南西側角付近にはカーブミラーが設置されていました。

他方、交差点北側から同交差点西側、交差点西側から同交差点北側方向に対する見通しを特段妨げるような障害物はありませんでした。

そのような交差点に、Xは、原付で南北道路を北から南方向に向かって進み、本件交差点に差し掛かって、一時停止線付近で一時停止をしました。その後、Xは、見通しの悪い左側の動向を確認しながら徐行程度の速度で進行したのです。

他方、Yは、自動車で東西道路を西から東方向に時速15km程度の速度で進み、本件交差点に直進進入したところ、原告車両に気付き、ブレーキをかけましたが、衝突してしまいました。

このような交差点の構造と事故態様において、裁判所は「Xには、本件交差点に進入するに当たり、左方の状況に気をとられて右方から進行する車両の有無及び動向の注視を怠った過失があったというほかはない。

まとめ

本件交差点は、原告車両の走行経路上に一時停止の標識及び一時停止線がある交差点であるから、本件交差点を通過するに当たっては、Y車両に通行上の優先関係があるというべきこと、Xは、上記標識等に従い一時停止は行ったものの、その後本件交差点に進入した後、被告車両の存在に気付いたのが衝突直前であったことの各点に照らせば、Xの本件事故に対する過失の程度は相当程度大きいといわざるを得ない」として、XとYの過失割合を55:45と判断しました。

Yの過失よりもXの過失が少し大きいと判断したわけですね。

過失割合というのは“損害の公平な分担”のための論理であって、「事故の当事者間でどちらにどれだけ負担させるのが公平か」という相対的な問題です。

そこで、これが自動車対自動車の事故だった場合について考えてみると、Xの過失割合はもっと高くなった可能性が大きいのです。歩行者より自転車の方が、自転車より原付・バイクの方が、原付・バイクより自動車の方が、事故を起こした場合に相手方に与える損害が大きいと考えられ、よくよく注意して進行しなければならないとされて、その注意を怠った場合の注意義務違反=過失の度合いも高く考えられるわけです。

(2)鎖骨の変形に伴う症状

Xは、本件事故により左肩関節脱臼の怪我を負い、鎖骨に変形が残ったため、自賠責保険から「鎖骨に著しい奇形を残すもの」として後遺障害第12級5号の認定を受けています。

12級の労働能力喪失率は、形式的にいえば14%と決められているので、Xは労働能力喪失率14%を前提に逸失利益を計算してYらに請求しました。

これに対して、裁判所は「鎖骨変形そのものから直ちに労働能力の喪失を認定することはできない。

もっとも、鎖骨の変形による派生障害として、左肩の痛み及び脱力感が認定されていることやXの業務内容等に照らせば,一定程度労働能力に影響があることが認められる。

以上の諸事情を考慮し,労働能力喪失率は5%を相当と認める。」と判断しました。

後遺障害として認められる鎖骨の変形は、裸になったときに変形が明らかにわかる程度のものです。“程度”として明らかな変形が残ってしまったことになるので、12級という等級が認められるわけですが、一般的に言えば、鎖骨が変形しても、それだけで労働に何か支障が出るものとは考えられません。身体を動かしたり、物を考えたりする際に、鎖骨が変形していても影響がないということですね。

ですから、鎖骨の変形で後遺障害が認められた場合、それだけで逸失利益を請求するのは難しくなります。

そこで、鎖骨の変形にともなって、他に何か症状が残っていないか、その症状がお仕事にどう影響するかがポイントとなるのです。

本件でも、「鎖骨の変形による派生障害として、左肩の痛み及び脱力感」があったこと、Xの仕事が庭師であったこと等から、逸失利益が認められました。

鎖骨に変形が残るようなお怪我をされた場合は、痛みや周辺部位の動かしにくさ(=可動域制限)等のお仕事に支障を来たすような症状についても、しっかりと医師に伝え、診断書やカルテの記載として残しておいてもらうようにしてくださいね。

本件では、結果的に逸失利益は認められましたが、それでも12級で形式的に認められる14%ではなく、5%の労働能力喪失率が認められたにとどまります。鎖骨の変形で逸失利益を請求していくことが難しいことがよく分かりますね。

自賠責から後遺障害の認定を受けたなら、しっかり賠償額に反映させていきたいところです。

しかし、後遺障害の等級やそれに伴う形式的な数字が、必ずしも全ての場合に当てはまるわけではありません。

適切な賠償を得るためには、それぞれの賠償項目の趣旨をよく理解し、適切に対処していくことが重要です。

ぜひ一度当事務所にご相談ください。ひとつひとつ丁寧に説明し、アドバイスさせていただきます。

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