後遺障害
2022.01.19

後遺障害について

交通事故によって怪我を負ってしまった場合、治療によって完治を目指すことになります。ただ、治療によって怪我が完治すれば問題ないのですが、なかには治療をしても完治せずに症状が残ってしまうことがあります。このときに保険会社はいつまでも治療費の補償をしてはくれません。ある程度治療を続けていくと、「治療費の打ち切り」、「症状固定」や「後遺障害認定申請」といった言葉が保険会社の口から出てくるようになります。

よく注意しなければならないのは、治療費の打ち切りと症状固定は同義でないということです。症状固定の時期は、医師の判断によるものであって、保険会社の判断によって決めるべきものではありません。交通事故実務において、症状固定をいつと判断をするか、どのように後遺障害認定申請をするかは、その先適切な賠償を受けることができるかどうかを大きく左右します。次のステップに進んでしまう前に、本当に適切なタイミングなのか、十分に検討して判断する必要があります。

後遺症と後遺障害

急性期症状が治癒した後に、なおも残ってしまった機能障害などの症状や傷痕のことを「後遺症」といいます。この「後遺症」と、自賠責保険から後遺障害等級の認定を受けて賠償を受けることができる「後遺障害」とは日常生活のうえでは、ほとんど同じ意味で使用されておりますが、両者は交通事故においては区別して取り扱われます。賠償を受けることができる「後遺障害」とは次のとおりになります。

後遺障害の定義

後遺障害とは

  • 将来においても回復が見込めない状態となり(症状固定)、
  • 交通事故とその障害との間に因果関係があり(相当因果関係)、
  • その障害が医学的に認められるものであり、
  • 労働能力の喪失(低下)を伴うもので、
  • その程度が自賠法施行令の等級に該当するもの

を指します。

自賠法施行令は、「後遺症」のうち、上記の要件を満たすものを「後遺障害」と認定して、賠償の対象としています。この後遺障害等級の認定を受けるためには、自賠責保険に後遺障害の認定申請を行い、残っている症状が、自賠法施行令に定められている後遺障害に該当するという認定を受ける必要があります。

後遺障害慰謝料

後遺障害を負ってしまったことに対する慰謝料です。後遺障害慰謝料の金額は、自賠法施行令で等級ごとに決まった金額が定められていて、認定された等級に応じてその金額を請求することができます。ちなみに、入通院慰謝料と同様、後遺障害慰謝料にも、「自賠責基準」と「裁判所基準」があり、両者の金額は大きく異なっています。また、裁判においては事案の内容に応じて調整金が加算されることがあります。

自賠責基準 裁判所基準
第1級 1100万円 2800万円
第2級 958万円 2370万円
第3級 829万円 1990万円
第4級 712万円 1670万円
第5級 599万円 1400万円
第6級 498万円 1180万円
第7級 409万円 1000万円
第8級 324万円 830万円
第9級 245万円 690万円
第10級 187万円 550万円
第11級 135万円 420万円
第12級 93万円 290万円
第13級 57万円 180万円
第14級 32万円 110万円

逸失利益

後遺障害が残ったことにより、将来に亘って発生する損害に対する賠償で、賠償額は以下の計算式によって算定されます。

基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

労働能力喪失率

労働基準監督局によって、等級ごとに決められた割合が定められています。

労働能力喪失期間

後遺障害を負ったことによって労働能力を失うことになった年数のことをいいます。労働能力喪失期間の終期は、原則67歳までとなります。ただし、高齢者の場合には、67歳までの年数と、厚生労働省が公表している簡易生命表上の平均余命までの年数の3分の1の内、どちらか長い方が労働能力喪失期間となります。

ライプニッツ係数

「中間利息控除」ともいいます。逸失利益を賠償金として受け取る場合、本来は被害者が生涯かけて稼いだはずの金額を前倒しで一度に受け取ることになります。例えばこの金額を銀行に預金したとすると、本来生じなかったはずの利息が利益として生じることになります。より実態に即した賠償額に近づけるために、一度に受け取ったことによって生じた利益を控除する指数がライプニッツ係数です。

後遺障害等級表(等級別)


第1級

第2級

第3級

第4級

第5級

第6級

第7級


第8級

第9級

第10級

第11級

第12級

第13級

第14級

第1級
後遺障害慰謝料:2,800万円 労働能力喪失率:100%
症状 該当する部位
1号 両眼が失明したもの
2号 咀嚼及び言語の機能を廃したもの
3号 両上肢のひじ関節以上を失ったもの
4号 両上肢の用を全廃したもの
5号 両下肢をひざ関節以上で失ったもの
6号 両下肢の用を全廃したもの
第2級
後遺障害慰謝料:2,370万円 労働能力喪失率:100%
症状 該当する部位
1号 1眼が失明し、他眼の視力が0.02以下になったもの
2号 両眼の視力が0.02以下になったもの
3号 両上肢を手関節以上で失ったもの
4号 両下肢を足関節以上で失ったもの
第3級
後遺障害慰謝料:1,990万円 労働能力喪失率:100%
症状 該当する部位
1号 1眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの
2号 咀嚼又は言語の機能を廃したもの
3号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの 神経・精神
4号 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの 腹部
5号 両手の手指を全部失ったもの
第4級
後遺障害慰謝料:1,670万円 労働能力喪失率:92%
症状 該当する部位
1号 両眼の視力が0.06以下になったもの
2号 咀嚼及び言語の機能に著しい障害を残すもの
3号 両耳の聴力を全く失ったもの
4号 1上肢をひじ関節以上で失ったもの
5号 1下肢をひざ関節以上で失ったもの
6号 両手の手指の全部の用を廃したもの
7号 両足をリスフラン関節以上で失ったもの
第5級
後遺障害慰謝料:1,400万円 労働能力喪失率:79%
症状 該当する部位
1号 1眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの
2号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの 神経・精神
3号 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの 腹部
4号 1上肢を手関節以上で失ったもの
5号 1下肢を足関節以上で失ったもの
6号 1下肢をひざ関節以上で失ったもの
7号 1上肢の用を廃したもの
8号 両足の足指の全部を失ったもの
第6級
後遺障害慰謝料:1,180万円 労働能力喪失率:67%
症状 該当する部位
1号 両眼の視力が0.1以下になったもの
2号 咀嚼又は言語の機能に著しい障害を残すもの
3号 両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの
4号 1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通に話声を解することができない程度になったもの
5号 脊柱に著しい変形又は運動障害を残すもの
6号 1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの
7号 1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの
8号 1手の5の手指又は親指を含み4の手指を失ったもの
第7級
後遺障害慰謝料:1,000万円 労働能力喪失率:56%
症状 該当する部位
1号 1眼が失明し、他眼の視力が0.6以下になったもの
2号 両耳の長禄が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
3号 1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
4号 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの 神経・精神
5号 胸腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの 腹部
6号 1手の親指を含み3の手指又は親指以外の4の手指を失ったもの
7号 1手の5の手指又は親指を含み4の手指の用を廃したもの
8号 1足をリスフラン関節以上で失ったもの
9号 1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
10号 1下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
11号 両足の足指の全部の用を廃したもの
12号 外貌に著しい醜状を残すもの 醜状
13号 両側の睾丸を失ったもの 腹部
第8級
後遺障害慰謝料:830万円 労働能力喪失率:45%
症状 該当する部位
1号 1眼が失明し、又は1眼の視力が0.02以下になったもの
2号 脊柱に運動障害を残すもの
3号 1手の親指を含み2の手指又は親指以外の3の手指を失ったもの
4号 1手の親指を含み3の手指又は親指以外の4の手指の用を廃したもの
5号 1下肢を5センチメートル以上短縮したもの
6号 1上肢の3大関節中の1関節を廃したもの
7号 1下肢の3大関節の1関節の用を廃したもの
8号 1上肢に偽関節を残すもの
9号 1下肢に偽関節を残すもの
10号 1足の足指の全部を失ったもの
第9級
後遺障害慰謝料:690万円 労働能力喪失率:35%
症状 該当する部位
1号 両眼の視力が0.6以下になったもの
2号 1眼の視力が0.06以下になったもの
3号 両眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの
4号 両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
5号 鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの
6 咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの
7号 両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
8号 1耳の聴力が耳に接しなければ多声を解することができない程度になり、他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの
9号 1耳の聴力を全く失ったもの
10号 神経系統の機能又は精神の障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの 神経・精神
11号 胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務ヶ相当な程度に制限されるもの 腹部
12号 1手の親指又は親指以外の2の手指を失ったもの
13号 1手の親指を含み2の手指又は親指以外の3の手指の用を廃したもの
14号 1足の第1の足指を含み2以上の足指を失ったもの
15号 1足の足指の全部の用を廃したもの
16号 外貌に相当程度の醜状を残すもの 醜状
17号 生殖器に著しい障害を残すもの 腹部
第10級
後遺障害慰謝料:550万円 労働能力喪失率:27%
症状 該当する部位
1号 1眼の視力が0.1以下になったもの
2号 正面を見た場合に複視の症状を残すもの
3号 咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの
4号 14歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
5号 両耳聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの
6号 1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの
7号 1手の親指又は親指以外の2の手指の用を廃したもの
8号 1下肢を3センチメートル以上短縮したもの
9号 1足の第1の足指又は他の4の足指を失ったもの
10号 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
11号 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
第11級
後遺障害慰謝料:420万円 労働能力喪失率:20%
症状 該当する部位
1号 両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの
2号 両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
3号 1眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
4号 10歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
5号 両耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
6号 1耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
7号 脊柱に変形を残すもの
8号 1手の人差指、中指又は薬指を失ったもの
9号 1足の第1の足指を含み2以上の足指の用を廃したもの
10号 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の運行に相当な程度の支障があるもの 腹部
第12級
後遺障害慰謝料:290万円 労働能力喪失率:14%
症状 該当する部位
1号 1眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの
2号 1眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
3号 7歯以上に対して歯科補綴を加えたもの
4号 1耳の耳殻の大部分を欠損したもの
5号 鎖骨、胸骨、肋骨、肩甲骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの
6号 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
7号 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
8号 長管骨に変形を残すもの 手・足・背
9号 1手の小指を失ったもの
10号 1手の人差指、中指又は薬指の用を廃したもの
11号 1足の第2の足指を失ったもの、第2の足指を含み2の足指を失ったもの又は第3の足指以下の3の足指を失ったもの
12号 1足の第1の足指又は他の4の足指の用を廃したもの
13号 局部に頑固な神経症状を残すもの 神経・精神
14号 外貌に醜状を残すもの 醜状
第13級
後遺障害慰謝料:180万円 労働能力喪失率:9%
症状 該当する部位
1号 1眼の視力が0.6以下になったもの
2号 正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの
3号 1眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの
4号 両眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの
5号 5歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
6号 1手の小指の用を廃したもの
7号 1手の親指の指骨の一部を失ったもの
8号 1下肢を1センチメートル以上短縮したもの
9号 1足の第3の足指以下の1又は2の足指を失ったもの
10号 1足の第2の足指の用を廃したもの、第2の足指を含み2の足指の用を廃したもの又は第3の足指以下の3の足指の用を廃したもの
11号 胸腹部臓器の機能に障害を残すもの 腹部
第14級
後遺障害慰謝料:110万円 労働能力喪失率:5%
症状 該当する部位
1号 1眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの
2号 3歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
3号 1耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
4号 上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
5号 下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
6号 1手の親指以外の手指の指骨の一部を失ったもの
7号 1手の親指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの
8号 1足の第3の足指以下の1又は2の足指の用を廃したもの
9号 局部に神経症状を残すもの 神経・精神

顔(目・耳・鼻・口)半盲症、視野狭窄、頬骨骨折、歯牙障害
頸椎捻挫、外傷性頸部症候群、頸椎損傷
肩鎖骨関節脱臼、肩腱板損傷、鎖骨骨折
胸腹部胸椎圧迫骨折、呼吸機能障害、排泄障害
背中(脊柱・体幹)腰椎圧迫骨折、骨盤骨折
上肢上腕骨骨折、尺骨骨折、TFCC損傷
腰椎捻挫、腰椎椎間板ヘルニア
下肢後十字靱帯損傷、半月板損傷、リスフラン関節損傷