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裁判例: 12級

交通事故
神経・精神
首・腰のむちうち(捻挫)

14級9号の後遺障害を認めた裁判例【後遺障害14級9号】(東京地裁 平成15年1月28日判決)

事案の概要

X(原告:58歳女性)が、普通乗用車を道路左側に寄せて停止していたところ、後方からYの運転する普通乗用車に追突され、頚椎捻挫、腰部捻挫の傷害を負い、左上肢のしびれ、左手握力低下などの後遺障害を残したとして(自賠責非該当)、後遺障害等級12級を主張して訴えを提起した。

<主な争点>

後遺障害の有無及び内容

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 102万5734円 41万5823円
通院交通費 12万0180円 3万3580円
装具代 6万3669円 6万3669円
休業損害 825万7920円 364万8003円
入通院慰謝料 185万0000円 130万0000円
後遺障害逸失利益 2213万2475円 72万5499円
通院慰謝料 113万0000円 114万円0000円
後遺障害慰謝料 483万0000円 110万0000円
小計 3755万9978円 712万6574円
既往症 ▲20%
既払金 ▲395万7806円 ▲395万7806円
合計 3911万5412円 174万3454円

<Xの主張及びYの反論>

(1)後遺障害の有無及び内容

Xは、左下腿のしびれと痛みによる歩行障害があり、頚部のMRI検査により異常所見が認められ、医師による異常所見もあることから、後遺障害等級12級13号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当すると主張しました。

その中でXは、サーモグラフィーによる検査により、身体の痛い箇所は血流が悪いために低体温となり青色に映るが、Xにしびれが残存する部分は、サーモグラフィーの検査により青色に映っている部分と一致していることから、同症状は他覚所見によって裏付けられていると主張しています。

これに対し、Yは、本件事故の形態及び衝撃の程度等を考えると、Xの主張するような後遺障害が生じることはあり得ない、後遺障害診断書には、本人の愁訴(患者自身の症状の訴え)による自覚症状が記載されているだけで、他覚的、客観的所見は何ら記載されていない、サーモグラフィーは単に疼痛部位を示すにすぎず本件事故と因果関係を示すものではないと反論しました。

本件でXに生じた傷害は、頚椎捻挫、腰部捻挫であり、いわゆるむち打ちと言われるものです。

むち打ちは、自覚症状が残っているにもかかわらず、後遺障害が認められるかについてはよく争われるところであり、認定されるかどうかも難しい症状です。
そこで、むち打ちについて少し説明をしたいと思います。

(2)むち打ちとは

いわゆるむち打ちは、交通事故でもっとも多い症状と言っても過言ではありません。
しかし、後遺障害認定を求めるにあたり、とてもやっかいな症状であるともいえます。

そもそも、むち打ちとは、正式な医学用語ではありません。診断書に記載される傷病名としては、「頚椎捻挫」「頚部挫傷」「外傷性頚部症候群」「外傷性頭頚部症候群」「むち打ち損傷」など様々です。

一応、むち打ちの医学的説明としては、「骨折や脱臼のない頚部脊柱の軟部支持組織(靭帯・椎間板・関節包・頚部筋群の筋、筋膜)の損傷」とされるのが一般的です。

そして、むち打ちがやっかいな症状であると述べたのは、痛みやしびれなどの自覚症状があるにもかかわらず、レントゲンやMRIで異常が発見されにくいという点です。また、MRIの結果、変性所見が認められたとしても、それが交通事故によって生じたものであるとの説明がつかないと判断されることもあります。

そこで、むち打ちで後遺障害認定を求めるにあたっては、検査結果や医師の意見が重要となってきます。

(3)むち打ちで後遺障害が認められるには

むち打ちは、自賠責保険における後遺障害認定において、局部の神経系統の障害として取り扱われます。
後遺障害等級としては、

12級13号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」

14級9号の「局部に神経症状を残すもの」

の2つがありますが、この区分が客観的に明白になっているわけではありません。

ただ、実務的には、
12級13号は、「障害の存在が医学的に証明できるもの」
14級9号は、「障害の存在が医学的に説明可能なもの」あるいは「自覚症状が故意の誇張でないと医学的に推定されるもの」
であれば認定されています。
他方、自覚症状のみで、それに対する医学的説明すらないものは後遺障害非該当となります。

12級、14級のどちらに該当するか、あるいは非該当となるかは、上で述べたように、検査結果や医師の意見に影響されることになります。具体的には、他覚所見、すなわち画像所見や神経学的所見が認められるかどうかにかかってきます。

したがって、むち打ちで後遺障害認定を求めるためには、訴えられている症状に対して、どのような検査所見が、どのように、どの程度揃っているかを慎重に評価することが重要となります。

そこで、交通事故に遭ったら、早い段階でレントゲンやMRIを撮ったり、関節可動域や筋力、反射などの測定をして、たくさんの検査所見を集めるようにしましょう。

<判断のポイント>

本件に戻って裁判所の判断を見てみます。
Xは、本件事故により頚椎捻挫、腰部捻挫などの傷害を負ったが、その後同事故を契機として、左腕のしびれ感、脱力感などの神経症が出現し、同症状は悪化と軽快を一進一退に繰り返していると認定しました。
そして、CT、MRIなどの検査によって精神、神経障害が医学的に証明しえるものとは認められないものの、Xは受傷後から一貫して疼痛を訴えていること、医師作成の後遺障害診断書があること及び受傷時の状態や治療の経過などを総合すると、その訴えは医学上説明のつくものであり、故意に誇張された訴えではないと判断できるとして、後遺障害等級14級9号を認めました。

また、裁判所は、サーモグラフィーの検査により他覚所見があるとのXの主張に対しては、サーモグラフィーは、機能的な障害による温度変化から疾患の障害領域を判断できるメリットがあるにとどまり、本件事故によって神経障害が生じていることを医学的に証明しうるものではないとしました。

確かに、画像所見であっても、サーモグラフィーの所見は多くの要因によって変動しやすいため、再現性の点で劣り、客観性は低いとの指摘があり、本件でもそのような判断がされているようです。

ただ、MRI画像など他の他覚所見と併せることによって、医学的に説明ないし証明することは可能であり、そのように判断した裁判例もあります。

本件では、サーモグラフィーの検査結果を単独で見て、症状を医学的に証明することはできないと判断されていますが、検査結果は必ずしも固定的に評価されるものではありません。どのような検査がどの程度揃っているかを評価することが重要です。

Xにしびれが残存する部分は、サーモグラフィーの検査により青色に映っている部分と一致していることから、同症状は他覚所見によって裏付けられている。

まとめ

今回は、交通事故で多く生じるむち打ちに焦点を当てましたが、一口にむち打ちといっても、適切な賠償額を得るために考えなければならないことはたくさんあります。

後遺障害認定を求めるにあたり考えなければならないことは述べましたが、この他にも、そもそも治療費や休業損害がいつまで支払われるか、必要性・相当性を欠く診療(過剰診療)ではないかなど、むち打ちは、様々な場面で様々な問題が生じうる症状です。

たかがむち打ちと思って、あまり病院に行かなかったり、具体的に症状を伝えなかったりして適切な検査を受けないと、治療費や休業損害、後遺障害慰謝料で適切な賠償額が得られないかもしれません。

交通事故に遭われましたら、適切な賠償額を得るためにも、是非当事務所にご相談いただければと思います。

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就活中の被害者の逸失利益を、事故前年収入の7割を基礎収入として計算した事例【後遺障害併合12級】(さいたま地裁 平成30年12月28日判決)

<事案の概要>

Xは、見通しの悪いカーブ地点で自動二輪車を運転走行中、対向車線のY運転の乗用車に衝突され、右肩甲骨骨折、右鎖骨遠位端骨折、左大腿骨転子部骨折等の傷害を負った。

Xは、自賠責保険より、右肩につき後遺障害等級12級6号に該当する関節機能障害、左大腿部痛につき14級9号に該当する神経症状が認定されたため、併合12級の後遺障害が残存したとして、Yに損害賠償を請求した。

<主な争点>

1 過失割合
2 逸失利益を算定するに当たっての基礎収入額

<請求額及び認定額>

<X1の損害>

主張 認定
治療費 232万7370円 232万7370円
入院雑費 12万0000円 12万0000円
通院交通費 6375円 6375円
休業損害 462万2950円 231万1475円
入通院慰謝料 230万0000円 230万0000円
逸失利益 754万8312円 528万3818円
後遺障害慰謝料 290万0000円 290万0000円
小計 1982万5007円 1524万9020円
高額療養費還付金 ▲100万4981円 ▲100万4981円
過失相殺(4割) ▲609万9608円
人身傷害補償保険金 ▲574万4606円 ▲4万6990円
物損 48万9602円 27万6392円
過失相殺(4割) ▲11万0557円
人損+物損 1356万5022円 866万5268円
弁護士費用 130万0000円 87万0000円
確定遅延損害金 29万4290円 29万4016円
合計 1515万9312円 982万29284円

<過失割合について>

本件事故は、見通しの悪いカーブ地点において、X運転の自動二輪車が道路中央部分を走行していたため、対向車線を走行していたY車に衝突したものです。

裁判所は、事故現場の道路は、中央線がない峠道で、右カーブで見通しの悪い状況にあったことから、Y車は道路左側を進行して、また、対向車両との衝突を回避する措置を採り得る適切な速度に減速して走行すべき義務を負っていたにもかかわらず、中央部分を若干はみ出し、また、十分に徐行していなかったとして、Yに上記の義務違反を認定しました。

他方、Xについても、本件道路の左側を走行すべき義務があるにもかかわらず道路中央部分を走行していた、また、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転すべき安全運転義務があったにもかかわらず、十分に減速することなく走行していたとして、注意義務違反を認定しました。

そして、本件事故の原因がX・Y双方が本件道路の中央部分を走行したことにあるとして、Xの過失割合を4割、Yの過失割合を6割としました。

道路交通法17条4項では、車両は、道路(車道)の中央から左の部分を通行しなければならない、と定められており、本件事故に関しては、X、Y双方とも道路の中央寄りを走行していたという点において、道交法違反が認められます。

この場合、どちらも同程度の過失が認められると考えられますが、Xのほうが自動二輪車で普通乗用車よりも優先して保護される立場にあったことから、Xに1割有利に考えてXを4割、Yを6割と過失割合を認定したのだと思われます。

<逸失利益を算定するに当たっての基礎収入額について>

本件においてもうひとつ争いとなったのが、Xの逸失利益を算定するに当たっての基礎収入の金額です。

Xは本件事故の約3か月前に前職を退職し、事故の前日に就職活動で会社の面接を受け、採用が決まりかけていたものの、本件事故が原因で就職がなくなったという事情がありました。

面接を受けた会社では、月額15万円の給与が予定されていたことから、裁判所は、本件事故によって生じた休業損害については、同額を基礎収入として算定しました。

一方、逸失利益については、Xが前職の会社で事故前年に得ていた収入が約420万円であったことから、裁判所は、基礎収入の金額を休業損害と同様に月額15万円(年額180万円)とするのは相当でないとし、少なくとも、前職の年収の7割に当たる約295万円収入を得られる蓋然性が認められるとして、これを基礎収入として逸失利益を算定しました。

逸失利益は、その算定の基礎とすべき収入に、後遺障害による労働能力喪失率と、労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数を乗じて計算します。

そして、通常は、事故前年の年収額を基礎収入とすることが多いのですが、事故当時に職に就いていない場合、事故前年に収入があっても、それをそのまま基礎収入とすることは困難です。

なぜなら、逸失利益は、あくまでも後遺障害によって将来にわたって得られるはずの収入が得られなくなったことに対する補償なので、事故当時に就職していなければ、事故前年と同様の収入額が得られるとは認められないからです。

もっとも、事故前年の年収額は、被害者が、事故当時、どれだけ収入を得る能力を有しているかを、一定程度示す指標となり得るため、全額は認められなくとも、ある程度事故前年の年収に寄せた金額を基礎収入とする手法は、よく用いられています。

本件でも、裁判所は、Xの事故前年の年収からすると、事故当時就職予定であった会社の当初収入では、Xの逸失利益を適切に算定することはできないと考えて、Xの事故前年の年収を基準に、その7割を基礎収入としたのです。

後遺障害による逸失利益は、基礎収入、労働能力喪失率、労働能力喪失期間のいずれもが適切な数値で計算されないと、認定される金額が大きく減ってしまう可能性があります。ご自身に生じた後遺障害の逸失利益はどれくらいが適正なのかとお悩みの方は、弁護士にご相談ください。

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交通事故

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後遺障害に基づく損害の賠償請求権の消滅時効の起算点(最高裁平成16年12月24日判決)

事案の概要

平成8年10月14日、Xが交通事故で右膝蓋骨骨折の傷害を負い、右膝痛などの症状が残り、平成9年5月22日に症状固定の診断を受けた。

Xは、自動車保険料率算定会(現在の損害保険料率算出機構に当たる機関)に後遺障害等級認定申請を行ったところ、平成9年6月9日に非該当との認定を受けた。

Xは、この認定に対して異議申立てをしたところ、平成11年7月30日、後遺障害等級12級12号(現在の12級13号)に該当するとの認定を受けた。

Xはこの認定が不服であるとして、その後さらに異議申立てを行ったものの、認定された後遺障害は12級12号のままであった。

そこで、平成13年5月2日、Xが加害者Yに対して、逸失利益や慰謝料等の合計2424万8485円とこれに対する遅延損害金の支払いを求めて、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起した。

<主な争点>

交通事故による後遺障害に基づく損害の賠償請求権の消滅時効はいつから進行するか。

<争点のポイント>

民法724条は、「不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。

不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。」と規定しています。

そのため、裁判においては、「損害及び加害者を知った時」が争われることが多いです。

交通事故も、この「不法行為」に当たるものであり、本件でも、以下のように消滅時効が進行する時点が争われました。

<Y側の主張>
Xの症状固定日である平成9年5月22日から3年が経過した平成12年5月22日に損害賠償請求権は時効消滅した。

<X側の主張>
損害賠償請求権の消滅時効は、異議申立てによって後遺障害等級12級12号に該当すると認定された平成11年7月30日から進行するので、訴訟を提起した平成13年5月22日の時点では、いまだ消滅時効は完成していない。

(1)原審(高等裁判所)の判断

X及びYの主張に対して、原審の裁判所は、Xの後遺障害が12級12号に相当すると認定した上で、Xが12級12号の認定を受けるまでは、後遺障害に基づく損害賠償請求権を行使することが事実上可能な状況の下にその可能な程度にこれを知っていたということはできないから、Xの後遺障害に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点は、12級12号が認定されたとき以降であると解すべきである、と判断し、Xの請求を764万0060円とこれに対する遅延損害金の限度で認容しました。

(2)最高裁の判断

上記のような原審の判断に対して、最高裁は、Y側の主張を認める形で、以下のように判示して、原判決を破棄し、差戻し(もう一度原審に審理判断をさせること)をしました。

「被上告人(X)は、本件後遺障害につき、平成9年5月22日に症状固定という診断を受け、これに基づき後遺障害等級の事前認定を申請したというのであるから、被上告人は、遅くとも上記症状固定の診断を受けた時には、本件後遺障害の存在を現実に認識し、加害者に対する賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に、それが可能な程度に損害の発生を知ったものというべきである。

自算会による等級認定は、自動車損害賠償責任保険の保険金額を算定することを目的とする損害の査定にすぎず、被害者の加害者に対する損害賠償請求権の行使を何ら制約するものではないから、上記事実認定の結果が非該当であり、その後の異議申立てによって等級認定がされたという事情は、上記の結論を左右するものではない。そうすると、被上告人の本件後遺障害に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、遅くとも平成9年5月22日から進行すると解されるから、本件訴訟提起時には、上記損害賠償請求権について3年の消滅時効期間が経過していることが明らかである。」

まとめ

もっとも、実際に損害賠償請求訴訟を提起するほとんどの場合、損保料率機構に後遺障害等級認定申請をし、その認定結果に基づいて、等級に応じた後遺障害慰謝料や逸失利益を算定することが前提となっています。

そのため、民法724条の規定する「損害」「を知った時」という文言からすると、自分の後遺症がどの後遺障害等級に該当するのかを損保料率機構によって認定されていない段階では、被害者自身に、実際に請求することのできる損害が発生しているのか否かや、具体的な損害額を知ることができないので、「損害」「を知った時」には当たらないのではないか、という疑問も考えられなくもありません。

なお、本件の最高裁判決より以前の、最高裁平成14年1月29日判決は、民法724条にいう「被害者が損害を知った時とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時をいうと解すべきである。」と判示しています。

このような最高裁判決もあって、本件の原審は、Xが12級12号の認定を受けるまでは、後遺障害に基づく損害賠償請求権を行使することが事実上可能な状況の下にその可能な程度にこれを知っていたということはできないとして、消滅時効の起算点を、異議申立てにより後遺障害等級12級12号(現在の12級13号)が認定された平成11年7月30日と認定したものと思われます。

しかし、上記の平成14年判決では、あくまでも「損害の発生を現実に認識した時」とされているうえ、民法の通説的見解では、「損害」「を知った時」とは損害の程度や金額まで知る必要はないと考えられており、実務でもそのように取り扱われています。

そのため、本件の最高裁もXが症状固定の診断を受けた時点で、後遺症が存在することを現実に認識したことで、Yに対する賠償請求が事実上可能な程度に損害が発生していること自体は現実的に認識していたとして、「損害」「を知った時」に当たるものと判断したものと思われます。

そして、自算会(自動車保険料率算定会)の等級認定は損害の査定に過ぎないので、起算点である症状固定日からの消滅時効の進行には影響を及ぼさないとも指摘しています。

被害者側からすれば、なかなか納得のできない判断といえますが、最高裁判決として出ている以上、この点を争っていくことは現実的には難しいです。

そのため、ある後遺障害に該当すると考えられる症状が残っていると自覚する場合には、たとえ損保料率機構の認定がなされていない段階であっても、症状固定日から3年が経過する前に、その後遺障害等級に基づき損害額を算定したうえで、訴訟を提起する必要があります。

交通事故に限らず、請求権の消滅時効の起算点は、実務上たびたび争われる争点であり、様々な事情によって起算点がいつの時点になるかが変わることもあります。

このような法律上の争点について、個人の方が争うことは困難ですので、ご相談いただければと思います。

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自転車vs自動車 ~傘差し運転の過失割合【後遺障害12級13号相当】

事案の概要

X(原告:64歳女性)が、交差点で傘を差して自転車に搭乗中、衝突までXに気付かなかったY(被告:83歳男性)運転の乗用車に出会頭に衝突され、左大腿骨転子下骨折、左下腿打撲等の傷害を負い、約1年2ヶ月入通院して、自賠責14級9号後遺障害認定を受けたが、12級7号または13号左股関節部の疼痛、14級9号左足関節の痛み等から併合12級後遺障害を残したとして、既払金201万8006円を控除し、1354万3374円を求めて訴えを提起した。

<主な争点>

①Xの過失の程度と過失相殺の可否
②Xの傷害、後遺障害の有無及び内容

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 151万8006円 151万8006円
入院雑費 9万9000円 9万9000円
通院交通費 1793円 1793円
文書料 1万0800円 1万0800円
装具購入費 1万9300円 1万9300円
休業損害 246万5545円 124万3400円
後遺障害逸失利益 440万1436円 236万7911円
入通院慰謝料 225万0000円 200万0000円
後遺障害慰謝料 350万0000円 280万0000円
物損 9万5500円 9550円
過失相殺 ▲15%
既払金 ▲201万8006円 ▲201万8006円
弁護士費用 120万0000円 65万0000円
合計 1354万3374円 719万1290円

<判断のポイント>

① Xの過失の程度と過失相殺の可否

本件の具体的な検討に入る前に、過失や過失相殺について少し説明をします。

過失とは、ざっくりと言えば不注意のことを言います(法律的には客観的注意義務違反といいます)。

そして過失相殺とは、被害者が加害者に対して損害賠償請求をする場合、被害者にも過失があったときに、公平の観点から、損害賠償額を減額することを言います。

その減額の度合いは過失割合で決まります。

交通事故においては、過失割合は事故態様に応じて類型化されており、ある程度決まっています。

実務においては、判例タイムズ社という出版社が出している「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」という本が使われていますが、これは裁判例をもとにして過失割合の基準が決められています。

典型的な事故の場合には、その基準をそのまま用いる場合もありますが、ある程度修正要素も定められており、個別具体的な事情に応じて過失割合の修正がなされます(あくまで目安ですが)。

例えば、本件のように、自転車と四輪者が信号のない同幅員の交差点で出会いがしらの衝突事故に遭った場合、基本的には自転車が2割、自動車が8割の過失があるとされます(20:80と表現されます)。

ただ、自転車の側が児童や高齢者である場合には被害者の過失割合から-5の修正を行い(すなわち15:85)、自動車に著しい過失(要はひどい不注意)がある場合には被害者の過失割合から-10の修正を行うとされています(すなわち10:90となります)。

過失割合は、上で述べたように、過失相殺で減額する度合いを言いますから、被害者が請求できる損害賠償額にかかわってきます。

つまり、被害者が怪我をして100万円の損害が生じている場合、20:80の過失割合であるときには、被害者は80万円の請求しかできないことになります。

それでは、これらの点を踏まえて本件の裁判例を見てみたいと思います。

本件では、Xは、高齢者に準ずる者であること、Y車の速度の点やY車が衝突するまでX車に気付かない点でYに著しい過失があることからすれば、過失相殺すべき事案ではないと主張しています。

これに対してYは、Y車がX車の左方車であり優先関係にあること、Xが折りたたみ傘を持って片手運転をしていたことから、Yの過失割合を加重する理由にはならないと反論しました。

この点につき裁判所は、Yには、X車と衝突した後にすら、右方から進入してきたX車について、左方から進入してきたと当初思っていたほどX車の発見が遅れたことからすれば、Yには前方不注視及び交差道路の安全不確認という点で、一般的に想定される程度以上の著しい過失があるとしました。

また、Xには、右手に傘を差したまま片手で自転車を運転した点、左方のY車を発見したにもかかわらず停止するものと軽信して進行したことについて過失があるとする一方、64歳であり注意力・判断力が低下しがちな要保護性の高い存在であることも考慮すべきとしました。

その結果、Xに15%の過失相殺を行うのが相当と判断しました。

上で述べた過失相殺の例のように、目安としては、自転車の運転者が高齢者の場合は-5、相手に著しい過失がある場合は-10を、被害者の過失割合において修正します。

もっとも本件では、その両方が考慮されているにもかかわらず、Xに15%の過失割合が認定されています。

すなわち、Xの傘差し運転などの過失が相当程度考慮されていることがわかります。

近年、自転車事故が多くなり、取り締まりや罰則も厳しくなっていることからも、この裁判例の結論は妥当なものと言えるでしょう。

② Xの傷害、後遺障害の有無及び内容

本件では、Xの後遺障害逸失利益も争点となりました。

Xは、左股関節部につき12級7号又は12級13号、左足関節部につき14級9号、左下肢の醜状につき準114級とされるべきで、併合12級が相当であると主張し、Yは全面的に否認しました。

裁判所は、Xは、本件事故により左大腿骨転子下骨折の傷害を負い、インプラント(髄内釘)を固定する手術を受けたこと、骨癒合が完成し症状固定時まで一貫して疼痛を訴えていたこと、症状固定時において疼痛が残存し、担当医師は症状固定時においても大転子部にインプラント突出部位があることが疼痛の原因となっている旨診断していることを認定しました。

そのうえで、Xの左臀部の疼痛は、インプラントの突出部位の刺激によると説明でき、この症状は疼痛と整合する部位にインプラントが残置されていることに裏付けられ、医師の診断もあることから、「局部に頑固な神経症状を残すもの」として後遺障害等級12級13号に該当すると判断しました。

まとめ

本件は、自転車と自動車の事故を紹介しました。

そして、例に出した事故態様だと、過失割合は20:80が基準となります。

ここで、そもそも修正前の過失割合が、自動車の側に不利になっていることに疑問をもたれる方もいらっしゃると思います。

もっとも、これは自動車の方がスピードも出るし車体が大きく安定性があるので、自転車と自動車が衝突した場合、双方の損害に必然的に差が生じることからです。

そこで、交通事故を避けるべき注意義務は、自動車の側に大きく課されることになります。

そして、修正を行って適正な過失割合を決めて賠償額を確定するのですが、過失割合は本件のように様々な事情を考慮して決められるものです。

過失割合が5%も違えば、賠償額も大きく異なります。

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事故前の怪我の影響【後遺障害併合12級相当】

事案の概要

X(原告:32歳女性)が、交差点を歩行横断中、左後方から右折してきたY(被告)が運転する普通乗用自動車に衝突されて転倒し、腰椎捻挫、頚椎不安定症、外傷後梨状筋症候群坐骨神経痛等の傷害を負ったため、約2年1ヶ月入通院して自賠責併合12級後遺障害認定を受け、Yに対して訴えを提起した。

<主な争点>

① 本件事故の具体的態様と過失相殺の可否
② Xの傷害、後遺障害の有無及び内容
③ 素因減額

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 480万5037円 628万5427円
入院雑費 2万5500円 2万5500円
入院看護費 10万2000円 0円
通院看護費 129万9000円 0円
通院交通費 84万8650円 84万8650円
文書料 53万7419円 50万5319円
装具購入費 30万5450円 0円
休業損害 769万8684円 384万9342円
後遺障害逸失利益 846万8701円 765万3645円
入通院慰謝料 380万0000円 260万0000円
後遺障害慰謝料 400万0000円 280万0000円
素因減額 ▲20%
過失相殺 ▲5%
既払金 ▲1609万7690円 ▲1760万円7812円
弁護士費用 158万0000円 10万0000円
合計 2663万5841円 116万3778円

<判断のポイント>

① 本件事故の具体的態様と過失相殺の可否

本件では、Yは、Xに20%の過失があると主張しているのに対して、Xは、道路横断前に左右の安全を確認し、かつ、左方の安全を確認した際には、左後方の一旦停止線を越えて進入してきている車両がないことを確認しており、必要十分な安全確認を行っているとして過失はないと主張していました。

この点につき裁判所は、Xにおいても、右折車が走行してくることは予測することができたのに、左方の状況を十分確認していたとは認められないから、本件事故の発生については、原告にも左方の状況を十分確認しなかった点で過失があるとし、本件では5%の過失相殺をするのが相当であると判示しました。

ここでは、原告が、現に衝突までYの運転する自動車の存在に気付いていないことが認定されてしまい、左方の安全確認が不十分であるとして5%の過失相殺がされてしまいました。

② Xの傷害、後遺障害の有無及び内容

Xは、上記の傷害結果を負い、左臀部から左下肢にかけての痛み等の症状が残存していることから、自賠責の認定通り後遺障害等級12級13号に該当すると主張しました。

これに対してYは、Xはもともと坐骨神経が梨状筋の中を通過するタイプDという坐骨神経痛が発症しやすい稀有な身体条件を備えていたこと、本件事故以前から坐骨神経痛を訴えていたことなどから、Xの罹患した梨状筋症候群は本件事故前からあったものであり、本件事故で発症したものではないとして、事故との因果関係は認められないと主張しました。

そもそも、梨状筋症候群とは、尾骨の上にある三角形の仙骨と大腿骨の付け根の大転子とをつなぐ梨状筋という筋肉(要はおしりの筋肉の1つです)が原因で生ずる鈍痛のことをいいます。

これは、骨盤から足にかけて伸びている神経(坐骨神経といいます)が梨状筋部で圧迫を受けることによって現れる痛みです。

そして、坐骨神経が骨盤から足に至る経路は4タイプあります。

その中にYが主張している坐骨神経が神経幹として梨状筋を貫通するタイプがあり、それは全体の約1%という割合と確かに稀有なタイプではあります。

しかし、裁判所は、ⅰ本件事故によりXは、衝突地点から約1,2メートル離れた地点で臀部や肘をついて転倒したと認定でき、このような事故態様からXに加わった衝撃は相当程度のものであったと推認できること

ⅱ通院していた整骨院で、本件事故前の施術録には記載されていなかった「左臀部利状M」との記載が本件事故の施術録にあること

ⅲ本件事故前から訴えていた痛みの範囲が本件事故により広がり、さらに痺れも訴えるようになっていること

から、本件事故とXの梨状筋症候群発症との間には相当因果関係が認められるとしました。

そして、頚椎捻挫・頚椎不安定症に伴う頚部から肩甲部にかけての疼痛等及び腰痛も認めたうえ、自賠責同様併合12級の後遺障害等級を認めました。

ただ、Yの主張した坐骨神経のタイプには結局触れずに、事故態様や施術録の記録、本人の自覚症状から後遺障害を認定しています。

このように、本人の自覚症状と客観的な記録が矛盾なく整合している場合には、後遺障害等級は認定されやすいことがわかります。

③ 素因減額

まず、「素因減額」とは、交通事故による損害の発生・拡大が、被害者自身の素因に原因がある場合に、賠償金を減額することをいいます。つまり、何らかの怪我や病気を抱えている人が交通事故に遭い、その怪我や病気がひどくなった場合には、全ての損害に対する補償を加害者に負担させることは公平性に欠けるということで、ひどくなった分の補償額部分が減額されることになります。

本件でも、Yから、本件事故の負荷の程度、発症時期、Xの身体的特徴を考えると、Xの症状に寄与した割合が圧倒的に大きいから、70%程度の減額を行うことが公平であると主張していました。

この点につき裁判所は、Xは本件事故前にも腰痛、左臀部痛、左坐骨神経痛という症状が出ており、左梨状筋を切除した後も後遺障害が残ったことに照らせば、Xの既往症(過去にかかった病気で現在は治癒しているものをいいます)が影響していると考えられると述べ、20%を同素因によるものとして減額するのが相当であると判示しています。

まとめ

本件のように、交通事故においては、過失割合や素因減額など様々な要素が考慮されて賠償額を確定することは少なくありません。

そして、訴訟においては、そのような要素を立証するために多くの事実を用いて裁判官を説得しなければなりません。

訴訟でなくても、保険会社と過失割合などについて話し合うためには、ある程度の法的知識が必要になってきます。

交通事故に遭い、保険会社から過失割合の話をされて、判断に困ってしまったら、是非当事務所の弁護士にご相談ください。

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