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裁判例: 12級

交通事故
下肢

CRPSについての裁判例【後遺障害12級13号】

事案の概要

幹線道路において、X(原告:39歳男性、調理師)が運転する普通自動車二輪車と、路外から公道上に出てきたY(被告)が運転する普通乗用自動車が出会い頭に衝突した事案。

Xはこれにより、全身打撲・頚椎捻挫・右膝関節血腫・腰椎々間板ヘルニア・右膝挫傷・皮下出血・左手関節挫傷・右膝関節拘縮を負ったため、Yに対して損害賠償請求をした。

右膝等の疼痛、左上肢等のしびれにつき、自賠責保険会社から後遺障害等級14級9号に該当すると判断されていた。

<主な争点>

①公的証明がない基礎収入額
②後遺障害の程度(右膝等の疼痛について)
③過失割合

<主張及び認定>

主張 認定
治療関係費 216万7411円 202万0301円
入院雑費 6万6000円 6万6000円
通院交通費 23万3370円 23万3370円
休業損害 812万5000円 219万9600円
入通院慰謝料 260万0000円 200万0000円
将来治療費 14万5660円 認められない
逸失利益 2746万7211円 1008万3034円
後遺障害慰謝料 830万0000円 420万0000円
過失相殺 ▲5%
損益相殺 ▲382万5124円
弁護士費用 160万0000円
合計 1753万7065円

<判断のポイント>

①公的証明がない基礎収入額

本件では、休業損害額を認定するにあたって、公的な証明書である源泉徴収票がありませんでした。

また、休業損害証明書に記載されていたXの採用日が本件事故の3ヶ月前とされており、それ以前から働いていた旨のXの主張と異なるものであったことから、Y側から、Xの基礎収入の主張は信用できないと反論されていました。

しかし、裁判所は、Xが調理師法による調理師免許を取得していたこと、勤務先からXに対して毎月交付されていた給料支払明細書があることなどから、賃金構造基本統計調査の年齢別平均収入額も考慮したうえ、月額28万2000円の基礎収入を認めました。

なお、休業損害証明書記載の採用日が本件事故の3ヶ月前であったことは、勤務先の意思に基づく作為であったというXの主張に合理性が認められ、勤務先の協力が得られなかったことにXの帰責性は認められないと判断されました。

このように、公的証明がない場合でも、さまざまな事情から基礎収入額を認定することは可能です。

もっとも、この事案ではXが調理師免許を取得していた事情も考慮されており、事案によって認定の仕方は異なると思われます。

基礎収入額が問題となる場合には、どのような仕事に就きどのくらいの収入を得ていたか、なるべく詳しい資料を入手することが大事になります。

② 後遺障害の程度(右膝等の疼痛について)

Xが訴えていた右膝等の疼痛について、裁判所においても、客観的かつ厳格な要件が設定されている自賠法施行令上の後遺障害であるCRPS(複合性局所疼痛症候群)は認められませんでした。

しかしながら、Xが本件事故直後から一貫して強く訴えていた症状であり、日本版CRPS判定指標は満たす旨の専門的知見があることなどを考慮すれば、「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当するとして、後遺障害等級12級13号を認めました。

そもそもCRPSとは、骨折などの外傷や神経損傷の後に疼痛が遷延する症候群のことを言います。

その特徴とされる症状はきわめて多彩であるものの、他覚所見が認められにくいものであり、複数の症状全てに他覚所見を要求する自賠責保険の後遺障害等級認定をクリアするのは厳しいものとなっています。

ところが本件では、厚生労働省の研究班が作成した日本版CRPS判定指標を満たすという資料が出されており、裁判所はこれを基に後遺障害等級12級13号を認定しています。

自賠責保険の後遺障害等級認定が認められなくても、このように裁判で後遺障害が認められ慰謝料の請求が出来る場合もあります。

本件では、Xが事故直後から強く症状を訴えていたという事情も考慮されており、最後まで自分の主張を貫く姿勢も大事であることが分かります。

③過失割合

本件では、Y側から、Xに30%の過失があるとの主張がされていました。

これに対し裁判所は、Yに過失があることを前提に、Xにも、交通状況に応じた速度と方法で運転しなければならない注意義務に反した過失があることは否定できないとして5%の過失相殺を認めました。

擦過痕等から、車両の徐行の有無を認定し、過失を認めたようです。

まとめ

本件のように、Y側から休業損害額で反論があり、自賠責保険の等級認定が認められていないというような場合、何も準備がされていなければ、本来支払われるべき賠償額より相当低い額になるケースもあります。本件でも、示談交渉の時点での賠償額は、裁判所の認定額とは大きく異なっていたでしょう。

事案によって対応すべき点は異なり、1人で判断するのはとても困難です。

また適切な対応をすることによって賠償額が大きく変わることもあります。

交通事故で困ったことがありましたら、1人で抱え込まず弁護士にご相談ください。

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交通事故
下肢

後遺障害が認定されても安心はできない【後遺障害12級7号】(大阪地判平成27年11月26日)

事案の概要

52歳の男性Xの乗用車が、駐車場の出口で一時停止中、後退してきたYの乗用車に逆追突され、両膝半月板損傷の傷害を負ったため、XがYに対し、損害賠償を求めた事案。

Xの右膝について残存した症状は、膝関節機能に傷害を残したものとして、損害保険料率算出機構(損保料率機構)より後遺障害等級12級7号が認定されていた。

<主な争点>

①本件事故の態様はどのようなものだったか
②本件事故と両膝半月板損傷の因果関係、素因減額

<主張及び認定>

主張 認定
治療費(既払金) 81万0019円 81万0019円
入院雑費 1万0500円 1万0500円
通院交通費 2万3115円 2万3115円
文書料 6300円 6300円
休業損害 515万5000円 125万6191円
入通院慰謝料 130万0000円 130万0000円
逸失利益 1367万1705円 199万8862円
後遺障害慰謝料 290万0000円 84万0000円
既払金 ▲311万2099円 ▲393万7700円
弁護士費用 210万0000円 23万0000円
合計 2286万4540円 253万7287円

<判断のポイント>

①本件事故の態様

本件事故の態様で具体的な争いになったのは、Y車の後退速度です。

Xは、Y車の後退速度がそれなりの速度であったことを前提に、衝突された瞬間、X車がバウンドするような衝撃を受けたと主張したのに対し、裁判所は、これを認めず、Y車はゆっくりとした速度で後退してX車に衝突し、その衝撃の程度はそれほど大きくなかったものと認定しました。

X側は、X自身の本人尋問のほかに、X車の後方で待機していた車両の運転者Zの、X車が衝撃で動いた旨の陳述書も証拠として提出して、X車がバウンドするほどの衝撃であったことを主張しましたが、裁判所はそのどちらの信用性を認めませんでした。

裁判所は、本件事故直後にYがXに負傷の有無を尋ねたところ、Xが大丈夫であると返答し、Xがジュースを買いに現場を離れた際に足を引きずるような様子は見られなかったこと、衝突による車の修理費用が、XYどちらもそれほどの金額にならず、運転にも支障がなかったこと、事故後に警察官が臨場したものの、実況見分も行われなかったことなどの客観的事実を根拠としてY車の後退速度を認定したのです。

第三者の供述は、特別な事情がなく、合理的な内容であれば信用性が認められるものですが、XとZは知人であり、ZにはXに有利に陳述する動機があったことがZの陳述内容の信用性判断に影響したと考えられます。

また、本件では上記のような客観的な事実が認められたため、それらから認定される事実と整合しない、不合理な供述として信用性が認められなかったのではないでしょうか。

②本件事故と両膝半月板損傷の因果関係、素因減額
(1) 上記のように、裁判所は本件事故の衝撃の程度はそれほど大きなものではなかったと認定しましたが、Xの右膝の半月板損傷については、本件事故と相当因果関係があると認めました。

半月板損傷は、膝を強く打ったり、激しく動かしたりねじるなど、膝に大きな負荷がかかった場合に、膝関節の外側・内側に1個ずつある三日月型の軟部組織が傷付いて、膝に強い痛みが生じるようになるものであるため、Yは、本件事故の衝撃の程度はそれほど大きくなく、膝にかかる負荷も小さかったとして、本件事故とXの両膝半月板損傷との間には因果関係は認められないと主張しました。

裁判所も、本件事故当時のXの両膝の位置関係からすると、両膝関節の内側半月板を同時に損傷することは考え難い、としながらも、本件事故後、それ以前にはなかった膝の痛みが出現していたこと、特に右膝の痛みが強いこと、Xが右膝の半月板切除手術を受けていたことなどの事情から、少なくとも右膝の半月板損傷は、本件事故によって生じたものと認められるとして、本件事故と右膝半月板損傷の間の相当因果関係を認めたものです。

裁判所の判断のポイントは、受傷状況としては、因果関係が否定されるようなものであったにもかかわらず、事故前後の症状の有無や、治療状況を重視して、事故と受傷の因果関係を認めたところにあります。社会通念からすれば、事故の状況からは考えられないような怪我を負っていても、事故以前になかった症状のために、医師も手術をしなければならないと考えて、実際に手術が行われていたのであれば、これは事故と半月板損傷との相当因果関係自体を認めるほかない、という判断であったのだと思います。

(2) もっとも、Xの右膝の半月板には、加齢性の変形性関節症という疾患があり、Xの半月板損傷は、本件事故と、その疾患がともに原因となって発生したものといえるとして、Xに生じた右膝半月板損傷について、裁判所は70%の素因減額をしました。

素因減額とは、当事者間の損害の公平な分担という見地から、被害者に、損害の発生・拡大に寄与する事情がある場合に、損害のすべてを加害者に負担させるのは公平でないとして、その被害者の事情を斟酌して、損害賠償額を減額するという理論です。

裁判所は、半月板損傷と事故に相当因果関係があることは認めつつも、事故の衝撃の程度が軽微であり、通常であれば半月板損傷が生じるような事故ではないということを考慮して、半月板損傷の要因の70%はXのもともとの疾患にあると認定したのです。

結局、Xの半月板損傷は、後遺障害としては認められたものの、素因減額で70%を引かれてしまい、後遺障害に関する損害に関しては、12級の自賠責保険金290万円よりも少ない金額しか認められない、という結果になりました。

まとめ

後遺障害等級が認定されると、損害額自体が跳ね上がるのは確かですが、素因減額や過失割合など様々な事情によって、実際に受けられる賠償金がかなり少なくなってしまうということもあります。

そのため、被害者の方が、自分が遭った事故では、どのような事情で減額されてしまう可能性があるのか、ということを把握しておくことはとても重要ですので、もし気になるようなことがあれば、当事務所までお気軽にご連絡ください。

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交通事故
下肢
外貌醜状

右下腿瘢痕の痛みにつき17年間5%の労働能力の喪失を認めた裁判例【後遺障害12級】(金沢地方裁判所判決 平成29年1月20日)

事案の概要

駐車場内のX運転の原付自転車に、Y運転の普通乗用車が衝突したという交通事故により、右下腿打撲皮下血腫等の傷害を負ったXが、Yに対し損害賠償を求めた事案。

Xの右下腿に残存した瘢痕については、自賠責保険から、醜状障害として後遺障害12級の認定を受けていた。

<争点>

醜状障害及びそれに伴う痛みによる労働能力の喪失の有無

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 98万2493円 98万2493円
入院雑費 12万3000円 12万3000円
通院交通費 3920円 3920円
家屋改造費等 55万3350円 0円
文書料 12722円 12722円
休業損害 289万3800円 145万0897円
逸失利益 631万4657円 199万9574円
入通院慰謝料 150万0000円
後遺障害慰謝料 290万0000円
慰謝料 450万0000円
物損 3万5826円 3万5826円
小計 1531万9768円 910万8432円
損害の填補 ▲344万0000円 ▲344万0000円
弁護士費用 118万0000円 56万0000円
合計 1305万9768円 622万8432円

<判断のポイント>

(1)醜状障害の逸失利益について

事故によって外傷を負い、その傷痕が残ってしまった場合、その傷が残った部位や大きさ、長さなどによって、醜状障害として後遺障害が認められる場合があります。

たとえば、顔面部に鶏卵大面以上の瘢痕が残り、それが人目につく程度のものである場合は、「外貌に著しい醜状を残すもの」として、後遺障害等級第7級12号が認定されることになります。

また、外貌以外の上肢の露出面(上腕から指先まで)、下肢の露出面(大腿部から足の甲まで)に瘢痕などが残った場合も、その大きさによって、後遺障害等級第12級や第14級が認定されることがあります。

(2)逸失利益が認められるか否か

醜状障害については、直ちに身体の機能を制限するような後遺障害とはいえず、芸能人やモデルなど、容姿が重視される職業以外では、労働能力の喪失がないとして、逸失利益が否定されるのではないか、という問題があります。示談交渉段階では、相手方の保険会社は、基本的に醜状障害による逸失利益を否定しにかかってくることがほとんどです。

しかし、たとえ直接身体機能に制限が生じなくとも、醜状の存在によって、就職が不利になる、配置転換を強いられるなど直接的な影響が生じ得ます。

また、対人関係や対外的な活動に消極的となり、労働意欲、ひいては昇進にも響くなど間接的な影響が生じることも考えられます。そのため、醜状障害だからといって、一概に逸失利益が否定されるべきではありません。

過去の裁判例では、醜状障害による労働への影響はないとして、逸失利益を否定するものも相当数あります(そのような場合、後遺障害慰謝料の増額事由として考慮するというものが多いです)。

他方で、外貌醜状があるときは、職業を問わず、原則として等級に相応した労働能力の喪失があると判示した最近の裁判例もありますが(さいたま地裁平成27年4月16日判決)、実際の裁判では、被害者の年齢や性別、職業、醜状の程度、実際の仕事への具体的な影響などの様々な事情を考慮して、労働能力の喪失の有無や程度が認定されることになります。

まとめ

本件では、Xの右大腿部には、手のひらの大きさの3倍程度以上の瘢痕が残り、この瘢痕について、自賠責保険から醜状障害として後遺障害等級第12級の認定を受けたことや、醜状障害に加えて痛みなどの症状も残っているとして、Xは、12級の場合の目安である14%の労働能力喪失率を主張しました。

これに対して、Y側は、Xに認められた後遺障害が醜状障害のみでありXの仕事(家事労働や食品の委託販売業)には影響を及ぼさず、また、痛みについては後遺障害として認定されていない以上、労働能力の喪失はないと反論しました。

この点について、裁判所は、Xの右大腿部の瘢痕の醜状障害は、Xの家事や食品委託販売業の労働能力に直接影響するものではないとして、醜状障害そのものによる逸失利益は否定しました。

他方で、Xが事故後に歩行や長時間立っていると痛みを訴え、その症状が継続していることなどの事情から、瘢痕の残った右大腿部には、痛み等の神経症状が残存しているものと認められ、家事労働に一定の支障が生じているとして、5%の労働能力の喪失を認定しました。

また、労働能力の喪失期間については、Xの症状の残存状況や、痛みの原因が真皮組織等の欠損であることなどから、症状固定時点で53歳であったXの平均余命の2分の1である17年間と認定しました。

自賠責保険の認定では、Xの後遺障害は、醜状障害による後遺障害12級のみであり、神経症状については、14級9号すら認定されていませんでした。

そのため、本件は、基本的には、醜状障害による労働能力の喪失の有無だけが問題となり得る事件でした。

もっとも、本件では、Xが醜状障害のみならず、右大腿部に生じている痛みについても、後遺障害に当たると主張していました。

そのため、裁判所はその点も判断して、右大腿部の痛みを神経症状の後遺障害として認定しましたが、具体的な等級については明らかにしていません。

14級の目安である5%の労働能力喪失率を認定していることからすると、実質的には14級9号と認定したとも考えられます。

しかし、他方で、労働能力喪失期間については、12級13号の目安とされる10年を超える期間を認定しています。そのため、裁判所としては、どの等級が妥当なのかというところまでは、明確には踏み込んでは判断せずに、Xの症状が、12級の醜状障害といえるほどの瘢痕を残す傷によって生じていることを前提に、Xの家事労働に生じている具体的な支障等を考慮しつつ、逸失利益を認定したものと考えられます。

醜状障害について、これまでは、基本的には醜状そのものによる仕事への影響という側面で考えられてきましたが、この裁判例は、残存した醜状障害の程度を、神経症状による労働能力の喪失の有無や程度を認定するに当たっての考慮要素にしたものと考えられる点で、重要な意味を持つものといえます。

醜状障害による逸失利益の有無や程度については、これまで多くの裁判において争われてきた争点であり、しっかりとした主張立証を行わなければ、認められるものも認められなくなる可能性があります。

また、示談交渉段階でも、相手方をきちんと説得することができれば、逸失利益を認めさせることは可能ですが、そのためには、逸失利益に関する正確な知識や、それに基づく的確な説明が必要不可欠です。適切な賠償を受けられるようにするためにも、まずは弁護士にご相談ください。

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交通事故
外貌醜状

ロードバイクの特殊性を過失割合に反映しなかった事例【後遺障害12級14号】(東京地判平成28年7月8日)

事案の概要

X(24歳男性)は、ロードバイクで車道を直進していたところ、道路外に出ようと左折する被告の車に、巻き込まれるように衝突した。

Xは転倒し、下顎部挫創等の傷害を負い、下顎部の醜状痕は後遺障害等級12級14号と認定された。

<争点>

① 過失割合
② 外貌醜状の逸失利益

<主張及び認定>

主張 認定
治療関係費 6万7220円 5万4610円
通院交通費 2万3020円 2万3020円
休業損害 3万9545円 3万9545円
逸失利益 1278万4098円 100万円
傷害慰謝料 90万円 70万円
後遺障害慰謝料 300万円 290万円
過失相殺 0% 5%
既払金 ▲250万6285円 ▲250万6285円
弁護士費用 160万円 20万円
合計 1590万7598円 217万5031円

<判断のポイント>

<ロードバイクの特徴と過失割合>
近年、ロードバイクは競技のみならず、日常の足として使われています。

ヘルメットをかぶっていたり、目立つ色のウェアを着用したりしていれば、通常の自転車と異なり、高速度で走行しているものと一見してわかりますが、交通事故となると、そのようなケースはあまり多くありません。

過失割合は、道路形状、交通規制(信号機や一時停止の標識)、双方の車両の種類(車、二輪車、自転車)、双方の進路、速度などの事情によって定められます。

ロードバイクの特殊性は、双方の車両の種類、速度に大きく関わります。

<X及びYの主張>

Xは、「Yの車は、左折の際合図を出していなかった。」と主張しました。

これに対し、Yは、「Xの自転車はBianchi社製のスポーツタイプであり、本件事故当時、高速度で、なおかつ、不適切なブレーキ操作、前方不注視及び無灯火の過失があった。」と主張しました。

<裁判所の判断>

Xのロードバイクが、時速20kmの速度で走行し、かつ、ブレーキ操作を適切に行っていれば、Xは転倒せずに、Yの車の手前で停止できたと認められる。

ところが、Xは、急ブレーキによって転倒しているのであるから、Xには、道路の状況に応じた速度で走行する義務又はブレーキを確実に操作する義務(道路交通法70条)に違反した過失があったと認められる。

一方で、Yがいつその合図を出したかは不明である。

このように本件事故の発生についてはXにも過失があるが、本件事故の主たる原因は、Yが左後方の安全を十分確認することなく左折したことにあり、Xの過失は、Yの過失と比べると軽微であるから、Xの過失は5%とするのが相当である。

<外貌醜状のポイント>

外貌醜状は、対面する人に着目されるなどして、コミュニケーションに支障をきたすことあり得るものの、労働能力を直接的に減少させる要因にはならないと考えられています。

そのため、外貌醜状の後遺障害が残ってしまった場合には、逸失利益を主張するよりも、後遺障害慰謝料の増額を図ることを念頭に置く例が多いです。

<Xの主張>

Xは、舞台俳優になることを目指し、アルバイト等で生活費を稼ぎながら歌や踊りの練習をしたり舞台に出演したりする活動をしており、外貌醜状による労働能力の喪失は認められるべきとして、逸失利益1278万4098円を主張しました。

<裁判所の判断>

Xは、本件事故後も舞台活動を続けているものの、本件事故による下顎の挫創治癒痕を友人や知人に度々指摘され、舞台に立っているときも下顎の挫創治癒痕が気になって演技に集中できなくなることがあることなどを総合すれば、下顎の挫創治癒痕はXの労働能力に影響を及ぼすおそれがある。

もっとも、下顎の挫創治癒痕は化粧をすれば目立たなくなること、下顎の挫創治癒痕を理由に役を外されたりしたことはなく、本件事故前と同様に舞台活動を続けられていることに照らすと、下顎の挫創治癒痕が原告の労働能力に及ぼす影響は限定的といわざるを得ない。以上の事情を勘案すると、逸失利益は100万円と認めるのが相当である。

まとめ

外貌醜状の点は、他の参考判例解説に譲ることにしますが、本件で、舞台俳優を目指している方であっても、労働能力の喪失は限定的にしか認められないとした点は特徴的といえます。

ロードバイクは、自動二輪車に匹敵する高速度で走行することが可能であり、近年ではその利便性から、都市部で多く見かけます。

ロードバイクの事故に関するご依頼を多くいただくようになりましたが、自動二輪車と同等に取り扱われる例は少ないです。

本件のように、ロードバイクの特殊性よりも、道路形状、交通規制、双方の車両の種類、双方の進路、速度などの基本的な事情が重視されることが多いです。

ご自身がロードバイクに乗っていた場合、相手方がロードバイクに乗っていた場合のいずれであっても、当事務所にお気軽にご相談下さい。

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交通事故
外貌醜状

1歳の負った傷【後遺障害12級相当】(大阪地判平成21年1月30日)

事案の概要

当時1歳の女児であったXが乗車していたX車が、エンジン不調のため非常駐車帯に停車し、Xの父の兄の車両を待っていたところ、飲酒運転かつ居眠り運転のY車が時速約100キロメートルでXの父の兄の車両に追突し、そのはずみで同車両がX車に玉突き衝突した。

Xは、この衝撃により、左顔面裂傷、左眼瞼裂傷(その後の兎眼)、左網膜震盪の傷害を負った。幼児期の深い傷であったため、Xは成長に応じて皮膚移植等の手術を繰り返す必要があり、症状固定したのは事故から8年後であるXが9歳の時だった。

結果的にXには、顔面瘢痕拘縮、睡眠時左瞼障害、左鎖骨部瘢痕の醜状痕等が残り、自賠責保険においては、顔面部醜状痕につき、後遺障害12級が認定された。

<争点>

・Xの醜状が、後遺障害等級何級相当か
・Xの醜状から、逸失利益が発生するか
・Yの過失態様が悪質である点は、賠償金額に影響するか

<主張及び認定>

主張 認定
通院交通費、宿泊費 33万1000円 33万1000円
入通院慰謝料 412万5000円 222万0000円
後遺障害慰謝料 1500万0000円 784万0000円
逸失利益 2000万0000円 574万2340円

<判断のポイント>

Xの顔面部には複数の瘢痕や線状痕の傷痕を残っており、Xはこれらを連続したものとして合算して計上すると、後遺障害等級7級に該当ないし相当するものであると主張しました。

対するYは、確かに線状痕は複数あるが、連続していないのは明らかであるから、これらを合算することは不適当であると主張。各々の大きさからすると、後遺障害等級は12級となることがやむをえないものと反論しました。

これらの主張は、自賠責保険における後遺障害等級の認定基準が、線状痕や瘢痕の大きさで明確な区切りを設けているために行われているものです。

すなわち、(当時の)後遺障害等級においては、
女性の外貌に著しい醜状が認められる場合→7級
女性の外貌に(単なる)醜状が認められる場合→12級
という規定がなされていました。

そして、醜状が著しいか否かは、線状痕の長さが5センチメートルに達しているか等の至極機械的な計測結果によって割り振られているのです。

この点、裁判所は、本件Xの瘢痕は「長さ3センチメートル以上で10円銅貨大以上の大きさの目立つものであるとは認められる」とし、12級に該当することを確認しつつ「長さ5センチメートル以上であるとか、鶏卵大の大きさに達しているとは認められない」「線状痕が連続しているとか、瘢痕が近接しているものであるとは認められず、単純に長さあるいは面積を合算して後遺障害の程度を評価することが相当であるとは認められない」と、Xの合算による主張を排斥しました。

しかし他方で「後遺障害慰謝料の基準として、長さ3センチメートルであれば後遺障害等級12級で280万円が相当となるものが、長さ5センチメートルに達したと単に突然後遺障害等級7級で1030万円が相当となるというのは極端」と判断し、慰謝料金額は「必ずしも長さに比例して算定されるべきものではない」と示しました。

そもそも、後遺障害等級というものは、当該後遺障害が残存してしまったことに対する慰謝料及び逸失利益の算定をする便宜上、定められているものです。

しかし、この等級は元来は労災保険給付額の決定のためのものであり、必ずしも現実の損害額を反映しているとはいえない場合もあります。

本判決では、複数個所に認められる瘢痕の大きさと線状痕の長さからすると、後遺障害慰謝料は12級相当の基準額から2倍の増額をすることが相当と判断しました。

醜状障害の場合に常に問題となるのが、逸失利益の算定です。

通常の後遺障害は、疼痛や可動域制限など、現実に労務に服することが困難となることが容易に観念できます。

しかし、醜状障害の場合には、「そのような傷痕が仕事に影響を与えるか?」という疑問が出されてしまうのです。

そのため、醜状障害の場合には、後遺障害等級と労働能力喪失率が整合しない例が多数あります。

本件の場合は、これに加えて、症状固定時点において就労可能年齢までまだ10年以上あるため、将来の労働能力喪失の蓋然性が認められる必要があります。

この点、Yからは、美容整形の技術が飛躍的に進んでいることから、将来の就労制限の蓋然性は大きいとはいえないと主張されました。

裁判所は、上記Yの主張に対しては、「形成外科に関する医療の進歩があるとしても、現時点でこの醜状を治癒させるに足りる技術が確立しているものとは認められ」ないと、排斥しました。

その上で、Xの醜状痕からすると「対人接客等の見地において原告の就業機会が一定限度成約されることは否定できないと考えられるし、また、自ら醜状を意識することによる労働効率の低下も考えられるところである」として、後遺障害等級12級相当の労働能力喪失率14パーセントと認めました。

そもそも、今後形成外科や美容整形技術が発達したとしても、それは症状固定後の事情であり、行うか否かは被害者の自由です。

また、仮にこれを行えば逸失利益がなくなるとした場合、その施術費用は加害者に負担させなければ不合理です。

したがって、「今後医学が進歩するから大丈夫のはず」などという主張は、基本的には受け入れられず、本件の裁判所の判断は妥当であると思われます。

本件のYは、飲酒かつ居眠り運転をし、その際の時速は約100キロメートルにも及んでいます。

Yの事故後の言語態度はしどろもどろの状況で、酒臭が強く、顔色は赤く、呼気1リットル中0.5ミリグラムものアルコールが検出されました。

このように、あまりに悪質な過失態様である点で、Xから慰謝料額の増額事由として主張されました。

裁判所は、上記事実が認定されることを前提として、さらにXが負った傷害及び障害の程度からすると、通常よりも4割増しの算出をすべきと判断しました。

これにより、入通院慰謝料及び後遺障害慰謝料の双方が、4割増額をされました。

ひき逃げ等の悪質な態様がある場合に、慰謝料額を増額する例はありますが、2割程度のものが多い印象です。

本件では、あまりに悪質な運転態様である点と、そのような加害者の行為で被害者に極めて重大な傷害結果が発生した点をあわせて、4割という高い基準の増額が得られたものと思われます。

まとめ

醜状障害についての後遺障害等級は平成23年に改正され、現在は男女間で共通の基準が設けられています。

本件事故当時は、男性の場合と女性で、同程度の醜状痕が残存した場合、女性の方が重い障害であると規定されていました。

これは、女性の方が外貌に気を使うという性差を意識してつけられた差異でしたが、差別的な取り扱いであるという判決が出されたため、改正されたものです。

本件事故は平成8年に発生し、平成21年に判決が出ているため、改正前の基準で後遺障害等級が考えられています。

そのため、判決文の中にも、Xが女性である点を考慮する部分が随所に見受けられます。

したがって、改正後の基準でも同様の判断がなされるかは少々見通すのが難しい部分もあります。

もっとも、裁判所は基本的に本裁判例のように、具体的な醜状の態様や、被害者の置かれた状況から慰謝料や逸失利益額を算定することになります。

相手の保険会社が「逸失利益は認められない」と回答してきたとしても、裁判所の判断次第では数百万円が認められることも往々にしてあります。

このように、醜状障害は、一筋縄ではいかない論点がいくつもあるので、示談してしまう前に是非弁護士にご相談ください。

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