適時調査への対策の必要性

執筆者 金子 周平 弁護士

所属 栃木県弁護士会

法律は堅苦しいという印象はあるかと思います。しかし、そんなイメージに阻まれて、皆さんの問題や不安が解決されないのは残念でなりません。
私は、そんな法律の世界と皆さんを、柔和に橋渡ししたいと思っています。問題解決の第一歩は、相談から始まります。
皆様が勇気を振り絞ってご相談をしていただければ、後は私どもが皆様の緊張や不安を解消できるよう対応し、法的側面からのサポートができればと思います。敷居はバリアフリーです。あなたの不安を解消するために全力でサポート致します。

適時調査への対策の必要性

保険医及び保険医療機関にとって、避けられないものに「適時調査」があります。
適時調査とは、厚労省による解説によれば、「施設基準を届け出ている保険医療機関等について、地方厚生(支)局が当該保険医療機関等に直接赴いて、届け出られている施設基準の充足状況を確認するために行う調査」とされています。

もっとも、適時調査には法律上の根拠がありません。 強いて言えば厚生労働省保険局医療課長通知に、「届出を受理した保険医療機関または保険薬局については、適時調査を行い(原則として年1回、受理後6ヶ月以内を目処)」との記載がある程度です。 原則として年1回とされていますが、実際には地域によって2~3年に1回の頻度で行われています。

増加する適時調査

適時調査は、平成20年に厚生局に実施業務を移管されました。その結果、現在では全都道府県で実施されています。
業務移管直後である平成21年度の実施件数は、前年度の約1200件の1.5倍にもなる約1800件となりました。
その後増加を続け、平成28年度には3000件を超えました。
これは、同年の個別指導の倍以上の件数です。

また、適時調査の実施件数が増加するに従い、その結果の自主返還金額も大幅に増加しています。
必ずしも実施件数と正比例するものではありませんが、平成24年度から平成27年度の自主返還金額は、60億~70億円となっています。
これは、それぞれ同年度の個別指導による自主返還金額のおおよそ倍の金額となります。

このように、適時調査は、件数もそれによる返還金額もこの10年の間に大幅に増加しており、その影響は個別指導を大きくしのぐといえます。

なぜ厚労省は適時調査に力を入れるのか

では、なぜ適時調査はこのように増加してきているのでしょうか。
ひとつには、既述のとおり、厚生局に業務移管をしたことにより、従前より実施をしやすくなったことが挙げられます。
もっとも、個別指導や監査も同様に厚生局が実施主体であることからすると、この理由だけでは不十分です。
私が考えるに、大きく分けて2つ理由が挙げられます。

① 厚労省からすると労力対効果が高い

個別指導は、その名のとおり、保険医または保険医療機関について、個別に呼び出し、事情の聴取や資料の精査を行い、指導改善を促すものです。
1日では終わらず、継続となることもあります。
また、行うにあたっては、有識者の立会いを求めるなど、関係者の調整や準備も必要となります。

対して、適時調査は、原則として事務官と保健指導看護師が病院へ赴き、その場で資料を調査し、調査結果を指摘するという運用になっています。
出席者は原則3名以内とされており、有識者の立会いはありません。
そのため、実施の労力は適時調査の方が少ないといえます。
他方で、適時調査で仮に施設基準を満たしていないと発覚すれば、過去1年分に遡って返還が行われます。
特に入院基本料関連では、人員配置や夜勤時間数等を満たしていない場合、億を超える返還金が生じる可能性があります。

そのため、厚労省としては、適時調査を行うことで、より容易に医療費の適正化を行うことができると考えているのです。

② 弁護士の介入の回避

かつては、医療費の適正化は「監査」とそれに引き続く「保険医療機関指定の取消処分」によって図られていました。
しかし、監査は健康保険法の要件を充足する必要があるため、より柔軟に行うために、監査の前段階である「個別指導」が活用されるようになりました。
もっとも、近年、個別指導の際に行われる非人道的とも言える理不尽な対応が問題となり、個別指導に弁護士を帯同するケースが増えてきました。
そこで、個別指導よりもさらに前段階である適時調査に力を入れ、弁護士の介入による煩雑さを回避する流れが見えます。

注意するべき点

適時調査で問題となるのは、あくまで医療機関が届け出た施設基準に現実が適合しているか否か、という点です。
そして、最重要事項は、返還事項の指摘を受けないことです。
したがって、日ごろから明らかな施設基準の不具備がないように気を配る必要があります。

・人員基準
・数字の基準
・専用施設
・具備すべき備品
・算定要件

等を充足しているかが大切になります。
特に、不備があった場合に巨額の返還となりかねない入院基本料関連については、十分に注意を配る必要があります。

また、個別指導とは異なり、調査の対象は病院事務職員や看護師管理職となります。
この点は、適時調査で臨場するのが事務官と保健指導看護師であることからも明らかです。
そのため、医師のみならず、事務職員や看護師においても、どのような施設基準があり、これを満たすかどうかという点について、研修等を行い、備えておくことが好ましいです。

弁護士の帯同

個別指導については、弁護士の帯同がかなり広まってきました。
これにより、かつてあった人権侵害や不合理な取扱いが多少なりとも減ってきたのではないかと思われます。
しかし、適時調査では、現在でも弁護士の帯同はほとんど行われていません。
適時調査においても、行政側の違法・不当な調査や指導、返還事項はあり得ます。
医療費の適正化と同じように、調査自体の適正化も重要です。
適時調査においても弁護士を帯同させることが、保険医療機関にとっても望ましい結果を生むといえます。

適時調査の連絡を受けた場合、弁護士へご相談いただくことをお勧めします。

執筆者 金子 周平 弁護士

所属 栃木県弁護士会

法律は堅苦しいという印象はあるかと思います。しかし、そんなイメージに阻まれて、皆さんの問題や不安が解決されないのは残念でなりません。
私は、そんな法律の世界と皆さんを、柔和に橋渡ししたいと思っています。問題解決の第一歩は、相談から始まります。
皆様が勇気を振り絞ってご相談をしていただければ、後は私どもが皆様の緊張や不安を解消できるよう対応し、法的側面からのサポートができればと思います。敷居はバリアフリーです。あなたの不安を解消するために全力でサポート致します。