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交通事故
神経・精神
首・腰のむちうち(捻挫)
12級
14級9号の後遺障害を認めた裁判例【後遺障害14級9号】(東京地裁 平成15年1月28日判決)

事案の概要

X(原告:58歳女性)が、普通乗用車を道路左側に寄せて停止していたところ、後方からYの運転する普通乗用車に追突され、頚椎捻挫、腰部捻挫の傷害を負い、左上肢のしびれ、左手握力低下などの後遺障害を残したとして(自賠責非該当)、後遺障害等級12級を主張して訴えを提起した。

<主な争点>

後遺障害の有無及び内容

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 102万5734円 41万5823円
通院交通費 12万0180円 3万3580円
装具代 6万3669円 6万3669円
休業損害 825万7920円 364万8003円
入通院慰謝料 185万0000円 130万0000円
後遺障害逸失利益 2213万2475円 72万5499円
通院慰謝料 113万0000円 114万円0000円
後遺障害慰謝料 483万0000円 110万0000円
小計 3755万9978円 712万6574円
既往症 ▲20%
既払金 ▲395万7806円 ▲395万7806円
合計 3911万5412円 174万3454円

<Xの主張及びYの反論>

(1)後遺障害の有無及び内容

Xは、左下腿のしびれと痛みによる歩行障害があり、頚部のMRI検査により異常所見が認められ、医師による異常所見もあることから、後遺障害等級12級13号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当すると主張しました。

その中でXは、サーモグラフィーによる検査により、身体の痛い箇所は血流が悪いために低体温となり青色に映るが、Xにしびれが残存する部分は、サーモグラフィーの検査により青色に映っている部分と一致していることから、同症状は他覚所見によって裏付けられていると主張しています。

これに対し、Yは、本件事故の形態及び衝撃の程度等を考えると、Xの主張するような後遺障害が生じることはあり得ない、後遺障害診断書には、本人の愁訴(患者自身の症状の訴え)による自覚症状が記載されているだけで、他覚的、客観的所見は何ら記載されていない、サーモグラフィーは単に疼痛部位を示すにすぎず本件事故と因果関係を示すものではないと反論しました。

本件でXに生じた傷害は、頚椎捻挫、腰部捻挫であり、いわゆるむち打ちと言われるものです。

むち打ちは、自覚症状が残っているにもかかわらず、後遺障害が認められるかについてはよく争われるところであり、認定されるかどうかも難しい症状です。
そこで、むち打ちについて少し説明をしたいと思います。

(2)むち打ちとは

いわゆるむち打ちは、交通事故でもっとも多い症状と言っても過言ではありません。
しかし、後遺障害認定を求めるにあたり、とてもやっかいな症状であるともいえます。

そもそも、むち打ちとは、正式な医学用語ではありません。診断書に記載される傷病名としては、「頚椎捻挫」「頚部挫傷」「外傷性頚部症候群」「外傷性頭頚部症候群」「むち打ち損傷」など様々です。

一応、むち打ちの医学的説明としては、「骨折や脱臼のない頚部脊柱の軟部支持組織(靭帯・椎間板・関節包・頚部筋群の筋、筋膜)の損傷」とされるのが一般的です。

そして、むち打ちがやっかいな症状であると述べたのは、痛みやしびれなどの自覚症状があるにもかかわらず、レントゲンやMRIで異常が発見されにくいという点です。また、MRIの結果、変性所見が認められたとしても、それが交通事故によって生じたものであるとの説明がつかないと判断されることもあります。

そこで、むち打ちで後遺障害認定を求めるにあたっては、検査結果や医師の意見が重要となってきます。

(3)むち打ちで後遺障害が認められるには

むち打ちは、自賠責保険における後遺障害認定において、局部の神経系統の障害として取り扱われます。
後遺障害等級としては、

12級13号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」

14級9号の「局部に神経症状を残すもの」

の2つがありますが、この区分が客観的に明白になっているわけではありません。

ただ、実務的には、
12級13号は、「障害の存在が医学的に証明できるもの」
14級9号は、「障害の存在が医学的に説明可能なもの」あるいは「自覚症状が故意の誇張でないと医学的に推定されるもの」
であれば認定されています。
他方、自覚症状のみで、それに対する医学的説明すらないものは後遺障害非該当となります。

12級、14級のどちらに該当するか、あるいは非該当となるかは、上で述べたように、検査結果や医師の意見に影響されることになります。具体的には、他覚所見、すなわち画像所見や神経学的所見が認められるかどうかにかかってきます。

したがって、むち打ちで後遺障害認定を求めるためには、訴えられている症状に対して、どのような検査所見が、どのように、どの程度揃っているかを慎重に評価することが重要となります。

そこで、交通事故に遭ったら、早い段階でレントゲンやMRIを撮ったり、関節可動域や筋力、反射などの測定をして、たくさんの検査所見を集めるようにしましょう。

<判断のポイント>

本件に戻って裁判所の判断を見てみます。
Xは、本件事故により頚椎捻挫、腰部捻挫などの傷害を負ったが、その後同事故を契機として、左腕のしびれ感、脱力感などの神経症が出現し、同症状は悪化と軽快を一進一退に繰り返していると認定しました。
そして、CT、MRIなどの検査によって精神、神経障害が医学的に証明しえるものとは認められないものの、Xは受傷後から一貫して疼痛を訴えていること、医師作成の後遺障害診断書があること及び受傷時の状態や治療の経過などを総合すると、その訴えは医学上説明のつくものであり、故意に誇張された訴えではないと判断できるとして、後遺障害等級14級9号を認めました。

また、裁判所は、サーモグラフィーの検査により他覚所見があるとのXの主張に対しては、サーモグラフィーは、機能的な障害による温度変化から疾患の障害領域を判断できるメリットがあるにとどまり、本件事故によって神経障害が生じていることを医学的に証明しうるものではないとしました。

確かに、画像所見であっても、サーモグラフィーの所見は多くの要因によって変動しやすいため、再現性の点で劣り、客観性は低いとの指摘があり、本件でもそのような判断がされているようです。

ただ、MRI画像など他の他覚所見と併せることによって、医学的に説明ないし証明することは可能であり、そのように判断した裁判例もあります。

本件では、サーモグラフィーの検査結果を単独で見て、症状を医学的に証明することはできないと判断されていますが、検査結果は必ずしも固定的に評価されるものではありません。どのような検査がどの程度揃っているかを評価することが重要です。

Xにしびれが残存する部分は、サーモグラフィーの検査により青色に映っている部分と一致していることから、同症状は他覚所見によって裏付けられている。

まとめ

今回は、交通事故で多く生じるむち打ちに焦点を当てましたが、一口にむち打ちといっても、適切な賠償額を得るために考えなければならないことはたくさんあります。

後遺障害認定を求めるにあたり考えなければならないことは述べましたが、この他にも、そもそも治療費や休業損害がいつまで支払われるか、必要性・相当性を欠く診療(過剰診療)ではないかなど、むち打ちは、様々な場面で様々な問題が生じうる症状です。

たかがむち打ちと思って、あまり病院に行かなかったり、具体的に症状を伝えなかったりして適切な検査を受けないと、治療費や休業損害、後遺障害慰謝料で適切な賠償額が得られないかもしれません。

交通事故に遭われましたら、適切な賠償額を得るためにも、是非当事務所にご相談いただければと思います。

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