裁判例

Precedent

交通事故
上肢
14級
過失割合
可動域制限が認め難いとして14級を認定した事例 【後遺障害14級9号相当】(京都地裁 平成28年6月7日判決)

事案の概要

X(原告:24歳男性)が、自動二輪車を運転して交差点を直進中、同一方向を進行していたY運転の左折乗用車に衝突され転倒、左手関節捻挫、左手橈側屈筋腱腱鞘炎、左手母指対立筋損傷等の傷害を負い、約10か月通院して、10級左母指機能障害、12級左手関節機能障害による併合9級後遺障害の他、12級左母指神経症状の後遺障害(自賠責併合14級認定)を残したとして、既払金690万1651円を控除し3911万5412円を求めて訴えを提起した。

<主な争点>

①Xの傷害、後遺障害の有無及び内容
②Xの過失の程度と過失相殺の可否

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 128万8924円 128万8924円
通院交通費 1万8520円 1万8520円
休業損害 486万2727円 371万7554円
後遺障害逸失利益 2816万6892円 279万3778円
通院慰謝料 148万0000円 148万0000円
後遺障害慰謝料 670万0000円 110万0000円
小計 4251万7063円 1039万8776円
過失相殺 ▲10%
既払金 ▲690万1651円 ▲690万1651円
弁護士費用 350万0000円 35万0000円
合計 3911万5412円 280万7247円

<判断のポイント>

(1)Xの傷害、後遺障害の有無及び内容

*関節の機能障害の後遺障害認定基準
関節に機能障害が認められるかどうかは、その関節が正常時に比べてどのくらい曲がらないか、もしくは伸ばせないかで判断されます。

・指の関節について(本件に即して親指について説明します)
親指の関節に関しては、医学的には、指先に近い方からIP関節(いわゆる第一関節)、MCP関節(第二関節)といいます。

そして、いずれかの関節が正常可動域の3分の1以下に制限された場合を、指の「用を廃した」といい、片手の親指のみ用を廃したときには10級7号の後遺障害が認定されます。

IP関節では、90°曲げる(屈曲といいます)ことができれば正常とされるので、45°しか曲がらないのであれば、用廃が認められることになります。

また、親指を10°反らす(伸展といいます)ことができれば正常とされるので、5°しか反らせないのであれば、用廃が認められます。

MCP関節では、屈曲で60°、伸展で10°が正常値とされ、その3分の1の屈曲30°もしくは伸展5°で用廃が認められます。

・手の関節について
手の関節については、どのくらい曲げることができるか、程度により後遺障害等級が変わってきます。

可動域角度が正常時の10%程度以下→「関節の用を廃したもの」と評価され8級6号
可動域角度が正常時の3分の1以下→「著しい障害を残すもの」と評価され10級10号
可動域角度が正常時の4分の3以下→「障害を残すもの」と評価され12級6号

が認定されることになります。

判断の方法は、前にならえをし、腕を90°で前に伸ばした状態を0°とします。

そして、正常時と比べて、手のひら側(掌屈といいます)と手の背側(背屈といいます)がどのくらい曲げることができるかをみてみます。

一般的には、掌屈が90°、背屈が70°であれば正常(合計で160°)とされています。

たとえば掌屈が45°、背屈35°のときは合計80°となり、正常時の3分の1以下となるので、通常は、後遺障害等級10級10号が認められるでしょう。

*Xの主張
Xは、左手指の母指のMCP関節の可動域角度が、他動、自動とも3分の1以下に制限されていることから、用廃にあたり、母指の機能障害として後遺障害等級10級に該当すると主張しています。

また、左手手関節の可動域は、他動での背屈が正常時80°だったところ、事故後は45度であったため、可動域が4分の3以下に制限されており、手関節の機能障害として後遺障害等級12級に該当すると主張しています。

この他にも、筋損傷の回復が遅れ、廃用性筋委縮が生じたとして、頑固な神経症状を残すものとして後遺障害等級12級13号に当たるとも主張しています。

*裁判所の判断
上記のXの主張に対して裁判所は、本件事故から約3か月後に診断した結果が掌屈70°、手術後の背屈が45°、掌屈が65°であり、著しい可動域制限は生じていないこと、複数回レントゲン、CT検査及びMRI検査が実施されたにもかかわらず、左手の母指関節及び手関節に関節拘縮を生じさせるほどの筋萎縮をもたらす重度の筋損傷を示す所見がなかったことからすれば、本件事故により可動域制限が生じたとは認めがたいと判断しています。
また、画像所見がないことや左手母指の膨らみについてもその原因を説明できる医学的所見がないことからすれば、これを頑固な神経症状と評価することはできないと判断されてしまいました。
ただ、Xは、事故直後から症状固定時に至るまで一貫して痛みを訴えていること、医師に舟状骨骨折を疑わせる強度のものであったこと、左手母指の膨らみが外見上顕著に認められることからすれば、左手関節の親指側の痛みは、本件事故により生じたものであり、局部に神経症状を残すものとして14級9号相当の障害であると認めるのが相当であると判断しました。

(2)Xの過失の程度と過失相殺の可否

また、本件では、過失割合についても争点になりました。

*Xの主張
本件事故では、XがYを後方から追い越したことを考慮しても、Yは左方への方向指示器を出していなかったこと、Yに直近左折の過失があることからすれば、過失相殺はなされるべきではないと主張しました。

*裁判所の判断
このような主張に対して裁判所は、左折の合図につき、後方から車列を追い越す場合には合図を見落としがちであることからすれば、左折の合図をしていた旨のYの説明を否定する根拠としては不十分であり、Yが左折の合図をしていなかったとの認定はできないと判断しました。

もっとも、Yには、左折するに際し、あらかじめできる限り左方に寄った上、進行方向である左前方及び左後方の安全を確認して進行する注意義務があるのに、これに違反した過失があるというべきであり、特に、Y車がX車の後部に衝突していることからすれば、Yからは、X車の発見が容易であったはずであり、Yには左方の安全確認について著しい過失があると判断しました。

他方で、Xにも、交差点の手前30m以内での追い越し禁止規制に違反していることから10%の過失割合を認めました。

まとめ

(1)Xの傷害、後遺障害の有無及び内容

この裁判例は、少し厳しめの判断がなされたように思われます。

手術後であるとはいえ、背屈45°、掌屈65°であるにもかかわらず、機能障害を理由とする後遺障害は認められませんでした。

複数回ものMRI検査等をしても筋損傷を示す所見が見られなかったことが、重要視されていると思われます。

このように、上記のような基準はあるのですが、様々な要因によって多少判断が異なることはありうることです。

医師の診断内容は大事な要素ですが、後遺障害等級が認定されるかどうかは法律的判断になります。

(2)Xの過失の程度と過失相殺の可否

交通事故において、過失割合を判断するにあたっては、当事者が主張する事実が客観的に資料に現れないことが多いです。

本件のように左方の合図を出していたか否かなど、水掛け論になってしまいます。

裁判所は、最終的には、客観的に認められる事実を前提にすれば、通常こうであっただろうという経験則を用いて判断するほかありません。

そこで、裁判官を納得させるような説明が必要となるのですが(これは保険会社に対しても同じことが言えます)、事実関係を調べるだけでも大変なことです。

後遺障害申請をしようか迷っている場合、自賠責からの後遺障害認定がされていて納得がいかない場合や過失割合で相手方と争いが生じたような場合には、是非当事務所にご相談ください。

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